「監督失格」の感想

4年前の2017年に平野勝之監督の「監督失格」を見ました。
これは久しぶりの、
出会い頭の事故的な映画体験でした。
その時に見た数本の映画は、
脚本家つながり、女優つながりで、
事前に調べていたものが多かったのですが、
ふと目に留まったこのDVDのジャケットが、
なんともいえない吸引力を持っていたので、
深く考えずにカゴに追加したものです。

僕はあまりAV方面は詳しくないのですが、
AVやピンク映画業界には、
映画を愛する自主制作少年や、
自主制作おじさんが多く流入していて、
カルト的な人気のある作品もあります。
ちなみに「人間仮免中」の卯月妙子も、
カルト的なAV作品に出演していました。
林由美香も、サブカル的な人気の高い女優で、
僕も名前くらいは知っていました。

この映画はその林由美香と監督の平野勝之が、
東京から北海道まで自転車旅行しながら撮った、
アダルトビデオが元になっていて、
元のタイトルは
『東京〜礼文島41日間ツーリングドキュメント
わくわく不倫旅行 200発もやっちゃった!』
というバカみたいなタイトルです。

このビデオは1997年に制作されていて、
その後も林由美香は平野監督の映画や、
他の監督の作品に出演していますが、
2005年、誕生日の前日の深夜に謎の死を遂げます。

誕生日の日に平野監督が、
林由美香のインタビューを撮ることになっていて、
約束の時間に由美香の自宅を訪ねるのですが、
仕事に穴を空けたことのない由美香がなぜか留守で、
次の日にも平野監督は訪れるのですが、応答はなく、
しかし家の中には飼い犬がいる様子なので、
由美香の母親に連絡して鍵を開けてもらったら、
由美香は死んでいた、という訳です。

死因は事件性のない、
睡眠薬と酒の併用ということでしたが、
母親はその場に平野監督が
カメラを持って居合わせたということに疑念を持ち、
その時撮影された映像は、
公開しないという契約が結ばれました。

その映像が5年後の2010年に、
母親の許可で公開していいことになり、
エヴァンゲリオンの庵野秀明監督が
プロデューサーになって、
自転車旅行のダイジェストに
由美香が死んだ時の映像が加わって、
「監督失格」という映画になりました。

といっても、僕はこの映画の存在を今日知り、
今日ウィキペディアで調べて、
これらのいきさつも知ったばかりなんです。

ただ映画の中でも述べられているように、
由美香の「自分を表現したい」という執念が、
この映像を残させ、映画として結実して、
DVD化されて熊本のTSUTAYAの店頭にも並び、
事情を知らない僕の元にも届くのです。

まるで「リング」のような話ですし、
かつて僕が映画を撮りたいと思ったのも、
同じような理由からです。

映画には由美香の無残な遺体は写っていません。
監督が奥の由美香が倒れている部屋に入っていき、
由美香の母親が玄関に立ち尽くし、泣いて嘆く姿が、
助手によって撮影されているだけです。

これは渾身のドキュメンタリーです。
自分の娘が死んだと知った母親がどう反応するのか、
ドラマや映画ではよく人が死ぬ場面がありますが、
どんな脚本にも、どんな役者にも表現できない、
真実の映像と音声が収められた稀有の映画です。

庵野監督の深い悩みが、
エヴァンゲリオンという「悪の華」に結実し、
膨大な利益を産んで、庵野監督に地位を与え、
この映画がプロデュースされる。

エンドロールには矢野顕子の曲が流ていました。
とてもいい曲でした。

普通なら陽の目を見ないアダルトビデオの、
しかも本編とは関係なく、
偶然に撮影された映像が、
このような形で縁もゆかりもない、
僕の元にも届けられる。
それが映画が持っている力です。

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