極彩トムと透明少女


※「会心の一撃」

 

 ガショ! ズシャ! デコ! ザザザザザザザ――――――。

 見る見る近づいてくるトムの右拳。私が最後に見た光景はこれでした。

 その後の事は分かりません。

 だって私はこの一撃で失神してしまったのですから。

 

 

 

※「極彩トムと私」

 

 初めまして、そして最初から衝撃的なシーンで始まり申し訳ありません。

  私の名前は玉巻 初と申します。

  初と書いて「うぶ」と読みます。

  少し読みにくい名前とは思いますが、ご容赦ください。

  私が皆様にお伝えする物語は私が体験した、いえ今も体験している、極彩トムこと大友 友なる人物の話でございます。

  極彩トム?そんな奴知らんわ、なんて事は仰らないでください。きっと彼の事を知れば皆様も彼の奇行、もとい奇行、もとい奇行…………

  失礼しました、奇行以外の言葉が出てきませんでした。

  こほん、改めまして、トムなんて知らんよ言われる皆様は、彼の奇行に驚かれ関心を寄せる事と思います。

  各言う私もその一人でして。

  どうしましょう、私は喋り慣れていませんのでどの様にお話を進めたらいいか分からない事だらけで。

  まず何を話したらいいのか…………

  そうですね、まずは私の話しをしたいと思うます。

  トム君の話をするのに私の話しをしないなんて何か不公平な気がしますので。

  つまらない話ですか、出来るだけ面白おかしく話すつもりなので、ご容赦ください。

  それでは私、玉巻 初の生い立ちなどを話したいと思います。

  キャハ、恥ずかし!

 

 

 

※「私が透明になるまで」

 

 私は横浜市中区に生まれました。

 母の名前は「玉子」父の名前は知りません。

 私は私生児で母「玉子」は結婚というモノをした事は有りません。

 私は母と祖母と三人で暮らしていました。そして今も三人で暮らしています。

 

  私の母「玉子」はソレはソレはすさまじいビッチでして、男がいなかった事がありません。現在三十三歳ですが玉子は七歳の時から男というモノに取りつかれ、男中毒と言えるほど男に入れ込み、七歳の時から現在まで男がその傍らにいなかった事がありません。

  鬼ビッチです。

  玉子は私と祖母と自分の食いぶちを稼ぐため、そして男の為に、自分磨きをする為お金を自分の肉体で稼いでいます。

  風俗ではないです。

  モデルです。

  そうです、玉子は三十三歳にしてまだ現役バリバリのモデルなのです。

  ハッキリ言って若く見えます。

  よく一緒にいると姉妹に間違われたりとか…………しません。

  玉子はもの凄く垢抜けていますが、私は空気系なので。

  ハッキリ言って二人で歩くことなど殆どありません。

  玉子の傍らにはいつも男がいますし、私は男性があまり好きではないので。

  でも玉子の事は嫌いではありません。

  まぁそんなに好きではないですが。

 

  祖母の話しをしたいと思います。祖母は「玉枝」といいます。

  祖母は鬼ビッチ玉子とは正反対のとても優しい人で(失礼、玉子も優しいです。ビッチなだけで)玉子は忙しいので(何に忙しいのかはあえて言いません)私と殆どを二人で過ごしています。

  祖母玉枝は料理がとても上手です。それに習い私も少しは同年代の少女達よりかは料理が上手でと思っています、家庭料理ですが、結構そこそこです。

  祖母玉枝は家事以外にも、裁縫、習字、三味線、花にお茶などその趣味は和風に広がりを見せ、とても多趣味でその腕前はどれも一級品です。

  特に日本画は素晴らしく国内のみならず海外でも高い評価を受けているようです。

  口癖は「初ちゃん、お母さんみたいになると楽しいかもしれないけど、ダメよ、人間それではダメなの」です。

 

  私はそんな祖母と玉子に囲まれ、山の上のダウンタウンにある「霞荘」でスクスク元気にとは言えないかもしれませんが、それなりに、それなりに成長して十六歳になりました。

 私に家庭環境はこんな感じです。

 

 それでは私自身の紹介をしたいと思います。

 名前は……もう言いました、初です。

 私の特徴は一言で言えば玉子の逆です。

 私は空気系です。空気系? 何て首をかしげている方もいらっしゃると思いますので、空気系のカテゴライズをここでご説明したいと思います。

  空気系、それはセカイ系と対を成すと言われる一カテゴライズであります。

  セカイ系をボーイ・ミーツ・ガール=世界の運命とするならば。

  空気系は日常のどうでもいい話しをダラダラと繋げていく物語のことであります。時に日常系などと呼ばれる事もあります。

  ですが私の空気系はこの空気系とは違い本当の空気を指します。気体で、無味無臭で、存在している事はみんな知っているんだけど全然気に留めず、誰からも相手にされない。

  それが私の目指す空気系です。

  透明系とでも言えばいいでしょうか。

  玉子の様に目立たず、赤抜けず、それでいて気にもならずに、悪意も無しに完全無視できる存在。玉子の真逆の存在、それが私であります。

  私と玉子は当たり前の様に親子ですから似ています。

  顔も似ていますし、背格好も似ています。それが困るのです。玉子は鬼ビッチですから男性に人気も高く待ちで少しでも赤抜けると玉子に勘違いされ男の人が嫌っちゅうほど寄って来て話かけてきます。

