見出し画像

Jefry Marte

0.はじめに
10年:マット•マートン
13年:ブルックス•コンラッド
14年:マウロ•ゴメス
16年:マット•ヘイグ
17年:エリック•キャンベル
18年:ウィリン•ロサリオ

10年代に阪神タイガースがシーズン当初に獲得した助っ人外国人野手の活躍事情は、山あり谷ありの壮絶なシーズンを経てきました。
10年に加入したマートンは球界屈指のヒットメーカーとして実に6年もの間、阪神タイガースを支えました。14年よりタッグを組んだパワーヒッターのゴメスも、勝負強い打撃で打点王を獲得するなど3年間に渡り、チームを支えてきました。しかし、この二人がチームを去った後、球団は後継となる外国人選手獲得に非常に苦しんでいます。
マートンの後継として獲得したアベレージヒッターのAAA(IL)首位打者ヘイグ(16年)、キャンベル(17年)は結果を残すことができませんでした。18年は方針を変え、韓国KBOで大きな成功を掴んだ元メジャーリーガーのロサリオを獲得。パワーとアベレージを兼ね備えた洗練された打者として前評判は非常に高いものがありました。
しかし、蓋を開けてみれば外角のブレーキングボールの対応に苦慮し、最後まで実力を発揮することは叶いませんでした。

こうしてチームの軸として当初に獲得した新外国人野手が3年連続で活躍できていない中、球団は19年シーズンをこの男に託しました。

ジェフリー•マルテ(27)

片手フォローから放たれる強烈な打球音と痛烈なライナー性の打球が魅力のドミニカンスラッガーです。
球団はこのマルテ選手の補強に大きな自信を持っており、複数いた候補の中でデータ上で最も良い選手が獲得できたと豪語しています。
果たしてこの意味とは?

皆さんと一緒に検証していきます。

2.映像
※note不調につき貼り付けできないため、回復次第後日掲載。
ツイッター(NPB外国人選手好きのtweet)の方から閲覧ください。


3.stats
08年からマイナーで下積みをし、15年にようやくAAA(IL)に昇格すると、399PAで.275 15HR 65RBI OPS.828 16.0K%と好成績をマークしました。この年にはチームの主砲ミゲル•カブレラの故障離脱によってチャンスがまわりMLBデビュー。33試合で4HRを放つなど存在感を発揮しました。
16年にはLAAに移籍し、16-17年の2年間はAAA(PCL)とMLBを行き来するシーズンが続きました。
16年はPCLでは成績が振るわなかったものの、MLBで284PAで.252 15HR OPS.790 20.8K%とプチデビューを果たします。
順調なキャリアに見えましたが17年には.173 4HRと不振。PCLでも205PAで.265 9HR OPS.797と物足りない数字に終わりました。
そして18年はシーズンの殆どをMLBで過ごし、209PAで.216 7HR OPS.644と2年連続で結果を残せず、19年シーズンの来日が決まりました。

キャリアでの最多HRは16年MLBでの15HR、最高アベレージはルーキーイヤーのルーキー級での.325であり、これがキャリア唯一の打率3割台でもあります。
高いパワーと一定のコンタクトを備えるものの、このように自身のハイポテンシャルを成績に還元することが上手くできていないマルテ選手になります。


4.左右別成績
対右投手、対左投手別の成績を整理しました。
まず着目したいのは15年のAAA(IL)での成績です。投高のリーグにおいてトータルでは.275 15HR 65RBI OPS.828と好成績をマークしており、AAA級ではキャリアハイとなる数字を残しています。しかし、この数字は対左投手での.384 OPS1.153という圧倒的な数字に支えられていたものであり、対右投手には.224 OPS.681と低調に終わっていたことが見てとれます。
その他のシーズンを確認してみても、AAA級では対右投手には平凡な数字が残っており、対左投手で成績を稼いでいることが分かります。

