「……スっ、ぅ――」

呼吸する。
一番大事なことはそれだ。
これが疎かになれば、他の全てもしくじることになる、と昔から師匠にうるさく言われてきた。
息を吸う。吐かずにもう一度吸う。

さらにもう一度。

「スウぅぅぅぅぅ……」

拳を構え直す。
狙いは真正面。
相手は自分よりも圧倒的に大きい。
だからどうした。
逆に言えばそれは”どこに打っても当てやすい”ということだ。

息を吐いた。

肺いっぱいに貯めた酸素を順番に全て吐き出しながら動作する。
肩が、腕が、肘が、拳が直線で繋がる。
足が地面を踏みしめて。音を立てながら地に沈み込んだ。

「せぇああああああああああああッ！！」

空気を突き破りながら放った拳は一打目で相手の胸から腹下までを穿ち、二打目で背中から拳圧が飛び出した。

AAAAHrrrrrrGGGGG！！

悲鳴と血飛沫をあげて、地響きと共に巨体が倒れこむ。

かくて後に「不壊の拳聖」「屠龍拳聖」としてその名を知られる異世界転生者ジェームズの最初の竜退治が終わった。

【続く】