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社会人3年目のストレス発散旅 in 長野 1日目前半

6月のとある木曜日。午後10時半。

私はアパートの自室のドアをゆっくりと開き、リュックを放り投げてからベッドにダイブした。

疲れすぎて言葉が出ない。

今週は本当に反吐が出るほど忙しかった。週の頭から自分の作ったプログラムでエラーが発生して顧客と上司共々に詰められ、泣く泣くその修正に追われてやっとこさ終わったと思えば、従来やるはずだった作業が遅れていて、その遅れを取り戻すべく焦って作業していたらまたミスをし上司に怒られるといった繰り返しだった。ほぼ毎日上がるのは9時過ぎで、これまでの短い社会人生活で5本の指には入るほどの目の回る忙しさだったのである。
色んな人に叱責しながら何故こんなミスをしたのか考えるうちに思考がバグってきて、自分が誰なのか、自分とは何なのかともはや業務とは関係のない意味不明な自問自答を始める始末だった。

顧客と上司にミスを説明する私(中央白シャツ)

そんな具合で迎えた木曜日だが、明日なんとか出社すれば2日は働かなくて良いというモチベーションだけでここまでやってこれた。この土日には全く予定がなく、また一日中寝るかゲームをするかでゆっくり過ごすことになりそうだった。
家からほぼ出ずに過ごす休日も悪くはないのだが、決まって日曜のサザエさんが始まる時間ごろになると、何もせずに2日間過ごしたという虚無感に襲われる。その虚無感は、今週5日間のストレスを発散するにはあまりにも釣り合わないものだった。

どっか行きてえな、、

元々家にいるより出かける方が好きな私は、今週溜まりに溜まったストレスをどこか遠くで発散させたいという気持ちになってきた。
そんなことを考えながら枕に顔を臥していた私の頭に、ある言葉が湧いてきたのである。

あ、長野行きてえ

なぜ、長野という場所が思い浮かんだのかは全くわからないが、とにかく頭の中に長野という漢字2字が朧げながら浮かんできたのである。

思えば、長野という土地にほとんど行ったことがない。
どういうものが名物で、どんな街があるのかというのも知らない。しかし、かえって長野に対して無知なのが、どんな物があるのかという探究心をくすぐられたのだった。

こうして、木曜日に突然脳裏に浮かんだ長野旅行計画は、翌日金曜の目が回りそうな忙しさを経て実行に移すこととなった。


6月某土曜日。朝6時半。
急遽決まった長野旅行に興奮していたせいで眠れなかった私は、4時間ほどの睡眠を経て目を覚ました。
ちなみに長野旅行「計画」とは言ったものの、長野行きの切符も買っておらず、宿すら予約していなかったし、どこに行くのか全く決めていなかった。完全に行き当たりばったりの旅行である。
とりあえず名古屋まで行けば何とかなるだろうと、カメラと下着、化粧水のみを詰めたリュックを背負って家を出た。
名古屋ー長野は、JRの特急「しなの」に乗ることに決め、名古屋駅で往復の切符を購入する。

今回は信濃路フリーきっぷという切符を購入した。往復のしなのの料金+長野の指定区間の電車が乗り放題といったものだった。

ホーム上の売店で駅弁とビールを買ってから、定刻通りやってきた午前9時発のしなのに乗り込む。
車内はなかなかに混んでいて、自分の隣にも人が座った。人がいるのに駅弁とビールを出すのは憚られたが、自分を甘やかしたいという欲求が勝ち、弁当を広げビールを開ける。

快晴のもと名古屋市内を駆け抜けるしなのの車窓を見ながら、ビールを煽る。

うん、クソまずい。

休日の特権だからと朝から酒を飲むためにビールを買ったのだが、普段朝から飲んでるわけではないし、高速で走っていて酔いやすい特急ということも相まって、飲酒時特有の爽快感はほとんどなかった。
たったの4口ぐらいで飲み過ぎた時に感じる気持ち悪さが出てきたので、リュックに入っていた水を飲みながら駅弁を食べたのだった。

外は梅雨時には珍しく晴れ渡っていて、新緑が美しく見渡せた。特急しなのは、岐阜県を通り木曽川に沿って北上していく。朝の陽光に照らされてぼんやりしていると、次第に眠気が出てきた。今日はほとんど寝てなかったな...なんて思いながら、そのまま眠りに落ちた。

気がつくと、列車は塩尻の駅を発車していた。塩尻という駅は、名古屋方面から来る中央西線と東京方面から来る中央東線の分かれ道の駅である。時計を見ると、1時間以上も爆睡していたらしい。
しなのの指定券は長野まで買っていたが、長野駅近辺で泊まることだけは決めていた。このまま一直線に長野まで行っても面白くないな、と思った私は次の松本で降りることにした。

