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yutaka hirasaka インタビュー サンプリング「される側」からローファイビートシーンへ。インスト音楽における「言葉」とは

私が「サウンドパックとヒップホップ」「極上ビートのレシピ」の連載を行っていたメディア「Soundmain Blog」のサービス終了に伴い、過去記事を転載します。こちらは2023年3月15日掲載の「極上ビートのレシピ」の第3回です。


SpotifyやApple Musicといったサブスクリプション型ストリーミングサービスの浸透以降、リスナー数が急成長したインストヒップホップ。ここ日本でも活気溢れるシーンが形成され、その中から国境を越えて大きな支持を集めるビートメイカーも増加してきている。この連載では、そんなインストヒップホップを制作する国内ビートメイカーに話を聞き、制作で大切にしている考え方やテクニックなどを探っていく。

第3回に登場するのはyutaka hirasaka。ギタリストとして精力的にライブ活動を行いつつ、ヒップホップ要素も含む作品を多くリリースする越境的な音楽性を持つアーティストだ。カナダの〈Inner Ocean Records〉など海外レーベルからの作品のリリースや、海外ビートメイカーとの共作なども多数行っている。ヒップホップに留まらない……というよりもヒップホップに軸足を置いていないアーティストだが、ヒップホップ系の大型プレイリストへの収録も多い。今回はそんなyutaka hirasakaにインタビューし、これまでの音楽家として経歴や制作方法、敬愛するシカゴのシーンなどについて話してもらった。


30代からソロでのインスト活動がメインに

――音楽は何から始められましたか?

歌ですね。最初はバンドで音楽をしていました。高校の時に軽音部みたいな形で始めて、ちゃんと活動を行うようになったのは19歳の終わりくらいの時です。ジャンルとしては、大きく分類するとポストパンクでしたね。

――その後はどういった活動をされてきましたか?

2つ目のバンドを25歳くらいから始めました。それも同じようなポストパンクとかポストロックとかのバンドでしたね。それをやりながら27歳からはソロ活動も始めました。ある時期までバンドとソロを並行しながらやって、30歳くらいからはソロ活動が基本って感じですかね。

――ソロでのインストの活動を始めたきっかけはなんでしたか?

まず前提として、バンドをやっていた時もドラムからギターまで全部自分で作っていたので、作曲に関しては1人でやっていたような意識があったんですよね。その上で2011年に東日本大震災があった際に、「自分の声明を発するにはどうしたらいいんだろう」「声を出すべき時に出せるような人間になりたい」そして、「海外の人に自分の音楽を聴いてもらって、自分の存在を確立していきたい」という考えが浮かび上がってきたんです。

でも、海外に自分の曲を届けたくても、自分の英語力に自信がなかったんですよね。今だったら外国の人も日本語の歌を日本語のままで聴いてくれたりすると思うんですけど、当時はまだあまりそういう感覚がありませんでした。サブスクもなかったですし。なので、「英語で歌を歌うよりは、英語をなくしてインストにしたほうがより届きやすいのかな」みたいな考えでインストを始めました。

――2010年代前半から色々と作品を出されていましたが、2014年から2018年まで作品のリリースは空きましたよね。その間にはどういうことがあったんですか?

リリース的には空いたのですが、もちろんその間にも活動はしていました。ライブを中心に活動するようになったんですよね。それまで自分1人でのライブはやっていなかったので、ソロの音楽をバンド編成みたいな感じで表現しようと思って最初はカルテットを組みました。自分がギター、もう1人ギター、ピアノとコルネットという管楽器を吹く人の4人です。

2016年くらいにはそのカルテットにドラムやベースが入って、インストのバンドになっていきました。バンドや外でのライブみたいなところに意識を向けていたのがその4年間でしたね。

――そこから2018年にまたソロ作品を出されるようになりましたが、何かきっかけがあったんですか?

