イベントレポート『性犯罪をなくすために~被害者支援と加害者臨床の対話~PART1』

2018年4月3日(水)に、文京区男女平等センターで開催されたイベント『性犯罪をなくすために~被害者支援と加害者臨床の対話~』に参加しました。

夜も更けた19時から、じっくり2時間のイベントでした。学生・社会人問わず、たくさんの方が来られる時間なので、オンラインでの受付開始からすぐに会場の定員をオーバーし、Facebookのイベントページには[満席御礼]の文字が出ました。(このイベントは連続イベントなので、第2回以降に関心のある方はコチラから!)

登壇されていたのは、被害者支援を中心に活動されている弁護士・上谷さくら先生、臨床心理士として被害者のケアをされている目白大学講師の齋藤梓先生、そして『男が痴漢になる理由』の著者で加害者臨床をされている斉藤章佳先生の3名でした。

それぞれ異なる立場から見る「性犯罪」ですが、「先生」方の目指す先は同じ。

性犯罪をなくしたい。そのためには何ができるのか。


ーーーーー

イベントは、各々の自己紹介ののち、斉藤章佳先生・齋藤梓先生・上谷さくら先生の順で講演がなされました。

斉藤章佳先生がお話されたのは、加害者臨床について、

齋藤梓先生がお話しされたのは、被害者支援について、

上谷さくら先生がお話しされたのは、司法から見る性犯罪についてでした。

詳しい講義内容については、コチラの記事をご覧いただけると分かりやすいかと思います!

ーーーーー

私は法学・政治学を学ぶ一学生としての感想を4つここに記します。

①加害者が自らの行いを反省するには長い時間がかかるんだ(章佳先生の講演より)

章佳先生の講演の中で「リスクマネジメントを習慣化させるのに最低1年・『認知の歪み』を認識するのに最低1年(9年以上治療されても未だ認識できない人もいる)・被害者に謝罪や贖罪をするのに最低1年」とおっしゃってました。私はお話を聞くまで、てっきり反省文を書かせたり、懺悔室に入って誰かに懺悔したりして、数ヶ月で終わる治療なのかと思っていました。しかし、章佳先生のお話の中で具体的な治療法を伺って、年単位をかけてゆっくり直していくものなんだなぁと知りました(具体的な治療法を知りたい方は、章佳先生のいらっしゃる大森榎本クリニックにお問い合わせください)。

〈ちなみに認知の歪みとは〉多くの性依存症者にみられるもので、通常人が捉える現実と加害者本人が捉えていた現実が異なることをいいます。多くは主観と客観が逆転しているなど、本人にとって都合の良いように改変されています。例えば、被害者としてはうっかり前に立っただけなのに、加害者は「私に触られたいから、私の前に来たんだ」と認識したり、被害者が加害を恐れてフリーズしていたのに、加害者はそれを「YES・性的な行為を望んでいた」と認識したりします。章佳先生は、田房永子さんの「『膜』の中のストーリー」の感覚に近いとおっしゃってました。

加害者と被害者の認識の違いを学ぶ意味は大いにあると思いますし、当事者(特に加害者)にならないためには、とても大切な学びだと思いました。私たち中央大学SEX考える委員会(CSC)でもその差を体感してもらえるようなイベントを企画したいと思います!


②性犯罪の被害者を守るためには、まだまだ社会資源同士の連携が足りていないんだ(梓先生の講演より)

まず、性犯罪・性暴力の被害の大きさを、皆さん甘く見てはいないでしょうか。どうせその瞬間悲しいだけ、そんなに大したことない、被害に遭ったことをすぐに忘れられるなどと思っていませんか?

しかし実際は、被害者は軽重問わず様々な傷を負い、身体的な傷もあれば、身体的な傷がなくも、心の傷は全員が負っています。そして長く半永久的に背負い続けるのです。このような被害者をサポートするためには、時期によって様々な支援が必要となります。

たとえば、被害発生から間もなく警察に届け出るまでの早期支援としては、ワンストップセンターや警察、婦人科が必要になります。特にワンストップセンターは大切で、被害者自身が事件の状況を何度も説明するのが辛いときに、産婦人科などで事件の内容を代わりに伝えてくれます。その後、検察段階になると中期支援として、被害者支援センター、検察、精神科、弁護士などの支援が必要になります。性暴力に特化した精神科や弁護士は全国的に見るとまだまだ少ないのが難点ですが、まずは近くの被害者支援センターに行ってみて、馴染みの先生を紹介してもらうとスムーズです。そして最後に公判段階からその後ずっとは長期支援として、弁護士、行政、精神科、カウンセリング、(加害者から身を守るために警察、保護観察所)の支援が必要になります。事件と向き合って・折り合いをつけて生きていくために欠かせないサポートです。