「玉子~この前の合コンスゲー楽しかった。またやろうね、今度は二人きりで」

 とかはいい方で、いきなり後方から見知らぬ男性にハグをされ、「玉子この前は連れ無いじゃんかよー!誰だよあの男!俺にはお前しかいないんだよ!お前殺して俺も死ぬ!」

 などと見ず知らずの男性から無理心中をしかけられることすら有り、私は自衛の為、透明になるしかなかったのであります。

 玉子め。

 しかしこの事で私は玉子を責めた事は有りません。私は鬼ビッチである玉子が自由気ままに生きる事を何とも思いません。むしろ歓迎しています。私は玉子が自由に生きて欲しいと考えています。

 何故なら私は母親である玉子が大好きですし、玉子も私を無限大の愛で愛してくれているからです。

 

 しかし自衛は自衛、私も若い身空でいきなり見ず知らずの男性に殺されたりしたくはないので透明に徹して、早十六年。私は高校一年生になり、玉子は三十三歳になり、私は玉子に近づき、玉子は全く年をとる気配が無いので二人は垢抜けているか透明化くらいでしか区別がつかなくなっています。

 困ったことです。

 玉子、早くババァになればいいのに。

 

 

 

 ※「極彩トムと私の高校」

 

 やっと本題の話に入ろうと思います。少し自分の生い立ちなどを話す事に夢中になり、皆様に極彩トムって話しま~だ?なんて気を揉ませてしまったかしれません。

 すいませんでした。もう私の話はあまり出ないのでご勘弁ください。

 なんて言いながら私が通う「県立光高校」の話しをしたいと思います。

「県立光高校」は公立高校では県下で一番学力が高いと言われている「県立湘南北高校」の次に学力が高いとされていて、しかしいつも話題に上るのは「県立湘南北高校」で学力は高いが話題性はない、という私にピッタリの空気系な高校です。皆高校三年間は大学受験までの訓練期間と割り切り、友達同士の会話も「お前この問題集やった~?」とか「YOゼミの数学講師マジ神!俺、模試で順位が三千番台突入!」などと勉学に関わる話題ばかりですし、皆自分の学力に一番興味があるので、それ以外の話題については興味が無い様です。

 いや、ここはいいです。

 やっぱり此処に入学して良かった。

 ここは天国です。

 だってみんな自分にしか興味が無いから、私に興味を示そうとしませんし、私がいくら透明になろうとその事にも興味を示しません。

 頑張って勉強して此処に入ってよかった。

 本当は学力的に「県立湘南北高校」にも余裕で入れたのですが此処にして良かった。

 大満足の学園生活スタートでありました。

 彼が入学式から一週間がたち、クラスが落ち着いてきたころ、初登校してくるまでは。

 

 極彩トムが私のクラスメートになるまでは。

 

 ※「トム初登校」


 

  私の透明な学園生活を満喫するという夢は入学一週間で粉々に砕け散る事になります。

  何故なら、トムが、極彩トムが朝のホームルーム終わり、皆が一時限目の生物の予習を机にかじり付きながら行っている時、闇の妖気を纏いながら我がクラスの扉を開け入場してきたからです。

 ガラガラガラ、ガッシャン!

「オイなってねーな!ドアって奴はプルかプッシュだろ!何だ横に開く扉って!バカにしてんのか俺の事を!殺すぞこの野郎!闇の力で葬りさるぞ!コラ!」

 トムはいきなり扉に向かってきれいな弧を描きローリングソバットを炸裂させました。

 ガッシャン!

 扉が外れ、廊下に吹き飛びます。

「闇の権族であるこのトム・ザ・サイケデリック卿にたてつくとこうなるからな!」

 と、倒れたドアに向かい叫び、唾を吐きかけました。

 鎮まる教室内。

 皆、予習の手を止め、視線はトムに釘付けです。

「何見てんだコラ!」

 皆一斉に視線を教科書に戻します。

 もちろん私も戻します。

「オイそこの空気!」

 誰も顔を上げません、それはそうでしょう、誰もこんなイカレポンチキに関わりたくは有りません。私だって関わりたくは有りません。なので私も視線を上げずにいると。

「オイ!お前だ空気女!」

 ズカズカズカ、トムは私に近づいて来て私の席の前に立ち、俯いた私の脳天に大音量で叫びました。

「オイ空気女!俺の話しが聞こえないのか!?この空気!」

 私は恐怖の支配され、米突きバッタの様にとんでもないスピードで立ち上がり直立不動でトムの目の前で新兵の様に敬礼しました。

「何でありましょうか!」

「聞こえてんなら返事しろ!」

「イエッツァー!」

「俺の席はどこだ案内しろ!」

「イエッツァー!」

 あ、ヤバ、私この子の席知らない。

「どうした早く案内しろ!」

 そもそも、トム・ザ・サイケデリックって本名?確かにこの子顔立ちはずごく整って外人みたいに見えるし、両眼カラコンで右が赤で左が青だからホントは何色だか分かんないし、でも黒髪だし、その黒髪も坊主頭で黒いって事しか分かんないし、黒髪の外人さんだっていっぱいいる訳だし、それに白い肌は本当に抜けるように白いから外人さんかもしれないし、背も高いし、百八十オーバーは確実にしてるし。

 どうすればいいの!どうすればこの窮地から私は救われるの!

