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「エモラップ」「トラップメタル」の隆盛により再評価進む、ヒップホップ×ヘヴィメタル/ハードロックのクロスオーバー史を辿る

私が「サウンドパックとヒップホップ」「極上ビートのレシピ」の連載を行っていたメディア「Soundmain Blog」のサービス終了に伴い、過去記事を転載します。こちらは2022年7月1日掲載の連載外の単発記事です。

なお、この記事に登場する曲を中心にしたプレイリストも制作したので、あわせて是非。


ヒップホップとハードロックやメタルの関係

2010年代後半のヒップホップを牽引したラッパーの一人、故XXXTentacionのドキュメンタリー映画『Look at Me: XXXTentacion』が先日公開され話題を呼んでいる。また、あわせてベストアルバム的な作品『LOOK AT ME: THE ALBUM』もリリース。その圧倒的なカリスマ性やトラブルメーカーぶりも求心力の一つだったXXXTentacionだが、やはり何よりも重要なのは新たな道を切り開いた挑戦的な音楽性だ。今回のアルバムでは代表曲とSoundCloudで発表された楽曲がコンパイルされており、その挑戦が改めて感じられるものになっている。

XXXTentacionは、ロックをヒップホップ目線で再解釈したスタイル「エモラップ」の代表格として知られている。2010年代後半にはXXXTentacion以外にも、ロックとトラップをミックスしたようなスタイルのLil Peepなどが活躍。共にエモラップのムーブメントを盛り上げ、ヒップホップ界にロック旋風を巻き起こした。現在メインストリームではMachine Gun Kellyに代表されるポップパンクリバイバルが話題を集めているが、それもこの流れを汲んだものだ。このことについては以前「サンプルパックとヒップホップ」の第5回で取り上げている。

(ここに第五回リンク)

エモラップは内省的なトピックを扱うことが多く、XXXTentacionも「SAD!」のような泣きの名曲を多く残していた。しかし、一方で『LOOK AT ME: THE ALBUM』にも収録された「Willy Wonka Was a Child Murderer」など繊細さよりもエネルギーが目立つスタイルにも挑戦。また、エモラップと同時期にはトラップとメタルを融合させた「トラップメタル」と呼ばれるスタイルも生まれるなど、ヒップホップではエモに留まらず様々な形でロック要素の導入が見られるようになっていった。

しかし、ヒップホップとこういったメタルやハードロックの接点は、2010年代後半のロック旋風以前にも多く確認できたものである。今回はその交流史を振り返っていく。


エモラップやトラップメタル以前の動き

「サンプルパックとヒップホップ」第5回でも触れたが、1990年代前半には双方からの歩み寄りが見られた。ラッパーのIce-TはメタルバンドのBody Countで活動し、メタルバンドのAnthraxは1991年にPublic Enemyの名曲「Bring The Noise」を本人たちと共にリメイク。AnthraxはPublic Enemyと絡む前の1987年にはラップを導入したEP『I’m the Man』をリリースしており、この分野におけるパイオニアの一組として数えられるだろう。

その後もBody Countのようにラッパーを擁するStuck MojoLinkin Parkといったバンドが次々と登場。これらのバンドのスタイルは「ラップメタル」と呼ばれて人気を集めていった。なお、現在国内シーンで人気を集める (sic)boy & KMタッグもこういったラップメタルに分類されるアーティストを参照していることを明かしている(※)。

※Webサイト・Spincoasterに掲載のインタビューなど参照。なお、同記事内ではLinkin Parkらのバンドに対し「ミクスチャー・ロック」という言い方がされているが、これは日本ローカルの呼称である。

