声優音楽名盤紹介 第五回 新谷良子『The Great bambi Pop Swindle』

『B面集が良いバンドは信頼できる』というのは昔の友人の言葉だが、全くもってそう思う。

ぱっと思いつくあたりではNirvana『Incesticide』、Oasis『The Masterplan』、THE GET UP KIDS『Eudora』。日本だとスピッツ『花鳥風月』やPlastic Tree『B面画報』あたりだろうか。どれも名盤だ、と思う。

新谷良子はこの裏ベスト盤である。レア音源や、既存曲のアレンジ違い、ライブ音源などをまとめたもので、2007年に発表された。

それこそスピッツではないが、ベストより先にレア音源集を発売するだとか、声優のアルバムなのにインストを挟んでいる(これは今となっては当たり前になったが、当時は珍しかったと思う)といった、なかなかロックな人だ。

新谷良子の楽曲といえばPink Bambi Bandによるギターロック的なサウンド、という印象が強い。実際、彼女を強く印象づけたのは「ハリケーンミキサー」のような楽曲だろうし、『コンサートというかバンドのライブみたいな』というのは本人もインタビューで発言している。

しかしこのアルバムでは全体的にエレクトロ系のアプローチが採られており、可愛らしいヴォーカリゼイションはそのままに、得意のいかついバンド・アンサンブルを面白おかしく調理している。

「恋の構造」に付けられた『青春エレクトロパンクMIX』というアレンジ名ではないが、どこかエレクトロクラッシュのアニソン活用にも聞こえる。そういう意味では、やや実験的かもしれない。しかし新谷良子の歌声はどんな楽曲でも変わらずに、良い。

ロックである、だとか、パンクだ、とか、エレクトロだ、ということを、きっと新谷良子本人は意識していないのではないだろうか。そう思わされるのが、このアルバムの本当に良いところであり、新谷良子という歌手が信頼できる所以、真摯さなのではないかと思う。

聴き手もまた、ロックであるから面白い、というのではなく、新谷良子の(そしてそれはきっと声優全般に言えることだが)歌声に、耳を傾けてみてはいかがだろうか。彼女がなぜ自分の音楽を『バンビポップ』と称するのかが、いくらか理解できるのではないかと思うのだ。

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