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Ryan Cook

0.はじめに
18年シーズンの巨人のリリーフ陣は、17年にクローザーを全うしたカミネロと不動のセットアッパーのマシソンを筆頭に、怪我から復帰の16年最多セーブ王の澤村、MLB通算95セーブ81ホールドをあげたレジェンド上原を加え、開幕前にはその布陣が盤石かのように思われました。
しかし、開幕後の早い段階から救援失敗が目立ち、カミネロは不調、マシソンは故障、澤村はスタミナ切れ、上原は調整不足と全員が力を発揮することができず、シーズン中盤からは育成の外国人アダメスをクローザーに添え、終盤にはスターターで、イニングイーターの山口・トッププロスペクトの畠を勝利の方程式に配置転換するなど、リリーフ運用に大きく苦しんだ1年となりました。
終わってみれば18年のリリーフ防御率はリーグ5位の4.12。リリーフに負けがついた試合は20試合。5年ぶりのチャンピオンシップ奪還に向けてはリリーフ陣の整備が急務であると言えます。
不動のセットアッパーであるマシソンが年齢から故障がちになってきており、また鍬原、吉川光にリリーフ調整させる等、信頼を置けるリリーフがチームに一人も確立されていないのが現状です。
となれば、この男が来シーズンの命運を握っていると言って差し支えないでしょう。

ライアン•クック(31)

今回は新クローザーとして大きな期待のかかるクック投手がどういった選手なのか、その力量を含めて分析していきます。

1.映像
まずは映像で大体のイメージを掴んでいただけると幸いです。
プロモーションビデオが1本、18年の登板がシーズン5試合、スプリングトレーニング3試合の全球ハイライトを纏めています。その他、12年の東京ドームでの登板等も用意しています

2.stats
2-1.キャリア
08年にプロ入りしたクック投手はキャリアをスターターとしてスタートし、本格派としてまずまずの成績は残しますが、11年の早い段階でリリーフに転向します。
ここでスターター時代にも持ち味だった奪三振能力が大きく開花し、この年にはマイナーでクローザーを務め、AAA→MLBととんとん拍子で一気にデビューを果たします。
翌年12年はOAKに移籍すると71試合に登板し、2.09ERA 21HLD 14SVとセットアッパー・クローザーとして大車輪の活躍でブレイク。14年までの3年間で計196試合に登板する活躍を見せました。
ところが15年にはOAKで4試合に登板するも大炎上し、7月末にBOSに移籍。ここでも5試合で14失点と大炎上し、この年は僅か9試合の登板でシーズンを終えます。
16年にはSEAに移籍しますが、開幕前に広背筋を故障し、10月にはトミージョン手術を受けるなどMLBでの登板はありませんでした。
昨季18年に2年ぶりに復帰し、19試合に登板。17イニングで23奪三振(12.18K/9)、被打率.227と衰えぬ高い力強さを見せた一方、4被弾(2.12HR/9)と被弾が多く、5.29ERAと安定感を欠きました。一方、AAA(PCL)では34試合で2.16ERAと好成績を残していました。
シーズン終了後にFAとなり、19年シーズンに読売ジャイアンツと1年1.43億円で契約したクック投手です。


2-2.18年の投球の詳細stats
より直近の状態を知るため、18年のAAA(PCL)及びMLBでの成績を細かく見ていきましょう。

①AAA(PCL)での投球
18年PCLでは2.16ERAと好成績を残したクック投手ですが、気になるのは与四球率(BB/9)の高さです。もともと全盛期時代もBB/9は3.00台を 以上を記録しており、決してコントロールに優れているタイプの投手ではありませんが、にしても18年PCLの4.59BB/9という高さは気になります。被打率は.224と優秀なため四球で安定感を落としているのは勿体ないところです。
対右・対左打者別に見ていきましょう。ここで一つ見えてくるのは、対右打者には3.00BB/9と制球に苦労していた様子はないことです。しかし、対左打者に7.44BB/9と極めて悪い数字を出しており、結局のところ左打者への制球の悪さが全体の4.59BB/9という与四球率への高さに寄与していることが分かります。また、対右打者では被打率.164 0.90WHIPと安定しているのに対し、対左打者では.308 2.11WHIPと安定感に大きく欠きました。
走者の有無の影響についてですが、得点圏での制球の悪さが目立ちます。

