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Jabari Blash

0.はじめに

2018年シーズンのパリーグ最下位に沈んだ楽天イーグルス。両リーグ最下位の勝率.414に大きく低迷した要因の一つには打線が挙げられ、
打率.241…両リーグ最下位
OPS.675…両リーグワースト2位
得点520…両リーグ最下位
と得点力不足に大きく悩まされるシーズンとなりました。

星野仙一氏の後任としてシーズン終盤に就任した石井GM新体制のもと始まる19年シーズン。
球団は積極果敢な補強に乗り出しており、ソフトバンクとのFA戦線を制して優勝チーム西武の主砲・浅村栄斗をビッグマネーで獲得。さらにはクローザー候補のアラン•ブセニッツを獲得するなど、着々とチームの改革を進めています。

浅村と共に打線の軸として大きな期待のかかる外国人野手では、チームを牽引してきた三人衆のうちカルロス•ペゲーロとジャフェット•アマダーを自由契約。19年シーズンは、昨季15HRと不振に終わったゼローズ•ウィーラーの復活、そしてこの男にかかる期待と役割は大きなものになるでしょう。

ジャバリ•ブラッシュ

驚天動地のパワーと格違いの粗さを兼ね備えたこれぞロマンの塊というスラッガーです。
私、NPB外国人選手好きの代名詞のように紹介し続けてきた選手であり、Twitterで初めて彼を紹介したのが2016/02/02でした。それから地道に彼の様子を伝え続け、この記事を書き始めたのが2019年の2月と、丁度3年もの長きに渡る月日を経てようやくこのように形におさめることができることに大きな喜びを感じています。

そんな私が長年愛しお伝えし続けてきたブラッシュ選手がどういった選手なのか。皆さん散々ツイートをご覧になられているのでご存知かとは思いますが改めて確認し、詳細な検討もしていきたいと思います。


1.映像

2.経歴

2-1.基本stats
高校時代の07年にCWSからドラフト指名を受けたものの契約せず大学へ進学。大学でも09年にTEXから指名を受けたものの、彼は大学に残ることを決断しました。そして10年、SEAにドラフト3回目となる8巡目で指名され、プロ入りを果たしています。
ルーキーリーグから地道に結果を残し続け、14年に初のAAA(PCL)昇格。打率.210ながらも189打席で12HRを放ち、持ち前のパワーを発揮します。翌年15年には228PAで22HRという驚異的な量産スピードを見せつつ、打率も.264と正確性も向上させました。
この活躍もあり、16年には念願のMLBデビュー。18年まで3年連続でMLB昇格の機会がありましたが、324打席で打率.186 8HR 22RBI OPS.612と通用しませんでした。
一方、AAAでは着実に力をつけていき、18年には346打席で打率.317 29HR OPS1.131と圧倒的な成績を残し、アベレージと長打ともにキャリアハイを更新しました。その一方で、キャリアを通じて課題であった三振の多さは最後まで克服することはできず、MLB通算で38.3K%、AAA通算29.3K%と、格違いのパワーのみならず格違いの粗さも兼備しています。
そして18年オフにLAAの40人枠を外れ、19年シーズンの楽天ゴールデンイーグルスとの契約合意が決まったブラッシュ選手になります。

2-2.左右別成績
AAA(PCL)では、対左投手には安定して数字を残していたブラッシュ選手。特に17年は、三振率が24.7K%と彼にしては優れた数字を残し、大きな進歩を見せました。17年はその勢いのまま、MLBでも.290 3HR OPS.858と左投手に強い結果を残すことができました。
18年は対右投手においても成績を飛躍的に向上させ、.292 19HR OPS1.010と素晴らしい成績をマーク。対左投手を含めてAAAではキャリアハイの結果を残しました。
MLBでも前年にアジャストした左投手のみならず右投手への対応も期待されるところではありましたが、.136 0HR OPS.390 45.8K%とキャリアワースト。また、対左投手までもが.059 0HR OPS.249 61.9K%とこちらもキャリアワーストの悲惨な成績に終わりました。

2-3.球場別成績
18年AAAで素晴らしい成績を残したブラッシュ選手ですが、内訳としては本拠地で大きく数字を稼いでいることが分かります。
アウェイでは、アベレージが例年程度の.256に落ちており、本塁打のペースも本拠地→アウェイで7.9→17.6AB/HR(打数/本塁打)に減衰しています。
ブラッシュ選手の本拠地では、KBOに移籍したホセ•ミゲル•フェルナンデス選手も.398 OPS1.079という異常値を叩き出しており、本拠地の成績についてはPCLという打高リーグ性に加えて、さらに少し差し引いて考えた方が良いかもしれません。