バンドは最初ポストロックとかそっち方向のインストの音楽をやっていたんですけど、2015~2016年頃のある日、ライブをやった後にメンバーから「フロア向けというか、ビートっぽい音楽にこのバンドを変化させていきませんか」みたいな提案があったんです。そういう意見も参考にしながら、当時新しく出始めている音楽にはどういったものがあるのかな、というのを自分でリサーチするようになったんです。それで、その当時のサウスロンドンの若手ミュージシャンがやっていたような、ジャズとヒップホップが上手い具合のバランスで混じり合った音楽性を取り入れ始めました。

でも、バンドが結果的には空中分解というか、活動が思うように行かなくなっちゃったんですよね。2017年の冬くらいのことでした。その時に作った曲をソロで消化していきたいなというところから、2018年以降にまたソロ作をリリースし始めました。今みたいな音楽をやるようになったのもそれがきっかけでしたね。


最初は「サンプリングされる側」だった

――確かに初期作品から聴いていると、2018年からヒップホップの要素が強くなった印象があります。

実は、ほとんどビートがなかった最初の3枚のアルバムの曲がサンプリングされまくっていた時期があったんですよね。まだそういう言葉が浸透していなかった時代でしたが、今ではローファイ・ヒップホップと呼ばれているジャンルで。自分の曲をまんま使って、ビートだけ乗せてタイトルを変えて出すみたいな人が結構いたんです。アルバムをリリースしたことで海外のリスナーが増えていった印象があったんですけど、それに伴って海外のミュージシャンがサンプリングすることも多くなったんですよ。

当時はSoundCloudが全盛期で、リスナーの人から「あなたの音楽がサンプリングされていますが、ちゃんと許可していることなんですか?」とフォローが入って、その事実を知りました。ただ、最初は「こんなことになっているのか……」と思ったんですけど、ひとつ見方を変えてみたら「自分も曲にビートを付ければ、聴いてくれる土壌はここにいっぱいあるんだ」という気付きになったんですよ。「サンプリングされちゃうくらいなら自分でやっちゃえばいいじゃん」と。そのこともヒップホップ的な方向に入っていくきっかけになりましたね。

――確かにドラムが入っていないインストはビートメイカーからするとサンプリングしやすそうですね。

そうなんですよね。ビートを自分で付け始めた最初の頃は、自分のほうが(最初にサンプリングされた曲と比べて)パクりなんじゃないか、というあべこべな指摘をされたこともありました。それについてSNS上で議論をしていたら、やり取りを見た海外のミュージシャンから「いや、彼のほうがオリジネイターなんだ」のような感じで、リスペクトというか、ちゃんと扱ってくれることも増えていって。そこから次第に海外レーベルからの「うちから出しませんか」という誘いだとか、繋がりも増えていきました。

――いわば元ネタとして人気が出て、そこから参入したというか。予想していなかった流れですよね。ちなみにヒップホップ自体は昔から聴いていたんですか?

「ヒップホップを愛しています」とまでは言えないですけど、耳にはしていたって感じですね。シカゴのポストロックバンドのTortoiseが6枚目に出した『Beacons of Ancestorship』というアルバムがあるんですけど、そのCDのPOPに「J DillaMadlibのビートの質感をポストロックに落とし込んだ」みたいな謳い文句が書かれていたんです。そういうところからJ Dillaを知って……という感じでした。あと、友人がやっているカフェでかかっている音楽がヒップホップ寄りで、気になったものを教えてもらったりとかいったこともありましたね。

――去年出されていたアルバム『In The Moment』のBandcampページに、影響を受けたアーティストとしてJ DillaとKieferの名前がありましたが、どういった部分で影響を受けたんですか?