 助けて神サマー!!!!!!

 

 助けてくれたのは神様ではなくチャイムでした。

 キン~コン~カン~コン~。

「はーい生物の授業始め、ウヲ!どうしたこのクラスの扉!何でぶっ倒れてんの!」

 入って来た生物を受け持つ高橋先生が至極真っ当な反応をしてトムが振り返ります。

「その扉、開けたら倒れた」

 嘘つけーーーーー!!!!!

 きっとクラス全員が心の中で叫んだはずです。

「あ、そ、もう寿命ったのかね?後で業者呼ぶから誰も触らないようにー。あー君名前は?」

「トム!闇の眷族にして、怠惰と噴弩の守護者!トム・ザ・サイケデリック!」

「あー君がトム、大友 友君ね、お噂はカネガネ、それじゃー君の席は今立ってる玉巻さんの隣だからそこ座っちゃって―」

 トムは私を睨みつけ、そして高橋先生を睨みつけ、無言で、ドカッと乱暴に席に着きました。

「はーいそれじゃ今日の授業始めまーす」

 高橋先生の能天気な声だけが教室内に響きました。

 

 これが私と極彩トムとのファーストコンタクトです。

 

 

 

※「極彩トムと愛馬アルバトロス」

 

 私は自転車通学を好みます。何故なら自転車であれば見知らぬ男性に話かけられても猛ダッシュで逃げる事ができるからです。

 私の通う「県立光高校」はその高い学力から県内あらゆる所から学生が通います。そして立地もまあまあ良く、駅から少しの上り坂を使い歩いて八分ほどで登校することができます。

 なので自転車通学者はほんの一握りです。その一握りの一人が私。

 私は出来るだけ透明でいたい空気系なので本来、一握りの一人なんてなりたくはないのですが、背に腹は代えられません。仕方が無く自転車通学をしています。

 それに私は自転車を運転するのが大好きなのです。

 登校し、自転車置き場に「玉子号」(玉子が買ってくれたので玉子号です。玉子が命名しました。)を置きにいきます。自転車置き場はいつも無人です。全校生徒で自転車通学者は十五人程度ですのでまず顔を合わす事は有りません。(これが私に自転車通学を決意させた大きな要因の一つでもあります。)

 しかし今日は自転車置き場に先客がいました。

 一番会いたくない先客。

 昨日私が天敵認定した男の子。

 トム・ザ・サイケデリックこと大友 友君がいました。真っ赤なMTBと一緒に。

「さぁ今日も俺と共にこの腐っちまった現世を飛び越え灼熱の煉獄へ逝こうアルバトロス、愛してるぜ、お前のその封印を解ける魔法が早く見つかり、俺と共にまた踊って食くれよアルバトロス」

 話かけてる!自転車に!凄い愛おしそうに!

「お前の封印が解かれこの世界が終焉の時を迎えるまで俺がお前を守るぜアルバトロス、お前は俺に、俺はお前に、俺達は二人の魂が原子レベルでコネクトしているからお互いなしには生きられない。封印が解かれる日まで、俺がその封印を解く日まで、愛してるアルバトロス。たとえ俺の命を狙っているとしても、愛してる」

 あー!サドルに愛おしそうにキスしてる!変態!変態さんがいる!

 私は今までの人生で培った空気オーラを全開にし物陰に隠れます。

 うわ!キスだけではないわ!いや脱がないで!ソレは!ソレは脱いじゃダメな部類の衣服です!そこは駄目!そんな風に擦り付けたりとかは本当は駄目な体の部品です!

 トムは愛するアルバトロス?と十分ほど熱い逢瀬を重ね、満足したかのように、アルバトロスに投げキスをしその場を離れていきました。

 私はそれを全部見てました。

 だってトムがいなくならないと自転車が止められないですから。

 決してトムの情熱的なアルバトロスへのアプローチに見入っていたわけではありません。

 決して。

 確かに見モノではありましたが。

 

 そして私は入学して初めて遅刻をしました。

 

 

 

※「その日の下校時間自転車置き場でトムと…………」

 

 一日の学園生活が終わり、私は帰路に付きます。まずは自転車置き場に向かいます。

 そこには「玉子号」、そしてそれに寄り添うようにアルバトロスが止めてありました。

 まあ、アルバトロスに寄り添うように「玉子号」を止めたのは私なのですが。

 玉子号のスタンドをはずします。サドルに座ります。鞄を前の籠に入れます。

 そして何となくアルバトロスに触ってみます。

 真っ赤なピカピカの体、もとい車体。

 手入れが行き届いていて、持ち主の愛情を感じます。

 確かに凄い愛してたっけ。

 少し朝の光景を思い出し赤面してしまいます。

 アルバトロス、お前はいい御主人様にもらわれたね。あんなに愛してくれるご主人様はいないよ。私だって「玉子号」をあんなには愛せないし。

 良いねアルバトロス。

私もあんなに私の事を愛してくれる人ができるのかしらん?