3.最大の魅力

ブラッシュ選手の最大の魅力とストロングポイントは、HRの破壊的量産スピードにあります。この才能にかけて彼の右に出るものはいません。

下記の表は2011年以降の過去9年間の外国人選手が、"1本のHRを放つのに何打数かかったか"を纏めたものになります。
(MEXとAAAでは打数の多い方を採用)
ブラッシュ選手は11.3と、約11打数に1本という驚異的なスピードでHRを量産しています。
これだけのペースを維持する選手は他に類を見ません。今季の新外国人でいえば、怪力のバルガスや、MLBで長距離砲としてブレイクしたビヤヌエバらを約2倍速のペースで圧倒。
その他、本塁打王の経験をもつ巨人ゲレーロ(16.7)や、楽天でも活躍したペゲーロ(16.7)、NPBのシーズン本塁打記録を塗り替えたヤクルトのバレンティン(16.6)らすらも余裕で凌駕する圧倒的な異常値を出していることが分かります。

近年のAAAという舞台に限っては、彼が歴代で真のキングであるということ。これがブラッシュ選手の存在価値の全てであると言っても過言ではありません。

4.バッティングフォームの変遷

球種別の成績の前に、フォームについて触れておかなければなりません。近年のブラッシュ選手はフォームを大きく3回変更しており、ここを把握した上で球種別の対応の変遷も追っていきます。

下記の図は、上段から順番に、以下の時点でのフォームを示したものです。表ついては表面的な特徴を示したものです。

16年シーズン

17年シーズン

17年オフ〜18年スプリングトレーニング

18年シーズン

16年:大きなスタンスで、初期状態からほぼトップの位置が形成されており、ノーステップに近い小さな体重移動。
17年:中間的なスタンスで、低い構えから一度投手方向にヘッドを入れる遊びがあり、そこからトップを作る。小さな体重移動。
17年オフ〜18年ST:小さなスタンスで、低い構えから一度投手方向にヘッドを入れる遊びがあり、そこからトップを作る。レッグキックによる一本足打法。
18年:小さなスタンスで、高い構えから一度投手方向にヘッドを入れる遊びがあり、そこからトップを作る。レッグキックによる一本足打法。

MLBでもレッグキックを取り入れて成功している選手は数多くいますが、昨年大谷選手がオープン戦でメジャーのファストボールに対応できなかったことから、体重移動の少ないすり足打法に変えMLBにアジャストしたことは記憶に新しいところです。
では、ブラッシュ選手はタイミングが取り辛くなるレッグキックを何故わざわざ取り入れたのでしょうか。
答えは単純明快で、"飛距離の向上"です。
ブラッシュ選手はその理由について以下のように述べています。
「私は自分のスタンスにレッグキックを実装したいと思っていました。もう少し打球に角度をつけて飛距離を伸ばしたいと考えていて、それで私はレッグキックに取り組むため、このオフシーズンにメキシコに行きました」
その結果、17年オフにメキシコのウィンターリーグにてこのレッグキックに挑戦。.286 5HR OPS1.007と手応えを掴みました。しかし18年のスプリングトレーニングで実戦してみたところ、.095 2HR OPS.589と前年のスプリングトレーニングの.241 7HR OPS.986を大きく下回る成績に終わってしまいました。これを受け、春先の早い段階で、レッグキックはそのままにグリップの初期位置を16年のように高く掲げるフォームに変更しています。

そして飛距離を伸ばしたいという目的は、18年シーズンにおいて一定の成果を垣間見ることができています。
下記の映像・写真は、ブラッシュ選手が広島の新外国人ローレンス投手のスライダーを捉えた特大のファウルであり、曇り空のため定かではないもののセーフコフィールドの場外にまで飛んだとされています。Statcastでは打球が約134m飛んだとされ、打球角度は31°で打球速度が驚異の185.2㌔を記録したと伝えられており、芯で捉えさえすれば破壊的なパワーを発揮できることが証明されています。