音楽的にダイレクトに影響を落とし込んだつもりではなかったです。Dillaに関しては、アルバムを作っていた時がちょうどDillaについての本(ジョーダン・ファーガソン『J・ディラと《ドーナツ》のビート革命』、DU BOOKS、2018年)を読んでいた時期だったんですよね。それで彼の人間性というか、精神性みたいなところに感化されました。ちなみにアルバムの2曲目に入れている「Time Will Tell」という曲は、Dillaの曲のワンフレーズをギターで弾いています。

Kieferも直接的な影響ではなく、当時よく聴いていたというニュアンスです。その時期にフェンダー・ローズをゲットしたんですよ。鍵盤奏者でビートっぽい人といえばKieferが思い浮かんだので、よく聴くようになりました。


インストにおいては、音作りのトーンが「自分の言葉」になる

――現在の制作環境をお伺いしたいです。

DAWはLogicを使っています。オーディオインターフェイスはBabyface Pro。メインで使っている楽器はエレキギターが何本かと、アコースティックギター、ガットギター。ほかにはフェンダー・ローズ、アナログシンセサイザー、あとはギターのペダルがいっぱいありますね。

――ギター以外も自分で弾かれているんですね。

ドラム以外は全て自分で弾いています。ドラムに関してはNative Instrumentsのドラム音源を結構使っていて、それをMIDIで打ち込んでいますね。

――サポートミュージシャンみたいな形で、ほかのミュージシャンの演奏を入れることはありますか?

曲によっては、カルテット時代から一緒にやっている管楽器奏者の友人の音を入れることがありますね。ほかはコラボ名義で出す時だけです。

――基本的には1人で完結しているんですね。演奏の録音段階で工夫していることはありますか?

自分の曲はギターがメインになることが多いのですが、極力ライブとの差を出さないように、ライブと同じセッティングで録音することが多いです。プラグインとかもなるべく使わないようにしています。リヴァーブの感じとかをプラグインでいじったりとかはするんですけど、DAWは割とMTR的に使ってしまっています。

自分が持っているギターアンプは前面にスピーカーがあって、スピーカーの裏手にヘッドフォンジャックが付いているみたいなものなんです。そこからラインでアンプの音をそのままオーディオインターフェイスに送ることができるんですね。なので、ギターからペダルボード、ペダルボードからアンプまでをライブと同じセッティングにして、アンプで鳴っている音を直接オーディオインターフェイスに送り込んでいます。こうすることで、普段ライブで鳴らしている音をそのまま再現できるんです。音楽の構造以上に自分のギターのトーンや音自体が大事だと思っているので、そこを大事にしています。

――なるほど。

音楽で何かやる時には、当たり前すぎて意識しないレベルで大切にしていることがあるんです。それは「自分の言葉を持つ」とか「自分の言葉で話す」ということです。誰かの言葉を借りて何かを喋るんじゃなくて、自分の言葉――歌詞という意味ではなく――で自分の意見を言うのを大事にしています。それが自分の場合は、ギターのトーンだと思っているんです。

何を弾くにしても、トーンさえ出来上がれば「自分の声」というものを作れると思うんですよ。それで何かを話せば「こいつが喋っているな」という個性が出る。技術的に高度なことをやっているとか、音楽を聴く上で面白がることのできるポイントってたくさんあると思うんですけど、一番大事なのは「誰がやっているのか」を打ち出すことだと思うんですよね。

yutaka hirasaka gear

DAW : Logic Pro X
PC : MacBook Pro
AIF : RME Babyface Pro FS
Monitor Speakers : IK Multimedia iLoud MTM

Guitar :
Gibson ES-335, 2005
Gibson ES-125, 1955
Martin 0-15, 1949
Fender Japan Stratocaster, Mid-90’s
GODIN Multiac Nylon Duet, 2005

Effect Pedal :
xotic RC Booster
tc electronic Nova Delay
Land Devices HP-2
Boss FRV-1 ’63 Fender Reverb
Crowther Audio Hot Cake
Cooper FX Generation Loss
Moog moogerfooger MF-102 Ring Modulator
electro-harmonix FREEZE
Benson Preamp
DOD FX-17 Wha-Volume Pedal
Chase Bliss Audio MOOD
BOOMERANG Phrase Sampler
and so on

Bass : Fender American Vintage 62 Jazz Bass, 1999

Mic :
Oktava MK-012
Aston Microphones Aston Origin

Synthesizer :
Roland JUNO-106
KORG MS-20 mini
Teenage Engineering OP-1

Electric Piano :
Fender Rhodes Fifty Four

Guitar Amp :
ZT AMP Lunchbox

Open Reel :
TEAC A-4300SX
NAGRA 4.2

4 Track Cassette MTR :
TASCAM Porta One


シカゴの音楽への愛着と交流

――今作っている音楽を自分でジャンル分けするとしたら何になると思いますか?