②MLBでの投球
故障前及び全盛期を上回るような奪三振率(K/9)が目を引きますが、この数字は対右打者に対しての圧倒的な15.55K/9に引っ張られたものです。対右打者ではBB/9及び被弾は多いものの、被打率.214 3.27ERAを残しており、また既述のAAA(PCL)での対右打者への成績を見ても、対右打者という点では十分に一定水準まで力が回復してきていると見て問題なさそうです。
一方で、対左打者ではK/9が大幅に落ちている点は気になるところです。

では、実際に対右・対左打者に対してどういう投球を展開していたのか?
3章から確認していきましょう。


3.球種別成績
球種別については、復帰後の今の状態を最重視すべきですので、通算ではなく(過去のデータを除き)、18年のデータを参考に整理しました。
※全盛期との比較は後ほど別途で検証します。

また一点だけ注意で、今回よりこれまでの記事で扱ってきたストライク率(全体の事象に対してストライクが何%だったか)から、よりシンプルにボール・ストライクでストライクが何%だったかに変更して検証を進めます。したがってこれまでの投手の検証記事よりストライク率が大幅に高く数値が出ています。)


では見ていきます。
球種は4シーム、スライダー、チェンジアップ、2シームの4球種を持っており、主に150㌔超の4シームと、130キロ台中盤のスライダーを投球の軸としています。
球種毎に細かく見ていきましょう。

・4シーム
平均152.8㌔(MLB平均150.2㌔)と特別速くはありませんが、常時150㌔超をマークする球速は有しています。投球割合が、対右打者には6割弱、対左打者には5割弱となっており、奪三振割合は左右共に50.0%を超えていることからも彼の投球を支える軸となっている球種であることが分かります。
ストライク率は概ね70%程度でストライクをとること自体に大きく苦労することはなく、また被打率は左右共に.273とまずまずの数字が残っています。
一方、空振り率とファウル率については、対右打者では20.0%と58.2%となっており、良好な数字が残っていますが、対左打者ではそれぞれ16.7%と45.8%に落ちており、右打者と比較すると左打者は制圧力がやや落ちる印象を受けます。

・スライダー
第1変化球であり、映像を見ても分かる通りクック投手の決め球となる球種です。
奪三振割合は左右共に約5割を占めており、またストライク率も60%超を記録するなど投球の軸となっています。被打率も対右.125対左.000と良好であり、空振り率にもまずまず高い数字が残っています。18年シーズンは対左投手にはあまり投じていませんでした。平均球速は137.2㌔とMLB平均と同等程度の数字が出ています。

・チェンジアップ
主に対左打者対策の球種で被打率.286はさることながら、奪三振0、空振り率0.0%、ファウル率12.5%とあまり有効的には働いていませんでした。平均球速が143.6㌔(MLB平均137.6㌔)とかなり高速であることからもおそらく抜けが悪いことが悪い方向に作用したと推察されます。この球種についてはプラスワン程度に捉えておいた方が良さそうです。

・2シーム
平均球速は152.9㌔(MLB平均149.0㌔)と4シームより高速で、チェンジアップ同様に対左打者対策の球種として使用しています。対左打者には4シームの割合を減らし、その分だけ2シームを増やしていますが、ストライク率は33.3%とその他球種と比較すると制球力には劣るようです。
各種成績を比較すると、チェンジアップよりは使えそうな印象を受けますが、こちらはあくまで3rdピッチとして捉えておいた方が良さそうです。

続いて球種毎に変化量を確認していきます。
(実線・濃色がクック投手の変化量、点線・薄色がMLB平均の変化量を示しています。バブルの大きさは投球割合を示しています。)

・4シーム
ほぼMLB平均に近似した軌道ですが、平均と比較し3.3cmシュートしながら2.0cmだけ沈みます。軌道はオーソドックスと言えそうです。また既述の通り、平均152.8㌔(MLB平均150.2㌔)と球速面でもおおよそ平均に近似した数字となっています。

・スライダー
MLB平均と比較し、横に4.3cm、縦に19.6cm大きく曲がります。特に縦の変化量が大きく、縦に曲がり落ちる軌道を描きます。この球種のクオリティはやはり高そうです。

・チェンジアップ
MLB平均と比較して横変化1.0cm、縦変化3.6cmと僅かに変化が小さいですが、概ね平均同等の軌道を有しています。既述の通り、平均球速が143.6㌔(MLB平均137.6㌔)と高速ですが、おそらく抜けの不足で成績としては低い数字が残っています。