これらの情報を踏まえた上で、球種別の成績の変遷を確認していきます。


5.球種別成績の変遷

16→17年にかけて、無駄の少ないほぼノーステップの打法から、遊びを入れた柔らかさを感じる打法へとシフトしました。その結果は対左投手には表れており、主にハードボール(4シーム、2シーム、カッター)に大幅な向上が見られました。それは空振り率の異様なまでの低さを見ても分かります。また空振り率は高いものの、抜く球(カーブ、チェンジアップ)の数字も向上しており、一定の成果はあったと言えそうです。しかし対右打者においては、主に変化球へのコンタクト力が低下しており、総合的に見てMLBに定着することは叶いませんでした。
そして17年オフに取り組んだレッグキックを基礎とした18年では、良化していた対左投手の変化球への対応も再び悪化し、対右・対左問わず4シームへの対応が極めて低下していることが分かります。
18年はこの4シームへの対応が致命的に悪く、投手の左右別を無視すると通算では、打率.000・空振り率52.8%・ファウル率28.7%と、スイングした結果として過半数が空振り、打球が前に飛んだのは僅か約20%という悲惨な成績に終わってしまいました。
対右投手のスライダーについてもアベレージは3-1で.333となってはいるものの、空振り率は55.6%とこちらもキャリアでワーストとなっています。その他の変化球も空振りが過半数以上と、一般的に言われるレッグキックの課題が浮き彫りとなっており、あくまでMLBの舞台においてはこの新打法が完全に裏目となってしまいました。

私も中継を通して何度かブラッシュ選手をリアルタイムで観戦していましたが、何故ここまでファストボールに遅れてしまうのか素人なりに考えてみました。

下記の映像は、NPB及びMLBでレッグキックを取り入れている一流選手を集めたものです。どの選手にも共通するのが、グリップの動きはトップの位置まで引くだけのシンプルな動作だということです。足を上げる大きな動作を下半身でする分、多くの選手はトップを作るまでは無駄な動作を省き、いつでも打てる体制を早い段階から構築していることが分かるのではないでしょうか。こうすることで長くボールを待てる間が生まれていると考えられます。
中には、山川穂高や丸佳浩のように一度ヒッチ等の遊びを加える選手もいますが、彼等はヒッチはするもののトップを作る動作は素早く、また軸足に体重を残しつつ一気に体重移動しないようボールがくるのを長く待てている状態であることが分かります。一方でブラッシュ選手は、上げた前足をそのまま前に下ろして一気に体重移動し自らボールを迎えにいく状態であることが分かります。NPBで成功しているレッグキックを実装した右打者を見てみると、上げた前足を弧を描くように旋回してゆっくりと体重移動する打者(坂本、山田、山川、畠山、岡本、バレンティン、ラミレス等)が多く、これも前文の状態を再現するための一つの動作だと言えそうです。
ブラッシュ選手は、リズムをとるために他のレッグキック搭載の選手には見られない上半身の動作があること、そして前足の上げる高さが高過ぎ一気に体重移動すること。これらから打ち行く頃には既にボールが来てしまい、間がなく衝突するような打撃になることから、MLBの速球には完全に立ち遅れ、変化球にも泳がされるという悪循環に陥ったものと観察しています。
そういう視点でもう一度、下記の映像を一人一人見ていただくと何となく見えてくるものがあるのではないでしょうか。

とはいえ、AAAではキャリアハイの数字を残しているため、一概にこのフォームでは厳しいと全否定し切れないのが難しいところではあります。あくまでMLBの水準においては完全に不適合なフォームでしたが、これが水準を落としたNPBでどう機能するのか。研究された上で弱点を執拗に攻められても耐え得るメカニクスであるのか。
ここはこれからの実戦を通して慎重に観察していく必要があるでしょう。
では、どういった点に着目していけば良いのか。次の章から詳しく記載していきます。


6.Plate Discipline

5章までのフォームの変遷の内容を踏まえつつ、実際にコンタクト力やボール球の見極めがどのように変化しているのか、他の外国人選手と比較しながら確認します。
コース別の細かなスポット分析はこの後の章で行いますので、ここでは大まかな概要・レベルを掴みたいと思います。また、17年を除けばサンプル数は多くないことをご承知下さい。

6-1.対右投手

〈其の一〉4シーム
ゾーン内については年々スイング率が向上しており、アグレッシブさが向上していることが分かります。そして意外なのはゾーン内のコンタクト率で、打率こそ.000だったものの、毎年向上していることが確認できます。
しかしボール球への対応は非常に悪いです。スイング率は高いものの致命的ではありませんが、問題なのはコンタクト率の低さです。毎年低下しており、18年は25.0%と極めて低い数字が残っています。この数字は他の外国人と比較しても際立って低いです。

〈其の二〉2シーム
4シームとは正反対の傾向が出ており、ボール球の見極め及びコンタクト率は良化しているものの、ゾーン内のコンタクト率が大幅に低下しています。

〈其の三〉スライダー
4シームと同様、ゾーン内のスイング率は向上していますが、ゾーン内のコンタクト率は年々低下しており、18年は60.0%と低調でした。一方でボール球については、16-17年はスイング率が20.0%強とボール球の見極めが出来ていたものの、18年はレッグキック搭載による弊害からか50.0%と大幅に悪化しています。またボール球のコンタクト率についても年々低下しており、18年は一球たりともバットに当たることはありませんでした(サンプル4球)。