普段からあまりカテゴライズを意識しないようにはしているので、難しいですね。強いて言葉で言うなら「オルタナティヴ」ですかね。

――ポッドキャスト「yutaka hirasakaのやるやつはやる」でも幅広い音楽を紹介されていますが、ミックスやマスタリングについてはどういった音楽を基準にしていますか?

曲によりますが、昔からTortoiseとかのシカゴの音楽が好きで、近年だと〈International Anthem〉というレーベルの作品をよく聴いているので、無意識に基準にはなっているかもしれないです。

自分の場合は曲を作り始めるのと同時にミックスが始まってしまっているところがあるので、後から「この曲はどうミックスしようかな」と考えることがあまりないんですよね。録音する段階で定位みたいなものを決めて録音していて、作りながらミックスもしているような感じです。ギターの最初のモチーフが出来上がって録音している時に「右でこれが鳴って」「左でこれが鳴って」とかの位置が見えてきちゃうんですよ。なので、それをそのまま置いていけば、もうミックスが終わっていますみたいな感じなんですよね。

――シカゴのアーティストでおすすめのアーティストはいますか?

〈International Anthem〉からの最近のリリースでは、TortoiseのJeff ParkerのソロとMakaya McCravenのアルバムが抜群ですね。Ben LaMar Gayというアーティストも面白いです。あとはCarlos Niño。昔、J Dillaのトリビュートアルバムにも参加していましたね。アンビエント寄りのアーティストだと、Miguel Atwood-Fergusonとかもおすすめです。

あとはRob Mazurekという90年代からシカゴで活躍している管楽器奏者がいるんですけど。その人がExploding Star Orchestraという大所帯のオーケストラを組んで、何枚かアルバムをリリースしていまして。オーケストラといっても、音楽性としてはフリージャズ寄りなのかな。新作が3月に〈International Anthem〉から出るので、それを気にしていますね。

――シカゴといえば、TenseiのChris KramerとInstagramで相互フォローですよね。

Chrisとは5年くらい前から結構仲が良いです。彼は日本と繋がりのある企業で働いていたりしていて、出張で日本に来た時とかに一緒にスタジオに入ったりもしています。実は先月も毎日レベルでLINEのやりとりをしていたんですよ。去年Chrisが一曲提供していたJ. Ivy[※]のアルバムがグラミーにノミネートされたんで、「グラミー賞がどうのこうので、これからLAに行くから緊張してるわ」みたいな、そういうやりとりをしたりしました。

Kanye Westの1stアルバム『The College Dropout』に収録された「Never Let Me Down」への参加でも知られるシカゴ出身の詩人。2022年にChris Kramerがプロデューサーとして参加したアルバム『The Poet who sat by the Door』をリリースし、第65回グラミー賞で新設された「最優秀スポークン・ワード・ポエトリー・アルバム部門」の初の受賞者となった。

――これからグラミーに行くって人の連絡が来るってすごい話ですね。Chrisと何か共作をしたことはありますか?

まだリリースになってはいないんですけど、TenseiとMakaya McCravenが作った、Makayaのドラムをサンプリングしたアルバムにギターで参加しています。Chrisが元々Makayaと友達なんですよね。Makayaは今ジャズを頑張っているんですけど、10年前くらいにヒップホップのクルーみたいなのに入っていたときにChrisと一緒の現場が多く、ずっと仲が良いらしいです。

――出る日がめちゃくちゃ楽しみですね。

そうですね。Makayaがミュージシャンとしてデカくなっちゃったので、色々大人の事情でタイミングを見ているところらしいです。


アナログの質感作りや「ヒップホップ的」なものへの意識

――作曲する時は、やはりギターから作ることが多いのでしょうか?