MLBではどうでしょうか。
キャリアハイの成績を残した16年を含め、アベレージは対右左で概ね同等程度の数字が残っています。AAA級で安定していた三振率は、MLBでは隔年傾向にあり、対右では1年おきにK%>30.0を超えるシーズンを記録しています。
18年は対右・対左ともに.210台 OPS.600台と低調でしたが、MLBの右投手相手に13.6K%と高いコンタクト力を発揮した点は大きなプラス材料と言えそうです。

とはいえ、16年のMLBでの196PAを除き、基本的にはキャリアを通じて対右投手には平凡なパフォーマンスを見せており、AAA級での数字分だけ左投手の方が得意としている傾向があるようです。


5.球種別成績
対右・左+球種別の成績を以下の表に整理しました。一つ一つ丁寧に見ていきます。

・ファストボール
マルテ選手の最大の強みこそが4シームに振り負けない力強さです。全球種の中で最も安定してアベレージ及び長打が残しており、空振り率は10.0%以下の低さを複数シーズンで記録するなど、過去の助っ人外国人選手でもトップクラスの数字を弾いています。
一方、絶対的に得意とする4シームから手元で僅かに左右に変化する2シームとカッターは苦手としています。4シームと比較し、アベレージ、長打、空振り率ともに低下していることが分かります。

・ブレーキングボール
対右投手:スライダー、カーブともにキャリアを通じて苦手としていますが、スライダーに限定すると18年に.294と3割近いアベレージを残すことができています。一方、空振り率は3年連続で40.0%台と非常に粗く、このアベレージを数字通りに受け取っていいかはやや懐疑的と言えそうです。

対左投手:スライダーはキャリアを通じて苦手としており長打は一本も出ていません。ただし右投手と比較すると空振りは少ない傾向にあります。カーブはここ2年間でアベレージ、長打、空振り率を良化させており、改善傾向にあります。

・オフスピードボール
サンプルの少ないスプリットは除き、チェンジアップを中心に見ていきます。右投手と比較すると左投手の方が対応できていることが分かります。

※まとめ
・4シームには滅法強いものの、2シーム、カッターには弱い傾向があります。
・右投手のスライダーは18年は.294と大きく改善されたものの空振り率の高さは不変であり、アベレージ通り受け取っていいか懐疑的です。左投手のスライダーは非常に苦手としています。
・カーブは対右投手は苦手としており、左投手は対応できています。
・チェンジアップも空振りが多く苦手としていますが、左投手のそれには何とか対応できています。


6.フロントのマルテ選手獲得への自信
ここからがいよいよ本題になります。
マルテ選手を獲得した阪神フロントはマルテ選手の成功に大きな自信を持っており、彼について以下のように評しています。(以下抜粋)

https://www.sankei.com/smp/premium/news/181230/prm1812300015-s1.html

https://www.sanspo.com/smp/baseball/news/20181229/tig18122905030003-s.html

また、音源ソースがないのですが、ABCラジオ等では谷本球団本部長が下記の通り発言していたようです。


上記の通り、マルテ選手の年々の成長について高く評価しており、その一例として、三振率の良化(3〜4章で触れました)、ボール球のスライダーの見極め、コンタクト率の良化、ストライクゾーン内のアグレッシブさを挙げています。
これがどういうことなのか、フロントの考えるマルテ選手の成長を次の7章から検証していきます。


7.Plate Discipline
Plate Disciplineを左右別で、さらにこれまでの野手の記事で扱ってきた系統別を更に詳細化した球種別のPlate Disciplineを検証していきます。

7-1.対右投手

①4シーム
マルテ選手の絶対的に得意とする4シーム。
その強さはPlate Disciplineでも色濃く出ています。
特徴的なのはボール球のコンタクト率です。
15年のMLBデビュー以来、年々数字を上げており、18年は93.3%という驚異的なコンタクト能力を見せました。他の外国人選手(ロサリオ、ゲレーロ、ゴームズ、マギー、ビヤヌエバ)と比較しても、その数字は頭一つ抜けています。