・2シーム
既述の通り、平均球速は152.9㌔(MLB平均149.0㌔)と高速であり、4シーム(152.8㌔)より速い球速が残っています。変化量も縦横に大きく、MLB平均と比較して横変化が4.4cm、縦変化6.7cmだけ大きく、よりシンキングファストの要素が色濃く出ています。右打者相手には殆ど使用していないようですが、この球については制御できれば中々厄介な球種になる得るポテンシャルは感じます。


続いて、カウントの状況別の投球割合を見ていきます。初球、ストライク先行、ボール先行、平行カウント、2ストライク後の5パターンに大別しています。各パターンの定義(カウント)については図をご確認ください。

①対右打者
基本的には4シーム+スライダーが基本構成になります。初球の入りは4シームが60%超と多くなっており、ボールが先行する場面になると70%超と不利なカウントほど4シームの割合が増えている傾向にあります。
スライダーはストライク先行、平行カウント、2ストライク後で投球割合が増えており、カウントに余裕がある時や、追い込んでからの決め球として主に使っています。

②対左打者
対左打者ではスライダーの投球割合が激減し、代わりに2シームが増えます。初球の入りは4シームor2シームとほぼほぼファストボールから入っており、ボール先行の場面でもその傾向は同様となっています。
ストライク先行の余裕のある場面ではチェンジアップの割合が高く、追い込んでからは決め球のスライダーがようやく増えるという配球になっています。
左打者についてはファストボールに頼りすぎている面が強く、また左打者対策として取り入れている2シームの精度が悪いため、スライダーを増やすなど攻め方にもう少し工夫が欲しいところです。


この球種ごとの特徴及びカウント状況別の投球割合を踏まえ、4章からはカウント状況別のコース分布を見ていきます。
制球力や、投球の意図などに注目してみましょう。


4.投球分布
球種タイプ別にコースへの投球分布を見ていきます。今回は簡易的かつ視覚的に捉えやすいようstatcastのデータを使用していきます。

①対右打者
・ファストボール
初球の入りや、打者有利のカウント、平行カウントでは真ん中近辺にかなり集中しているこが分かります。まずは球威あるファストボールでストライクを先行させることに趣を置いていることが見て取れます。
一方、投手有利のカウントでは両コーナー及び高めに意図的に投げていることが見て取れます。2ストライクに追い込んでからはアウトコースを中心にインハイを用いながら仕留めにかかる傾向にあるようです。

その他の細かい分布図も以下に整理しました。
まず空振りは投手有利のカウントで多投されていた高めに多く、ど真ん中でも空振りがとれていることも分かります。真ん中ではファウルも多く、被安打が真ん中からは一切ないことからもファストボールの球威には一定の信頼感がありそうです。奪三振は外角でとることが多く、次いでインハイでとる傾向があるようです。

・スライダー
初球の入りと平行カウントではインサイドに集中、また打者有利なカウントでは高めに集中していることから、4シームと同様にストライクが欲しい場面ではかなりアバウトにストライクをとる傾向があります。
一方、投手有利及び追い込んでからは、低めを中心に投じていることが見てとれます。
既述の通り、クック投手のスライダーは縦変化が大きいため、アウトコースに曲げるというよりはベース板の下に落とすような用途で決め球として使用します。決め球であるスライダーに関しても、緻密な制球力があるわけでは決してありません。

そんな高めやインサイドの甘いゾーンでカウントを整えることが多いクック投手ですが、このコースは打者からしても抜けてきたような軌道で意表を突かれるためスイング率は低く、見逃しでストライクが取れる傾向があるようです。(だからこそ甘いコースで簡単にとりにいくのでしょうが)
空振りや奪三振はやはり縦の軌道を活かした低めを中心として分布しています。
被安打については低めに曲がり切らなかったものが2球何も長打にされているようです。


②対左打者
・ファストボール
対右打者では真ん中付近の甘いコースでカウントを整える傾向にあったファストボールですが、対左打者では2シームの割合が増えることもあって外角中心それもアウトハイにどの状況でも投球が集中しています。打者有利のカウントにおいて、始めて意図的なインサイドへの投球が垣間見えてきます。ここに関しては、対左打者の成績の悪さを考慮すれば、もう少しインサイドを使うなど工夫の余地があるように感じます。

空振りは真ん中付近で多く奪っており、投球分布の多かったアウトハイではファウルが多く生まれています。集中している分だけ、被安打(単打)は同コース付近から発生しています。

