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Rubby De La Rosa

0.はじめに
交流戦を3位で終え、リーグ戦再開後も10勝1敗貯金17でセリーグの首位をひた走る読売巨人軍。優勝を確実なものとするため、また来たるポストシーズンでの短期決戦の戦いを有利に進めるには、強固なリリーフ陣の構築が鍵を握ります。
現状、ブレイクした中川を軸に、スコット•マシソンの復帰、大竹・田口の左右両輪の台頭、トレードでの鍵谷の獲得など、少しずつ整備は進んできました。
しかし、大黒柱のマシソンは、6月の登板中に右足に違和感を感じ故障離脱。復帰後の球威・球速は本来の姿ではありません。大黒柱のコンディションが手探りの中、右肘痛から復帰した新外国人のライアン•クックは、2試合連続で打ち込まれ登録抹消。ファームでも打たれており、クイックの練習をするなど、まだまだ時間がかかる見込みです。また、コアとなる中川も登板数過多により安定感を欠きつつあり、リリーフ陣の戦力アップが望まれる状況となっています。
それに併せ、巨人は外国人選手が揃って不調。野手ではゲレーロが打撃不振で計算が立たず、ビヤヌエバが育成・適応の中途段階の状況。また、スターターのメルセデス、ヤングマンも昨季比で状態を落としています。
外国人枠に余地がある中、リリーフ陣のワンピースへと球団は新外国人投手を獲得しました。

ルビー•デラロサ(30)

ドミニカ出身のパワーアームで、MLB通算98試合登板 26勝 4.49ERAの実績を誇る右腕です。
このデラロサ投手がどういった選手なのか。リリーフの貴重な戦力の一角・最終兵器として機能し得る選手なのか。検証していきます。


1.映像
まずは映像からチェックしましょう。19年AAA(PCL)で登板した全18試合のうち、16試合の全球ハイライトを纏めました。今季オフの新外国人候補との対戦も随所にあります。球速表示のあった試合は2試合でした。ツイッターにて既にご覧になられた方は2章へスキップしていただければと思います。

2.経歴・基本stats
2-1.経歴

07年にLADと契約しプロ入り。
スターターとして順調にキャリアを重ね、11年にMLBデビュー。この年は13試合に登板し4勝 3.71ERAと結果を残した一方で、最終となる7/31のARI戦で靭帯が断裂。トミー•ジョン(以降:TJ)手術を受けることになります。12年は、手術の影響で僅か1試合の登板に留まり、トレードでBOSへと移籍します。
BOSでは、13年にはリリーフとして、14年にはスターターとして活躍。この年のオフにトレードでARIへと移籍します。15年にはスターターとして14勝をあげるキャリアハイの大活躍を見せましたが、16年には今度は右肘を痛め長期離脱。17年8月に右肘のTJ手術受けました。
19年は故障明けからの復活を期するシーズン。AAAでリリーフとして18試合に登板し、2.49ERA 12.05K/9と好成績を残しているデラロサ投手です。

*1デラロサのキャリア成績(fangraphs抜粋)

2-2.基本stats
デラロサ投手はTJ手術明けであるため、今季19年の状態・数字を軸に話を進めていきます。

①19年AAA
*2は、19年AAA(PCL)での詳細成績です。
2.49ERAと防御率が良く、12.05K/9 2.91BB/9と奪三振能力の高さ・ストライクを取る最低限の制球力があり、1.53GB/FBとグラウンドボールピッチャーである一方で、1.66HR/9とやや被弾が多い成績となっています。
本拠地がARI傘下の打高本拠地であることを考慮すれば、被弾も大して気にはならない優れた成績であり、むしろ本拠地の方が好成績をおさめている点はプラス材料です。
しかし、これを対右・対左打者別で確認すると、早速課題が浮き彫りとなってきます。
防御率では大差はないものの、対右では、15.68K/9 2.73BB/9 0.68HR/9 被打率0.130 0.73WHIPと被弾も少なく完璧な支配的投球を披露しているものの、対左ではこの全ての数字が大幅に悪化。奪三振力は6.75K/9と著しく低下し、被打率.343 3.38HR/9と被安打・被弾ともに著しく増えています。1.88WHIPという数字からも、対左における不安定な投球を垣間見ることができるでしょう。
一方で走者の有無のケースについてですが、この手の投手には珍しく、走者を置いた場面で強さを発揮しています。むしろ走者なしでは被打率.304と高く、3.56HR/9と今季浴びた被弾は全て走者なしから生まれています。中でも得点圏には非常に強く、奪三振力・制球力ともに完璧な数字を残しています。走者一塁においては、走者が気になるのか、4.39BB/9と制球面にやや乱れが見られますが、被打率は.083と優秀な数字が残っています。

