桜月夜

 満開の桜の木を見上げていると、胎内から毛細血管やその周りの肉を見つめているような気分になる。
 そのまま桜並木を歩けば、風にそよぐ花びら一枚一枚が話しかけてくる。
 この世に生まれてくる前、確かに同じ場所にいた仲間を感じる。

 血の一滴一滴が私を包む。

 今まで生きてきて一番後悔したことは?と聞かれ「この世に生まれ落ちてしまったことかな」と口走っていた。
 ふと出た言葉に驚いた。おそらく本心なのだ。

 安穏としたプールから私だけ押し出された。与えられた体に注げる分だけが、この世に生まれる直前に「代表」として離され送り出されてしまった。

 桜並木を抜けると仲間たちの気配も忽然と消えてしまう。

 寂しい。

 でも、産道には戻れない。この命をまっとうしないとあそこには戻れない。

 私は血を流しながら言の葉を拾う旅を続ける。
 私を励ましてくれた仲間たちは花を散らし、葉桜となってゆく。

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