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No.5 Wasted shortfilms

【地下・個人アトリエ ■■■■■と学芸員の会話】

…―あぁ、学芸員さんか。

ごめん、この鉄パイプは、その、廃材だよ。廃材。
邪魔かなと思ってどけただけ、殴るだなんてそんなことしないよ。構えたように見えたって気のせいじゃないのかな。

また、腕の傷が増えたって?

絵具と混ぜるときに、この腕の方が都合がいいんだ。このままパレットを持ったままいけるし。で、なんのよう?

…頼んでいた本を、届けて頂けてくれたんですね。
ありがと…う…ねぇ…なんで…本渡してくれないの…?

包帯?輸血?治療が先?そんなのいらないよ。
まって、ごめん。その本がないと進まないんだ。

・・・・・・・・・・

なんかこのあたりでうろつく人が増えたね。そんなに行き場に困ってんのか、それとも別の理由であんのかな。

この前さ、個別のアトリエで、意気投合した人がいて。あの人はすごいよ。それでも同じ作品で勝負するって戦ってた。そんなことよくできるよね。だって、少しでも人の手が入ったら、人の感情が入ったら、それはもう別の作品だからさ。

だって、それで、じいちゃん、殴り殺しちゃったし。

聞いてよ。ちゃんと罪は償ったよ。…悪いのはじいちゃんだけど。
だってさ、映画祭用の『管内英雄の歴史』ってやつ。

今は「地方の名作の代名詞」みたいに語られているけど、資料も集めて、絵も描いて、動画も撮れるようにして、やっと形になった矢先に、じいちゃん、いや、あいつが、「ネットを使いこなすための練習材料」として動画サイトにアップしてさ。しかも、TV局のチャンネルかどっかで人気者になって、まるで自分が作ったようなふるまいをしたんだ。責め立てられるのはあいつの方だ。

あぁ、ごめん。動かないよ。本のためだから。でもさ、なんでその程度でってそんな殴り殺すまでって家族はみんな責めたけど、逆になんで責め立てられずに生きられたのか、あのまま生きようと思ったのか理解が出来ないんだ。

学芸員さん、学芸員さんやボスはなんのために作品を書くんだろうね。
きっと人の数だけちがうんだろうけど。でも、ここにある作品、いや、これ全部、遺書みたいなものなんだ。

ここにない作品、あの作品は、いいや、あの『遺書』は未熟だったんだ。だからあんなに簡単に取られてしまって、それで誰も信じてくれなかったんだ。今度は、見てきたこと、聞いたこと、言われたこと、そして血も内臓も、皮も爪一枚髪一本だって自分を材料にして作るんだ。

キャンバスの絵に使っている絵具には血を、そこの石膏には石膏を固める前に粉にした爪や皮膚を、それでそれでそこの自画像の目元には抜いたまつげを差し込んで、それでアトリエ全部にはカメラを仕込でるんだ。面白いでしょう?ボスにはちゃんと許可とったよ?本当さ。

…今度こそ、いや、たとえ死んでも、誰のものにもならないように。きっと自作発言をする馬鹿な盗人がいたら遺伝子レベルでお前のものじゃないって証明できないような作品を作るんだ。

痛くないのかって?痛いよ。当たり前じゃん。

…みんな命を大切にしろって言うけどさ、正直わかんないんだよね。
てか、すんごいむかつく。そういうやつほど殺しにかかってくるんだ。

だって、みんなかっこいいセリフを与えられた主人公みたいに道徳や武勇伝を悦に浸って話してくるんだ。心配なんかどこにもないのに、でも、「真理を説いてる自分かっこいい」「自分の武勇伝話せて気持ちいい」ってどいつもこいつも楽しんでるんだろうね。そりゃ、その人たちも苦しかったのかもしれないけどさ、人の痛みを大したことないってマウントとってくる感じが嫌い。滅びればいい。全人類の総意みたいにいってくれるなっての。

え、もしも、今のアトリエがなくなることあったらどうするのかって?

ボスが決めたなら仕方ない。新しい場所を探す。けど、もし、そうじゃないなら、地獄の果てまで原因を突き詰めて根絶やしにするよ。そうだなぁ、誘導型の目印は、なにがいいだろう。有名どころのネズミは、なんか真似しているみたいだし。でも、なんも思い入れがないのも…―そうだ、ボスにちなんで兎を目印にして、検索している傍観者のネットをハッキングして、バールや鉄パイプ持って会いに行けばいいんだ。

だって、アトリエに関わったなら、ここのルールの適用していいってことでしょ?…冗談だよ、冗談。警告はちゃんとしてから会いに行くよ。

あ、今のボスやみんなには内緒ね。作品と居場所を守るためにやるだけだからちゃんと理由はあるよ。そのあとは…どうせ行き場もないから野垂れ死にだろうね。勘当されて行き場もないし。でもいいよ、捨ててるというか捨てられた命だし。

…作品はいいよね。作者死んでも、ずっと残ってくれるから。死んだ時にアトリエが残っているなら、その遺体を燃やしたり埋めたりするのもここにしてほしいな。他に受け入れてくれる場所なんてないし。

…それに、作品を、ここにある作品は、もう、もう誰にも渡したくないんだ。これは、だれでもないし、だれのためにも作ってない。だから、作品を奪うやつは容赦はしない。年上?年下?権力者?貧乏人?どれだって関係ないね。覚悟なく関わったからにはみんな敵だ。

誰だって、自分の墓場を荒らされて喜ぶ奴なんかいないだろう?


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