Monaparty の新機能 - 上場不可アセットと再移転不可アセット (3/3)

前回同様、形式的ながらも大事なことから。

当記事は、暗号通貨を用いたサービス開発の参考となる情報提供のみを目的としており、 日本並びに諸外国の法規との整合性を保証するものではありません。必要に応じ、各国政府機関ならびに法律の専門家へご相談ください。

無保証ですよ、と。

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Monaparty の2つの新機能のうち、前回は上場不可アセットについて説明しました。今回は、もう一つのほう、再移転不可 (non-reassignable) アセットについて説明します。

Monaparty 以外のブロックチェーンに詳しい方なら、「NEM の non-transeferable mosaic と概ね一緒です」で、ざっくり説明が終わってしまいます。

「似た概念なら、用語も一緒にすればいいのに」という感想を抱く方もおられるでしょう。ご意見は分かるのですが、Counterparty では、アセットの所有権譲渡に transfer という語が使われています。用語の混乱を避けるために敢えて、reassignable という別の語を当てています。

「NEM のことなんて知らない」という方のために、そして NEM のとは若干違う部分もあるので、改めて説明します。

再移転不可フラグと共に生成されたトークンアセットには、下記の制約がつきます。

・送信者または受信者、いずれか片方のアドレスがトークンアセットの所有者 (Issuer) である必要があります。
・DEX でトークンアセットを売り出せるのは、トークンアセットの所有者のみです。

少し噛み砕きます。

・再移転不可フラグ付きアセットの所有者は、任意のアドレスにアセットを配れます。DEX に対する制約もありません。
・再移転不可フラグ付きアセットを受け取った側は、そのアセットの所有者にしか送信できません。そのアセットは DEX で売出せません。しかし DEX で買い注文を出すことはできます。

まだ少し、ややこしいでしょうか。具体的な応用例をいくつか出してみます。

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 A氏が対面での即売会イベントを実施するにあたり、保安面から、本人確認後、入場チケットを(トークンアセットで)発行するとします。

この場合、別人に譲渡されると、本人確認の意味がなくなります。

そこで、A氏は、入場チケットとして用いるトークンアセットを、再移転不可フラグ付きで発行し、参加者の本人確認後に配布します。

参加者らは、A氏が所有するアドレスにしか入場チケットを送信できません。DEX での転売もできません。仮に A 氏に送り返しても、入場できなくなるだけで、無意味です。

即売会当日、参加者はウォレットを見せ、入場チケットの存在を示します。

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A氏の事例が、NEM の non-transferable mosaic でよく喩えられる活用法で、nemket など実際に使われた例もあります。

上記の他に有望な応用分野は、いくつかあります。

例えば、ゲーム内アイテムの管理。RMT (Real Money Trade / 現金でのゲーム内アイテム売買) を嫌う分野では、発行者以外のアドレスへのアイテム移動は阻止したいという動機があります。

また、飲食店などでしばしば見られる、特定の店のみで通用する前払式支払手段も応用分野として考えられます。発行者と顧客以外のところに送信できると、第三者発行型と呼ばれる厳し目の分類になります。再移転不可であれば、自家型と呼ばれる緩めの分類であると主張できそうです。

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Monaparty は、NEM には無い DEX の機能があります。この特徴を利用すると、オークションやクラウドファンディングのバックエンドとして Monaparty のインフラを活用可能です。例示してみます。

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時計屋を営むZ氏が、特注の時計をオークション形式で販売することにしました。

Z氏は、CRYPTCOIN.WATCH という再移転不可アセットを数量限定で発行します。

そして、見込み顧客に向け「DEX で CRYPTCOIN.WATCH アセットに買い注文をだしてほしい」と呼びかけます。ペアとなるアセットはなんでも構いませんが、XMP アセットが無難でしょう。Monacoin を燃やした結果なので、弱くとも価値の裏付けがあります。

見込み顧客は CRYPTCOIN.WATCH アセットの所有者ではありませんが、DEX に買い注文は出せます。

予告した一定期間経過後、Z氏は CRYPTCOIN.WATCH アセットの売り注文を出します。最高入札者から順に、CRYPTCOIN.WATCH アセットの売買注文が約定していきます。

オークション終了後、約定した CRYPTCOIN.WATCH アセットの持ち主は、時計の送付先を記したテキストファイルに、自分の鍵ペアで署名して、Z氏に送ります。

Z氏は、落札者のアドレスにアセットがあることと、署名が正しいことを確認し、時計を送付します。

お気づきの読者もいらっしゃると思いますが、このユースケースは Zaif 仮想通貨交換所が、時計の販売で行ったものと基本的な骨格は一緒です。DEX を用いていることと、送付先の確認に電子署名を用いることで、非中央集権の度合いは高くなっています。

クラウドファンディングの場合は、先に再移転不可アセットを売り注文に出しておくことになります。他はオークションと同じ手順で実現可能です。

オークションおよびクラウドファンディングのユースケースでは、使用するアセット (上記例では CRYPTCOIN.WATCH アセット)が仮想通貨に該当するか否かが問われます。資金決済法によると "これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ" ることが仮想通貨の定義(第2条5一)で、発行者に対してしか使用ができない CRYPTCOIN.WATCH アセットは、これを満たさないことは明らかでしょう。交換にあたり片方が仮想通貨でなければ、"仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換" という仮想通貨交換業の条件(第2条7一)を満たさないはずです。

ただし、実際にサービスを提供する場合には、LCNEM が行ったように、金融庁への照会を行っておいたほうが無難でしょう。

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仮想通貨交換所での盗難事件に詳しい方は、NEM の non-transferable mosaic が、コインチェック事件でのアドレスタグ付けに使われたことをご存知かもしれません。

Monaparty の再移転不可アセットも、同様のタグ付け用途で使えなくもないです。しかしながら、再移転不可アセットは、タグを付けられた側が、低コストで送り返すことができてしまいます。この辺りは NEM と若干事情が異なっており、「悪意あるアドレスへのタグ付け用としては使えない」と考えたほうが良いように思います。

余談になりますが、Monaparty では、アドレスへのタグ付けをも可能とする新機能の実装を予定しています。しかしながら仕様策定段階なので、ここでは予定を述べるに留めます。

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Monaparty の新機能のうち、再移転不可アセットについて解説しました。

少し長くなりましたが、その分だけ潜在的な応用範囲は広く、新しいアプリケーションが生まれる可能性が高い機能と当業者BOTの中の人は考えております。

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