割合としてはギターが多いですね。ベース、鍵盤、ビートから作ることもあります。

――DTMでデモを作ってそれを演奏するようなミュージシャンもいますが、yutakaさんはどういった流れで作っていますか?

最初に朝起きてデスクに向かい、ギターを持ってポロンって弾いた時に何かモチーフが出るとするじゃないですか。これを録音している時に次の三手ぐらいが出てくるという感覚です。

――いわば、1人でセッションしてアイデアが次々と出てくるみたいなイメージですか?

そんな感じですね。それを吟味しないで即採用していくみたいな。自分は制作のペースが早いほうだと思うんですが、そういうことが関係しているんじゃないかと思います。常に4曲とかくらい並行して作っているんですよね。ある程度一曲の中の「ヴァース、コーラス、ヴァース」くらいまで見えてきたら、次の曲も並行してやっていくことが多いです。あまり行き詰まらないというか、時間がかかるって感覚はないですね。

――よく使っているテクニックはありますか?

最近はあまり積極的にやっていないんですけど、2ミックスした音源をオープンリールデッキに通してからDAWに戻して、音をサチュレーションというかテープくぐらせた音にするということをやっていました。プラグインでも同じようなことができるものはあると思うんですけど、実機でやりたい派なんですよね。

オープンリールは古いやつをメンテナンスしたものを使っています。あとはカセットテープの4トラックレコーダーもあるので、一回DAWで作ったものを4トラックに落とし込んでテープで一回汚したりだとか。要はアナログの質感を出すのをやっていますね。

オープンリールデッキは2種類を所持

――それはヒップホップを作っている人がすごく好きなタイプの話のような気がします。ヒップホップ要素のある曲を作る時に参考にしているアーティストはいらっしゃいますか?

参考にしているというレベルではいないですね(笑)。バンド時代にディグっていた時に見つけたのは、Jordan RakeiとかTom Mischあたりでした。ヒップホップ的に参考にしているかと言ったら難しいですけど。

あとはDillaの『The King of Beats』ってアルバムとか。1分~2分の短い曲を繋いでミックステープにしているみたいな印象があるんですが、音楽の構造というよりはそういうアルバムの中の繋がりみたいな部分でヒップホップを意識することが多いですね。ミックステープカルチャーというか、曲間の繋がりによってアルバムのカラーを統一するというのは、「ヒップホップ的」なものとして意識しているところかもしれません。

――私がインタビューする時に必ず聞いている質問なのですが、「史上最高のビートメイカーを5人」を挙げていただきたいです。お話を聞いているとビートって感じじゃないと思うので難しいかもしれませんが。

Teebsは好きでしたね。あとはJ Dilla。Quasimoto。ゴチャって感じが好きです。あとKev Brownは好きかな。もう1人……難しいですね。ビートメイカーじゃないですけど、最近だとSam Gendelが好きです。ビートメイカーとなると難しいです。ごめんなさい!

――Sam Gendelは素晴らしいアーティストですよね。ビートメイカーに限らず、共作してみたいアーティストはいらっしゃいますか?

最近で言うとカナダのサックス奏者のJoseph Shabasonです。彼のサックスが好きなので。


ミックスやプラグインとは違う現場の鳴りを探したい

――どこかのレーベルからリリースする時、そのレーベルのカラーは意識しますか?

自分はカナダの〈Inner Ocean Records〉というところと、オランダの〈Chillhop〉が持っていたアンビエント系のレーベルからリリースしているんですが、多少は意識していますね。ヒップホップ系のレーベルの場合はそこまで多くない印象ですけど、アンビエント系のレーベルは「こういうテイストで」みたいな要望があったりもします。大喜利みたいにお題が振られるようなニュアンスですね。

――海外レーベルからのリリースはどういう流れで決まることが多いですか?