そしてストライクゾーン内についても、スイング率はデビュー以来、年々数字を上げており、そのアグレッシブさが向上している中で、コンタクト率も18年には92.9%としっかりと立て直してきました。
ボール球でもゾーン内でも90%超えの圧倒的なコンタクト率を残しており、それでいてゾーン内をアグレッシブに振っていく中で、ボール球のスイング率も特別高くないため、4シームへの強さは過去の外国人選手の中でもトップクラスと言って差し支えないでしょう。

②スライダー
ここが本題になります。阪神スカウトが太鼓判を押している、ロサリオとは異なる、⑴ボール球のスライダーの見極め(ボール球のスライダーにバットが止まる)を中心に見ていきます。

肝心のボール球のスイング率ですが、たしかに16年を皮切りに年々良化していることが分かります。他の外国人と比較しても良好であり、ロサリオとは明らかに異なる点がここで確認することができます。
またボール球のコンタクト率についても、同様に年々良化していることが分かります。18年は56.2%と極めて高く、18年に限っては巧打者のマギー以上の数字が残っています。
発言から察するに、おそらくこの数字を見てのということはほぼ間違い無いと思われます。

ここまで見ると、
⑴ボール球のスライダーの見極め
⑵コンタクト率の良化
の2点がしっかり確認されるように一見は感じるのですが、ここで問題となるのが
⑶ストライクゾーン内のアグレッシブさ
です。

マルテ選手のストライクゾーン内のスイング率を見ると、デビュー以来、年々低下していることが分かります。これは気がかりな点です。
先ほど挙げた通り、年々ボール球のスイング率が減少し、ボール球のスライダーに手を出さなくなってきている傾向は確かに確認できましたが、これはあくまでゾーン内のスイング率が上昇or横ばいしていて初めて価値が出てくるものです。(ゾーン内はしっかり振っていく中でボール球が我慢できていることに価値がある)
マルテ選手は、このゾーン内のスイング率までもが並行して急激に下がってしまっています。
これでは彼のボール球のスイング率の良化の真相は、「ボール球のスライダーの見極めが良くなりバットが止まるようになったというよりは、単純に待球型にシフトしただけ」という線が非常に濃厚だと言わざるを得ません。

では、ストライクゾーンと比較し、どれだけボール球を我慢できているかを計るため、短絡的ではありますが、(ゾーン内スイング率ーボール球スイング率)についても以下の通り整理しました。
こうして見ると状況は一変します。スライダーをなんでもかんでも振り回さないという点はマルテ選手の特徴と言えそうですが、本当の意味でボール球のスライダーを見極められているかといえばいささか疑問と言えるのではないでしょうか。
(この数字で確認すると、前回のビヤヌエバ選手の記事の内容にも合点がいくのではないでしょうか?)

最後にストライクゾーン内のコンタクト率です。ここで数字が向上ないし横ばいしていれば、状況としてはフラットと言えましたが、数字は16年以降年々落ちています。

※対右投手のスライダーにおいては、以下の点が確認できました。
⑴ボール球のスライダーの見極め
たしかにボール球のスイング率は年々低下しているが、それを上回る勢いでゾーン内のスイング率も年々低下している。見極めが良くなったのではなく、シンプルに待球型になった可能性が濃厚。

⑵コンタクト率の良化
ゾーン内のコンタクト率については年々悪化している。ただしボール球のコンタクト率は年々上昇する現象が起きており、同数値は今回リストアップした選手の中では最も高い。

⑶ストライクゾーン内のアグレッシブさ
ゾーン内のスイング率は年々低下している。


③カーブ
対右投手のカーブについて、ボール球スイング率は16年を境に良化しています。スライダーとは異なり、ストライクゾーン内のスイング率は概ね横ばいであるため、カーブについてはボール球の見極めが向上していると言えそうです。

