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Pierce Johnson

0.はじめに
15-18年に渡って阪神タイガースを支えたセットアッパーのマルコス•マテオが昨季限りで退団しました。
また、今や阪神の助っ人外国人の顔となったランディ•メッセンジャーの国内FA権取得(1シーズンの一軍選手登録日数が145日以上×8年)に伴う日本人選手扱いにより、19年シーズンからは新たに外国人選手を追加する有利な布陣を敷くことが可能となりました。
そのピースとして、昨季に中日で13勝 2.99ERAをマークしたオネルキ•ガルシアを獲得し、FAの西勇輝と合わせて積極的なスターターの補強を実施。そして、マテオの代役のリリーフに、新外国人のピアース•ジョンソン(27)を獲得しました。
今回はこのジョンソン投手について、どのような選手なのか、その力量を含めてレビューしていきます。

1.映像
今回、記事の構成を変えまして、まずは映像からご覧いただこうかと思います。映像で大方のイメージを持っていただいてから、その後の記事を読んでいただいた方が内容が分かりやすいかもしれません。
私のツイッター【NPB外国人選手好きのtweet】にて、すでにご覧になられている方は同じ映像ですので、2章にパスしていただけると幸いです。

2.stats
元々はスターターとしてキャリアをスタートしているジョンソン投手。
15年のAA級以下ではほぼスターター専任であり、高奪三振率(K/9)と良好な防御率(ERA)を記録しています。16年にAAAに初昇格しましたが、スターターで7.75ERAと大きく躓き、シーズン中盤からリリーフに配置転換されました。ここで3.22ERA 14.1K/9と好成績を残したことから、リリーフに本格的に転向することになりました。
17年→18年はMLBとAAAを行き来するシーズンとなっており、AAA級では以下の点で成長も見せています。
・17年はK/9が高い一方で、被打率.256、4.47BB/9、1.45WHIPと安定感に欠けたものの、18年は3.97BB/9、被打率.183、1.10WHIPと大きく向上させた。
・18年はMLBで37試合に登板し、被打率.232、1.03HR/9と球威の強さを証明した。

このように成長著しいピアース•ジョンソン投手になります。

3.球種
2章の通り、17年MLBでは僅か1試合しか登板していないため、球種別の成績は通算のものを使用しました。
持ち球は、4シーム、カッター、カーブの3球種。リリーフの外国人投手は、2ピッチ(例えば4シーム+スライダー)で、3rdピッチ(例えばチェンジアップ)は今ひとつというパターンが多く散見されますが、ジョンソン投手は3球種ともに一定水準レベルに達しており、3球種トータルで戦える投手であることが分かります。

4シーム:平均151.4㌔で投球の5割を占めています。被打率が.237と低く、空振り率が23.4%と高いため、投球の軸となり得る数字を残しています。
カッター:投球の3割弱を占めています。平均球速は145.4㌔と高速であり、ゴロ率が6割弱と非常に多くのグラウンドボールを生成します。
カーブ:投球の約2割を占めており、平均131.8㌔と4シームと約20㌔の緩急がつきます。ストライク率31.7%と3球種の中では最も高く、また奪三振割合も4シームと並んで39.5%と最も高いため、投球の出来を示すパラメーターとなる球種と言えそうです。

次に、球種別の変化量について以下の図に示しました。
(実線・濃色がジョンソン投手の変化量、点線・薄色がMLB平均の変化量を示しています。バブルの大きさは投球割合を示しています。)

4シーム:平均に比べてシュート量が約9.4cm多く、ホップ量が僅かに多いです。
カッター:平均に比べてカット量が3.8cm少なく、僅かに沈みます。4シームと比較すると、僅かに沈みつつ29.2cmだけ高速で切れ込んでバットの芯を外すため、グラウンドボールを非常に多く生成します。
カーブ:平均に比べてスライド量が12.2cmも多く横変化が大きいです。落下量は5.1cm少ないですが、投球の中では唯一の大きな縦変化も有する変化球であり、4シームと比較して93.2cm落下します。

※平均的な投手と比較して、4シームのシュート量及びカーブのスライド量が多いため、幅の広い横変化(平均40.64cm、ジョンソン62.23cm)で攻めることができ、その中間球として僅かに沈み切れ込むカッターでバットの芯を外す投球スタイルと言えそうです。またカーブは唯一の大きな縦変化を有した変化球でもあります。
したがって、カーブの制球が定まらない登板では、4シームとカッターのみの構成となり、球速差が約6㌔+ほぼ横変化のみマークすれば良いため、やや投球が苦しくなる内容が予想されます。欲を言えば、カッターからさらに球速を落として、落下量を増やしたスライダー系やオフスピードボール系の球があると投球に安定感が増しそうな印象を受けます。

最後に、これら3球種の対左右別のカウント別配球チャート及びコース別の配球割合を確認します。

対右打者:平行カウント及び投手有利なカウントでは、カーブの比率がすべてのカウントで25%オーバーと比率が高くなる一方、打者有利なカウントでは4シームとカッターの比率が高くなり、カーブはあまり投じない傾向が確認できます。