・スライダー
3章で既述の通り、武器であるスライダーは2ストライクに追い込むまでは殆ど使用しません。後ほど詳しく記載しますが、全盛期の12年には対左打者にもスライダーを18.4%投じており、奪三振のほぼ半数をスライダーで奪っていました。縦の変化が大きいため左打者相手にも通用する球種(現に12-14年は殆ど打たれていません)だけに、年々投球割合が落ちている現状はやや勿体ないように感じます。

・チェンジアップ
左打者対策で投じるチェンジアップについては外角中心に投げ込んでいますが、空振りが一つもないのがやはり気になるところです。コースも特別悪くないため抜けの不足など球種としてクオリティがやや低いことが推察されます。


5.リリースポイント
リリースポイントについても確認しておきます。
クック投手はリリース高さが1.87m、角度は71.8°ということで角度をつけるようなタイプの投手ではありません。
類似するアームアングルには、元広島のジャクソンなどが挙げられます。

球種毎のリリースポイントの差は4シームと殆どなく、スライダーと2シームが-3.0cm、チェンジアップが-6.1cmリリースポイントが低い数字が出ています。


6.過去の助っ人リリーフとの比較
過去の助っ人リリーフのデータを元に、クック投手の力量を測っていきます。

6-1.ファストボール
まずはファストボールについて比較します。
下記の図は非常に小さくなっていますので、適宜拡大しながらご覧いただけると幸いです。

既述の通り、クック投手の4シームは軌道がオーソドックスであり、球速も平均プラスα程度で特別速くはありませんが、テイクバックの小さい独特なフォームも相まって数字上は中々の好成績を残しています。
好印象にはストライク率の高さが挙げられ、同数値29.4%は過去7年間の助っ人リリーフでは、DeNAのパットンや日ハムのマーティンに次ぐ3番目に良い数字が残っています。
怪我から復帰明けによる球威の低下が懸念されましたが、4シーム中心で真ん中周辺に球が集まりながらも被打率・被ISOともにそれなりの見れる数字を残せている点は十分に評価に値すると考えられます。

また、もう一つ評価したいのは、加えて中々打球を前に飛ばさせないという点です。
以下の表は、上記の表の空振り率及びファウル率、そしてその合計値を纏めたもので、下段には18年の助っ人リリーフを加えました。
クック投手の18年の空振り率とファウル率の合計は73.4%となっており、打球を飛ばされたのは26.6%と非常に優れた数字が残っています。
同数値は、今季のリリーフ経験のある新外国人投手の中ではトップであり、これは過去7年間でも4シームという視点では元日ハムのトンキン、楽天のハーマンと同等であり、トップクラスの数字を出しています。トンキンのようにマウンドが合わずに球威が出力できなかった例もあるため、手放しには喜ぶことはできないかもしれません。しかし、巷ではスライダーのイメージが先行しているクック投手ですが、実は4シームの球威も自慢であることは踏まえておく必要があるでしょう。

以下の表は、クック投手と類似するFA+SLを武器とした過去のパワーリリーフをピックアップ(ロンドンを除き来日直近年度に10IP以上投げた投手が対象)し、そのPlate Discipline等を比較したものです。
対右打者のゾーン内の空振り率は低く、ファウルを多くとり、押せるだけの球威はある一方、空振りをズバズバ奪うような球質ではないことが分かります。
エッジ率(ゾーン内のコースいっぱい(端)に投げた確率)は悪くなく、また打球が飛ばされる確率そのものは、既述の通りファウルを多く奪えるため過去トップクラスで低いです。

より投手自身の能力を把握するため、xwOBAについても以下に整理しました。指標の説明については表の下をご覧下さい。

xwOBAについて、いずれの選手も平均を下回る数字が残っていますが、クック投手の対右打者.362は元阪神のマテオ投手に次いで良い数字が残っています。マテオ投手はスライダーの投球割合が53%を占めるスライダー使いであるため、4シームの投球割合が高いクック投手が上位2番目の数字を残せていることは大きなプラス材料と言えそうです。対左打者については.370と、対右打者に比べると他の外国人選手との優位性では後退しています。
総合的に見ると、4シームは空振りをズバズバ奪うような球質ではないものの、その球威には一定の期待が持てそうなクック投手です。
これからの実戦登板での4シームには、空振りが奪えるか否かがポイントではなく、ゾーン内でしっかり押していき球威を存分に発揮できているかが最大のチェックポイントとなってくるのではないでしょうか。

