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2023年の刺激的な曲を集めたプレイリストを作りました

2023年はオルタナティヴヒップホップを熱心に聴いていたのですが、年間ベストアルバムを選んでみたらあまり入りませんでした。

しかし、現行ベイやNyege Nyege Tapes関連作などにユニークなビートが多かったり、MIKE DEANのアルバムが非ヒップホップ的なものであったり、刺激的な良曲を多く見つけることができました。そこで今回は2023年の刺激的な曲を集めたプレイリストを作りました。

全25曲です。大雑把に言うとオルタナティヴヒップホップエレクトロニック・ミュージックとクラウドラップネオペレオダンスヒット系ラップベイ(ストックトン)ラップという流れで組んでいます。

近年のオルタナティヴヒップホップのトピックとしては、クラウドラップのシーンから登場したラッパーのその後の動きが挙げられます。Danny BrownLil BMain Attrakionzと交流があったので、その一人と言えると思います。

JPEGMAFIALil BSpaceGhostPurrpの影響下にあり、その文脈を少し引き継いでいる部分があると思います。クラウドラップのムーブメント自体は今目立つようなものではなく、そのシーンから登場したアーティストも別々の道を歩んでいることが多いですが、その動きはかなり興味深いものです。

例えば元FriendzoneChlorine Mistは比較的クラウドラップ色が残っていますが、アルバムはエレクトロニカなどにも接近するような非ヒップホップ的要素もあるものでした。AJ Suedeはブーンバップ方面に向かいつつも、最初からブーンバップに取り組んでいたラッパーとは異なる独特のドロドロ感があります。Bladeeはクロスオーバー志向のアーティストとして人気を集め、今回プレイリストに収録したEvian ChristSkrillexなどエレクトロニック・ミュージック方面で活躍。クラウドラップのムーブメント自体は落ち着いていますが、そこから飛び出したアーティストは引き続き要注目です。今回のプレイリストにも何曲か収録しています。


オルタナティヴヒップホップ

やはり昨年はJPEGMAFIAとDanny Brownのタッグ作が最大の話題作です。

しかし、私はこのアルバムはむしろブーンバップとしての側面に惹かれており、むしろ「サンプリングによるビートと強力なラップ」というオーセンティックなヒップホップ作品だと感じています。奔放なネタ使いが目立ちますが、例えばDanny Brownのソロ作と比べるとかなりヒップホップ以外の要素は薄いです。そういった意味では、昨年DSPs解禁されたDe La Soulの1stアルバム「3 Feet High and Rising」の現代版と言えるのかもしれません。

JPEGMAFIAのようなサンプリングベースの音楽性はBandcampで盛んにリリースされていますが、DecumaSunmundi & ĀthmaanはBandcampの新着を毎日見る中で見つけたアーティストです。単なる配信プラットフォームではなく独特の空気がある場所だと思います。


エレクトロニック・ミュージックとクラウドラップ

昨年のこの文脈では、Oneohtrix Point Neverの新作が大きなトピックでした。ヒップホップとも無関係ではないアーティストで、記事も二本書いています。

また、OPNとはWarpのレーベルメイトであるEvian Christのアルバムも重要作でした。今作は歪なトランス作品ですが、クラウドラップ要素もあった2012年のミックステープ「Kings and Them」からそこまで遠い作品ではないと感じました。WarpにはDanny Brownのほか、Das Racist周辺でも活動したKassa Overallも現在は所属。クラウドラップと近い文脈のアーティストが地味に少しずつ集まっています。

また、OPNの2020年作「Magic Oneohtrix Point Never」でエグゼクティブプロデュースを務めたThe Weekndが、昨年はMIKE DEANのアルバム「4:23」でエグゼクティブプロデュースを担当していたことも印象的でした。

MIKE DEANのソロ作は非ヒップホップ的なアンビエント~エクスペリメンタル系ですが、そこにThe Weekndのポップセンスが注入され、なんとも不思議な作品になっています。2023年の忘れがたいリリースの一つでした。


ネオペレオ

レゲトンのサブジャンル「ネオぺレオ」はユニークな曲が多く、今追っていて楽しいシーンの一つです。「ミュージック・マガジン」2023年9月号のヒップホップ特集でも書きましたが、SoundCloudラップのシーンとの距離も近いのでヒップホップ好きの方も親しみやすいと思います。

La Faviのアルバムは、そんな二つのシーンの近さが感じられる一枚。Lil PeepやLil Tracyでお馴染みGothBoiClique所属のYAWNSも参加しており、エモラップとレゲトンを結合させて別の何かを足したような怪ビートを手掛けています。

メインストリームの華やかなレゲトンはBad BunnyJ. Balvinなど男性アーティストの活躍が目立ちますが、ネオぺレオはMs NinaTomasa Del Realなど女性アーティストが中心なことも気になるトピック。女性アーティスト同士の共演に積極的で、レゲトン方面とも交流のあるCardi Bが絡むこともいずれありそうな気がします。


ダンスヒット系ラップ

かなり大雑把な括り方ですが、2000年代半ば頃から後半にかけてのヒップホップシーンでは、Soulja BoyYung Jocに代表されるダンスと結び付いた曲が多く出ていました。2023年はいわゆるY2Kリバイバルの流れなのか、この頃のそういった曲を思わせるものがいくつか見られたように思います。わかりやすいところではTisaKoreanのアルバムはかなりそれに焦点を絞った作品でした。

それをストレートな形でアウトプットするのではなく、かなり奇妙な音楽として出してくるのがTisaKoreanの面白さ。昨年はDon Toliverのアルバムへの参加もあり、今年も要注目です。なお、奇怪成分は控えめなのでプレイリストには入れませんでしたが、同じテキサスのOutlaw Melのアルバムもダンスヒット系の曲がありました。Mr. Hit DatDorrough Musicなど、その頃のシーンで活躍したアーティストも参加しています。

また、ヒット狙いというよりはダンスとの結びつきが強いカルチャ―といった印象ですが、ハイフィやジャーキンが相変わらず西海岸ヒップホップで散見されました。以前は「再び盛り上がりつつある」と書きましたが、今は「選択肢として当たり前にある」というような印象です。


ベイ(ストックトン)ラップ

怪ビートという点で今一番面白いのは、ストックトンを中心としたベイのシーンだと思います。跳ねるようなリズムや割れた低音、ネタ使いのフリーキーさ、犬やカラスの鳴き声といったSEの使い方など全てが強烈です。ラップもオフビート気味の癖の強いスタイルが人気で、かなり刺激的な曲が多数生まれています。

といっても突如現れた新しい謎の音楽という感じではなく、ハイフィの進化版のような印象があります。跳ねるドラムはTraxamillionなどの試みとの共通点が感じられるもので、ラップスタイルもKeak Da Sneakの系譜です。2005年の名曲Super Hyphyを聴けばそれが強く感じれると思います。

このシーンの主要人物は、恐らくプロデューサーではYvnng EckoRell Made This Beat、ラッパーではEBK BckdoeSSRICHH33Verdi BabiiWop Dellあたり。J. Stalin率いるLivewireがSSRICHH33やVerdi Babiiのアルバムを出していたり、Wop DellがPhilthy RichFOD Entertainment所属だったりとベイのシーンの割と中心地に食い込んでいます。J. Stalinのアルバムにも犬が吠える曲が収録されていました。気付いたらベイのシーンが変な曲ばかりになっていることもあるかもしれません。


なお、今回のプレイリストに収録した曲のほとんどはレビューを書いた作品から選んだものです。プレイリストを気になった作品があったらあわせて是非。


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