コース別の配球割合です。
4シームはシュート量が多く、カーブの横変化ぎ大きい投手のため、インサイドも果敢に突いていくものの、やや高めに集まる傾向はあるようです。外角を狙った4シームもシュートして真ん中に入ってきたりするなど、決してコマンドに優れたタイプではないものの、横のゾーンを広く使う姿勢はうかがえます。
カッターはあまり抜けることはないようで、外角中心にコントロールできていることが確認できます。ここの外角の出し入れがある程度できるようだと中々打ち辛い印象を受けます。
カーブも外角中心に投じていますが、すっぽ抜けることも散見されるようです。

対左打者:対左打者ではカッターの配球が大きく減り、カーブも微減し、4シームの配球が増える傾向があります。対右打者と比較すると、かなり力押しになる傾向が強いため、NPBではカッターとカーブの比率を上げて上手に攻めていく必要があるように感じます。

コース別の配球割合です。
4シームについて、左打者は右打者とは異なり内角を積極的に攻めるような様子はなく、外角中心に攻めており、対右打者と同様に高めに集まる傾向があります。
カッターは、インロー中心に切れ込ませる使い方をしていますが、アウトハイにも多く集まっている(インローを狙ったカッターのすっぽ抜け、もしくは浮いたバックドアカッター)傾向が確認できます。
カーブは、外角中心に投じていた対右打者と比較すると、切れ込ませたり、バックドアで曲げてきたりとコースを幅広く使っています。

対左打者に関してはもう少し工夫した攻め・配球が求められそうなピアース•ジョンソンです。


4.リリースポイント
過去7年間の外国人リリーフのアームアングル(ファストボール)のデータを整理しました。
ジョンソン投手のアームアングルは、リリーフ高さ1.90m、リリース角度72.6°となっており、類似する投手には元ヤクルトのカラシティ、楽天のハーマン、元広島のヘーゲンズなどが挙げられます。特別角度があるタイプではありません。

球種によるリリースポイントのバラつきを確認(ある日の1試合)すると、以下の通りになっていました。
ご覧の通り、変化球のリリースポイントが4シームに比べて低くなっていることが確認できます。18年全体の具体的な数字では、4シームのリリース高さが1.90mに対し、カーブが1.83m、カッターが1.80mとなっており、変化球を投じる際に腕の位置が下がる点はやや注意深く観察する必要はあるかもしれません。

5.過去の助っ人リリーフとの比較検証
過去7年間の助っ人リリーフのデータを元に、ジョンソン投手の力量を測っていきます。

5-1.ファストボール
まずはファストボールについて比較します。
下記の図は非常に小さくなっていますので、適宜拡大しながらご覧いただけると幸いです。

→リリーフの外国人投手にはまずスピードが求められるのがオーソドックスであるため、過去7年間においても球速が速い投手が大半を占めます。カッターが主流の異質のヘーゲンズを除けば、最遅はギルメットで唯一145.0㌔を下回る選手になります。これくらいまでボリュームが落ちてくると厳しいという現実がある一方、最速にはコーディエの159.3㌔が君臨しており、単に速ければ速いほど良いというわけでないのが非常に難しいところです。

ジョンソン投手の151.4㌔は平均的である一方、被打率.237はとても優秀であり、被打率の低さだけでいえば過去の助っ人の中でもトップクラスの数字を弾いています。
しかし、同程度の被打率をマークした投手には、元広島のブレイシア(彼はMLBで大活躍しましたが)やデラバー、最も被打率の低い投手には元阪神のモレノがおり、これも一概に被打率のみで評価はできない点は踏まえる必要があります。
また、空振り率23.4%も優秀な数値であり、来日直近年度で同等数値を残したのは、元日ハムのトンキン、DeNAのパットン、楽天のハーマン、元広島のデラバーのみになります。

また、高めの4シームの球威に関しても比較検証してみました。高めのFBの空振り率ではDeNAのパットンが46.0%と圧倒的な数字をマークしています。彼が角度は低いもののトンキンと異なり安定した活躍ができたのは、この4シームの高い球威とストライク率、そしてキレのあるスライダーを含めた球威と制球力のバランスの良さであることが、上記と下記のデータからお分かりいただけるかと思います。
ジョンソン投手は、高めの空振り率そのものは問題ないものの、高めのボール球のスイング率は28.3%と低い数字が出ており、見送られる傾向が強いようです。


5-2.変化球
ファストボールのみで力量を測るのは難しいため、変化球についても同様に整理しました。
第1変化球:最も武器としている主要な変化球
第2変化球:サブとして武器としている変化球で、投球割合5.0%以上を対象とする。

まず、細かい数字云々の前に、シンプルな球種だけで少し見えてくる要素があります。
それは、第1変化球にオフスピードボール(特にチェンジアップ)を武器としているリリーフの活躍の確率が極めて低いという点です。
これは以前、Twitterでも仮説として提言していたのですが、上原や平野をみても、FB+オフスピードボールのコンビネーションがまともなレベルに達しているのであれば、そもそも向こうで通用しているだろうというのが根幹の理由として考えられるところにあります。
特にチェンジアップの使い手は、NPBでスプリットを主に多彩な変化球を投じた元DeNAエレラ以外は全滅しており、スプリッターは、並外れたポテンシャルを持つ元巨人カミネロや、大きなカーブで緩急をつけられた元ヤクルトのルーキのみが圧倒的ではないものの活躍したという状況になっています。NPBではサファテやドリスがスプリッターとして活躍していますが、彼等は何もNPBに来てスプリットを物にしています。