コンタクト率に関しては、ボール球はシーズン毎に浮き沈みが激しく、ゾーン内はロサリオ、ゴームズと同等程度の数字が出ています。


④2シーム
ボール球のスイング率は良化している一方で、ゾーン内のスイング率も増加する良い傾向が確認できます。

コンタクト率についてもボール球、ゾーン内ともに改善傾向にあります。特に18年のゾーン内の93.7%は他の外国人に概ね肩を並べられたのは朗報と言えそうです。


④オフスピードボール
ボール球のスイング率は極端に悪くなく、ゲレーロやビヤヌエバと比較すれば良好な数字が出ています。ボール球のコンタクト率ですが、こちらは低調な数字が残っており、今回リストアップした中では最も低い数字が出ています。

ゾーン内については、スイング率、コンタクト率ともに良化傾向にあります。

*対右投手のPlate Disciplineまとめ
4シーム:ボール球、ゾーン内共にコンタクト率が極めて高く、かつゾーン内のスイング率も年々上昇しアグレッシブさが増している。4シームには屈指の強さを誇る。
スライダー:ボール球のスイング率は良好。しかし、ゾーン内のスイング率も急降下しており、バットが止まっているというよりは待球型であるだけの可能性大。ゾーン内のコンタクト率も年々低下している。
カーブ:スライダーとは異なりボールの見極めが年々向上している。コンタクト率はシーズン毎に浮き沈みが激しい。
2シーム:ボール球の見極め、コンタクト率ともに良化傾向にあり、18年は打率.000だったもPlate Discipline上は良化している。
オフスピードボール:ボール球のスイング率は極端に悪くないが、コンタクト率は低い。ゾーン内の対応は良化傾向にある。


7-2.対左投手
対左投手は簡潔に進めていきます。

①4シーム
コンタクト率が90%を超えていた対右投手と比較すると空振りがやや多いですが、それでも過去の助っ人と比較するとトップクラスの対応力を見せています。(むしろビヤヌエバのゾーン内のコンタクト率の低さの方が気になるでしょうか)

②スライダー
ボール球にあまり手を出しておらず、ここ2年間では10%台と良い数字が残っています。ゾーン内のスイング率を確認すると、マギーとゴームズ等と同等程度の数字が残っており、対右投手と比較するとシンプルに待球型というわけではなく、ある程度ボール球を見極められている可能性が高そうです。

コンタクト率についてですが、ボール球コンタクト率は16年以降年々数字を落としており、おおよそビヤヌエバと同等程度の数字残っています。
ゾーン内のコンタクト率については、16年以降に年々向上させており、18年は88.0%と良好な数字を残しました。ここ2年間で左投手のスライダーに対する成績(打率・長打等)は全くついてきいませんが、あくまでPlate Discipline上は向上してきているマルテ選手です。

③カーブ
対左投手のカーブにはアベレージも残っていたマルテ選手ですが、Plate Disciplineも優秀です。他の外国人と比較してもボール球のスイング率はとても低く、コンタクト率も高い数字が出ています。

ゾーン内のスイング率は、16-17年には50.0%を下回るなど待球姿勢だったものの、18年は63.0%とやや改善傾向が見受けられました。ゾーン内のコンタクト率についても17年から立て直してきており、左投手のカーブについては問題なく対応できそうです。

④オフスピードボール
対左投手のオフスピードボールですが、こちらは打撃成績がついてきていませんでした。Plate Disciplineでもボール球のスイング率はデビュー以来、年々悪化してきていますが、18年の33.8%はロサリオやゲレーロ、ビヤヌエバらと比較すれば良好な数字が出ています。ボール球のコンタクト率も17年から低下しており、18年は48.0%と低調な数字が残っています。

ゾーン内のスイング率は高くアグレッシブにスイングしています。しかし、ゾーン内のコンタクト率は低い数字が残っています。

*対左投手のPlate Disciplineまとめ
4シーム:対右投手と比較するとやや空振りが多いが対応力は高い。
スライダー:ボール球には手を出さず、見極めも対右投手と比較するとできている。ゾーン内のコンタクト率は改善傾向だが、ボール球のコンタクト率は年々低下しており低水準。
カーブ:対応できそうである。
オフスピードボール:年々ボール球に手を出してきているがそれでも致命的に低くはない。コンタクト率はボール、ゾーンともに低い。