そんなヒップホップとの接点を持つバンドの中で特に重要だったのが、西海岸のメタルバンドのKoЯnだ。N.W.A.Geto Boysを影響元に挙げるKoЯnは初期からメタルにヒップホップ的なグルーヴを導入し、1998年にリリースしたアルバム『Follow the Leader』では収録曲「Children of the Korn」Ice Cubeをフィーチャーした。同年にはそのIce Cubeのアルバム『War & Peace Vol. 1 (The War Disc)』収録の「Fuck Dying」に客演し、その後もQ-Tipが1999年にリリースしたアルバム『Amplified』収録の「End of Time」などに参加。ほかにもOutkastの名曲「So Fresh, So Clean」のリミックスをメンバーのJonathan Davisが手掛けるなど、ヒップホップとメタルの橋渡し役を担ってきた。

ほかにも、本流にはならなかったもののヒップホップとメタルやハードロックとの接近はいくつか見られた。Swizz Beatzは2002年にリリースしたコンピレーション『Swizz Beatz Presents G.H.E.T.T.O. Stories』MetallicaJa Ruleの共演曲「We Did It Again」を収録。2004年にはJay-ZとLinkin Parkのマッシュアップ作品『Collision Course』がリリースされ、Lil Jon & The East Side Boyzもアルバム『Crunk Juice』でメタル色の強い「Stop F***in Wit Me」を披露した。パワフルなシャウトをトレードマークにしていたLil Jonはメタルとの親和性が高く、同年にTrick Daddyが発表したOzzy Osbourneネタのシングル「Let’s Go」にも客演。エネルギッシュなギターと共に咆哮し、見事にメタルの要素をヒップホップの形に落とし込んだ。

そのほかにもEminem周辺のラッパーのHushによる「Hush Is Coming」、アトランタのラップグループのShop Boyzによる「Party Like a Rockstar」など、メタルやハードロックのようなギターを使った曲はいくつか登場していた。ヒップホップ史を編む際にこういった路線が参照されることは多くないが、現在のリスニング感覚で聴くと違った楽しみ方ができるのではないだろうか。


多く残されている再解釈の余地

そんなリスニング感覚の変化に影響を与えていそうなトピックとして、ラップのアプローチの変化が挙げられる。ヒップホップでは1990年代後半にBPMの遅い南部勢がブレイクを掴んでいき、さらに2010年代前半に入るとA$AP RockyMigosなどの取り組みによって三連符を使って詰め込むようなフロウが流行。遅いビートのリズムを倍速で取ることが浸透していった。このヒップホップにおける倍速リズム解釈の浸透が、ハードロックやメタルといったBPMの早い音楽への接近を促したのではないだろうか。

そして、2010年代のヒップホップではSpaceGhostPurrpなどの活躍により、メンフィスのラップグループThree 6 Mafia以来の悪魔的なモチーフも好んで使われるようになっていった。BPM的にもモチーフ的にもメタルと近付いていくシーンの流れがあり、先述した「トラップメタル」が生まれたのも自然な流れだったと言えるだろう。同ジャンルの代表的なアーティストであるBONESGhostemaneも、元々はSpaceGhostPurrp率いるコレクティヴのRaider Klan周辺から登場したアーティストだった。

そのほかにもハードコアパンクからヒップホップに転向したZillaKamiSosMulaのユニットCity Morgueや、UK出身のScarlxdなどのラッパーがトラップメタル路線で活躍。Dropout KingsHo99o9のようなバンド形態のトラップメタルも登場しており、活気あるシーンが形成されている。

また、先述した通りエモラップ寄りのアーティストの作品にもハードロックやメタルの要素を聴くことができる。ヒップホップとこういったロックの接点というとニューメタルを思い浮かべる方が多いかと思うが、歌うようなラップスタイルが多くシャウトも自然に取り入れるエモラップ以降のリスニング感覚ではラップの有無に囚われずにメタルやハードロックを楽しむこともできるのではないだろうか。とりわけグルーヴ面でヒップホップ要素を導入していたKoЯnのようなバンドは、特に現代のリスニング感覚ではユニークに響くはずだ。

歴史上数々のクロスオーバーを残しつつも、エモラップやトラップメタルを経てもまだ再解釈の余地が多く残されているこの分野。ヒップホップ界でのメタル要素の大胆な導入はまだメインストリームでは聞かないが、そのうち聞くことができるようになるかもしれない。

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