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旧作杯Vol.4 観戦記事 準決勝 戦闘民族 vs 龍之介 ~Old School~

text by いちごピザ

2022年現在、残念ながらタイムマシーンは開発されていない。不可逆的に時間軸を歪める手段は、人類の英知をもってしても未だ不可能なままだ。もしかするとその時は永遠に訪れないのかもしれない。

果たして、本当にそうだろうか。ごく限られた空間ではあるが、僕らは現在と過去を行き来する手段を知っているはずだ。

パワー9が天を舞い、《Hymn to Tourach》や《剣を鍬に/Swords to Plowshares》が吹き荒れる。プロテクションの強さを再認識し、《Serendib Efreet》や《Juzam Djinn》といった規格外のサイズを体感する。

こんな瞬間を味わったことがあるはずだ。Old Schoolは、いつでも僕らの時間を過去へと巻き戻してくれる。

本日、Old Schoolで行われている旧作杯。その準決勝を戦うのはこのフォーマットに縁深い2人だ。

Old Schoolの大会で負け知らずの男がいる。龍之介は旧作杯を二連覇中であり、本日も黒単を手に予選ラウンドを全勝で通過。三連覇へ向けて、まさにブレーキが壊れたダンプカーを思わせる勢いだ。

愛機である黒単はプロテクション(白)を持つクリーチャーを展開しつつ、手札と土地へとダメージを与えるウィニー戦略。単色ゆえの不器用さはあるが、代わりにマナシンボルの濃い高効率の呪文が約束されている。「《Ancestral Recall》?《Time Walk》?捨ててしまえばみんな同じよ」龍之介のデッキは声高に訴えかけている。

Old Schoolを語る上で外すことのできない男がいる。戦闘民族は過去に自身の参加レポートのみならず、「OldSchoolへの入口」や「メタゲーム分析」を精力的に執筆し、同フォーマットの普及に努めてきた。彼ほど知見があり、理解が深いプレイヤーはそういない。

持ち込んだのは知の結晶ともいえるトリコロールカラーのグッドスタッフ。徹底して黒いデッキを意識した作りであり、《剣を鍬に/Swords to Plowshares》より《稲妻/Lightning Bolt》を優先している点からも焦点がプロテクション(白)にあることが伺える。「対策すべきは《Juzam Djinn》や《Serendib Efreet》よりも2マナのプロテクションズだ」戦闘民族のデッキは勝利への強い意志が込められている。

Game1

戦闘民族はマリガンし、そこへ手札破壊を乱れ打たれる。《暗黒の儀式/Dark Ritual》と《Mox Jet》経由でなんと《Hymn to Tourach》を2連打。手札からすべてのマナソースと貴重な《稲妻/Lightning Bolt》を奪い去られてしまう。

1ターン遅れで土地を引き出すも、今度は《露天鉱床/Strip Mine》と《Sinkhole》が待ち構えている。

龍之介はとにかく相手のマナと手札を縛り、自由にさせない。その間にも《ミシュラの工廠/Mishra's Factory》でコツコツダメージを稼いでいく。

せめて《ミシュラの工廠/Mishra's Factory》を対処できる《剣を鍬に/Swords to Plowshares》か《稲妻/Lightning Bolt》、《露天鉱床/Strip Mine》があれば延命できるものの、開幕ターンに落とされて以降引ける様子はない。

降りしきる手札破壊の雨はゲームが終わるまで止むことはなく、荒れ果てた地盤は呪文を唱えるに至らず。

戦闘民族は時間は止まったままだった。

戦闘民族 0-1 龍之介

Game2

サイドボードでギアを入れ替えるも戦闘民族はまたもマリガン。開幕ターンにクリーチャーこそプレイできたものの、それは《黒騎士/Black Knight》を考えるとやや心もとない《サバンナ・ライオン/Savannah Lions》であった。

対する龍之介は《Mox Jet》から《Sinkhole》で色マナを締め上げていく。気が付くと戦闘民族のマナソースは無色のみに。

幸いなことに《白騎士/White Knight》が着地していたことでダメージレースの形はとれたものの、龍之介はかなりコントロール色の強いサイドボーディングをしていたようでこのプロテクションへの対策は用意されていた。《ネビニラルの円盤/Nevinyrral's Disk》だ。

アンタップを迎えると即起動し、テンポよく《Juzam Djinn》へと繋げていく。攻撃へ向かうとどうやら戦闘民族の手に《剣を鍬に/Swords to Plowshares》はなく、テイク5点。後の憂いを断つため戦闘後に《露天鉱床/Strip Mine》を起動して再度色マナを潰しておく。

しかし、ここはOld School。マナがないところから呪文を連打される脅威的な世界である。戦闘民族が出した結論はこうだ。土地から色マナが出ないならば、呪文により生み出せばいいじゃないかと。《Black Lotus》をプレイ。

解答がないならば引けば良いじゃないかと。すなわち、《Timetwister》を。

この《Timetwister》が効いた。《Ancestral Recall》を引き当てると《Mox Pearl》を含む白マナ2つを用意することに成功し、《Order of Leitbur》がジンを止める。遂に、戦場は膠着したのだ。