※ xwOBAとwOBA
xwOBAとは、一つひとつの打球の速度と角度、つまりコンタクトの質を、過去のほかの選手も含めた打球と比較し、どれくらいの確率で単打、二塁打、三塁打、本塁打になっているかを見て、数値をはじき出したもの。一方、wOBAは安打、本塁打、四球など、プレーの結果を基にどれだけやられたかを数値化している。
二つの指標の違いは、打球の評価に打撃結果を使うか(wOBA)、打球の質で結果を予測して使うか(xwOBA)、かの違いである。
出塁率と同じように見ることができ、.320-.330が平均的とされる。投手の場合はこれを下回ればプラス、上回ればマイナスの評価となる。


最後に実速度とは別に、打者の体感速度のデータ(データのある3年間分)も参考程度に整理しておきます。(特に意味はないです。)

6-2.変化球
メインであるスライダーを軸に比較検討をしていきます。
来日直近年度でMLBで10.0IP以上を投げた投手を対象に、クック投手と似たようなタイプ(FA+SLが軸)の選手をピックアップしました。
左打者についてはサンプルが少ないため、対右打者を中心に見ていきます。

まず着目したいのはゾーン内の空振り率で30.6%と優秀な数字が残っています。今回リストアップした中では、ほぼ垂直に落ちる縦スライダーを武器とした元広島カンポスの次に高い数字が出ていました。一方でボール球の空振り率は52.9%とやや低く、ボール球スイング率・ボール球空振り率は元阪神マテオと同等程度の数字が残っています。
スライダーは派手さはないものの十分に決め球として使えるレベルには達していると言えるでしょう。

4シームと同様に、xwOBAについて纏めました。
まず圧巻なのは元広島のカンポス。彼の縦にほぼ垂直にスプリットのように落ちる縦スライダーは、対右打者のみならず対左打者にも有効で両指標において素晴らしい数字をマークしています。それでも彼がNPBで実力を発揮できなかったのはやはり4シームの球威不足に尽きるのでしょう。同指標ではスライダーはトップの数字を残すも、4シームではワーストの数字が残っています。やはりこの二球種のバランスが何より大切だと分かります。
クック投手のスライダーはどうでしょうか。
対右打者のxwOBA.218は、カンポスの.171、右打者殺しのマテオの.176に次いで3位の数字が残っています。
対左打者ではサンプルが少ないため、鵜呑みにできませんが、優秀な数字が残っておりやはり左打者相手にもスライダーの配球は増やすべきなように感じます。
スライダーに関しても、カンポスの垂直の縦スライダーやマテオの右殺しの横スライダーのようなスペシャルなクオリティではないものの、4シーム同様にそのキレには一定の期待が持てそうなクック投手です。

★まとめ
4シームとスライダー。どちらも飛び抜けた絶対的な球種ではないものの、その双方が上位のクオリティを持ち、高いレベルで纏まっているのがクック投手の特徴と言えそうです。しかし、4シーム・スライダーともにそれだけで空振りをズバズバ奪うような質ではないため、実戦では4シームの球威でカウントを有利に先行できるか、スライダーでどれだけ打者を崩れせるか。こういったところに着目しながら彼の登板を観察すると面白いと思います。また現状は4シームに頼った投球が目立つため、カウント球でスライダーをもう少し増やす等、配球面での工夫が上手くいけば、空振り率の向上も見込める印象を抱きました。

※参考
下記の図はQOP(Quality of Pitch)と呼ばれる指標で19年の新外国人投手でデータのある選手を集めた表です。
一般的に用いられるERAなどの諸々の指標は打者の能力や結果が関係してきますが、QOPはあくまで投手の投球そのものだけを変化の仕方や速度を中心に6つの要素に細分化して計算式を組み立てたものです。したがって打者の能力を完全に排除し、より投手そのものの能力を評価できるのでは?というのが基本の考え方・特徴となっています。
4.50がMLB平均とされています。

この指標で過去の投手を閲覧すると、ギルメットの数字が高く出てしまったりとこれだけで判断するには完成度が欠ける指標には感じますが、過去にはトンキンが低めに評価されていたりと合わせ技での一判断材料として使い方次第では面白いようには思います。

この指標においても、クック投手は4シームとスライダーが高い位置で纏まっていることが分かります。これまでの記事で取り上げてきたジョンソンやハンコックを確認してもおおよそイメージ通りではないでしょうか。球速が衰えてもなおロメロの速球は高いレベルにあるようです。


