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【小説】 ポップン・ルージュ 5

ケーサツで出会った笠ノ場警部の勘違いからボク(主人公)は逃げ出すことになるが、途中で撃たれてしまう。目が覚めると知らない所にいるボク。さまよい歩いた先にたどり着いた場所は (おふざけ小説ですのでご心配なく?)

以前の話を読みたい方は、以下のマガジンからどうぞ


その5

 トントン。トントン。

「はっ」

 誰かに頭をたたかれ目が覚めました。意識朦朧タリラリランランラン状態です。

「うーん」

 目を開けたんですが、何が自分の眼球の裏に写っているのか一向に分かりません。しかし、どうやら助かったようです。何が見えているのかさっぱりわからなかったのは、ボクが道に寝転んでいたからでした。頭の上のほうに目をやるとおじさんがこっちを見つめています。おじさんはボクが起きたのを確認すると、にやりと笑って行ってしまいました。

(あれっ? 確か心臓を撃たれたはずじゃあ……)

 生暖かさを自分の胸に感じ、手を持ってきました。ゆるゆるとした感触を受けたその手をそのまま胸のポッケへ移動して中へ入れると、ぐしゃぐしゃにつぶれたゆで玉子があるのがわかりました。

(そうだ、朝、卵をゆでてポッケに入れといたんだった。良かった、ゆでておいて。これが生卵だったら一巻の終わりだったよね。ありがとう、キン肉マン……)

 それにしても、体が思うように動きません。何とか起き上がろうとしますが、手に力が入りません。ただ、プルプルプルプル、プルプルプルプル、震えるだけです。地面についた手を見ると、打ち所が悪かったのか、真っ赤になっています。

(おまけにこんなシワシワになってさ、チェッ)

 とりあえず起きなくては、と思い体を起こそうとしました。プルプルプルプル、プルプルプルプル、プルプルプルプル、プルプルプルプル、生まれたての迷える子ヒツジちゃんの様ですが、なんとか立ち上がれそうです。

(イテテテテッ)

 なんとか立ち上がることはできたのですが、腰が真っ直ぐに伸びません。いつも持ち歩いている分度器で腰の角度を測ろうと思いましたが、やめておきました。自分の視界には地面の白っぽいグレー色しか見えないからです。きっとかなりの角度で腰が曲がっているに違いありません。こういうところは冷静なんです。分度器はよっぽどのシチュエーションでしか使うべきではありません。分度器ですから。プルリン、プルリン体は相変わらず震えていますが、何とか歩き出しました。

(ところでここはどこなんだろうね?)さっぱり見たことがない場所です。


 へんてこりんな建物? や、みょーちくりんな自動車? の様なものしか見当たりません。どの建物も窓やドアのようなものが見当たりませんし、自動車は、縛って食べやすくした糸こんにゃくのようなタイヤを履いています。しかし、なにより問題なのは、それらの色です。エメラルドグリーン。私が日ごろから廃止論を唱えているその色が、建物にも自動車にも使われているのです。

「ここは、何だ! 燃やしてやる、燃やしてやる」物騒なことを思わず口にしましたが、本当は火が怖いボクは、そんなことするつもりはありません。それぐらい、エメラルドグリーンという色が許せないだけです。

「ちくしょう、このエメラルドグリーン野朗たち、覚えてろよ!」誰に何を覚えていてほしいのか分かりません。

「燃やしてやる、燃やしてやる」そう口にしながら、燃え上がる炎をイメージしてすっかり怖くなり、盛り上がった激情もどこかへ行って道の端に停めてあったクルマに体をあずけながら、ぼんやりと街を眺めました。

(ほんとここはどこなんだろう?)

 第一、こんな街なのに人がぜんぜん歩いていません。もう二十分ぐらい歩いてきましたが、誰とも会っていません。本当に静かです。なんだか笑えてきました。エヘヘヘ。沈黙に耐えられない人っているでしょ、ボクなんです、それ。エヘヘヘヘヘ。エレベーターなんか乗ったら困りもんです。エヘヘヘ。みんなどうして平気なんでしょうね。エレベーター乗るときは息を止めて笑わないようにしています。高層ビルのエレベーターに乗るときは酸素ボンベを持っていくこともあります。とにかくエレベーターの沈黙ほど危険なものはありません。

 なぜだか、さっきから笛や太鼓の音が頭の中で鳴ってきました。こうなるとなかなか治まりません。ドンドン、ドンガラガッタ、ドドンガドン。ドンドンヒャララ、ドンヒャララ、ワッショイ、ワッショイ、お祭りだーっ! ちなみに踊りはパラパラです。エヘヘヘヘヘ。

 もう一度腰を上げ、三十分ぐらい歩くと、ようやく前から人が歩いてきました。かなり変わった格好をした若者です。頭には小さな円盤みたいなものをつけ、その円盤がクルクル回っています。耳にはイヤフォーンのようなものが詰まっています。体が少し透けている透明なシャツを着ていて、そのシャツからは細いチューブがあちこちへ出ていました。
 プラスチックのようなスカートをはいているのですが、歩きにくくないのでしょうかねえ? そんなことより声をかけなくては。

「すっ、すいません」

「12563?」

「わっ、わたし、道に迷ってしまって」

「12563、462?」

 何を言っているのかさっぱり分かりません。どうやらどこか別の国に来てしまっているようです。

(眠っている間に連れてこられたんでしょうかしらん?)
(ケーサツのひとの仕業でしょうかしらん?)
(知らない間に島流しの刑にでもなったんでしょうかしらん?)カシラン、カシラン。

「あっ、ごっ、ごめんなさい。わたしは日本という国から来ました。ドウユウノ、サムライ、ゲーシャ、オスモウ、アカフク? えっ、えーと、こっ、ここはどこでしょう? ホエアああ?」

「3398715263、ハッハッハッハッ」

 突然笑い出したその若者は片手をあげるとすごい勢いで走り去っていきました。(どっ、どうしたんだろう? なんかおかしなこと言ったかなあ? でも足も動かさずになんて速く歩けるんだろう、すごいね君は)感心している間に若者は見えなくなってしまったので、ふたたび歩き出すことにしました。


その6へ続く

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