龍之介は《憂鬱/Gloom》を設置後《露天鉱床/Strip Mine》で白マナを潰すも、出てしまった《Order of Leitbur》がどうにもならない。龍之介のデッキは相手の自由を奪い、行動を抑止することには長けているものの、一旦戦場へ出てしまったパーマネントへの対処手段は限られている。

ならば、追加戦力をそぐまでと、ここまで勝利に貢献してきた《Hymn to Tourach》を選ぶ。結果的にこれは正解で、戦闘民族の手から複数のプロテションズを捨てさせ、自身の手札は空になったものの有利な状況下で《Order of the Ebon Hand》を追加できた。相手の《Order of Leitbur》は《Juzam Djinn》を抑え込むほかなく、プロテクションにより一方的にダメージを刻める寸法だ。

色マナこそ出したものの、戦闘民族に動きはなし。龍之介のライフは序盤に受けたダメージにより残8と思いのほか少ないが、《Order of the Ebon Hand》で巻き返せない範囲ではない。プロテクションを信じて攻撃へと送りだすと、予期しない呪文が待ち構えていた。

攻撃に合わせてプレイされたのは《臨機応変/Sleight of Mind》。《Order of the Ebon Hand》のプロテクションを書き換えると《Order of Leitbur》でブロックして一方的に屠る好プレイ!

戦闘民族「ライフ残り8?」

再度ライフを確認すると《Order of Leitbur》は攻撃へと向かい、一度パンプアップ。ジンの維持コストと合わせて2ターンで削りきれる計算だ。

もはや《ネビニラルの円盤/Nevinyrral's Disk》すらも間に合わず、《Juzam Djinn》で削りきるには相手のライフは多すぎる。

確実に戦闘民族は時の流れにのっていた。

戦闘民族 1-1 龍之介

Game3

《暗黒の儀式/Dark Ritual》から《憂鬱/Gloom》。開幕即終了を告げる龍之介のプレイに、観衆はどよめき、諦めの表情を浮かべていた。白を基調とした戦闘民族のデッキへの影響は色濃く、頼みの《解呪/Disenchant》すら追加の3マナを要求されてしまい、ゲームテンポを考えても巻き返す術はないはずだった。

それでも次のターンに、戦闘民族が時の人であると改めて知ることとなる。

《Mox Pearl》と《Black Lotus》、次いで《露天鉱床/Strip Mine》を挟みつつ、プレイ《臨機応変/Sleight of Mind》。《憂鬱/Gloom》の色指定を白から黒へ

そんな、まさか。ハメたはずがハメられてしまったのは龍之介の方であった。おまけに余ったマナから《Serendib Efreet》までこんにちは。

呪文を使おうにもマナが足りず、マナを伸ばそうにも時間が足りない。四面楚歌の状況下で龍之介は座して敗北を待つしかないのか。

いや、龍之介の手には1枚だけ解決策が握られている。本来は《Hymn to Tourach》と《Sinkhole》で相手を疲弊させた後に、万が一に備えて設置する《ネビニラルの円盤/Nevinyrral's Disk》という名のリセット呪文が。

しかしこれには2つの条件を満たさなければならない。一つは土地0枚から4マナを生み出すこと。もう一つは手札破壊していない状況の戦闘民族の手札に《解呪/Disenchant》がないことだ。割られたら最後、もはや立て直しはきかない。

最初の条件を満たすのは簡単だった。龍之介の手札には《Black Lotus》があったからだ。やはり鬼門となるのは2つ目の条件であり、これには腹をくくってプレイするよりほかはない。

一瞬だけ空気は張りつめ、戦闘民族はドローする手に力が入る。その後《Serendib Efreet》で攻撃して《露天鉱床/Strip Mine》を起動すると、ターンを返してきた。《解呪/Disenchant》はなかったのだ!

こうなると龍之介が攻勢へと転じる番だ。窮屈な枷を外すと、手札にたまっていた妨害札を順次吐き出していく。まずは《Sinkhole》、続いて《Hymn to Tourach》。色マナのない隙をついて《Order of the Ebon Hand》も着地させておく。

先ほどの《Order of the Ebon Hand》で攻撃へ向かうとマナを注いで3点にパンプアップし、少しずつだが確実にライフを減らしていく。《Order of Leitbur》がプレイされれば、《黒騎士/Black Knight》を追加と常にダメージレースで優位に立つ。

《稲妻/Lightning Bolt》か《臨機応変/Sleight of Mind》を求めるが、戦闘民族の手札へ集まってくるのは《剣を鍬に/Swords to Plowshares》ばかり。繰り返される攻撃を前に、戦闘民族は自身のクリーチャーへと《剣を鍬に/Swords to Plowshares》を唱え、わずかばかりの延命を試みる。

それでは決して、龍之介の時間が止まることはないのに、だ。

戦闘民族 1-2 龍之介

Old Schoolは一見すると停滞したフォーマットと勘違いされがちである。固定化されたカードプールではそれもやむなしと言えるだろう。

しかし、停滞しているデッキは何一つとしてない。過去のカードプールのみにも関わらず、デッキはメタゲームと照らし合わせて常にアップデートされている。

Old Schoolとは、過去と現在を行き来しているフォーマットなのだ。

だからこそ今宵は、もう少しだけ過去の時間を満喫するとしよう。