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2015年、沖縄での不思議な話

5年前に沖縄に滞在していた時、渡嘉敷島という島へ行った。その時の話。

「必ずしも失われているとは言えない時について」


2015年の10月25日の土曜日に、渡嘉敷島へ渡るフェリーの中で、
ふと隣りに座っている奥さんを見たら、
あまりにも変テコリンな顔をしていたので、
思わず写真を撮ってしまった。


目を半眼にして、口をへの字に結んで、
佐野史郎演じる「冬彦さん」が泣いているような顔であった。
何が気に入らないのだろうか、
あんなに島に行くのが楽しみだったのに。


シャッターの音に気付いて、
奥さんがこちらを見たので、
「なんか変な顔になってるよ」と言うと、
「ああ、モニャモニャモニャ・・・」という感じで、
要領の得ないことを言うので、
「ああ、あちらの世界に行っちゃってるな」と思い、
しばらく放っておくことにした。


奥さんは一分くらいでこちらの世界に戻ってきて、
何事もなかったかのように楽しそうにしていた。


そして島に着いて、海岸で貝を拾ったり、
お昼ご飯を食べたり、
カキ氷屋さんに島の中を案内してもらったり、
帰りのフェリーの中では横になって寝て、
那覇に着いたら焼き鳥が食べたいと言って、
焼き鳥を食べて家に帰って、お風呂に入り、
帰り道にスーパーで買ったお酒を飲んで、
落ち着いてから、朝のフェリーの中で、
何を考えていたかを教えてくれた。


実は前日の金曜の夕方、
奥さんの勤め先の近くの公園で、
「沖縄の産業まつり」というイベントが開催されていて、
たくさんの展示ブースや、
お祭りのような露店が出店されていたので、
最寄りの駅で待ち合わせて、そこで夕食を食べることにしていた。


奥さんは、
「せっかくだから、ヤギ汁を食べてみる」
と言って、ヤギ汁とビールを注文し、
食べ始めたのだが・・・


ヤギ汁というのは、ヤギの肉を薄味で煮たもので、
沖縄では、祝い事の席で食べる伝統料理。


特徴は、独特の臭みがあることで、
匂いを消すために、おろしショウガや、
生のヨモギの葉を入れて食べる。


沖縄に来た人が、話のタネとして、
ヤギ汁を食べてみることはあっても、
ヤギ汁がおいしかったという話は聞いたことがない。


食べ物に好き嫌いがないことが自慢のうちの奥さんでも、
さすがにヤギ汁は口に合わなかったらしく、
半分くらい残して、二人で逃げるように屋台から立ち去った。


そして次の日のフェリーの中で、うちの奥さんは、
この敗北体験を思い起こしていたのであった。


ヤギ肉をモッチャモッチャと噛んで、噛んで、
どうしても飲み込めずにいた時、
ふと奥さんは何かを思い出したような気がしていた。


ヤギ肉の、肉の外側に皮が付いたままの独特の触感と、
それを噛んでいる不快な感じ、
それに誘発された何かの記憶。
プルースト効果かよ、マルセルか、お前は。


奥さんはなんとかヤギ肉を飲み込もうとして、
ヨモギと一緒に噛んでみたり、
ビールで流し込もうとしてみたり。


しかし後で知ったことだが、
ヤギの脂は固まりすいので、
冷たいものと一緒にヤギ汁を食べてはいけないらしい。


何かの罰ゲームのようだった。
シソンヌがキングオブコントで優勝したネタ、
パチンコで負けたオヤジが、
ラーメン屋に入って、
自分への戒めとして臭いラーメンを食べる、
というネタを思い出した。