☆総合結果
(1)ボール球のスライダーの見極め
対左投手については実践されているが、対右投手のスライダーについては単に待球型である可能性が高く、見極めができているとは言い辛い(何でもかんでも振り回すわけではない)。

(2)コンタクト率の良化
*ボール球
対右投手:4シーム、スライダー、カーブ、2シーム、オフスピードボール
対左投手:該当なし(4シームは概ね横ばい、その他変化球は低下)
*ゾーン内
対右投手:4シーム、カーブ、2シーム、オフスピードボール (スライダーは年々低下)
対左投手:4シーム、スライダー、カーブ

(3)ストライクゾーン内のアグレッシブさ
対右投手:4シーム、2シーム、オフスピードボール (スライダーは年々低下)
対左投手:カーブ (4シーム、スライダーは低下)


8.打球方向
7章では、阪神フロントが推すマルテ選手の3つのポイントについて一つ一つ確認しました。
肝心の対右投手のスライダーの見極めという点では疑問符ではありましたが、球種によって低下はあるもののコンタクト率の上昇やゾーン内のアグレッシブさについては、一定の改善も見受けられることができたと思います。
8章からは、コンタクト率に改善傾向が見られる中で、実際に打球がフェアゾーンに飛んだ結果、打球の性質がどうなっているのかについて検証していきます。

まずは導入として打球方向から確認していきます。
以下に、MLBでの通算と18年の打球割合を整理しました。
ヒートマップと合わせても見ても、極端なプルヒッターであることが分かるマルテ選手です。

Pull(引っ張り):51.9%(通算) / 52.9%(18年)
Cent(中堅):30.5%(通算) / 28.8%(18年)
Oppo(逆方向):17.7%(通算) / 18.3%(18年)

続いて、スプレーチャート("安打"の打球方向分布)を確認します。
対右投手では、シングルヒットは中堅〜逆方向寄りにも分布していますが、長打の殆どは引っ張り方向に分布していることが分かります。特徴的なのは二塁打で、三塁線に多く分布していることが見てとれます。ゴロ性・ライナー性の打球が3塁線を破る・フェアゾーンに入って長打になるというケースが極めて多いようです。
一方、対左投手では、右投手と比較し逆方向の一塁線にもちらほらと長打が散見されますが、基本的には同様に長打が引っ張り方向から出ており、極端なプルヒッターであることが分かるかと思います。

球種タイプ別のスプレーチャート("打球"の方向分布)も確認します。
対右投手では、ファストボールは逆方向にも打球が飛んでいる一方で、ブレーキングボールは中堅〜引っ張り方向に多く分布していることが分かります。(ブレーキングボールの打球が逆方向の外野へ飛んだ割合は約7%)
対左投手においても、全体的に引っ張り方向であることが確認できます。

※三塁線への長打がかなり多く、また右投手においてスライダーは殆ど引っ張り方向へ行くことなど、プルヒッターとしてのかなりの隔たりがあるため、三塁線を締めた形で引っ張りシフトを組まれると中々アベレージが伸びてこないように見受けられます。


9.打球の性質
8章ではマルテ選手の極端なプルヒッター特性を確認することができました。
9章からは、実際の打球がどういった性質であるかを確認していきます。

まずは以下に、打球のゴロ率、フライ率、ラインドライブ率を表に整理しました。
対右投手、対左投手に関わらずゴロ性の打球が非常に多いことが分かります。特に18年シーズンはさらに割合を上げており、右投手のムービングボール(2シーム、カッター)には極めて高いゴロ率が残っており、右左問わずブレーキングボールやチェンジアップにも高いゴロ率が残っています。
3章でも触れた通り、このゴロ性の打球が多いことから、キャリアの最高本塁打数は15本と自慢のパワーを上手く本塁打に還元できず、加えて通算pull%が51.9%と極端なプルヒッターであることからマイナーでもアベレージを通年で残すことができていないのではないでしようか。