〈其の四〉カーブ
ゾーン内のスイング率は中間的であり、ボール球のスイング率も30.0%を切るなど、カーブに対する選球そのものは比較的できているようです。コンタクト率については、ゾーン内は低めで、ボール球も低め(18年はサンプル数が一つのみのため16-17年で判断)となっています。

〈其の五〉オフスピードボール
ゾーン内は積極的にスイングしていますが、サンプル数の多い17年ではコンタクト率が20.0%と低い数字が残っています。(18年はサンプル数が一つのみ)
ボール球については、18年は4-2で50.0%のスイング率が残っていますが、サンプル数の多い17年まででは20.0%前半と比較的我慢できていました。18年の数値がレッグキックによる悪影響か、単なるサンプル数の減少に伴う参考値であるかは実戦を通して見極める必要がありそうです。また、ボール球のコンタクト率については、サンプル数の多い17年においても極めて低い数値が残っており、変化球へのコンタクト力については総じて期待値が低いと言えそうです。


6-2.対左投手

〈其の一〉4シーム
MLBで左投手相手に好成績をマークした17年は、ゾーン内のコンタクト率が92.9%と極めて良好な数字が残っていますが、大幅に成績を落とした18年は50.0%と空振りが増えています。一方で、ボール球のスイング率は優秀であり見極めることはできています。

〈其の二〉スライダー
18年のサンプルが非常に少ないのですが一応掲載しておきました。右投手同様にコンタクト力そのものに課題があると言えそうです。

〈其の三〉オフスピードボール
落ちる球については意外にもボール球に我慢できていることが分かります。ただしボール球を振った際は空振りが極めて多くなっています。またゾーン内についても空振りはやや多い数字が残っています。


7.コース別の詳細検証

6章の内容を掘り下げ、各球種を各コース別に詳細に検討していきます。

検証の内容は以下の視点で進めていきます。

▪︎コンタクト力の検証
ストライクゾーン内では、コース別の空振り率を確認し、どのコースに空振りが多く、どのコースなら空振りが減るのかを確認します。ボール球では、空振り率に併せてスイング率も確認し、ボール球にどれだけ手を出し、結果としてどれだけ空振りをするのかを把握します。
そしてファストボールに対しては、追加の検討として、以下の3つの球速帯の分類を付与しその違いを図を用いて確認していきます。

I. 145.0㌔未満…18年NPB平均143.6㌔
Ⅱ.145.0㌔以上150.0㌔未満…やや高速帯
Ⅲ.150.0㌔以上…高速帯

▪︎打球の質の検証
ストライクゾーン内に対して、xwOBAを用いてコース別の打球の質を確認します。コンタクトできた結果、どのコースでは良い打球が飛ばせ、どのコースではあまり良い打球が飛ばせなかったのかを確認し、得意なコースと苦手なコースを洗い出します。
(ex.インサイドは詰まりやすい、真ん中は良い打球が飛ぶ等)
こちらもファストボールについては、上記の球速帯別の条件を付与します。

※ xwOBAとwOBA
xwOBAとは、一つひとつの打球の速度と角度、つまりコンタクトの質を、過去のほかの選手も含めた打球と比較し、どれくらいの確率で単打、二塁打、三塁打、本塁打になっているかを見て、数値をはじき出したもの。一方、wOBAは安打、本塁打、四球など、プレーの結果を基にどれだけやられたかを数値化している。
二つの指標の違いは、打球の評価に打撃結果を使うか(wOBA)、打球の質で結果を予測して使うか(xwOBA)、かの違いである。
出塁率と同じように見ることができ、.320-.330が平均的とされる。

この2つの検証の合わせ技で、各コースにおける球種毎の対応力を見ていきます。

※注意点
・xwOBAの検証では18年のサンプルが少ない(中々バットに当たらなかった)ことから、サンプルの多い17年のデータも併せて合算して記します。(対左投手については17年の対左成績が良かったため、18年と17年を分けて整理しています。)
・2つの検証では、それぞれ用いているデータサイトが異なるので、空振り率100%のところでxwOBAが掲載されているなど一部不整合がありますが、これはゾーンの区分けによる誤差として容認し総合的に判断及び評価をしていきます。

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7-1.ファストボール

まずは課題である速球への対応を見ていきます。下記の図の通り、7つのコースに大別して検証します。この項目では、ブラッシュ選手が根本的に苦手としているコースを洗い出します。
(総評の後に詳細な検討内容を記しています。)