その時奥さんは、
ただ臭いからというだけでなく、
何かの禁忌を感じて、
どうしてもヤギ肉を飲み込めなかったらしい。


実は僕もヤギ汁を少し食べてみたのだが、
確かに臭みはあったけど、
何でも食べるうちの奥さんが、
食べられないほどの強烈な味でもなかった。


なので、味がどうこうというよりは、
本能的に禁忌を感じて、
飲み込めなかったという説明の方が、
僕にはしっくりくる。


そして奥さんは次の日の朝のフェリーの中で、
ヤギ汁事件の真相について、
霊界通信で情報を集め始めたのである。


その結果、アトランティス時代に、
おそらく人肉を食料としていた頃があったらしく、
その時の記憶にたどりついたらしい。


これ以上の詳しい話はわからない。
奥さんの話があやふやだからだ。
意識の世界の話は言語を超えているので、
感覚で感じ取るしかないらしく、
僕は奥さんのその感覚の一部分を、
拙い言葉で、断片的に知らされるだけなのだ。


まさに「考えるな、感じろ」の世界であり、
奥さんは時々、容赦なく、
あちらの世界の話をしはじめる。
僕はそれを、想像を交えながら、
文章にしていくしかないのだ。


アトランティス時代というのは、
今から6000年以上前に、
地球上で栄えていた、今とは別の文明のことで、
その時期は1万3000年前とも、
2万5000年前とも言われている。


プラトンの著作の中に、
アトランティスについて言及している部分があるが、
アリストテレスは
アトランティスの存在については懐疑的であった。


当時の地球は今とは地形が異なっており、
現在の日本の太平洋側は海に沈んでいて、
日本海は存在せず、日本海側の一部は、
ユーラシア大陸と地続きになっていた。


佐賀県のある地域でマンモスの化石が見つかっており、
福岡県では発見されていないが、
それは佐賀県の一部が大陸と地続きだったのに対して、
福岡県は海の底に沈んでいたからだという説がある。


沖縄もかつては大陸と地続きだったと思われる地域だ。
なので沖縄には、日本という国ができるより前からの、
古い記憶が残されている場所がある。


沖縄の文化が日本本土と異なっている部分が多いのも、
おそらくそのためであろう。
沖縄が太平洋戦争の激戦地になったのも、
古い時代の地球の歴史と、
関係があることなのかもしれない。


僕はそのようなことを「感知する能力」が低いのだが、
うちの奥さんはその能力が強く、
何かに導かれるようにして沖縄に呼び寄せられた。


僕も縁あって奥さんに呼ばれて、
このことを書き留める係を担当している。


奥さんは普段はいたって普通の、
平凡過ぎるくらいの人生を送っており、
むしろ僕の方が普通ではない、
非凡な人生を送っているように見られがちだが、
僕は単に奥さんのアシスタントに過ぎない。


例えば沖縄で言うならば、
久米島や万座毛や斎場御嶽や、
久高島や渡嘉敷島や首里城など、
奥さんに色々なところに連れて行ってもらって、
そこで体験したことを記録する書記係なのだ。


今回の事で言えば、
カキ氷屋さんという、
とても不思議な登場人物がいる。


詳しいいきさつを、
ここに書くことはできないが、
初対面のその人が、
車で島を案内してくださり、
渡嘉敷島で行われた、
集団自決のことを教えてくださった。


沖縄戦の集団自決のことは、
僕は少しは知っていたが、
奥さんはほとんど知らなかった。


集団自決をした人たちが、
どれほど無念だったかわかりますか、
と言われれば、それはわからないが、
無念だったか、無念じゃなかったか、
どちらだったと思いますか、
と言われれば、
無念だっただろうと思います、と、
想像することはできる。


その無念な気持ちを、
うちの奥さんに伝えたかった、
わかってほしかった、
のではないかと思っている。
今日も居酒屋で、奥さんと、
集団自決のことについて少し話した。


那覇に帰ってからネットで調べて、
少しは僕も解説できるようになっていた。
奥さんは神妙にその話を聞いていて、
ショックを受けて無口になっていた。


そしてこれから、うちの奥さんは、
目に見えない世界の、
不思議な住人たちにその話を伝え始める。
そのあとどうなるかは僕にはわからない。

2015年10月26日

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