なんて事いつまでも考えていてもしょうがありません。アルバトロスから手を離し「玉子号」のハンドルを握り、軽く振りかえり、アルバトロスにサヨナラの挨拶をしました。

 

「バイバイアルバトロス、また明日」

 

 がしゃん!何かが落ちる音がして音の方向をみると、そこには手に持っていたであろう奇怪な鉄製の塊を地面に落とし、目を皿の様にマン丸にした驚き顔のトムが立っていました。

 立ち呆けていました。

「お、おまえ……」

「あ、すいません、それではさようなら」

「オイ待てコラ!」

 トムに行く手を遮られます!私ピンチ!

「お前今アルバトロスって言ったな?」

「へ?何の事ですか」

 此処はとぼけるしかありません。

「今言ったろ?俺は聞いたぞ」

「あーアルバトロスって言葉初耳です。それでは私は急いでいるのでお暇いたします。それではごきげんよう」

 トムに肩を掴まれます!凄い力です!怖い!助けてアルバトロス!ご主人様が御乱心ですよー!

「お前クシャトリアだな!?」

 へ?

「アルバトロスの封印されたその名前を知っているのは封印したシバの化身岩炎王クシャトリアと封印を解く花嫁スジャータだけのはず!さてはお前不死鳥をその体内に宿し、転生と堕天を繰り返す灼熱の狂戦士クシャトリアだな!」

 えええええぇぇぇぇぇ!!!!!

「アルバトロス!今こそ封印を解くカギが見つかった!死ねークシャトリア―!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 えええええぇぇぇぇぇ!!!!!

 ガショ! ズシャ! デコ! ザザザザザザザ――――――。

 見る見る近づいてくるトムの右拳。私が最後に見た光景はこれでした。

 その後の事は分かりません。

 だって私は最初の一撃で失神してしまったのですから。

 

 

「おら目ぇ覚ませクシャトリア」

 次に目を覚ました時、私の目の前にはトムの整った顔が大画面超アップで写しだされていました。

 辺りは真っ暗、そして此処は何処?

「それでは堕天の儀式を始める」

 トムは立ち上がりました。トムはいつ着替えたのか真っ黒なスキニージーンズで上半身は裸。体の前面にボディーペインティングで蛇革の模様が描かれていました。

 背中は手が届かなくて書けなかったんだと思います。

 そして頬には赤、青、黄色、緑、黒、白、紫、エトセトラ。色んな色でフェイスペインティングが施されていて、本人は何を意識しているのか分かりませんが、猫の髭の様で可愛らしくもありました。

「あのー」

「ん、なんだクシャトリア」

「その顔何を意識されてのペイントですか?」

「こ、これはペイントではない!これは夜になると浮かび上がってくる烙印だ!サイケデリック卿である俺の証であり夜の眷族たる俺の証明なんだ!愚弄すると地獄の業火で焼き尽くすぞ!」

「す、すいません!」

 あーなるほど抽象的な記号的な感じか―。

「焼き尽くすぞ!」

 いや、炎を司るのはクシャトリアの方じゃなかったけ?

「ふ、ふ、ふ、ふ、やっと捕まえたぞクシャトリア!さぁ!今お前を堕天しアルバトロスの封印を俺は解く!」

 天に向かい右手を突き立てるトム。その手が天井から垂れさがる蛍光灯の傘に当たりビワワワワ~ンと可愛らしい効果音をたてました。

 あーここ室内なんだ。

「友!晩御飯できたよ!お友達も来てるんなら御一緒するか教えて!」

「あー私すぐ帰りますんでお構いなくー!!!!!」

「うるせーネーちゃん!いま大事な儀式の途中だから声かけんじゃねーよ!」

「はいはい、女の子連れ込んで何してるんだか!要件すんだら降りて来て!ご飯冷めるから!」

「うるせー!」

「何言ってんの!今日はアンタの好きな唐揚げだよ!」

「唐揚げ?」

「そう唐揚げだよ!」

「生姜の臭いがするやつか!? 」

「そうだよー!肉を生姜汁に付け込んでソースいらずのやつ!アンタ好きでしょ!」

「今揚げたてか!」

「そういってるでしょー!」

 

「今日に儀式は中止だクシャトリア、命拾いしたな」

 

 いや、アンタいいの?愛するアルバトロスの封印より今唐揚げが勝ちましたけど。

 

 私とトムは階段を下り食卓に向かいます、そこで台所からさっきトムが「ネーちゃん!」と呼んでいた女性が顔を出しました。

 小柄な可愛らしい女性、神は栗色でストレートで、大きな目はクリクリで、ちっちゃくってホワホワしたくなる可愛らしさを持っている小動物的女性。

「初めまして、今日はお邪魔して申し訳ありません。玉巻 初と申します。友さんとは学校のクラスメートです」

「まぁ、なんてしっかりしたお嬢さんなの、ほら顔を上げてお顔を見せて!あ!」

 は?私の顔がどうかしましたか?