他県民でもわかる長野の路線図

半分ほど残っていたビールを飲み干し、松本駅で下車した。
この松本という街に何があるのか全く知らないが、適当に歩いていれば何かあるだろうととりあえずホームに降りたのである。
すると、駅の案内表示に「リゾートビューふるさと」という列車の案内が出ていた。
どうやら観光列車らしく、松本から分岐する大糸線という路線に乗り入れ、沿線の観光地を見て回れるらしい。
これは面白そうだ...!
大糸線なんて乗ったこともないし何があるかも知らないが、面白そうなので指定券を購入して乗車することにした。

リゾートビューふるさと

指定券と車内で飲むお酒とつまみを買って電車に乗り込む。
どこで降りるかも一切決めていなかったが、配られた沿線案内を見てみると、白馬という駅の近くに信州そばの店が多いというので降りてみることにした。

列車は、2時間弱かけてのんびりと大糸線を走っていく。この観光列車、観光用というだけあって窓が大きく、景色がとても綺麗に見える。朝からの快晴というだけあって、長野の美しい山が遠くまで見通せた。

やはり、こういうきれいな景色というのは本当に心が癒される。酒を煽り、時には隣の席の知らない人とおつまみを交換しながらのんびりと乗る観光列車は、1週間の忙殺された心を癒すが如く深く響き渡った。
「こういうのでいいんだよ、こういうので」
と心の中で美味しんぼみたいなことを呟きつつ、外の景色を見ながら地ビールを煽っていた。
列車は途中の観光用の長時間停車を挟みつつ、目的の駅白馬に到着した。
白馬はスキーと登山、そしてアルプスから湧き出る湧水で有名な街である。実際、駅前からは万年雪の積もる山が見渡せた。

白馬駅の前の道をパンフレットに書かれていた蕎麦屋を目指す。徒歩5分もかからぬうちに着いた蕎麦屋に入った。
長野県について疎いと言っても、信州そばぐらいは聞いたことがあったので、本場のそばを堪能しようと蕎麦屋が紹介されていた白馬駅に降り立ったという次第である。
昼過ぎということもあり店内は空いていて、比較的すぐに蕎麦が出てきた。

昼過ぎの落ち着いた店内で、のんびりと蕎麦を食べる。蕎麦はやはり本格的らしく、歯応えがあっておいしかった。一緒についてきた天ぷらも、梅干しの天ぷらが入っているというのには面食らったが、これがまた意外にもおいしく、梅干し特有のすっぱさよりも甘さが際立つ天ぷらは初めて食べる味にも関わらず美味しくいただけた。
20分ほどで完食して店を出る。この白馬という街に何があるか知らなかったので、地元の人とみえる店員さんに「この辺1時間ぐらいで見て回れるところありますか?」と聞いたが、この近辺は本当に何もないらしく、登山客でもないのに駅前の好日山荘を勧められた。
ほんの1時間ぐらいなので適当に歩いて時間でも潰そうと店を出る。線路を渡り、駅の裏手の道を歩いていると、小川が見えた。

白馬は全国の自販機に天然水を輸出しているとだけあって、適当に歩いて見つけた小川でさえ水が澄んでいて、とても綺麗だった。ちょっと手をつけてみると、とても冷たい。
暑かったこともあり、周りに人がいないのを確認してから顔を洗う。汗が滲み出て火照っていた顔に、白馬の冷たい水が染み渡る。顔全体で長野の自然を感じる気分だった(?)。
しばらく歩いていると、何やら無人の雑貨販売店を見つけた。木で作られたキーホルダーや置物が、200円程度で売られている。
ちょうどベンチもあったので、そこで座って休憩することにした。

人の家の庭のような場所に作られた無人販売所は、木々に彩られていてすごく空気が美味しい。
しばらく座って何をするわけでもなくぼーっとする。
「んあぁぁぁ〜」
間抜けな声を上げながら深呼吸していると、この1週間のストレスが音を立てて抜けていくような感じがした。こんな何でもない木々の景色に癒されることができるのも、1週間頑張ってきたからこそなのかな、とも思っていると俄然仕事のストレスも何ということはないと乗り越えられそうな気持ちになってきたのである。
学生の頃は旅行に来たとてこんな何もないところに座ろうなんて思いもしなかったし、こんなことでストレスが取れるなんてつゆも思わなかった。だが、社会人という学生のストレスとは比べものにならないほどの重荷を抱えた今、こんななんでもない自然に癒されているというのに、染み染み社会人になったんだなぁ、と3年越しに感じたのであった。
20分はそこに座っていただろうか。そろそろ帰りの列車の時間も迫ってきていたので駅に戻った。
白馬駅から、特急あずさに乗って松本を目指し、そこから乗り換えて長野へと向かうことにした。

PS5みたいな見た目の特急あずさ

白馬駅の売店で地元の葡萄を使っているというカップのワインを購入して車内で飲む。行きとは違うようにみえる景色をのんびり眺めつつ、松本を目指した。


こんな感じで1日目の前半は終了。次回は夜の長野市をお送りする予定である。
何のオチもない、ただの旅行記だが、あと2日目と合わせてあと3回ぐらいは続けていきたいので、どうか最後までお付き合いいただきたい。

それでは。
あばね〜(さようなら〜)。

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