通奏低音


 熟田津の月夜を

 オルレアンの勝鬨を

 この身で感じる


 デンマークの川で

 フランスの精神病院で

 ドイツの劇場で

 呟かれた歌が聞こえる


 オフィーリアとカミーユに誘(いざな)われ

 わたしの胸がさわぐ

 誘っているカミーユは言う

 大丈夫、あなたは時代が違うから

 そしてわたしの頭を撫でる、正気のまま

 オフィーリアも微笑んで花を差し出す、正気のまま


 わたしはわたしの岬で

 誰にも聞こえない声で歌い継ぐ

 先んじた人びとの歌が途切れないように

 聞こえる子が現れたときのために


 勇ましい声で言祝いだ二人は

 静かに見守っている

 まつりあげられることをおそれるなと

 あきられることをおそれるなと


 タバコとコーヒーを手にしたピナは

 遠くに煙を吐き出す

 こうやって世の中をたばかるのだと

 手を動かす


 あちらに待ち人がいる、行けと

 白い光が遠ざかる


 歌だけをのこして

 Je chante Saudade avec...

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