*2デラロサの19年AAA(PCL)成績

②MLBでは?
今季AAAでは対左に滅法弱いことが分かりましたが、ではそれ以前、MLB時代はそもそもどうだったのか?この点についても*3でチェックしておきましょう。
対右・対左打者については、MLBでも同様の傾向があり、対右に限れば通用していたことが見てとれます。対左では5.42ERAと打ち込まれており、奪三振力・制球力ともに対右と比較すると大きく劣ることが分かります。
走者の有無についても、得点圏には同様に強い傾向がある一方、走者一塁では被打率.311と高い数字が残っています。
故障前のMLBにおいても、対左打者には支配力が落ちる&得点圏には強い傾向があったデラロサ投手です。

*3デラロサ MLB通算成績


3.球種
キャリアハイの15年から、17年までのMLB(3年間)のデータ及び19年スプリングトレーニングと19年AAAでのデータをまとめました。

※19年AAAのデータは、デラロサ投手の登板した全18試合のうち、筆者が映像で確認できた16試合の全投球を手動集計したものです。集計外の2試合は含まれていない点、素人データという点だけご留意ください。

3-1.各種成績
持ち球は、4シーム、2シーム、スライダー、チェンジアップの4球種。

・ファストボール
4シームの球速が速く、スターター専任だった15年でも平均153.7㌔をマーク。リリーフ専任の17年では平均156.4㌔、19年AAA(球速表示のあった2試合のみの集計なので参考程度)では151.0㌔と落ちているものの、19年スプリングトレーニングでは平均157.1㌔を計測しており、またNPBでの2試合の実戦登板では既に150.0㌔台中盤を連発していることから、球速に関しては高速で心配がないと言えるでしょう。また、2シームに関してはリリーフ専任の17年には封印し、復帰後の19年スプリングトレーニング〜AAAでも使用しておらず、4シームのみの構成となっています。(AAAでの今季中盤でシュート量の多い変化が何試合か見られましたが、その後は綺麗な真っ直ぐに戻ったため4シームと判定しました。)
4シームはキャリアハイの15年には対右で被打率.252 被ISO.095と通用していたものの、その後は長打を含めて打ち込まれました。空振り率は20.0%を下回っており、また奪三振の過半数をスライダーで奪っていることからも、球質としては空振りをズバズバと多く奪うというよりは、球威でファウルや凡打を打たせるファストボールと言えるでしょう。
19年AAAでは対右に対しては4シームで圧倒しています。被打率.167で浴びた長打は0本と圧倒的。空振り率も20.4%とまずまず良好な数字が残っています。一方で対左打者には苦戦。投球の75%を4シームに頼っており、被打率.524 被ISO.524と派手に打ち込まれています。空振り率+ファウル率も49.1%と低く(対右79.1%)、実に半数以上がフェアゾーンに弾き返されており、今季の大きな課題となっています。

・スライダー
ウイニングピッチ。
キャリアを通じて奪三振の大半を占めています。対右打者において、MLBで3年連続で被打率1割台をマークし、非常に多くの空振りを奪えています。19年AAAでは被打率こそ.300(3/10)なものの、空振り率は51.6%(16/31)とスイングした結果の過半数は空振りになるというキレの良さを見せていました。
対左打者では、MLB・AAA共に被打率は低いものの、対右と比較して空振り率が低く、これが対左で奪三振率が低いことに起因していると言えるかもしれません。

・チェンジアップ
スターターとして活躍した15年〜16年に使用していましたが、いずれのシーズンも被打率が高く空振りも非常に少ないです。球速が140㌔台と高速であることから、現巨人のライアン•クックと同様に抜けが少ないタイプと推察されます。現状はこの球種についてはオマケ程度に考えておいた方が良さそうです。

*4デラロサ MLB直近3シーズン球種別データ

*5デラロサ 19年AAA(PCL) 球種別データ


3-2.球質
Ⅰ.変化量

データのあった17年MLBの全投球をプロットしました。4シームの軌道は平均的〜やや垂れる傾向が一方で、スライダーは平均より変化量が縦横に大きいのが特徴的です。

*6デラロサ 球種別変化量(捕手視点)