レーベルもコラボも全部DMですね。自分から連絡したことはないです。去年一緒にEPをリリースしたKosibeatsは、以前一度曲を作っていたんですけど「今度はEPを作りませんか?」と連絡が来たという流れです。

――あの作品はどういった分担で作ったんですか?

6割方ぐらい雰囲気が出来上がっているビートが送られてきて、そこに自分がギターなどの音を足していき、それを彼がミックスし直して……みたいな感じでした。コラボは人によってやり方が違って、「素材はこれがあるんですけど、ここに何か足してくれませんか」というパターンもあれば、「ギターループをくれませんか」みたいな人もいます。

――なるほど。ソロの話に戻って、去年出した作品だと『two (or one)』はギターのみの作品でしたが、アルバムを作る時はコンセプトとかを固めて作るタイプですか?

半々くらいですね。『two (or one)』については最初からコンセプトがあって、そのままその通りに進めていきました。8月にリリースした『Bed Hair』という作品も頭から決めていたものです。でも、日々曲を作っていて溜まった時に「これとこれとこれを組み合わせると、一つのパズルっぽく見えてくるぞ」みたいな感じになって、そこに足りないピースを入れてだんだんアルバムになってくる場合もあります。

――『In The Moment』はどういった感じでしたか?

あれはある程度カラーみたいなものを決めていましたね。「自分のエゴを、それまでのキャリアの中では一番抑えよう」みたいな感覚がありました。

――そうしようと思った理由を教えてください。

まず、〈Inner Ocean Records〉から3枚目を出そうという話があったんです。レーベルから声をかけられない限りは、TuneCoreやDistrokidなどのディストリビューターを使って自主的にリリースしているんですが、そういう作品ではあまりお客さんを意識せずにエゴを発散して作ることになるんですよね。

レーベルのカラーは多少意識する程度という話をしましたが、とはいえ今回は同じレーベルからの3枚目になるので、「レーベルを挟んで向こう側にいるお客さんはどういうものが好きなんだろう?」というのを、これまで以上に意識することをテーマにしました。自分を聴いている人というより、〈Inner Ocean Records〉というレーベルを聴いている人のことを考えましたね。

――直近や今後のリリース予定で話せるものがあったらお伺いしたいです。

まず、2020年に出した『Anecdotes Tape 2』というアルバムのレコードを「Qrates」[※]というサービスを使って作りました。渋谷のタワーレコードで展開してもらっています。あと、3月の後半にLaffeyというアメリカのローファイビーツ系のミュージシャンとのコラボシングルが出ますね。今のところ言えるのはこんな感じです。

※アナログレコードの製造と販売、保管と配送までをワンストップで提供するプラットフォーム。レコード専門のクラウドファンディング機能を実装している。2023年2月に日本版サービスがローンチした。
https://www.qrates.com/

――今後やってみたいことはありますか?

6月か7月にカナダに行こうかなと計画しているんですが、向こうでライブしてみたいですね。あと、この間山梨県に遊びに行った時に広くて天井の高い建物でほうとうを食べたんです。お店の天井が高くてリヴァーブが効いていて、それで背の高い教会みたいなところで録音したいなというイメージが浮かんだんですよね。そういう現場のアンビエンスみたいなものを探して、いい場所があれば面白い録音作品を作ってみたいなと思います。ミックスやプラグインとは違う、現場の鳴りみたいなものを探したいですね。


yutaka hirasaka プロフィール

Guitarist / Composer, based in Tokyo.

ギターアンビエントを軸に、様々なアプローチの作品を国内外のレーベルより多数発表し、海外ビートメーカーやアンビエント作家とのコラボレーションも数多く行っている。

ライブ活動も空間を問わず、様々な場所で ギターアンビエントなライブを展開。

カナダの〈Inner Ocean Records〉より3枚のアルバムをリリースしたり、〈Sofar Sounds〉のYouTubeチャンネルにてフルセットのライブを披露、またコスメティックブランド OSAJIがプロデュースしたレストラン enso の店内音楽を制作するなど、その活動の幅を広げている。

https://linktr.ee/yutakahirasaka

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