見出し画像

税務署に相談していた暗号資産のステーキングの税金について、無申告加算税が課された事例

暗号資産のステーキングによる所得の税金について、関与税理士とともに税務署に相談していたもののすぐには回答をもらえなかった納税者が、申告期限を過ぎた後に所得税の確定申告書を提出したことに対して、課税庁から無申告加算税を課されたため、期限までに申告書の提出がなかったことについて「正当な理由があると認められる場合」に該当し、無申告加算税は課されないと主張した事案を紹介します。

国税不服審判所令和5年5月19日裁決(関裁(所)令4第37号)は、納税者の上記主張を認めませんでした

なお、ステーキングにより得た暗号資産に対して、直ちに所得税が課税されるかという点については争われておらず、納税者はステーキングによる収入は雑所得に該当するものとして、自ら確定申告を行っています

全体として、法令解釈及び結論に関する審判所の判断は妥当であると考えます(ステーキングの税金については諸説ありますが、差し当たり、国税庁のFAQの取扱いを前提にした場合)。

ただし、税務署ではなく、納税者本人が第一次的に自分の税金の申告と納税に関する責任を負うという現行制度(申告納税制度)を前提にするとしても、暗号資産の課税関係について不明確な点が多いまま、新種の取引が次々に登場していることを考慮すると、ひとり納税者のみに、過少申告や無申告に対するペナルティ(加算税)というリスクやさまざまな費用を負担させるべきなのかという問題は提起することができると思います。

本件について、納税者はもう少し早く税務相談を行った方がよかったとはいえますが、そもそも新種の取引、複雑な取引に対する税務署の回答には時間を要することが多いため、いずれにしても申告期限までに間に合わない可能性があったでしょう。

加算税や延滞税というペナルティを回避するために、納税者としては、期限内にステーキングによる収入を雑所得として申告・納税しつつ、これを雑所得に含めるのは誤りであったと主張して、税務署長に更正の請求を行うという手もあったと思います。

納税者から課税庁に対する照会制度についても、誰がどの程度、費用を負担すべきであるかという視点で検討することができるでしょう。

裁決書をダウンロードしたい方は以下からお願いします(同日付で関連する裁決がもう1つあります)。




1 事案の概要

請求人(審査請求人=個人である納税者)が、令和2年分の所得税等の確定申告書を法定申告期限(令和3年4月15日)後に提出したため、原処分庁(税務署長)は無申告加算税の賦課決定処分をしました。

無申告加算税は、申告期限までに申告しなかったことに対するペナルティで、税率は税額の15%、一定の場合には5%などになります。

この無申告加算税は、期限までに申告書の提出がなかったことについて「正当な理由があると認められる場合」には課されません(国税通則法66条1項ただし書)。

請求人は、次の点を主張して、期限内申告書の提出がなかったことについて上記の「正当な理由」があるとして、無申告加算税の賦課決定処分の取消しなどを求めました。

  • 原処分庁にステーキングにより暗号資産を取得した場合の取扱いについて相談していたにもかかわらず、的確な指導がなかったこと

  • 当該取扱いが国税庁ホームページに掲載されたのが令和3年12月であったこと

1-6 マイニング 、ステーキング、レンディング など により 暗号資産を 取得した場合 〔令和3年12 月更新〕

問 マイニング 、ステーキング、レンディング など により 暗号資産を 取得した場合 の 所得税 又は法人税 の課税 関係はどのように なりますか。


マイニング 、ステーキング、レンディング など により 暗号資産を 取得した場合、その 取得に伴い生ずる利益 は所得税 又は法人税 の課税対象となります。いわゆる「マイニング 」 、 「 ステーキング 」 、 「 レンディング 」 など(以下「マイニング等」といいます。) により 暗号資産 を 取得した 場合、そ の 取得した 暗号資産 の取得時点の 価額 (時価については所得の金額の計算上総収入金額 法人税においては 益金 の額 に算入され、マイニング 等 に要した費用については所得の金額の計算上必要経費 法人税においては 損金 の額 に算入されることになります 。

令和5年12月最終改訂版 国税庁「暗号資産
等 に関する 税務上の取扱いについて(FAQ)」

2 争点

令和2年分の所得税等に係る期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法66条1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か。

3 審判所の判断

(1)法令解釈

通則法第66条に規定する無申告加算税は、納税者に期限後申告書を提出したという事実があれば、原則として、その納税者に課されるものであり、これによって当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的な不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務の違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。

(裁決文からそのまま引用)


このような無申告加算税の趣旨に照らせば、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」とは、期限内申告書が提出されなかったことについて、例えば、災害、交通や通信の途絶等、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に無申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である。

