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お金や仕事へのスタンス

これは11年前、2013年の日記です。

少し前に知人から、うちで食事でもどうですかと誘われていて、
では来週の土曜に、と約束していたのだが、
向こうは今週の土曜と勘違いしていたらしく、
昨日用意して待っていたようで、
「どうしたんですか」とメールが来たので、
あわててタクシーで駆けつけたら、
なんのことはない、・ムウェイの勧誘だった。

しかし、ネットワークビジネスというのは、
聞けば聞くほど、そこらへんの、
サラリーマンの人とかの仕事に比べても、
すごくまともな理念とシステムの仕事としか思えないのだが、
どうして、「では僕もやりましょう」という気にはなれないのだろうか。

自分がどこにひっかかっているのかはよくわからないのだが、
たぶん心の中のどこかに、金儲けというのは、
基本的に、あさましい、卑しいもので、
そういう汚れ仕事のアイデンティティーの部分は、
大企業とかの責任にしておいて、
「僕はただ、言われるままにやっているだけですから」と、
自分の意志には反しているけど、
それは生活していくために割りきってやっているだけで、
自分で望んでやっているわけではないんですよ、と、
どこかにエクスキューズを残したいのではないかと思うのである。

だから、ストレートに、
「僕は今よりたくさん収入が欲しいんです」と、
開きなおっている人を見ると、
うらやましい反面、やはりどこかで、
みっともないなと思っていて、
自分も他人からこういうふうに見られるんだろうなあと、
結局自分で自分を批判してしまい、
そのビジネスに参加するのを、
ためらっているのだろうなあと思った。

ちなみにその方は放射線技師をやっておられる方で、
僕にビジネスの説明をしている時に、
そのパンフレットの漢字を読み間違えていた。
ちょっとリテラシーが低いなあ、
もうちょっとお勉強した方がいいのではと思ったのだが、
しかし僕は、そんなことは批判できないなと思った。

僕も原発を使って金儲けしているような会社を、
称賛するようなテレビ番組を作って、
ギャラをもらっていたことがあるからだ。

その会社というのは、
九州でも最大規模の民間企業である「九州電力」であった。
あそこの会社に逆らうようなことは、
九州のテレビ関係の会社では誰にもできない状態だった。おそらく今も。

だからしかたなかったんですよ、と、
たかだか数十万円の月収のために、
正義感やプライドをドブに捨ててきたこの僕には、
ア・ウェイの人のことをどうこう言う権利なんてないのだ。

僕は「原発って本当に大丈夫なのかな?」と、
少し疑問を持ちながら、「原発ばんざい」、
「余剰電力を消費するために、
深夜電力を賢く利用して電気温水器でお湯をわかしておきましょう」、
というようなオール電化住宅を推進するような番組を作っていたのだ。

その後もあるサプリメントの通販会社の仕事をしていたのだが、
そこの社長さんがまた自分の努力で「一発当てて」大成功した方だった。

会社にうかがうと、女性の事務員さんの制服は、
全員一流ブランドのスーツ(ちなみにバーバリー)、
社長室には大きな特注の水槽があり、
金色の巨大なアロアナが泳いでいた。

何か虫の声がするなと思ったら、
それはアロアナのえさのコオロギで、
生きたコオロギを水槽に投げ込むのだが、
「やってみる?」と言われて、
スタッフがみんな気味悪がって尻込みしたので、
僕がコオロギを一匹つかまえて水槽に投げ込んでみた。
しかしアロアナは満腹だったらしく、見向きもされなかった。

社長さんはギターがお好きということで、
社長室の壁には、フェンダーのストラトキャスターと、
ギブソンのレスポールが、それぞれ十数本ずつ飾ってあった。
どちらも、ギター好きならば、
一本持っているだけで幸せというような名器である。
オベーションのアコースティックギターまであった。

社長さんの普段の移動の足はベントレーで、
休日の車はランボルギーニ、
ちょうどムルシエラゴからアヴェンタドールに、
買い換えようとしている時で、
その頃イタリアで地震があって納車が遅れており、
納車はいつになるのかと、しょっちゅうディーラーに電話を入れていた。

「この車の前にはフェラーリに乗っていたんだけど、
フェラーリは街を走ってたら10人中8人くらいが振り返るけど、
ランボルギーニだったら10人中10人が振り返るんだよね」
と社長さんはおっしゃっていた。

「僕が子供の頃にスーパーカーブームがあって、
あの頃憧れていた夢の車に、今実際に乗ってるんだよ」
とおっしゃっていたが、まさにそれ、僕もそれにあこがれていた。
スーパーカーブームの時はランボルギーニのカウンタックと、
フェラーリのベルリネッタボクサーが、ツートップで憧れの的だった。

そしてその社長さんは福岡市内に何軒か高級マンションを所有していて、
通販番組の撮影はその中の一室を使って行われていた。
そのマンションは普段はまったく使われていないらしく、
「鍵預けておくから自由に使っていいよ」と言われていたが、
遠慮して誰もプライベートでは行かなかった。

その頃その社長さんは福岡市郊外の別荘地にゴージャスな別荘を建設中で、
近代美術館のようなデザインで、建物の土台だけで一千万かかった、
ダイニングにはイチョウの一枚板のカウンターを作っていて、
完成したら、すし職人を呼んでパーティーを開催する、
という構想だったのだが、僕はその別荘が完成する頃に、
ちょうど骨折して入院してしまっていたので、
そのパーティーには参加できなかった。

こういう生活って、僕が大学生くらいの頃、
トレンディードラマとかいって、
さかんに制作されていたドラマの空想の世界観を、
さらにゴージャスにしたような生活だなと思った。

こういうのを戦後レジームといって、
空襲で焼け野原になった日本にアメリカ軍が進駐してきて、
テレビ局を作り「奥様は魔女」などの
欧米風のゴージャスな暮らしをしている、
アメリカ製のテレビドラマをどんどん放送し、
貧しい乞食のような日本人たちを
洗脳していったんだなあとつくづく思った。

そのアムウェ・の人も、
将来はもうけ度外視で、
気の合う仲間たちが集まるバーを経営したいとか、
ハワイに移住したいとか、そういう夢を
グループの人たちと語り合っていると言っていた。

自分もやってみたいかと自問自答したら、
まったく同じことをやるかどうかはわからないが、
自由に使えるお金がこれくらいあったら、
色々欲しいと思うものを買ってみたり、
やってみたいと思っていたことを
やってみたりはするだろうなと思った。

しかし、同時に、成功ってなんだろうと思った。

こういう夢を実現したら、満足できるのだろうか?
そのためには、どのくらいの収入があったらいいのだろうか、
想像がつかない。そもそも、
それだけの収入を自分がどうやって得るのかということが、
まったく想像もつかないのだった。



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