Ⅱ.4シームの詳細検討
既往の外国人選手でどの選手に似通っているのか検証してみました。今回は分かりやすいよう、さまざまな4シームを網羅するため以下の5選手を対象にし、先ほどの図よりスケールを大きくして図示しました。(来日直近前年度)
ライアン•クック:同じ垂れ型4シーム+スライダーの使い手
アルキメデス•カミネロ:同じ高速ファストボールの使い手
スコット•マシソン、デニス•サファテ:ホップ型4シームの使い手
マイク•ボルシンガー:真っスラの使い手

デラロサ投手の4シームは、平均〜やや垂れる傾向にあり、その軌道はライアン•クックやアルキメデス•カミネロらと似通っていることが分かります。余談ですが、マシソンやサファテの浮き上がるようなホップ量、ボルシンガーの異質のカットアクションも視覚的に楽しむことができると思います。

*7外国人投手の4シーム 変化量(捕手視点)

球威については参考程度に*8に纏めました。
平均球速ではカミネロには及ばずともクックよりは遥かに速く、スピンレートはMLB(18年)平均2226rpmを上回っています。エクステンションは平均的であり、コンタクトされた場合の打球速度141.9㌔はMLB(18年)平均144.4㌔より優れた数字が残っています。あくまで参考に過ぎませんが、このような各種数字から、少なくともクックに勝る球威があることは期待できるデラロサ投手です。

*8外国人投手の4シーム各種数値

Ⅲ.スライダーの詳細検討
続いてスライダーも同様にみていきます。
サンプルの外国人投手には同じFF+SLのコンビネーションを武器とする以下の選手をピックアップしました。(来日直近前年度)
ライアン•クック
スペンサー•パットン
ジェイ•ジャクソン
マルコス•マテオ
マイケル•トンキン

デラロサ投手のスライダーは、平均的なスライダーと比較して縦横に変化が大きいのが特徴的で、トンキン、パットン、ジャクソンらよりも変化量が大きいです。クックと比較すると縦変化は小さいものの、横変化はより大きい変化をします。余談ですが、マテオの滑るようなスライダーも視覚的に楽しむことができると思います。

*9外国人投手のスライダー変化量(捕手視点)

キレについては参考程度に*10に纏めました。
球速はパットンと同速度。空振り率は極めて高く、その傾向は今季AAAの51.6%にも同様に表れています。同じ縦横に大きい変化を投じるクックのスライダーが、スピンレート2948rpmとパワーカーブに近似した変化球なのに対し、デロラサ投手はMLB(18年)平均2397rpm以下の変化の大きい正統派のスライダーという点で異なる性質を有しています。

*10外国人投手のスライダー各種数値

Ⅳ.変化量の変遷
上記の17年のデータをベースに、19年のスプリングトレーニングでの軌道を確認します。4シームは17年よりホップ量がやや落ちており、スライダーは横変化がさらに少し大きくなっていることが確認できます。スターター専任だった15年のスライダーは縦横に小さな軌道を描いていましたが、リリーフを任されるにつれ変化が大きくなっていることが分かります。決め球として、より大きな変化を求めた結果なのかもしれません。ホップ量が落ちた4シームについては、これが単にシーズン前の状態である可能性もあるため判断が難しいところです。(ちなみに16年はSTとシーズンとでホップ量に差は殆どありませんでした。)
また、対左打者対策の一つに、チェンジアップ の復活が挙げられるのではないでしょうか。キャリアハイの15年スターター時代には、被打率は高かったものの落差の大きいチェンジアップを投じており、この球が加われば投球に幅が広がるかもしれません。

*11デラロサ シーズン別球種変化量変遷

(単位:インチ)

3-3.投球割合
対右打者では、4シーム+スライダーが基本構成であり、意外にも速球ごり押しではなく、スライダーを結構な割合で投げ込みます。19年AAAでは、4シーム:55%・スライダー:44%と概ね半数を変化球が占めていました。

*12デラロサ 対右打者 投球割合

対左打者では、スターターとして活躍していた15〜16年にはチェンジアップを投じていましたが、リリーフ専任の17年からは割合が激減。19年AAAでも殆ど投じていませんでした。
対右打者で結構な割合で投じていたスライダーが対左打者では少なくなり、19年AAAでも4シームが78%と、打って変わってパワーピッチングな傾向が確認できます。

*13デラロサ 対左打者 投球割合

3-4.リリースポイント
念のためリリースポイントも確認しております。
リリース高さ:1.79m
リリース角度:75.0°
アームアングルは平均的であり、角度がつくタイプではありません。

*14外国人選手 4シームのアームアングル

球種毎のリリースポイントのズレについてですが、スライダーが4シームよりリリースポイントが高い傾向があります。しかし、10cm以内の誤差のレベルなので特段問題はないでしょう。