〈対右投手〉

総評:高めのファストボールに最大の難を抱えており、145.0㌔未満のNPB平均球速帯においても空振りが多く打球の質も悪いなど、球速を問わず振り遅れる傾向があります。
インサイドについては高め同様に穴となってはいますが、空振りは多くなく、また145.0㌔未満のNPB平均球速帯ではxwOBAが平均程度であるためNPBでの良化を期待したいところです。ただしインサイド低めにはボール球も含めて空振りが多く、低めに沈みながら食い込んでくるような2シーム系には脆さがありそうです。
真ん中付近に関しては空振りが少なく、スイング軌道にあった良いバッティングができているようです。外角には関しては空振りがやや多いですが、150.0㌔以上にも良い打球が飛ばせており各コースの中では対応できる部類に入りそうです。
高めの釣り球については、空振り数は球速を問わず多いものの、見極めという点に関してはNPBで良化する可能性もあるため、今後の実戦を注意深く観察する必要がありそうです。

◻︎コンタクト力の検証

▪︎ゾーン別のコンタクト力

①高めの検証
・空振り率(18年/17年)
…100.0%(2/2) / 60.0%(12/20)
②インハイの検証←①と差別化
・空振り率(18年/17年)
…100.0%(1/1) / 30.8%(4/13)
③インサイドの検証
・空振り率(18年/17年)
…42.9%(3/7) / 10.7%(3/21)
④真ん中の検証
・空振り率(18年/17年)
…0.00%(0/6) / 19.0%(4/21)
⑤外角の検証
・空振り率(18年/17年)
…0.00%(0/3) / 31.8%(7/22)
⑥高めボール球の検証
・スイング率(18年/17年)
…66.7%(2/3) / 48.6%(17/35)
・空振り率(18年/17年)
…100.0%(2/2) / 64.7%(11/17)
⑦内低めボール球の検証(食い込む2シーム想定)
・スイング率(18年/17年)
…50.0%(2/4) / 48.4%(15/31)
・空振り率(18年/17年)
…50.0%(1/2) / 66.7%(10/15)

▪︎球速別のコンタクト力

球速別のコンタクト力の違いには、視界的に捉えられるようbaseball savantからデータを抽出し整理しました。しかしこのデータはゾーンを縦横(特に縦)に広くとっているため、高低・左右におけるストライクゾーンとボールゾーンが、上記の実数値の算出で使用していたbrooks baseballのものとズレが生じてきます。筆者はこれまでの経験則からbrooks baseballの方がゾーンの区分けは適切に表現されていると考えています。
読者の皆様におかれましては、下記の図はあくまで高めと低め・内寄りと外寄りといった大きな分類の目安でご覧頂き、枠線から外はボール球という基準で実数値の算出は行なっていないということ、そのような考え方はしていないということを踏まえた上で閲覧いただけますと幸いです。

◻︎打球の質の検証

①高めの検証
・xwOBA(18年+17年)
I. 145.0㌔未満…0.000(サンプル数1)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満…0.000(サンプル数3)
Ⅲ.150.0㌔以上…0.000(サンプル数5)

②インハイの検証
・xwOBA(18年+17年)
I. 145.0㌔未満…(サンプル数0)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満…0.015(サンプル数2)
Ⅲ.150.0㌔以上…0.251(サンプル数2)

③インサイドの検証
・xwOBA(18年+17年)
I. 145.0㌔未満…0.346(サンプル数3)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満…0.159(サンプル数2)
Ⅲ.150.0㌔以上…0.220(サンプル数8)

④真ん中の検証
・xwOBA(18年+17年)
I. 145.0㌔未満…0.006(サンプル数1)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満…(サンプル数0)
Ⅲ.150.0㌔以上…0.335(サンプル数8)

⑤外角の検証
・xwOBA(18年+17年)
I. 145.0㌔未満…0.006(サンプル数1)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満…0.289(サンプル数3)
Ⅲ.150.0㌔以上…0.506(サンプル数7)


〈対左投手〉

総評:対左投手のファストボールへの対応は17年が空振り率が10.0%を下回る等、キャリアで最も対応が良かったシーズンになります。数字にも現れており、高めを除けば空振りは極めて少なく、また球速が150.0㌔以上でも空振りが少なかったことが確認できます。しかしレッグキックを実装した18年はこの対応力が急低下しており、150.0㌔以上への空振りが殆どではあるものの145.0㌔未満においても空振り率が高くなっていることが分かります。
ただし対右投手と異なるのはボール球の見極めは良好であることです。高めのボール球はスイング率0.00%、外角低めのボール球も16.7%と見極めができています。
18年シーズンは見極めはできているものの、ゾーン内の速球に完全に振り遅れていたというのが対左投手のファストボールへの状態となります。この見極めは維持しつつ17年のコンタクト力を取り戻したいブラッシュ選手になります。