①カーブ
同じような視点で、ジョンソンの第1変化球であるカーブに着目すると、その使い手は少ないことが分かります。
第1・第2の順番は異なりますが、同じカーブ+カッターのリリーフは元ヤクルトのオンドルセクのみとなっています。一方、カーブを第1球種とした投手(元オリックスのウエスト、元中日ハイメ、元阪神ボイヤー )は総じていまひとつな結果に終わっていることも確認できます。この要因の一つとして考えられるのは、"パワーカーブか否か"です。先程あげた3名の球速を確認すると、ウエスト(122.1㌔)、ハイメ(123.4㌔)、ボイヤー (123.8㌔)と何も125.0㌔を下回っている一方、カーブを持ち球として大きく成功している投手は、ハーマン(130.0㌔)、ルーキ(128.4㌔)、オンドルセク(127.1㌔)と何も125.0㌔を上回っており、高速であることが見てとれます。(カーペンターは高速でしたがNPBでは一球たりとも投じていません。)

肝心となるクオリティについて、カーブのストライク率/空振り率は、31.7%/25.5%というのが決め球としてはやや物足りない数字のように感じますが、外国人リリーフのパワーカーブ自体が数字が低く出る(ハーマン20.3%/20.6%、ルーキ35.4%/30.1%、オンドルセク32.9%/28.1%)傾向があるため、その点は大きな問題ならないと言えそうです。またこの3投手と比較しても、ジョンソン投手のパワーカーブは最速であり、かつ被打率、被ISOも上位に位置することからも、カーブのクオリティは十分に一定水準に達していると考えられます。
また、同じパワーカーブを用いるハーマン、オンドルセクとの来日直近年度のPlate Disciplineを、以下の散布図に整理しました。(ヘーゲンズはデータなし)
ジョンソン投手のゾーン内のパワーカーブは、他の2投手と比べてコンタクト率が最も低い良い結果が出ている一方、ボール球のスイング率は最も低いのはやや懸念材料と言えそうです。

②カッター
先ほどの過去7年の一覧を確認しても、カッターを有しているリリーフ投手(元巨人カミネロ、元日ハムのマーティン、元広島ヘーゲンズ、元ヤクルトのオンドルセク)は一定の成功はおさめている結果が出ています。
また、クオリティについても、ストライク率の低さがやや気になるものの、被打率や被ISOや空振り率、及びPlate Discipline(ゾーン内で戦える、ボール球のコンタクト率は最も低い)から、十分に機能する球種と判断することができそうです。

以上から、4シームの球威、変化球のキレやレパートリーなど、持っている球の力からはポテンシャルの高さを伺えるジョンソン投手です。

6.状況別成績
6-1.左右別成績

18年MLBでは被打率やK/9に大きな隔離は見えなかったものの、左打者には5.50BB/9と制球に大きく苦しみました。
AAAでは、18年は右打者に4.81BB/9、17年は左打者に6.89BB/9と、右左を問わず制球には不安定さがあり課題を抱えています。
左打者には右打者以上に高K/9をマークする一方、ERAは右打者と比較して圧倒的に悪い数字が残っています。

6-2.走者の有無
AAA級では得点圏の方が成績が良かった一方、MLBでは走者を追うごとに全ての成績が落ちている傾向が確認できます。
NPBでどう出るか注視する必要がありそうです。

また、盗塁については、18年は7回の企画で5回の成功を許しており、クイックについてもやや難がありそうな数字が残っています。


7.まとめ
・平均151.4㌔のシュート量の多い4シームの球威、145.4㌔の小さく切れ込むカッターのゴロ生成力、近年の助っ人リリーフでは最速となる131.8㌔の横幅の大きなパワーカーブと、一つ一つの球種のクオリティは高く、AAAでの高K/9をみてもポテンシャルの高さが感じらます。
・過去7年間では、パワーカーブ及びカッターを使用するリリーフは概ね活躍しており、そのどちらも有しているジョンソン投手の変化球のレパートリーには期待をもてます。また、その両球種のクオリティも一定水準に十分に達しています。速球は高めのボール球が見送れる傾向にありますが、高めの速球で空振りはまずまず奪うことができます。
・一方、懸念材料は、BB/9の高さ、変化球の際にリリースポイントが低くなる、クイックを含めたランナーケアなど、まだまだ投手として荒削りな要素が目立つ点です。
・彼のストロングポイントである一つ一つの球の力を活かしながら、少しずつこれらの課題を克服してNPBに順応していければ、彼の良い物が出てくるのではないでしょうか。
・個人的にはリリーフで上手くいかなければ、スターターで起用してみても面白い選手のように感じています。




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