(You Make Me Feel Like) A Natural Woman / 想いあふれて

 詩なんて棺桶に片足突っ込むまで書くことは許されないとずっと思っていた。

 怖かった。なんとか散文でこの世に繋ぎ止めているはずのたましいが彷徨い出て、社会規範に適応できなくなる可能性に怯えていた。世間から半分くらい存在が透明になるまで封印しなければならないものだと押さえ込んできた。散文の形で言葉を縛り付け、刻み込み、標本のように常にピンで刺して固定し続ける行為を重ねなければ生きられないと感じてきた。

 「詩を書け」と言われるたびに、なんと野蛮なことを要求してくるのだろうと慄いた。あまりにも没入し過ぎて破綻することを恐れていた。

 そして、カミーユ・クローデルと向き合ったとき、府中の美術館で彼女から「あなたは大丈夫、時代が違うから」と励ましを受け、頭を撫でてもらったことを思い出していた。

 カミーユのように扱われるのが怖かった。こんなに彼女自身の個性に満ちているのに、ロダンの従属物のように軽んじられる虚しさに憤った。

 先達としてのカミーユ。芸術家とその取り巻きに踏みつけられ続け精神に変調をきたした聡明で繊細で才能溢れる女性。
 彼女のために誰が怒る?あの男の無神経な振る舞いを誰が怒る?

 想いが次第に熱を帯び、ついに沸騰し始めた。

 彷徨っている場合じゃない、そんなことは起こらない。
 これは戦だ。彼女本来の小さな声を拾い上げなければ。

 決めた。

 わたしは詩を書くことに決めた。

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