◻︎コンタクト力の検証

▪︎ゾーン別のコンタクト力

①高めの検証
・空振り率(18年/17年)
…100.0%(5/5) / 41.7%(5/12)
②インハイの検証
・空振り率(18年/17年)
…75.0%(3/4) / 0.00%(0/8)
③インサイドの検証
・空振り率(18年/17年)
…50.0%(1/2) / 0.0%(0/19)
④真ん中の検証
・空振り率(18年/17年)
…100.0%(2/2) / 0.0%(0/13)
⑤外角の検証
・空振り率(18年/17年)
…44.4%(4/9) / 10.0%(1/10)
⑥高めボール球の検証
・スイング率(18年/17年)
…0.00%(0/5) / 10.5%(2/19)
・空振り率(18年/17年)
…0.00%(0/0) / 50.0%(1/2)
⑦外低めボール球の検証(逃げる2シーム想定)
・スイング率(18年/17年)
…16.7%(1/6) / 0.00%(0/13)
・空振り率(18年/17年)
…0.00%(0/1) / 0.00%(0/0)

▪︎球速別のコンタクト力



◻︎打球の質の検証

①高めの検証
・xwOBA(18年/17年)

I. 145.0㌔未満
…(サンプル数0) / 0.870(サンプル数1)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満
…(サンプル数0) / 0.000(サンプル数2)
Ⅲ.150.0㌔以上
…0.000(サンプル数3) / 0.693(サンプル数1)

②インハイの検証
・xwOBA(18年/17年)

I. 145.0㌔未満
…(サンプル数0) / 0.686(サンプル数1)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満
…0.000(サンプル数1) / 0.734(サンプル数1)
Ⅲ.150.0㌔以上
…(サンプル数0) / 0.810(サンプル数1)

③インサイドの検証
・xwOBA(18年/17年)

I. 145.0㌔未満
…(サンプル数0) / 0.093(サンプル数3)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満
…0.160(サンプル数1) / 0.100(サンプル数5)
Ⅲ.150.0㌔以上
…(サンプル数0) / 0.889(サンプル数1)

④真ん中の検証
・xwOBA(18年/17年)

I. 145.0㌔未満
…0.020(サンプル数1) / 0.325(サンプル数2)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満
…0.000(サンプル数1) / 0.590(サンプル数3)
Ⅲ.150.0㌔以上
…0.000(サンプル数1) / 0.604(サンプル数3)

⑤外角の検証
・xwOBA(18年/17年)

I. 145.0㌔未満
…(サンプル数0) / 0668(サンプル数1)
Ⅱ.145.0㌔〜150.0㌔未満
…(サンプル数0) / (サンプル数0)
Ⅲ.150.0㌔以上
…0.828(サンプル数1) / 1.234(サンプル数1)

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7-2.スライダー

〈対右投手〉

総評:キラリと光るのはボール球の見極めです。特に外角のボール球の見極めは優れています。一方でコンタクト力という点ではコースを問わず低く、低めを除き空振り率は50.0%という高い数字が残っています。17年は当たりさえされば良い打球が飛ばせたものの、空振りも半数近くあり脆さも目立ちました。

①外角の検証
・空振り率(18年/17年)

…0.00%(0/0) / 66.7%(2/3)
・xwOBA(18年/17年)
…(サンプル数0) / 0.228(サンプル数2)

②真ん中の検証
・空振り率(18年/17年)

…0.00%(0/0) / 50.0%(4/8)
・xwOBA(18年/17年)
…(サンプル数0) / 0.436(サンプル数5)

③低めの検証
・空振り率(18年/17年)

…20.0%(1/5) / 0.00%(0/7)
・xwOBA(18年/17年)
…0.000(サンプル数1) / 1.013(サンプル数2)

④アウトローの検証
・空振り率(18年/17年)

…0.00%(0/0) / 62.5%(5/8)
・xwOBA(18年/17年)
…(サンプル数0) / 0.311(サンプル数3)

⑤外角のボール球の検証
・スイング率(18年/17年)

…20.0%(1/5) / 18.6%(8/43)
・空振り率(18年/17年)
…100.0%(1/1) / 62.5%(5/8)

⑥低めのボール球の検証
・スイング率(18年/17年)

…33.3%(2/6) / 28.3%(15/53)
・空振り率(18年/17年)
…100.0%(2/2) / 86.7%(13/15)


