僕のデトックスデイ

6年前、2015年の4月の金曜日、息子のハルから電話あり。
「例のアレなんだけど、
やっぱりお願いできるかな?」
と言われ、快諾。土曜に実行した。

「例のアレ」とは何かと言うと、
ハルの春休み中に、1年分の使用済みの、
授業のプリントや教科書などを、
海岸に行って燃やし尽くすという、
「諸行無常」を体感するための、
恒例の行事のことなのだが、
去年はちょうどこの時期に、
こりす保育園の開園準備が始まったので、
僕は忙しくて忘れていたし、
ハルは遠慮して僕に声をかけなかったらしい。

そのため、今年は2年分だったのだが、
更に今年はハルが中学校を卒業したため、
ハルが「自分一人で中学時代の思い出を燃やしたい」
と宣言していたので、
「できるなら自分でやってみろ」と言って、
放置していたら、結局、
大量の荷物を海岸まで運ぶことができず、
僕に泣きついてきたのだった。
最終的には頼りにされて嬉しかった。

午前中に待ち合わせて、
荷物を車に積み込み、
海岸に向かう途中、
ハルの好きな回転寿司で食事して、
12時頃には海岸で焚き火を始めた。

この海岸は福岡市の今宿のあたりにある、
夏でもそんなに人の多くない海岸。
僕はこの海岸で、
大学生の頃から焚き火をしていた。

あの頃は孤独だった。
一人で砂浜に座って、何時間も、
波の音を聞きながら炎を見ていた。
今も同じように、
波の音を聞きながら炎を見ているが、
今はけして孤独ではない。

天気が悪かったので、
海岸に人は数人しかおらず、
雨が降り出してからは、
僕たちのプライベートビーチのようになった。

紙類だけでは焚き火は成立しないので、
漂着した流木や、
雑木林で伐採された枯れ枝などを集めて、
プリントやノートや教科書などを
ちぎって投げ込みながら延々と焚き火を続ける。

ハルは中学の制服や体操服、通学の靴や上靴、
学校指定のカバンまで燃やそうとしていて、
その量は半端ではなかった。
途中で雨が降り出したが、
僕は予測していたので、
自分はベンチコートをきており、
ハルのためには、
車にレインコートを積んでいた。

数時間後、かなりの勢いの雨になり、
ハルが、「もう無理なんじゃない?」と、
弱音を吐き始めたので、
「車の中で休んでていいよ、
最近の子供は根気がないからな」と言うと、
ハルは車に入ってしばらく出て来なかった。

僕は焚き火を続けた。
海岸に積み上げた紙類がどんどん濡れてしまうし、
焚き火も雨で消えてしまうからだ。
しばらくしたら雨も小降りになり、
ハルも戦線に復帰した。

あとはひたすら、
ちぎっては投げ込むの繰り返し。
焚き火は風の強さと、燃やすものの材質や量、
焚き火の温度、空気の量などの配分を、
色々と加減しながら、保持していく、
今回は雨も降ったので、更にバランスが難しかった。

子供は焚き火のそばにいるだけで、
自然に色々なことを学ぶ。
火に近づき過ぎれば熱いとか、
風下にいれば煙たいとか。
お昼の12時頃からはじめて、
すべてを焚き火に投入し終わったのは18時頃。
今回の焚き火は長かった。

そんなに喋ることもないから、
海と火を見ながら黙々と作業していた二人。
結局は僕にとっての一番の癒しだったのだ。

子供のノートの中に、担任とやりとりする、
自由勉強ノートのようなものがあった。
普通は予習復習とかをするらしいのだが、
内容は自由なので、うちの子供は、
長編の創作小説のようなものを
書いていたようであった。
そのノートも焼き捨てる決断をしていたので、
僕もあえて読んだりはしなかったが、
うちの子供がそういうことをしていることは嬉しかった。

この頃は福岡に住んでいたが、今は熊本在住なので、最近はめっきり焚火はしていない。熊本の方が田舎なので、焚火をする機会も多いだろうと思っていたのだが、僕の近所で焚火をしている人といえば、農作業とか山焼きとかの、ガチな人ばかりで、一般の人間がレジャー的に楽しむ焚火なんかはかえって見かけない。最近はキャンプブームだそうで、わざわざRVで休日に焚火しに行く人の気持ちはわからないではないが、そこまで大掛かりに気合を入れてやるほどのことでもないので、焚火デトックスとはしばらく遠ざかっている。

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