10.打球の質(打球角度と打球速度)
10章では9章の内容をさらに深化させます。
対右投手・対左投手別に、シーズン毎の球種別の平均打球角度、平均打球速度を整理しました。(18年MLB平均は、打球角度が10.9°、打球速度が140.5㌔)

マルテ選手が16年MLBで15HR放ったシーズンから比較すると打球角度が顕著に低くなってきていることが分かります。
特に18年シーズンは極めて低調で、4シームを除いてほぼ全球種において打球角度の低下を確認することができます。
対右投手においては、4シーム以外の球種はすべて打球角度がマイナスとなっており、その傾向は顕著に表れています。
対左投手では、オフスピードボールの角度が7.0°と改善傾向にはあるものの、4シームを除いてはなかなか打球に角度をつけることができていません。

参考までに、様々なタイプの外国人選手のデータ(対右投手)を以下に整理しました。
こうして比較すると、マルテ選手は打球速度に課題はありません(これはゴロ性の打球が多いだけに助かる要素と言えます)が、18年の4シーム以外の球種の打球角度は極めて低く、ここを改善しない限りは自慢のパワーを還元してスラッガーとして活躍するのはやや厳しい印象を抱きざるを得ません。


さらに、この打球角度と打球速度をもとにしたStatscastのRadial Chartでマルテ選手の打球の質を可視化します。Radial Chartは、打球の質をExit Velocity(打球の発射速度)とLaunch angle(打球の発射角度)の特定の組み合わせによって、6つの種類に大別した分度器型のデータです。

このデータで確認しても、マルテ選手のBarrelとSolidは、16年に15HR放ったシーズンから低下しており、また引き換えとして打球角度が極めて低いTopped%が非常に増えてきていることが分かります。

Barrel:最も良い打球タイプ。主に打球角度が5〜50°で90mph以上の打球速度において発生する。(18年MLB平均6.1%)

Solid Contact:2番目に良い打球タイプ。打球の組み合わせとして非常に少ない断片的なタイプ。(18年MLB平均5.5%)

Flares&Burners:低角度での高速度、高角度で低速度の2つの打球を組み合わせたタイプ(18年MLB平均24.9%)。

Topped:主に-5.0°以下の打球を表す。Flares&Burnersとなるには角度/速度の必要条件を満たしていない。(18年MLB平均34.4%)

Hit Under:一般に中間速度のフライボールで、ホームラン等になるには速度が足りず、また打球角度が50°以上で打ち上げすぎているタイプ。(18年MLB平均24.3%)

Weak Contact:打球速度60mph以下の打球を指し、バントもこれに含む。
(18年MLB平均4.8%)


11.コース別の対応
この章はこれまでかなり詳細にデータを整理していましたが、今回は体力が限界ですので、既存の資料を用いポイントを絞って説明します。
データはすべて捕手視点ですので、画像データの左側にマルテ選手が投手に向かって立っているイメージになります。

11-1.対右投手

・4シーム
外国人スラッガーに多く見られる傾向が、高めのボール球の4シームに手を出し、空振りも多いという形です。しかし、マルテ選手の場合は高めのボールに手は出す(③参照)ものの、空振りは非常に少ない(④参照)のが特徴的です。
肝心の成績ですが、この高めのボール球に手を出すだけあってインハイのボール球からも高いアベレージ(①参照)と長打(②参照)を残すことができています。一方で、ゾーン内のハイボールからはアベレージがあまり残っておらず、長打も非常に少ないのが面白いところです。
また打球の質としては、ローボールとアウトコース中心に50.0%を上回るゴロ率が残っており、ハイボールの方が角度がつく傾向が確認できます。(⑤参照)

