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オーシャンズ8がめちゃくちゃ好きだという話(ネタバレ有)

※以下、ネタバレがあるので観賞した人向けです
※字幕版を2回観ただけなので台詞などはうろ覚えです
※一箇所、台詞の内容と解釈を誤っていたので修正しました(8/26)




オーシャンズ8、予想以上に最高だったので早々に2回目をキメてしまった。

年齢も肌の色も生業も家族構成(独身/既婚、子持ち/子なし含む)もバラバラな女たちが、画面に収まりきらないほどの個性を各々見せつけながら一つのチームを組んでいる、その光景に高揚した。
ひたすらにかっこいい。全員が並んで立っているだけでゴージャス。一人ひとりがストイックでお茶目でプロフェッショナル。
こういうのが観たかった、と思った。思ってから、そうか、私こういうのが観たかったのか、と気付いた。
今まで気付かなかったのだ、だって観たことがなかったから。


デビーがルーに計画の全貌を明かし、「何のためにやるの?」と問われて「得意だから」の一言で済ませるシーンが本当に好きだ。
もちろんデビーには計画を成功させたい理由(クロードへの復讐、兄への弔い等)があることも後々描写されるけれど、「得意だから」というのも、嘘偽りない本音だと思う。
そもそも復讐するだけなら他にも方法があるのに、なぜ大規模でド派手な「盗み」を選ぶのか。
得意だからだ。得意だから、どこまでやれるか試したい。やれることを証明したい。それだけ。
その一言を聞いたルーも、それ以上何も問わない。

女が仕事や学業に本気で打ち込もうとする時、「(女の子なのに)何でそんなに頑張るの?(女なのに)何でそこまでやらなきゃいけないの?」と問われることがあると思う。
何でそんなに必死なの?どこを目指してるの?お金がほしいの?男性に稼いでもらうんじゃダメなの?あんまり頑張るとモテないよ?本当に賢い子は敢えてちょっとセーブして上手く生きてるよ?
正直、全部知ったこっちゃねえ、なのである。
お金だけの問題じゃないし、モテとか好感度とかそういう話でもない。
ただ得意なことや好きなことで、どこまでやれるか試したいだけだ。
私にはこれができる、ということを確かめて、その手応えを大事に携えて生きていきたいだけだ。
なぜそれ以上の“理由”を、女だからというだけで延々求められ続けるのか。

それがずっと疑問だったので、デビーが放った「得意だから」の一言に、胸がすく思いだった。
この映画はそれ以上の“理由”を求めない。得意だからやってみたい、というシンプルな動機を認めてくれる。
そのことにとても安心した。


仲間集めの最中、デビーはチームに「男」を入れることを頑なに拒否する(実際には軽業師のイエンが一部参加しているが)。
日本語字幕では「無視されるから」とだけ出るのだが、実際には「女は無視される(=警戒されない)から、女だけで固めたい。今回ばかりは無視されたい」のだ、という内容のことをデビーは凄まじい早口で述べている(※私はここが全く聞き取れず当初「男は女を無視するから入れたくない」と解釈していたのだが、誤っていたことが分かったので修正)。
女は時に、社会においてその存在を“無視”される。無視されたり、居なかったことにされたり、手柄や誇りを奪われる痛みを彼女はよく知っている。
知っているからこそ、それを華麗に逆手に取ってみせる。そして逆説的に、今度こそ誰にも“無視”されない大仕事を成し遂げようとする。
「仕事というのは成功を確信した時点で完了したようなものだ、実行に移す必要はない」と諭されても、デビーは聞かない。聞くわけがない。
実行しなければ意味がないのだ。形に残して、「私たちにはできる」と証明してみせなければ、また無視されるから。

中盤、警備員の目を盗んで「建国の父 (Washington Crossing the Delaware)」の隣に飾ってみせたのが「建国の母たち」なのも痺れる。こんなに明快な宣戦布告はない。
「父」を称えるなら同じように「母」も称えるべきだし、男ばかりのゴージャスなクライムムービーがあるなら、もちろん女ばかりのそれがあってもいいだろう。

潜入直前、トイレの鏡でメイクしながらデビーが独り言のように呟く言葉が、この映画のほとんど全てだと思う。
「これだけは覚えておいて。これをやるのは私のためでもなく、あなたたちのためでもない。今、世界のどこかで犯罪者 (big criminal) になることを夢見ている8歳の女の子――彼女のためにやろう」
今後の人生、私はこの台詞を思い出す度に泣く予定になっている。


この上なくスマートに盗みを成功させた7人は、ドレスアップして悠々と大階段を下りてくる(ここのナインボールとコンスタンスが超超超最高だったので早くもう一回観たい)。
腕を組んだ男女ペアばかりの中で、彼女たちは誰の手もとらず、ダイヤモンドの形をした自信と誇りを身につけて、一人ずつ歩く。
美しすぎて目が眩んだ。一刻も早くオーシャンズに入りたい。

さらにダフネが仲間に加わってからの展開も、期待を全く裏切らない。
デビーの元彼(&復讐相手)がクロードだと知った時、ダフネが一瞬驚くだけで後はケロッとしているのが本当にいい。女の敵は女、現彼女と元彼女による修羅場、なんて安いプロットに彼女たちは乗らない。
彼女たちの間には、(女同士の関係性を描く時にやたらと強調されがちな)ヒエラルキーも嫉妬もマウンティングもない。代わりにあるのは信頼とリスペクトとチームワーク、それだけだ。
(ちなみにトゥーサンが盗まれた直後、ダフネを気遣うより先に「僕はずっと席にいた」と自分のアリバイを主張し始めるクロードをダフネが「はぁ?」という顔で見ているので、この辺りでもう彼を見限っていたんじゃないかと思う)


8歳の頃、私は「女の子でいるの嫌だな、男の子に生まれたらよかったのかな」と思いながら生きていた。
性自認は女だったけれど、「女の子らしい」とされていることが一切上手にできなくて、自分が女の欠陥品のように感じていたからだ。
自分と同じようなタイプの男の子は得意なことや好きなことをしてのびのび過ごしているのに、自分は何だか世界に許されていない気がしていた。
もし今8歳の自分に出会えたら、全然心配しなくて大丈夫だよ、好きにやっていいよ、と言ってあげたい。
ほんとに大丈夫だよ、だって2018年にはオーシャンズ8もあるから。

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