「鼻!凄い腫れてる!凄い腫れて鼻血凄い出てる!大丈夫!?何でこんな事になったの!?」

「あーそれ俺が思いっきり殴ったから」

「何言ってるのアンタ!なんで殴ったって!なんで!?女の子の顔を殴るなんて最低だよアンタ!とりあえず救急車!救急車呼ばなきゃ!」

「いえいえそれには及びませんもう血も止まっているようですし、明日、朝、近所の病院に審査を受けに行きますので」

「だめよ!頭は今平気でもいきなり来たりするんだから!それにお顔!鼻!鼻曲がってるわよ!ほっといたらそのままになっちゃう!」

「いや別にそれでも」

「だめ!女の子が鼻なんて曲がってちゃダメ!」

「はぁ」

「はぁ、じゃないのよ!!!!」

 「ネーちゃん!」は何処かに走り去っていってしまいました。残された私とトム。

「それじゃ、唐揚げいただきますか!」

 いや、君、凄い元気だね。

 トムは台所に入り、お皿山盛りの唐揚げを持ってパクつきながら出てきました。

「うひょ!ウマ!」

 凄く幸せそうです。

 私も一つ頂こうと手を伸ばすと、思いっきり脳天に肘打ちを喰らい、そのまま、また意識を失いました。

 

 

 

※「病院イン・ザ・極彩トム」

 

 私が目を覚ましたのは真っ白なベットの上でした。

 此処はどこ?私は誰?それは分かります、私は玉巻 初です。

 それにきっと此処は病院でしょう。だってお医者さんらしき人が私の顔に何やら絆創膏を張りつける作業をニヤニヤおこなっているので。

「はーい終わりだよーこれで完璧。腫れ引くまで七十二時間、必ずその間は冷やしてねーお風呂とか入って体暖めたら先生プンプンだぞー。それから痛み止め、これ本当に痛い時だけ飲んで、痛くて寝れないとか?ご飯食べられないとか?そんな感じ?イエー。それからそれから鼻触んないでねー、先生渾身の整復だからこの形を崩されると先生泣いちゃうぞー。はい、おっしまい!別嬪さんをまた一人救いました!俺ってサイコー!」

 ハイありがとうございます。お礼を言い処置されていた部屋を出るとそこには仁王立ちの玉子と、オロオロする「ネーちゃん!」と、ペインティングそのままのトムと、泣きながら般若心経を唱えているお婆ちゃんがいました。

「だいじゅぶ~~~~」

 玉子が走り寄ってきます。玉子今日も垢抜けてるなーなんて思いながら「大丈夫、大丈夫」と投げやりに玉子を抱きしめ安心させたりしてみます。

「ホントに大丈夫~女の子なんだから、顔とか命なんだから、整形しなくちゃいけなくなったら恥ずかしがらずに言ってね~お金はいくらかけたって良いんだからね~」

 ありがとう玉子。でも整形はしません。

「本当にごめんなさい!」

 「ネーちゃん!」が深々と謝罪しますが、いや、あなたは何もしていません。謝罪の必要はないですよ。

「謝罪の必要はないです」

 口に出して言ってみました。

「いや、でも!」

 「ネーちゃん!」はオロオロするだけで今にも泣きだしそうです。

「そーだよネーちゃん!コイツに謝る事なんてないんだ!コイツはクシャトリアなんだから!」

 お前は謝れトム!

「何言ってるの友!人様の娘さんキズ物にして何その態度は!謝りなさい!」

「は?何言ってんの?コイツがいけないんジャン」

「この子の何処がいけないの!申し訳ありません!あの子バカなんです!」

「俺はバ、バカじゃないわ!」

「バカでしょうが!バカじゃなきゃ変態だわ!娘さん殴って失神させて部屋に連れ込んで何か儀式しようだなんて!変態だわ!いや変態越えて変質者だわ!」

「ネーちゃん!俺は正当な理由があってやってんの!ネーちゃんには分かんないかもしれないけど!俺はセカイとか救ってんの!」

「いや!アンタ本当にバカ!このクルパー!何言ってんの!世界救う為に女の子殴るなんてありえないから!そんなのあり得ないから!女の子殴って世界救ってもそんなの救った事にならないから!バカ!」

「ネーちゃん言ってる事無茶苦茶!」

「無茶苦茶なことあるかー!」

 ペち。「ネーちゃん!」がトムの頭を思いっきり叩き、しかしその非力さゆえ可愛らしい音が鳴り、その音が病院の廊下全体に鳴り響いた所で「びえ~~~~~~ん」と「ネーちゃん!」が泣き崩れてしまいました。

「クシャトリア!お前ネーちゃんを泣かしたな!」

 いや、泣かせたのはアンタでしように。

「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」

 「ネーちゃん!」が泣きながら土下座をし、私の足に縋りついてきます。凄く罪悪感。

「ネーちゃん!から離れろー!」

 

 ガス! 

 

ハイ今日二回目の脳天肘打ちで、今日三回目の失神です。

 



 目を覚ますとまた真っ白な世界。此処はどこ?私は誰?

