ちょっぴりあなたが弱いだけでしょ

十一月二十五日

十時半に目覚める。昨夜の余韻で胃が痛む。
しばらく布団のなかでまどろみながら、iPhoneをいじる。一時間くらいが経ち、宅配便を受け取るために起き上がる。ウォーターサーバー用の水だ。
今年の初めくらいに「パソコンを買いに行く」と決意して、何故かウォーターサーバーの契約だけして帰ってきた。「水はよく飲むほうだし、これでよかった」と何度も自分を言い聞かせているが、今度からは一人で電気屋に行かないと約束させられる。パソコンは古いままだ。

キッチンから花の香りがする。いただいた花束にはたくさんかすみ草が入っている。花瓶の水を換えて熱い紅茶を飲む。小春日和のようにあたたかい。部屋の小窓から陽が差し込んで、散らかった部屋とぼさぼさの自分を照らす。えんえんとツイッターを眺めていたら昼過ぎになったので、伊藤さんご夫妻からいただいたお菓子を食べた。

記念に、と思って昨日の戦利品を並べて写真を撮ろうとするが、買いすぎてうまく一枚に収まらない。出店者なのに二十八冊買っていた。が、これでも買い忘れはある。通販でまた買えばいいと思うが、ちょっと悔しい。

身体がばきばきになっていたのでマッサージを予約。文学フリマの次の日は何をしてもいいという自分ルールが発動する。百分コースにした。喫茶店でお茶して、マッサージに行き、中国人のものすごい力でしばいてもらう。至福の瞬間。寝落ちしそうでしなかった。マッサージ店でもらう雑で薄いお茶も好きで、ぼんやりしながらすすった。「あなたは痩せすぎて手が痛い」と担当してくれたヤンさんに言われる。ヤンさん、ごめんね。

記憶が新しいうちに、と七ツ森でチャイを飲みながらポメラで文フリの日記を書く。字数が多くて気持ち悪いなと思ったけれど、盆も正月も関係がない身なので、許して欲しい。自分のことしか書いていなくてどうしようと思ったけど、まあ自分のブログだしいいか、と開き直り送信。自意識がものすごい。いつのまにか雨が降っている、寒い夜だった。

十一月二十六日

朝から仕事。先輩に「完売おめでとう」と言われて照れながら感想をぽつぽつ話した。
先輩はわたしの活動を応援してくれていて、毎週会うのにわたしの同人誌や寄稿した文芸誌を通販で買ってくれようとしていたことがある。いじらしい。仕事場での、通常のわたしをよく知っているので、執筆活動に「踏み込んでいいか悩んだ」と言われたことがある。職場の人たちは思慮深いので、知っていても安易に触れてこない人が何人かいる。わたしの性格と「エッセイ」という極私的な分野を考慮してのことだと思うが、そういう気遣いに触れるたびに不思議な気持ちになる。みんなやさしいなと思う。本当の意味で。

仕事終わりにそのまま焼き肉へ。普段肉野菜魚の類を一切口にしないので、ひさびさの肉。そこまで忙しくはないけれど、いつもウィダーインゼリーとか飲んでいる。あとはお菓子やパン。みんなお腹をすかせてきたのでよく食べた。お肉おいしい。隣の席にいた幼い男の子がずっと「やきいものうた」を歌っていたのでかわいかった。

喫茶店で休憩してスナックへ。
満腹すぎてあまり飲んだり歌ったりできないなあ、と思ってぼーっとして過ごした。こんなに苦しくなるまで食べたのは久しぶりだった。
最初は自分たちしかいなかったが、常連客らしき初老の男性が一人、二人と増えた。狭い空間なのでなんとなく挨拶をしてデンモクを譲り合ったりしながら過ごす。知らない人の知らない歌を聴いて虚無になる。適当に「フゥー」とか言っておけばいい。本当はツイッターとか見たかった。

スナックのマスターが侍の歌みたいなのを歌ったときに、小道具の小さい刀を出してきた。長さは三十センチくらいで鉄で出来ていてずっしりしている。「ご用だ!ご用だ!」と、わたしの連れの人にかざして笑っていたのだが、常連の一人が「マスター、その棒で〇〇さんじゃなくてママをヤっちゃったんでしょう!?」と最悪なことを言い始めた。げっと思っていたら、「太さが足りないよー」ともう一人の常連。全員死ねと思った。

このあたりでもう疲れていたので「帰ります」と宣言。しかし常連たちの歌が予約されているので、せめて聴いてから帰ろうという流れに。

さっきの最悪な発言をした常連が、歌詞を全部無視した替え歌を歌ってウケを狙ってきたようで、「熊本からきたクマ子、京都から来た京子……」と地獄みたいな時間が続いた。つまらないとかそういうレベルではなかった。耐えきれないほどにしょうもなかった。
そうしたら、サビのところで「満州からきた……ま〇こ」と口パクでわたしたちに畳みかけてきたので仰天。他の客はゲラゲラ笑っている。二番、三番もラストは男性器や性的な表現を含む単語を入れてきたので、一切拍手せずに黙って腕を組み睨んだ。曲が終わり、即カバンを引っつかんで上着を羽織り外に出る。常連に「おやすみなさい」と言われたが無視。不機嫌になりすぎて店の人も無視して、舌打ちしながら歌舞伎町の路上でタクシーに乗って帰宅。

女をなめすぎ。本当に胸くそが悪い。
こんな風に、日常的にこういうことが起こっているのを、どうかもっと知って欲しい。
女性達、こういうときには愛想笑いしなくていい。たとえどんな関係性、立場であったとしても。相手の尊厳を無視して性を消費してくる馬鹿者がこの世にはたくさんいるが、許されることではない。許してはいけない。

新刊『まばゆい』に書いた小説には、まさにこういう話を寄せている。
わたしが書きたいのはこういうことだ。絶対に屈しない。殺すぞという気持ちで書いた。

十一月二十六日

胃もたれで起きるが、寒くて布団から出られず。仕事に行く。寒いねー、と同僚とお茶して過ごす。
「会話が成り立たない」ってつらいよね、という話をした。どれだけ言葉を尽くしても伝わらないって、わたしからすればすごくこわい。違う世界線にいるように空虚な気分になる。でも、反対に「通じ合った」と思う瞬間はすごくかけがえのないものだと思う。たましいがきらっと光るあの感じ、死ぬまでにあと何回味わえるのだろうか。

休憩時間で購入した本を読み進める。きちんと感想をつぶやきたい。
仕事のメールも返した。てんやわんやで返せていない連絡があればご一報ください。
先輩が作ってくれたケーキがおいしかったのでうれしかった。お菓子が作れるっていいな。

古着屋で一目惚れしたワンピース、買うと決めたのに、いざ試着したら丈が長すぎて断念。海外古着はわたしには大きすぎる。しかし悲しい。あのワンピースなら三万円出したほどかわいかった。なんだかめちゃくちゃテンションが下がってしまって、とぼとぼ帰る。

夜は仕事で使う本を読み、溜まっていた洗濯をして柿を剥いて食べた。剥がれていたマニキュアを落として、お風呂に入ってニベアを塗った。このにおい。
くるりの岸田さんのツイートを見て爆笑。「ムツゴロウさんへ」という書き出しから始まるノート、反則でしょう。

ありがとうございます。本を買って内面を耕します。