見出し画像

HR/HMのプロダクションの歴史

ビールの話ばっかりじゃなくて音の話もしよう。

メタルが好きじゃなければ多分、ヘヴィメタルの音なんてみんな同じに聴こえるんだろう。
でも実際にはそうじゃない。HR/HMにはその国や地域のポピュラーミュージックの成長の過程や音楽的な文化の違いが現れまくってるし、ポピュラーミュージックのサウンドプロダクションの成長を先取りし続けてきた……と、私は思ってる。

そんなHR/HMのプロダクションがどのように進化してきたか、めっちゃ主観的に書いてみる。

黎明期

ヘビメタとか何とか言っても最初はこんなもん。
SMっぽいボンテージファッションの是非は置いといて、ベースになってるのはLed Zeppelinとかそのあたり。
まだまだロックの範疇に入るサウンドの域を出ていない。
その後時代に合わせてアップデートしてはいるものの、基本的には他のジャンルとサウンドを差別化するには至っていないかなと思う。
まあレコードっていう制約がデカいかなとも思う。

第一の転機

最初の転機になったのはPanteraのCowboys from Hellかな?
時代の流れもあるだろうけど、このアルバムを境にオンマイク中心のパワー重視なサウンドに変化していく。
面白いことに、笑っちゃうくらいこれ以降の音源はみんなこのサウンドを模倣していく。

そういう意味で、HR/HMがメタルとしてのサウンドのアイデンティティを確立した瞬間であり、他のジャンルと袂を別つ進化を始めた第一歩かなと思う。
とことんソリッドで、一音一音の抜けと力強さを重視したサウンド。

第二の転機

二つ目の転機はKORNのLife Is Peachyあたりになりそう。
ヒップホップのサウンドメイクをかなり積極的に取り入れたのが、その後のアメリカのHR/HMというか、ヘヴィミュージック系全般に与えた影響はかなりデカいような。
KORNがやらなくても、遅かれ早かれ他の誰かがやったような気がしないでもないけど。
でも、このあたりはアメリカのサウンド的なアイデンティティが確立された瞬間のような気がする。

Pantera以降のサウンドをベースにしつつ、ヒップホップ的なアナログ感のあるトランジェントを取り入れることで、一旦分かれたロック的なアプローチと再結合した。
それ以降今に至るまでアメリカのHR/HMのサウンド的ルーツはここにあって、PeripheryやDjent系も例外じゃないなと思う。

第三の転機

アメリカがプロダクションの方向性を確立したのとほとんどタッチの差。
Studio Fredmanが手掛けるArch EnemyのBlack Earthで、所謂メロデスサウンドの基軸が固まったような。
これのちょっと前から方向性は固まりつつあったように思うので、これが切っ掛けかというとちょっと悩ましいところではある。
Arch Enemy自体はその後Andy Sneapが手掛けたりして、メロデス系のサウンドの枠には収まりたくなさそうだけど。でも他のメロデス系バンドのサウンドのルーツになってるのはこのあたりなんじゃねえかなって思う。

サウンドクオリティはその後も上がり続けるけど、土台になる部分はここのような気がする。
正直なところ、メロデス系北欧サウンドには疎いのであんまり。

第四の転機

アメリカと北欧がプロダクションの方向性を確立してから5年くらい?
Colin Richardsonの手によってイギリス流のプロダクションが確立されたのは、ChimairaのThe Impossibility of Reasonと思う。
Panteraのソリッドな音をルーツにしつつ、空間の響きを取り入れてHR/HMのプロダクションに空間という概念を持ち込んだ。
Metallicaのブラックアルバムとか、あのあたりのPantera以降のスラッシュメタルやNWOBHのサウンドを今風にリバイバルしようとした結果がコレかなーと個人的には解釈してる。

MegadethのEndgameもこの系統としてかなりのインパクトをもたらしたけど、基本的にはコレの延長線上かなという感じ。

第五の転機

他と比べると大きな差ではないんだけど。KsEのAs Daylight Diesは、アメリカ系のサウンドにイギリス系のテイストを持ち込む切っ掛けになったと思う。
前作でAndy Sneapがミックスしてたので、それを採り入れたんだろうなっていう気がする。
このあたりの時期にUltimate Metal ForumのAndy Sneapチャンネル?がめっちゃ盛り上がって、HR/HMの中で異文化交流が盛んになってプロダクションのクオリティがめっちゃ上がった記憶がある。
言語の壁がある日本はこういうところが辛いよなぁ……。

この後、MAメタル系を中心にアメリカのテイストを残しつつもイギリス系のトランスペアレントなテイストを取り入れる動きが活発に。
アメリカにしか存在しない分厚い音っていう個性はしっかり残しつつ、ヒップホップ色を払拭してHR/HMに回帰し始めたのは結構熱い。
今、平均的なクオリティが一番高いのはアメリカなんじゃないかなぁ。今の日本が目指そうとしてるのもこのあたりの方向性なのかなって思う。

まぁKsEはその後アルバム2枚作って、どちらもこの方向性を引き継ぐことに失敗して、それ以降再びAndy Sneapがミックスするようになったのだけど。

締めの一言

最後に私が一番好きな音を貼っておく。
敬愛するAndy Sneapの音。基本はColin Richardson系統で、そこからアタックを立たせた感じ。
コンプやら何やらでアタック感が犠牲になっていない分、速い音=オンマイクと遅い音=アンビやリバーブの時間差が奥行き感を演出してる。

HR/HMの音はワンテンポ遅れてロックやポップスに波及してるので、こういう音を他のジャンルでも聴ける機会がそう遠くないうちにやってくるかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?