 そんな事は分かっています。私は初で、此処はさっき鼻の処置してもらっていた部屋です。

「いやー復帰戦見事にKO!てな感じー?参った!こんなに早くここに舞い戻るなんてどんだけデンジャーライフなの君!先生ーお風呂に入っちゃダメって言ったけど復帰戦は駄目って言わなかったもんねーメンゴ!今度はしっかり言うから!お風呂は駄目!復帰戦も格闘も駄目だから!今度失神したら先生鬼おこプンプンだぞー!」

 申し訳ありませんでした。私は頭をさげ、部屋を出ようとして立ち止まりました。

「先生、つかぬ事をお伺いしますが、私を失神させた男はどうなりましたか?」

「あー、警察」

 やっぱり。これはマズッたなーこれでは私は警察沙汰の被害者になってしまいます。

 それは好ましくありません。これでは私の肩書は被害者になってしまいます。そんなバイオレンスな肩書、透明を愛する私としては透明度が下がりまくりの肩書だからです。

 いやまいったなー。

 

 

 

※「警察イン・ザ・極彩トム」

 

 私は警察署の前にいました。

 玉子と祖母と病院を出て、一人別れ、その足で警察署に来ていたのです。警察署に足を踏み入れます。そこは長椅子が並び、カウンターがあり、さながら区役所の様相です。いや初めて来ましたが中々イメージと違うものですね。

 カウンターにいる受付の婦警さんに話かけます。

「すいません、私は玉巻 初と申します。此処に私を殴ったとされる大友 友君がいると思うのですがお会いする事は出来ますか?」

 婦警さんは私の鼻を見て、何処かに内線をかけています。「はい、はい、ではその様に」

話が付いたようです。

「少しお待ちください」

「はい分かりました」

 長椅子に座りしばし待ちます。

「いやーお待たせしましたー」

 スーツ姿の男性が二人、その後ろに「ネーちゃん!」が涙でグシャグシャ、目を真っ赤っ赤に腫らし俯きながら歩いてきました。

「被害者の玉巻 初さんですね」

「いえ違います」

「えー!玉巻さんじゃないんですか!」

 スーツ姿の一人が仰け反ります。

「いえ私は玉巻 初です」

「玉巻さんじゃないですか!」

「はい玉巻ですが、被害者ではありません」

「「えーー!!!!」」

「はい、この傷は確かに大友 友君に殴られたものです。そして病院での失神も大友 友君の肘打ちによるものです。しかしそれは遊びの範疇でありけして事件性がある様な事ではありません」

「いやいやいや、いきなり殴られて部屋に連れ込まれたってこれ事件でしょう!」

「いえ、事件ではありません、遊びです」

「なんの遊びですか!失礼ですが玉巻さんと大友君はお付き合いされているんですか?」

「いえ、していませんが、それが何か?」

「いや、男女間の暴力の殆どがそれが原因なので、それに殴られていないと言い張る女性は殆どが彼氏や御主人を庇う為なので」

「私と大友君はその様な関係ではありません」

「でも大怪我するほど遊んでいたのでしょう?」

「はい、これは練習なのです」

「なんのですか?」

「格闘技のです」

「はぁ?」

「これは友君が開発した『都市型格闘術サイケデリック・アーツ』の練習中に起きた悲しい事故なのです」

「いや今アンタ遊びって」

「そんなこと言っていません、事故です」

「いや、それわー」

「友君の『サイケデリック・アーツ』と私の『幻影徒手空拳エア』とのメンツをかけた戦いだったのです」

「いや、アンタ今練習って」

「そんな事は言っていません」

「むりがあるよー」

「決闘だったのです」

「決闘ってー」

「そこで私は破れました、敗れた私が怪我をしたり失神したりするのは当たり前ではないですか。それを皆は勘違いして大友君を犯罪者扱い、これは敗れた私の傷に塩を塗り込む行為です。私は皆さんの手を借りずとも必ずあの男、大友 友を倒して見せます!どうか私から復讐の機会を奪わないでください!お願いします!」

 深々と頭を下げます。

「それじゃー被害届は出さないんですか?」

「はい、何も被害はないので」

「いいのですか?貴方は鼻を折られているのですよ?」

「はい、鼻よりも大事な物がありますので」

「ソレはなんですか?」



「透明度です」

 

 

 

※「極彩トムと透明な花嫁」

 

 私は七十二時間、つまり三日間学校をお休みしました。鼻がこんなでは空気化することが大変難しく。断腸の思いで学校を休ました。

 だって三日間も休んでソレはソレで悪目立ちしてしまうかもしれないではないですか。

 鼻は少し青いですが、玉子のファンデーションを使い良い線まで隠すことができました。何より腫れが引き、形が戻ったのが良い、色は何とかなるものです。

 トムはひとまず被害届が出ないことと、やられた私もクルパーらしいという事でとりあえず家に帰ることができました。

 「ネーちゃん!」は何度も私に泣きながらお礼と謝罪をしましたが。全ては私の為なので、私の透明度保護の為なのでなにか騙しているみたいで申し訳無かったです。

 しかし、クラスの扉をローリングソバットで吹き飛ばした件が誰かのチクリにより発覚し、トムは一週間の停学処分になりました。

 哀れトム、仕方が無い、バカなんだから。

 