・2シーム
課題のムービングファストボールですが、真ん中から外寄りを中心としてアベレージが残っています。またインサイドの低めに曲がってくる2シームには高いスイング率と空振り率が残っており(⑧⑨)、窮屈となるようです。気になるのは低めのゴロ率で、2シームに関しては低めに投げ切れれば高確率でゴロが打たせられるようなデータが残っています。(⑩)

・スライダー
ポイントなる右投手のスライダーです。
ここは最新の18年のデータで見ていきます。
ボール球の見極めという点では、スライダーを"横に滑るスライダー"と"縦に落ちるスライダー"に大別した場合、マルテ選手は落ちる低めのスライダーについてはバットが止まるものの、横変化でボール球になるスライダーについてはバットがよくまわっており(13)、そしてその空振り率も非常に高いことが分かります(14)。
課題の打球が上がらない点はここでも顕著であり、外角のスライダーはほぼ100%ゴロ打球となっていることが分かります(15)。
バッテリーからすると、外角に投げ切れれば長打はなく(12)、ゴロを計算しやすい(15)ため、また既述の通りゾーン内でのスライダーのスイング率及びコンタクト率が低下していることからも、ある種計算しやすいのではないかと推察されます。

11-2.対左投手

・4シーム
対右投手同様にハイボールのボール球からも長打を放つなど絶対的な強さを見せています(16)(17)(18)(19)。強いて言えばインサイドには若干詰まりやすい傾向があるようで、高いゴロ率が残っています(20)。

・ブレーキングボール
ここは最新の18年のデータを見ていきます。概ね真ん中から外寄りから安打・長打が出ています(21)(22)。
ボール球の見極めについて、インサイドに食い込んでくるブレーキングボールにはバットがしっかり止まる傾向が見られ(23)、低めのボール球にも比較的止まる傾向が見受けられます(24)。

・オフスピードボール
外低めのボール球に手を出す傾向があり(28)、その空振り率も50.0%を上回っています(29)。また、同コースでは極めて高いゴロ率も確認できます(30)。


12.守備
守備力について確認します。
指標上は1Bより3B守備の方が良く、過去の助っ人と比較しても良好な数字が出ています。

・UZR:
「リーグにおける同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べて、守備でどれだけの失点を防いだか」
・DPR:
併殺処理による得点
・ RngR:
打球処理による得点(=失点阻止への貢献度)
・DRS:
守備防御点 ex)DRS=-5.0 → 平均的野手と比べて5点余計に与えた。


13.走力
最後に走力についても触れておきます。
マルテ選手のスプリントスピード(走っている間の一番速い1秒間)は、15→16→17→18年にかけて、秒速8.75→8.66→8.41→8.14mと推移しています。

この数字がどの程度のレベルなのかというのを元阪神ロサリオ、巨人ゲレーロと比較しますと、15年のデータでそれぞれ秒速8.14m、秒速8.32mとなっています。
基準として彼ら程度と想定しておくとイメージしやすいのではないでしょうか。


14.まとめ
・強烈なライナー性の打球や、三振率の少なさなど高いポテンシャルを秘めるものの、キャリアを通じてその力を十分に発揮することができていないマルテ選手。
・フロントが推していたゾーン内でのアグレッシブさ、コンタクト率の上昇はすべての球種には当てはまらないものの、一定の向上は確認できました。
・上記のようなプラス材料がある一方、もう一つフロントが推していた右投手のスライダーの見極めについては単に待球型である可能性が高く、見極められているかといえば疑問という結果に。また、外角からはほぼ100%に近いゴロ率が残っており、引っ掛ける場面が目立ちました。
・このようにコンタクトはできるようになった一方で、肝心の打球の質が18年は極めて悪く、4シーム以外の球種が概ね打球角度がつかず、右投手においては4シーム以外は概ねマイナスの角度となっています。
・ゴロ性の打球が多く、三塁線への長打が多いため、打球速度は速いのはプラス材料ですが、果たして期待されているようなスラッガーとしての働きが期待できるかと言われれば、18年の状態のままだとなかなか厳しい印象を受けました。