*15デラロサ 球種別リリースポイント(baseball savant抜粋)

4.19年AAAでの投球
19年AAAでの全18試合のうち、映像で確認できた16試合をチェック。目視による配球チャート(捕手視点)を作成しました。目視であるため誤差は当然ありますが、ボールゾーンとストライクゾーンの違い・ストライクゾーン9分割の中ではブレが少ないというレベルで見ていただければ幸いです。

【対右打者】
4シームはインサイド高めに集まることが多く、映像で確認した限りは意図的なものも抜けたものもそれぞれあるといった状況でした。空振りは全て高めから発生しており、すべて単打である被安打もこのゾーンから発生しています。4シームについては力がある印象でした。
一方でスライダーについて。肩口から入るような抜けたものが長打を浴びるケースがあったものの、外角に制球されているものが数多く散見され、空振りも非常に多く奪えています。スライダーの空振り率は51.6%と圧巻の数字であり、4シームの球威や空振り率20.4%を考えても、対右打者においては制球面を含めて支配的な投球を披露していたデラロサ投手です。

*16デラロサ 19年AAA対右打者 配球チャート

【対左打者】
4シームについて。真ん中or外角といった配球で、インサイドを突く4シームは殆ど見ることができませんでした。外角高めに明らかに抜けてしまうような4シームが多く、この傾向は巨人ライアン•クックとかなり似通ったものがあります。対右打者が被打率.167だったのに対し、対左は.524と打ち込まれており、被長打も増加し、空振り率も減退(20.4→14.6%)、何よりフェアゾーンに確実に打ち返されてる(20.9→50.9%)点から、対左で著しく数字を落としています。
スライダーについて。こちらも対右とは異なってコントロールができておらず、高めや真ん中付近に集まることも多いです。対右と比較すると投球割合が44.0→20.0%と使用頻度が減っている中で、空振り率が51.6→18.8%と大幅に悪化しているのはマイナスポイントでしょう。
対左については、制球面も含めて課題が残るデロラサ投手です。

*17デラロサ 19年AAA対左打者 配球チャート

5.フィールディング
最後に気になるクイックについて、ライアン•クックの降格の決め手となった一つです。クックが交流戦でSBの周東に盗塁を許した時のクイックタイムが計測したところ約1.6秒でした。19年AAAの映像で走者一塁の場面を何試合か確認したところ、デラロサ投手のクイックタイムも約1.6秒前後。早くて約1.5秒という具合でした。大きく足を上げグローブを叩いてタイミングをとるため、モーションが大きくタイムは遅くなってきます。
実際に来日後のブルペン投球を確認した宮本投手コーチは、デラロサ投手は"クイックが速い!"という評価をしていたようなので、単に実践していなかった(する必要がなかった)だけで、やれば速いという可能性は否定できませんが、この点はやや不安なところです。
フィールディングについては一塁への送球やバント処理でやや不安定なディフェンスが散見されたため、バントなどでの揺さぶりへの対処はチェックしたいところです。

6.まとめ
・19年AAA(PCL)では対右打者に支配的な投球を展開していた一方で、対左打者には制球面を含めて課題が残りました。
・4シームは平均球速157.1㌔と極めて速く、軌道は平均〜やや垂れ気味でクックやカミネロと似通った変化を有します。スライダーについては、縦横に大きい変化を有します。
・各種数値から4シームの球威については少なくともクックよりは上である期待感があります。
・対右打者では真ん中〜内寄りの高め4シームの威力が高く、スライダーは抜けるものがあるものの比較的外角に制球できており、空振り率が51.6%と切れ味の良さを見せていました。外角の4シームで空振りがとれるかはチェックしたいところです。
・対左打者では、アウトハイに4シームが抜ける癖があり、この傾向はクックと似通ったものがあります。スライダーの制球もアバウトになり、空振り率も対右51.6→対左18.8%と大幅に落ちています。4シームも被長打が多く、何よりフェアゾーンに打ち返される確率(50.9%)が高いため、左打者への投球は要チェックになります。
・フィールディングにやや不安があります。19年AAAでの数試合をチェックしたところ、クイックタイムは約1.6秒前後でクックと同等程度でした。NPBで改善されるか注目です。
・対左打者対策に、キャリアハイの15年スターター時代に投じていた落差の大きいチェンジアップを操れると投球に幅が広がるかもしれません。


明日からのデビュー登板を楽しみに待ちましょう(。・ω・。)


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