 そして久方ぶりの登校の朝です。

「いってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

 玄関で見送る祖母が、お守りをくれました。

「これ退魔の護符が入ってるから肌身離さずにね」

 祖母はトムを悪魔だと認定した様です。

 良かったねトム。此処に一人だけアナタを闇の眷族と認めてくれた人間がいますよ。

 それでは行ってきます。

 

 学校に付きました。

 自転車置き場、此処はトムに殴られた場所です。

 少し怖いかなって思いましたが何の事は有りません、唯の自転車置き場でした。

 「玉子号」を止めます。

 そして声が漏れてしまいます。

「アルバトロス」

 そこには昨日と一昨日の雨に晒され、砂に塗され汚れた哀れアルバトロスの姿がありました。

 

 回想します。

 

 トム、私を此処で殴る。

    ↓

 私、失神。

    ↓

 トム私を連れて帰ろうとする。(ここ、改めて考えると鳥肌モノの恐怖です。)

    ↓ 

 私を抱えるとアルバトロスに乗れない。

    ↓

 アルバトロスを諦め、私を抱えて帰る。

    ↓

 アルバトロス、取り残される。

    ↓

 トム、一週間の停学。

    ↓

 アルバトロス吹きっ晒し。

    ↓

 私に発見される。←今ココ。

 

「しかたがないなー」

 アルバトロスを見るとカギはされてない様です。

「ご主人様に会いたい?」 

「あいたいでちゅ~」

 こんな赤ちゃん言葉ではないか。馬だし、いやホントは自転車だけど。

 仕方が無い持ち主の元に、いやご主人様の所に連れて行ってあげますか。

 私はアルバトロスのステップを外し跨ります。

 足が付かない!トム!どんだけ足が長いのよ!

 ユラユラとアルバトロスを漕ぎだします。

 ユラユラユラユラ。

 ユラユラユラユラ。

 

 そして私は初めて学校を無断欠席しました。

 いやん、また透明度が下がっちゃう。

 

 

 トムの家の前まで来ました。

 アルバトロスから下り、チャイムを鳴らします。

 ぴ~んぽ~ん。

「はーい」

 あ、「ネーちゃん!」の声です。

「玉巻さん!」

「おはようございます」

「どうして此処に!」

「いや、アルバトロスをお届けにまいりました」

「アルバトロスって?」

「この自転車です」

 私はアルバトロスを前に出し、「ネーちゃん!」に渡します。

「それでは」

「ま、まって!友!玉巻さんが自転車持って来てくれたよー!お礼言いなさいー!」

 いや、トム君と会うとまた殴られるから会いたくないんですー!

「アァァンー!!クシャトリア!オメー何しに来やがった!またネーちゃん!泣かしに来たか!今度こそぶっ殺すぞ!」

「違うわよ友!玉巻さんは自転車届けてくださったの!」

「あっ!アルバトロス!テメーアルバトロスに何をした!」

「違うの!届けてくれたの!」

 いやー親切すると良い事ないですねー。

 まぁ秘策はありますが。殴られるのは痛いので。

 ズイと前に出ます。

 胸を張って、ズイと前へ出て、不敵に笑います。

「アルバトロスの名前、なんで私が知っていたか知りたくはないですか?」

「あーそりゃオメーが岩炎王クシャトリアだからだろうが!」

「違います」

「あー!何言ってんだテメー正体隠すとぶっ殺すぞ!」

 いや、正体明かしてもぶっ殺すでしょアナタは。

「違います、私は岩炎王クシャトリアではありません。しかし前世からアルバトロスとは結ばれています」

 これが秘策、トムは最初にいっていたのです。アルバトロスの名を知っているのは、

 トム・ザ・サイケデリック卿と。

 岩炎王クシャトリアと。

「お、おまえ!も、もしかして!」

「そうです、私は封印を解く約束の花嫁スジャータです」

 トムは驚愕を顔に浮かべ一歩下がります。

 私は不敵な笑みを浮かべ一歩前に出ます。

「私が約束の花嫁スジャータです。貴方の敵ではないのですよ、トム・ザ・サイケデリック卿。でも私はまだ覚醒の途中です。まだアルバトロスの封印を解くほど力が回復してはいません。私が完全体となったその時、貴方の愛馬アルバトロスを必ず降臨させて見せましょう。それまでしばしお待ちを」

 トムは驚愕の顔を崩さず、その上顔色が白を超え青を超え土気色に変わっていました。

「いや、そんなはずないだろ」

「いや、私がスジャータです」

「いや、そんなの嫌だよ」

「いや、私がスジャータです」

 ふふふふふふ、今までの仕返しです。此処はしつこく食い下がってやりましょう。

「私がスジャータです」

「私がスジャータです」

「私がスジャータです」「私がスジャータです」

「私がスジャータです」「私がスジャータです」

「私がスジャータです」「私がスジャータです」「私がスジャータです」

「私がスジャータです」「私がスジャータです」「私がスジャータです」

 

「私がスジャータです」

 あれ?トムの顔がいきなり真っ赤になりました。なんかモジモジし始めました。

「あれなの、やっぱお前あれなのかな?」

 いや、何か可愛らしく人差し指同士ををクリクリし始めました。

「やっぱりあれ、俺、ほらこんな形でこ、告白とか慣れてないからさ」

 おや?なにか雲行きが怪しいです。

「やっぱりあれ?お、俺の事、す、好きってことで良いんだよね?」

 ハァ!?
 何言ってるんですかこの生き物は?