【ポジティブな要素】
コンタクト率の上昇、ゾーン内でのアグレッシブさ

【ネガティブな材料】
・右投手のスライダーの見極め
・ムービングファストボール、変化球に角度がつかない

フロントとしては、ロサリオの二の舞だけは避けたかったはずですので、Plate Disciplineに着目したと思われます。
右投手のスライダーの見極めは疑問ですが、待球型で振り回さないため、ロサリオのような脆さは見ていて感じない可能性が高いと思います。そういった意味では反省が活かされているといえるかもしれません。
しかし私個人の意見としては、そこ(ロサリオの二の舞を回避)を重視したばっかりに、本来の助っ人に期待するべきスラッガーとしての要素を少し置いてきぼりにしてしまったのかなという印象は受けました。これまでの話からアベレージが期待できるタイプでもないため、最も恐れるのは米国自体にも記録し続けてきた.250〜.270 15HR前後のような、アベレージ長打ともに物足りない微妙な成績でフィニッシュすることです。

このポジティブな材料とネガティブな材料、果たしてどちらが色濃く出てくるのか?
皆さんと2019年シーズンを通して観察できればと思います。


また、

見極め・コンタクトはまずまずだが、打球に角度がつかないマルテ選手
vs
見極め・コンタクトはイマイチだが、ほぼ全球種に角度をつけられるビヤヌエバ選手

この新外国人対決にも要注目の2019年シーズン伝統の一戦となりそうです。




(1/25)追加検討
テーマ:18年の打球角度が何故あれだけ低減したのか?
結論(仮説):左手首の故障による影響の可能性

説明:
まず以下の表をご覧ください。これはマルテ選手の18年シーズンの月別成績です。
これを見ると5月は不振なものの、6月まではまずまず(4〜6月で打率.262)で、7〜8月に大不振し、9月にやや立て直してきた様子が確認できます。
実はマルテ選手は6月に左手首を故障しており、同月11日にDL入りしている経緯があります。
マルテ選手は映像を見て分かる通り、左手一本の強烈なフォロースルーが特徴の選手です。
ここで、この左手首の故障がその後のバッティングに何らかの悪さを働いたのではないかという仮説が浮かび上がってきました。

実際に検証してみました。
以下の表をご覧下さい。
故障前(4〜6月)、故障明け不調(7〜8月)、故障明け復調傾向(9月)に大別し、対右・左投手別に平均の打球角度及び打球速度を整理しました。
まず全球種で確認すると、右・左を問わず、打球角度及び打球速度の復調曲線を確かに捉えることができます。

では、次に肝心の角度がつかない4シーム以外の全ての球種を対象に同様のデータを整理しました。
こうしてみると以下のようなことが分かります。

対右投手:左手首の故障は4シームについては大きく影響があった可能性がある。その他変化球についてはそもそも18年は角度がつかず状態は芳しくないが、左手首の故障後の7〜8月はその角度の低さと打球速度の低さは際立っており、故障がなければ低いレベルの中ではあるがもう少し良い数字が出たかもしれない。
以下の図を見ても、故障後の7〜8月すべての打球がマイナスの角度となっているが、故障前と9月には良い角度・速度の打球も散見できる、

図:対右投手における4シーム以外のRadial Chart(月別推移)

対左投手:左手首の故障の影響が大きくあった可能性がある。

このように左手首の故障による影響がもしかしたらあったのでは?という話でした。
ただし付け加えたいのは、9月に復調傾向は見せたものの、①それでも根本の対右投手の打球の質が18年は際立って悪いこと、②その後のドミニカウィンターリーグの成績は悪い点です。
64PA .207 0HR 4RBI OPS.505 12.5K%とかなり低調で全く結果が残っていません。

この2点は前提とした上で、左手首の故障による影響の可能性をポジティブに捉えていただれば幸いです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?