〈対左投手〉

総評:インサイドに食い込んでくるスライダーに総じて弱い傾向が出ています。17年はボール球の見極めがまずまずでしたが、18年はスイング率が50.0%とレッグキックの弊害からか数字が悪化しています。またコンタクト率についても食い込んでくる軌道に対して低い数字が残っています。

①外角の検証
・空振り率(18年/17年)

0.00%(0/0) / 0.00%(0/1)
・xwOBA(17年)
0.115(サンプル数1)

②真ん中の検証
・空振り率(18年/17年)

0.00%(0/0) / 0.00%(0/0)
・xwOBA(17年)
0.000(サンプル数2)

③膝下の検証
・空振り率(18年/17年)

0.00%(0/0) / 83.3%(5/6)
・xwOBA(17年)
0.000(サンプル数3)

④ボール球の検証
・スイング率(18年/17年)

50.0%(2/4) / 33.3%(5/15)
・空振り率(18年/17年)
100.0%(2/2) / 80.0%(4/5)

-------

7-3.カーブ

(サンプルが少ないため17年+18年)

〈対右投手〉

総評:カーブは苦手としている傾向があるようです。ボール球にはまずまず手を出し、低め、そして外角に空振りが多くなっています。

①外角の検証
・空振り率

…25.0%(1/4)
・xwOBA
…0.000(サンプル数1)

②真ん中の検証
・空振り率

…33.3%(1/3)
・xwOBA
…(サンプル数0)

③低めの検証
・空振り率

…50.0%(4/8)
・xwOBA
…0.193(サンプル数6)

④アウトローの検証
・空振り率

…100.0%(4/4)
・xwOBA
…0.218(サンプル数4)

⑤外角のボール球の検証
・スイング率

…31.3%(5/16)
・空振り率
…60.0%(3/5)

⑥低めのボール球の検証
・スイング率

…36.0%(9/25)
・空振り率
…88.9%(8/9)


〈対左投手〉

総評:対右投手と比較すると対応力は高く、真ん中から外寄りに入ってくるカーブについて良好な数字が見受けられます。インサイド低めのボールゾーンに食い込んでくるよう軌道には高いスイング率と空振り率が残っており脆さが見えます。

①外角の検証
・空振り率

…0.00%(0/0)
・xwOBA
…0.368(サンプル数2)

②真ん中の検証
・空振り率

…0.00%(0/4)
・xwOBA
…1.162(0/2)

③膝下の検証
・空振り率

…0.00%(0/0)
・xwOBA
…(サンプル数0)

④ボール球の検証
・スイング率

…50.0%(4/8)
・空振り率
…100.0%(4/4)

-------

7-4.オフスピードボール

〈対右投手〉

総評:オフスピードボールには総じて弱い結果が出ています。18年はサンプルが少ないですが、低めを中心に空振りが多く、ボール球にも手を出す傾向があります。

①高めの検証
・空振り率(18年/17年)

…0.00%(0/1) / 0.00%(0/1)
・xwOBA(18年+17年)
…(サンプル数0)

②真ん中の検証
・空振り率(18年/17年)

…0.00%(0/0) / 100.0%(1/1)
・xwOBA(18年+17年)
…0.000(サンプル数2)

③低めの検証
・空振り率(18年/17年)

…0.00%(0/0) / 100.0%(3/3)
・xwOBA(18年+17年)
…0.000(サンプル数2)

④低めボール球の検証
・スイング率(18年/17年)

…33.3%(1/3) / 53.3%(8/15)
・空振り率(18年/17年)
…100.0%(1/1) / 87.5%(7/8)


〈対左投手〉

総評:対右投手の比較するとボール球の見極め・打球の質には優れている一方、空振りは対右投手と同様に多い数字が残っています。

①高めの検証
・空振り率(18年/17年)

…0.00%(0/0) / 0.00%(0/1)
・xwOBA(18年+17年)
…0.126(サンプル数2)

②真ん中の検証
・空振り率(18年/17年)

…100.0%(2/2) / 40.0%(2/5)
・xwOBA(18年+17年)
…0.518(サンプル数6)

③低めの検証
・空振り率(18年/17年)

…60.0%(3/5) / 42.9%(3/7)
・xwOBA(18年+17年)
…0.234(サンプル数5)

④低めボール球の検証
・スイング率(18年/17年)

…33.3%(6/18) / 36.7%(11/30)
・空振り率(18年/17年)
…66.7%(4/6) / 63.6%(7/11)


8.打球の詳細検証

7章まででコンタクトに何を抱えていることが分かったブラッシュ選手ですが、ではコンタクトできた際にどういった打球が飛んでいたのか?具体に確認していきます。

8-1.打球方向
もともとプルヒッター気味なブラッシュ選手ですが、18年はAAAとMLBを通じてキャリアの中でも引っ張りの打球が多いシーズンとなりました。飛距離向上を目指したレッグキック実装の影響は少なからずあるかもしれません。