「あれじゃん?スジャータって事は俺の花嫁って事じゃん?俺前世からの誓い守って女と今まで付き合った事ないから、君の為に全て初めてのままだから、その、あの、俺の事大切にして下さい!」

 はぁ!?
 え? なに? 約束の花嫁スジャータってアルバトロスの花嫁ではないんですか? あなたの?トム・ザ・サイケデリックの花嫁なんですか!?

 ウヲー!!!バットチョイス!なんてキャラ選んでしまったんでしょう!これは取り消さねば!早く!早く!なんとしても取り消さねば!!!!

「愛してるから」

 いやいやいやいや!愛してないですから!

「君の事、命に代えても守るから」

 いやいやいやいや!自分の身は自分で守りますから!

「子供は三人が良いから」

 いやいやいやいやいや!嫌ぁーーーー!!!!!

「友!玉巻さん困ってるじゃない!」

 「ネーちゃん!」私を助けてください!

「友、女の子は難しいの。アナタがこのままではスジャ―タさんもアナタの事嫌いになりわよ。前世でいくら愛し合っていても女心は変わりやすいんだから。まずはその空想話人前ではするの止めようねー」

 

 は、なになになになに、なにいってるんですかぁ!!!!!

 

「何言ってんだネーちゃん!空想じゃねーツーの!現にほら!スジャータが現れたじゃねーか!」

 

 現れてませんよぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 

「違うの友、その話し誰かに聞かれて困るのハスジャータさんなの。いくら本当の話でも空想話って言われたらスジャータさん悲しんじゃう!友、スジャータさん悲しんでも良いの?」

 

 悲しみませんよ!!!なに話進めてはるんですかぁ!!!!!

 

「いいはずないだろ!」

 

 いいはずないだろぉぉぉぉぉぉ!!!!!

 

「それじゃその話は誰かの前でしない約束できる?」

「おお!約束するわ!」

 

 なに快い返事してはるんですかぁぁぁぁぁ!!!!!!!

 

「それから、誰かを殴ったり暴力は駄目、何かを壊したりも駄目、この世界のルールに沿って生活しないと駄目よ」

 

 あーーーーアンタこれを機にトム更生させようとしてんなぁァァ!!!!

 

「なんでだよ!俺は上位生命体だぞ!なんで塵屑たる人間の作ったルールに縛られなきゃなんねーんだよ!」

「だってスジャータさんはこの世界であなたと生きたいの。だからこの世界で浮きたくはないの、この世界の住人の繰りをして貴方と生きていきたいの。だから上位体ってばれては駄目なの。スジャータさんの為よ出来る?」

 

わたしゃ元々人間ですけどぉォォォォぉ!!!!!

 

「あーそんぐらいできるわ!」

 

快諾するなやぁぁぁぁ!!!!

 

「よし!お姉ちゃんはこの交際を認めます!」

 

 認めるなやぁァァァァぁァァ!!!!!

 

「ありがとうネーちゃん!」

「愛してる友!」

 グワシって感じで抱き合う姉弟を目の前に、心の中で突っ込み過ぎて疲労困憊の私はただただ完敗するばかりでもう声も出ません。

「たいへんでちゅね」

 慰めてくれるのはあなただけですアルバトロス。

「はい、ぼくちん、こにょふたり、マジキチにんていしてましゅから」

 あー弟だけではなく?

「しょうです、あのネーちゃん!もマジキチでしゅよ」

 教えてくれるのが遅いですよ、アルバトロス。

「あーしょこらへんは、まだ、よく、わきゃらないでしゅ」

 なんて頭の中でエア・アルバトロスと会話しましたが解決はするはずまありません。

 そして何度か、目の前で泣きながらハグし合う姉弟に話しかけましたが完全に無視されまして、この二人私の意見を聞く気は全くない様です。

 仕方が無い。

 此処は帰りましょう。

 アルバトロスに跨り、ユラユラ、ユラユラと漕ぎだします。

 

 

 

 私の透明は崩壊しました。

 私が欲していた透明はこの二日間で完全に崩壊しました。

 私の体に色が付き始めます。

 目は栗色に。

 髪は亜麻色に。

 肌は真っ白に。

 唇は真っ赤に。

 頬はバラ色に。

 

 私が隠していた、私の原色が私の体から滲み出て来てしまいます。

 

 まぁ、仕方がありません。

 明日からまた修行です。気配を消して、目立たず、赤抜けず、それでいて悪目立ちもしない。そんな存在になるため、明日からまた空気化する修行をしなくてはいけません。

 

 だって私は透明を愛してるんですから。

 透明でいたいんですら。

 透明で誰からも気が付かれず、それが私は私である証明なんですから。

 透明は全てに対してフラットですから。

 

 だって透明が一番美しいんですから。

 

 でも、今は、少しだけ。

 少しだけ、この原色の私と、アルバトロスが奏でるスピードを楽しもうではありませんか。

 

                       END

 

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