(裁決文からそのまま引用)

(2)認定事実

  • 請求人は、令和3年2月15日、請求人の関与税理士ほか3名を帯同して を訪れ、原処分庁所属の職員(本件相談担当職員)に、本件税務相談をした。

  • 本件相談担当職員は、本件局担当職員の指示を受けて、上記以降複数回にわたって暗号資産のステーキングに関する具体的な事実関係の説明や資料の提出について、請求人に直接、又は本件関与税理士を通じて依頼した。

  • 本件相談担当職員は、本件局担当職員からの回答を受けて、令和3年4月15日、本件関与税理士に対し、請求人からの説明等では前提事実が不明確であり、検討できない旨伝えた。

  • 国税庁は、令和3年12月22日付で、同年6月30日付「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)」を改訂し、国税庁ホームページに掲載した。当該改訂後の情報に係る別添「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(本件FAQ)の表紙(1ページ)には、「このFAQは、暗号資産に関する税務上の取扱いについて、税目ごとに寄せられた一般的な質問等を取りまとめたものです。」との記載があり、また、当該改訂に係る内容のうち、本件FAQの10ページ「6 マイニング、ステーキング、レンディングなどにより暗号資産を取得した場合」には、本件取扱いについての記載があった。

(補足)時系列について、裁決によれば、次のように整理することができます。

令和3年2月15日:
請求人が本件相談担当職員にステーキングの課税関係について税務相談

令和3年4月15日:
・令和2年分所得税等の確定申告の法定申告期限
・本件相談担当職員から本件関与税理士に、前提事実が不明確であり、検討できない旨の回答

令和3年12月22日:
ステーキングの取扱いを記載した国税庁FAQがホームページに掲載

令和4年3月10日:
請求人が令和2年分の所得税等の確定申告書を提出(期限後申告のため無申告加算税が賦課されることになる)

筆者作成

(3)検討及び請求人の主張に係る審判所の判断

審判所は、次の点を指摘して、令和2年分の所得税等に係る期限内申告書の提出がなかったことについて、通則第66条1項ただし書に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないとし、請求人の主張を採用しませんでした。

  • 請求人は、法定申告期限後である令和4年3月10日に令和2年分の所得税等の確定申告書を提出していることから、原則として請求人に無申告加算税が課されることとなる。

  • 所得税等については、納付すべき税額を納税者の申告により確定することを原則とする申告納税制度が採用されていることからすれば、納税者は、税務署における税務相談において的確な指導や助言等がなかった場合であっても、所得税等の申告について、自らが十分な検討をした上で、最終的には、自己の判断と責任において申告を行うことが要求されているというべきである。

  • また、本件相談担当職員は、本件税務相談を受けて、本件局担当職員の指示を仰ぎ、請求人又は本件関与税理士に、暗号資産のステーキングに関する具体的な事実関係の説明や資料の提出を求めた上で、最終的に、前提事実が不明確な状況では検討できない旨を本件関与税理士に伝えたのであって、その対応において、格別、不適切な点はなく、加えて、請求人及び本件関与税理士に対して、確定申告が不要である旨伝えるなどの誤指導をした事実も認められない

  • さらに、本件取扱いが記載された本件FAQは、暗号資産に関する税務上の取扱いについて、税目ごとに寄せられた一般的な質問等を取りまとめた情報であり、これらの情報は、申告納税制度の下で納税者自らの計算に基づいて申告を行うための参考として国税庁が作成しているものである。このような本件FAQの性格からすれば、本件取扱いが国税庁ホームベージに掲載された時期を踏まえても、納税者自らの判断と責任において期限内申告を行うべきことに変わりはなく、納税者自らの期限内申告が制限されることにもなり得ないから、本件取扱いが国税庁ホームページに掲載された時期が法定申告期限後であり、国税当局が法定申告期限までに本件取扱いを確定できていなかったことを理由に、請求人に期限内申告を求めることが酷であるという請求人の主張は、採用できない

  • そうすると、法定申告期限までに本件税務相談に対する原処分庁からの的確な指導がなかったことや本件取扱いが国税庁ホームページに掲載されていなかったことをもって、請求人が令和2年分の所得税等について法定申告期限までに確定申告書を提出できないと考えたとしても、それは、請求人が自己の判断と責任において行動した結果であるといわざるを得ず、請求人の主観的な事情というべきであるから、請求人の主張にはいずれも理由がない


★実際の税金の申告や個別の税務相談等は、税理士に依頼しましょう。★

※ 引用される場合は、この記事を引用元としてお示しください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?