このように被害者は、民間か行政かを問わずに、たくさんの人の支援を必要とします。昨今やっと、この社会資源同士の連携の必要性が広まり始め、ワンストップセンターに行政が関与したり、各サポーターの紹介がスムーズにできるようになったりするなど、連携が進み始めました。社会資源同士の連携こそが被害者を救うんだと知りました。

この「連携」の話どこかで聞いたことがあると思ったら、私たち中央大学SEX考える委員会(CSC)の「性のせいで苦しむ人をなくす」方法の一つに、学生・大学教授・大学機関などの連携があったことを思い出しました。どこに相談が来ても大丈夫なように・適切なときに適切なサポートをできるように、私たちも中央大学内での性環境をより良くするべく連携を築き続けようと思いました。


③「悪いと思ってます」は謝罪じゃないんだ(上谷先生の講演より)

上谷先生が国選弁護人を務めた際、接見に行くと被害者については何も言及せず、自分がやったことについて「悪いと思ってます」と加害者たちは言うらしいです。一見反省したように見えるものの、先にも述べた通り、加害者が実際に心から反省するには長い時間がかかるため、ここでの言葉は早く出るためにしおらしくしているに過ぎないようです。本当に謝罪する気があるなら「申し訳ありませんでした!」とか「すみませんでした!」とか、土下座するなりなんなりで態度に示すはず。でも、そうではない。そこで上谷先生が「いやいやいや反省してないでしょ」というと加害者は逆ギレすると言います。謝ってるじゃないか・誰のせいでこうなってると思ってるんだ!(被害者が過剰に気にするから。捕まってる私可哀想。)・俺は悪くない!となることもあるそうです。

また、公判になると口先では謝罪の弁を述べ、慰謝料等についても「払います」というものの、実際には公判が終わってから自由の身になり、支払いの催促をしても一向に払わないこともあるといいます。司法判断を見ると裁判中に加害者が大人しく反省した様子をみせ謝罪の弁を述べ慰謝料等を支払うといい性犯罪は裁判になる前に示談に持ち込まれることが多いので、常習犯であっても前科前歴ゼロの初犯であることから、被告人(加害者)に有利に判断が下されがちだと言います。さらに、被害者の服装や一緒にいた時間帯・場所などから、原告(被害者)を非難する法曹も少なくなく、日本の司法においては「被害者叩き(victim blaming)」が行われています。

性犯罪の被害者数は暗数(数えられていない数)が異常に多く警察等に届け出るのは極々一部で、ほとんどの被害者は人に話す・相談すること自体ができなかったり、そのまま泣き寝入りしてしまったりしています(その理由はコチラをご覧ください!性暴力被害者が声をあげづらい現状・構造についても言及しています)。勇気を振り絞って警察に名乗り出ても、その先示談で丸め込まれてしまったり、訴訟では執行猶予つき(被害者からしたら無罪:刑務所に入らないから)になったり、慰謝料等は払ってもらえなかったり、また、捜査過程でセカンドレイプ(二次被害)に遭ったりすることが容易に想像できるので、被害者が声をあげにくい社会構造になっていると思います。
2018年4月に世間を賑わせたJ事務所所属・某氏の高校生に対する強制わいせつ罪の書類送検も、J事務所が示談に持ち込もうとして被害者も了承していた(被害届を取り下げる)段階で警察が書類送検をしました。もし前回の刑法改正(2017年)で親告罪でなくなっていなければ、今回の事件も明るみに出ず「暗数」の一部になっていた可能性は高いのです。私の意見としては、被害者を守る構造や術がないままに勝手に大ごとにするのは、被害者に不利益が生ずることもあるのではないかと懸念しています。しかし、親告罪でなくなったことで、今回のように事件が明るみに出ることにより社会的関心を高め、犯罪抑止につながったり、検察に任せるまでの工程が加害者任せにならなくなったりする良い効果もあると思います。性犯罪がほとんど取り締まられず、犯罪者が野放しになっている現状を見れば、非親告罪にし、警察が一定程度権力を行使できるようになった状態は今後のためにも良かったと思います。(次の刑法改正では「性的同意」の概念も盛り込みたいですね!国際的に見て日本は性犯罪の処罰が軽すぎますし、そもそも不起訴になることも多いのです。現在の性環境を改善するためにも、更なる厳罰化が必要ではないでしょうか?)
〔章佳先生がお話されていた興味深いエピソード〕アメリカの研究では1人の性犯罪者が一生のうちに生み出す被害者の数約380人と言われています。これを章佳先生が診られている加害者の方々に伝えたところ、彼らはこう言いました、「少ないんじゃないですか?」と。日本ではまだ「暗数」についての研究がなされていません。そのため正確な数値はわかりませんが、それでもなお明らかなのは、加害者が計り知れないほどの被害者を生み出し、被害者が声をあげられない社会があるということではないでしょうか。