7.全盛期からの状態変化と現在の位置
6章まででクック投手の現在の状態が一通り把握できたのではないでしょうか。
7章では、では今の状態が全盛期から比較してどうなのかを確認します。
12年から故障前の16年までの推移を丁寧に追っていき、そこから見てクック投手の現在の状態がどの位置にあるのかを見ていきましょう。

まずはもう一度、fangraphsで彼のキャリアを振り返ります。
以下の表を確認すれば、12-13年が全盛期で12年がキャリアハイ、14年でやや状態を落とし、15-16年が大不振、18年に復帰という流れが分かるかと思います。
この流れを踏まえた上で4シームとスライダーの2つの球種を軸に確認してみます。


7-1.4シーム
まずは4シームの各種成績の推移を以下に纏めました。
第一に肝心の球速ですが、故障直前の16年春先のドン底の状態からは完全に脱しており、概ね14-15年の中間程度まで回復しています。一方で、過去の3年間と比較すると空振り率が低下していることが見てとれます。ファウル率がかなり高いため、結果として打球が飛ばされないという意味では全盛期を凌ぐ数字を残していますが、空振り率だけみれば球速同様に14-15年の中間程度の数字となっています。xwOBAを確認してもこのことは裏付けることができそうです。

軌道を確認するために、以下の図に経年変化を纏めました。原点(0,0)がボールが回転せずに重力のみが作用した場合の位置と仮定しており、3章であげた図とは考え方が異なることだけご理解下さい。バブルの大きさは投球割合を表しています。
故障明けの18年は、12年以降で最もシュート変化が少なく、故障前と比較するとホップ量が回復してきていることが分かります。また横変化も少なく、軌道としてはオーソドックスなものへと変化しています。

7-2.スライダー
まず球速ですが、平均137.2㌔と故障前の水準まで戻してきています。被打率、空振り率、ファウル率ともに15年の数字を上回っており、xwOBAの数字を確認しても15年よりは高い状態に位置していると言えそうです。

軌道について、キャリアハイの12年のスライダーが最も横変化が大きく、全盛期だった13年から既に横変化量は年々小さくなっていたことが分かります。そして18年のスライダーは、意図的は不明ですがキャリアで最も縦変化が大きくなっています。また横変化についても12年次いで大きく、スライダーの変化という点では完全に回復してきていると見て問題なさそうです。

★まとめ
結果として、15-16年ドン底の状態からは完全に抜けるまでに回復しており、状態としては全盛期からやや力を落とした14年に近づいてきているということがお分かりいただけたのではないでしょうか。また当時と比較すると、4シーム・スライダーともに軌道に変化が生まれていることも分かりました。


8.まとめ
・クック投手は大きな不調期であった15-16年の底の状態からは完全に回復しており、状態としては14年に近づいている。
・4シームの軌道は12-14年と比較しシュート量が減り、おおよそMLB平均のオーソドックスな軌道となっており、打球を前に飛ばさせないという意味ではかなり優秀な数字を残している。空振りをズバズバ奪うというよりは、小さなテイクバックから球威ある球を繰り出すタイプで、指標上は過去の助っ人の中でも上位の数字を残している。
・スライダーは12-14年と比較して縦変化が大きくなっており、横変化というよりはプレートに落とすという使い方に変化している。4シーム同様、空振りをズバズバ奪えるわけではないが、指標上は過去の助っ人の中でも上位の数字を記録している。
・絶対的な球種を持っているわけではないが、このように4シームとスライダーの双方が高いクオリティで纏まっている。
・そのためコンビネーションが重要となってくるが、18年の投球では対右打者の初球の入りやボール先行での投球がほぼファストボールであったり、対左球者では殆どスライダーを投じずアウトハイにファストボールが集中するなど、投球がやや単調気味で隔たりがあった。
・特に左打者には大苦戦しており、AAAでも制球が定まらない等、大きな課題として残っている。
・彼の2球種を活かすためにも捕手のリード次第で空振り率等が伸びる余地があるが、クック投手もそれに応えられるだけの制球力を発揮する必要がある。
・また、カウントを整える際や、ボール先行の場面では速球変化球ともにかなり甘くストライクをとる傾向があるため、18年のデータ通り球威を発揮し押していけるかが最大のポイントとなりそうである。


個人的な起用法の案としては、出だし失敗のリスクを避けるため、まずはセットアッパーで様子を観察し、問題なそうであればクローザーに据える流れが良いように感じます。
18年からさらに状態を回復させることもあり得ますので、状態を観察しながら彼の投球を見てみると面白いかもしれません。


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