17年と18年の左右別の打球方向のヒートマップについても下記に記します。

〈対右投手〉
17年

18年

〈対左投手〉
17年

18年

8-2.打球の性質
年度別のGB/FB(打球のゴロとフライの割合)を記しました。打撃フォームの変遷やリーグレベルに限らず、フライボールヒッターの傾向は一貫していることが分かります。マイナーで本塁打を量産していた所以が垣間見えます。

また、球種毎の打球の性質についても左右別に整理しました。対右投手では、ほぼ満遍なく打球を上げることができる一方、2シームにはゴロが多いことが確認できます。手元で食い込んでくる球にはバットの芯を外されるケースが多かったといえるでしょう。
対左投手においてはそのような球種は見当たりませんでした。

8-3.打球の質(打球角度と打球速度)
16-18年における左右別で球種別の平均打球角度及び平均打球速度を整理しました。
【凡例】平気打球角度(°) / 平均打球速度(km/h)

飛距離の向上を目指して実装したレッグキックの影響からか、18年シーズンはサンプル数が少ないもののキャリアハイの数字を残しています。特に対右投手において顕著な進歩が見られ、対左投手においても17年からの向上を確認することができます。
その一方で、サンプル数0=(-)も点在しており、そもそもコンタクトできず打球が発生していないという球種が多くあることも見てとれます。このように当たりさえすれば強烈な打球を飛ばせる一方、空振りが非常に多いといった諸刃の剣な要素を、本検証においても確認することができたのではないでしょうか。

下記の通り、今季の他球団の新外国人選手と比較してもその打球速度はズバ抜けています。


9.守備

キャリア通算ではライトが本職のブラッシュ選手。記載はしていませんがAAAでは17年はライトのみを守るなど、ライトの守備機会が最も多くなっています。
18年は12年以来のセンターにも守備につく機会がありましたが、これに関しては計算できず両翼が基本線となります。
守備力は両翼ともに平凡で、守備範囲や肩ともに可もなく不可もないといったレベルにあります。
キャンプでは経験のないファーストの練習もしているようですが、これも上手くいけば儲け物程度で考えておくべきでしょう。

・UZR:
「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」
・ RngR:
打球処理による得点(=失点阻止への貢献度)
・DRS:
守備防御点 ex)DRS=-5.0 → 平均的野手と比べて5点余計に与えた。
・ARM:
外野手の送球による貢献を得点換算したもの。補殺数のみならずどれだけ走者の進塁を抑止したかも評価。


10.走力

最後に走力についても触れておきます。
ブラッシュ選手のスプリントスピード(走っている間の一番速い1秒間)は、16→17→18年にかけて、秒速8.44→8.41→8.29mと推移しています。

この数字がどの程度のレベルなのかというのを元阪神ロサリオ、巨人ゲレーロと比較しますと、15年のデータでそれぞれ秒速8.14m、秒速8.32mとなっています。
基準として彼ら程度と想定しておくとイメージしやすいのではないでしょうか。


11.ブラッシュの変化・まとめ

ここまで見るとNPBでもファストボールを中心にコンタクト力がやや懸念されるブラッシュ選手ですが、春先の実戦から既に変化が生まれています。

4章でも触れた通り、これまでに幾度も打撃フォームを改造してきたブラッシュ選手。
その研究熱心な姿勢は決して変わることなく、キャンプの実戦から既に変化が見られています。
以下の映像の通り、レッグキックの前足の上げ幅を小さく調整しており、その分だけ18年よりはボールに差し込まれ難く、ボールを前で捉えることができるようになっています。

何よりも18年は150.0㌔以上の高めのファストボールには空振り率100.0%だったのが、球界のエース・菅野の高めの151.0㌔をスタンドインで一発回答。
まだ春先の早い段階とはいえ、この一撃はブラッシュ選手にとってかなり大きな意味を持つと言えるのではないでしょうか。

ここまでの実戦ではこの一発を含め、コンタクト力にも大きな粗さを見せていませんが、今後このフォームで高めと内角のファストボールへの対応、そして変化球へのコンタクトがどう変化してくるのか。オープン戦〜開幕後までの数多くの実戦をもとに、今回の記事で挙げた課題への対応を観察していただければ幸いです。


この3年間追い続けてきた愛着のあるブラッシュ選手のNPBでの大活躍を祈って、この記事を終わらせていただきたいと思います。


最後まで閲覧いただきありがとうございました。


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