加害者に有利な判断がなされ、法曹が被害者を叩く状況は、法曹が性犯罪に関して、被害者・加害者双方の事件後の動き・生活を知らないことが一因にあると思います。裁判官は、被害者がどれだけ苦しむのか・何を望んでいるのかを知らず、加害者がどれだけ反省していないのかを知らないがために、このような判決が下されるのだと思います。

もちろん司法も段々変化してきてはいるものの、まだまだ理解は足らず、未だに「家に入った時点で性的言動についての同意があった」とみなされたり、「なぜそんな露出の高い服を?」などと問い詰められたりすることも多いようです。私たちCSCは、未来の法曹が多い中央大学だからこそ、性教育と併せて、性犯罪の被害者・加害者のその後の生活を学ぶ機会を持ちたい・提供したいと考えています。


④被害者支援と加害者臨床の対話はできるんだ

私はこのイベントの前から、被害者を生まないためには加害者を生まないようにしなければならないのではないかと考えてきました。そしてそれが、今回のイベントを通して確信に変わりました。

***

もちろん、被害者と加害者の当事者同士が直接対峙するのは全くおすすめしませんし、登壇されていた先生方全員からSTOPがかかります。以前性被害に遭った私は、実はそれをやってみた人の1人なのですが、心が更にボロボロになりました。被害者は加害者の価値観や認知の歪みをすぐに変えることはできない、と実感しました。なので、読者の皆さんにもおすすめしません。被害者はまず被害者として自分のケアをすべきであって、加害者の再教育は加害者臨床のプロの先生方にお任せすべきだと気づきました。私も事件直後は被害者の3F(Fight 戦う・Flight 逃げる・Freeze 固まる)のFightモードでずっと前述のことが分かりませんでしたが、少し落ち着いてやっと分かるようになりました。

***

このように当事者同士の対話はなかなかに難しいのですが、その臨床家同士の対話は可能なのか?

***

章佳先生は元々「ありえない」派だったようです。その必要性は理解できるものの、対話は無理だと思っていたそう。しかし、サバイバーの にのみやさをりさんの

「加害者には時効があるけれど、被害者に時効はない」

という言葉をきっかけに、被害者の生の声の大切さに気付かれて、臨床家を通してなら対話は可能なのではないかと意見が変化したようです。

梓先生も、ある種の敵(加害者)に歩み寄ったり、理解しようとしたりするなんて、自分の支援してきた人たちを傷つけるかもしれないと恐れていたようですが、「性暴力をなくすために、それをやるのは自分だ。できるだけ言葉を尽くそう!」と思い、対話に踏み切ったようです。

***

今回のイベントでも明らかになったように、被害者と加害者の認識には大きな差があります。このズレを無くしていかなければ、性犯罪はなくならないのだと思います。このズレの解消には、被害者支援の人と加害者臨床の人とが認識をすり合わせる、いやむしろ、互いに互いを見あうことによって「どこに加害者の『認知の歪み』が生じているのか」を明らかにしていく必要があると思いました。この研究が性犯罪のない世界への第一歩になるのではないでしょうか。

このイベントのPART2は5月24日(金)に行われます。CSCメンバーも参加する予定ですので、関心のある方はコチラから詳細を確認の上お申し込みください!

ーーーーー

長くなりましたがお読みいただきありがとうございました。私たち(中央大学SEXを考える委員会:CSC)も、①性教育による予防②早期発見・早期治療・早期支援③再発防止に、学生にできる範囲で力を入れて、今後も活動を続けていきます!

まずは中央大学から性のせいで苦しむ人がいなくなりますように!

CSCはTwitterFacebookでも情報を配信しておりますので、ぜひフォローをお願いします!

             (中央大学SEXを考える委員会 めぐみ)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?