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魔法骨董ここに眠る プレイログ

ソロジャーナルRPG  魔法骨董ここに眠る
著者 竹田ユウヤ さま
       twitter:@Y__TKD

こちらのソロジャーナルをプレイさせていただきました。とても素敵な世界観で、楽しくプレイすることができました。
そのプレイログを私なりの解釈のもと、小説風に書かせていただきましたので、ここに記録します。


ソロジャーナルRPG 『魔法骨董ここに眠る』
プレイログ小説


星晶歴66年 アメトリンの月14日 20時

夜空には星屑が無造作に散りばめられ、涼やかな空気が髪をさらう。空のてっぺんでひときわ輝きを放つ星は、今日は紫色を纏っていた。そんな星空に見守られながら、ひとりの少年が店を出入りする。


「師匠、看板戻しておきました」
「ん、ご苦労さん」


カランカラン、とドアについたベルを鳴らしながら少年が店の奥の方へ声を投げると、師匠と呼ばれた女性が静かに一度瞬きをして、手元に広げていた魔導書や魔道具を片付け始めた。

ここは、街の外れにひっそりとたたずむ少し特殊な骨董商。
人々が不要となった品物を買い取る、あるいは引き取り、それらをまた店の商品として棚に並べる。
しかしこの店の店主、先程師匠と呼ばれた女性は、それらを商品として出す前に必ずあることをするのだった。


少年は慣れた手つきで閉店の作業を終えると、店の奥からひとつのダンボール箱を危なげに抱えながら、女性のもとへ小走りにやってきた。


「ありがとうスフェン」


スフェン、と呼ばれた少年は小さくお辞儀をして師匠とあおぐ女性の隣へ移動する。


「さて、この子たちも随分長い旅をしてきたようだね」
「声を聞かなくても分かるんですか?」
「あぁもちろん。魔法はほぼ枯れてるし、いまにその半生を終えそうな子たちばかりだよ」


店主はからからと笑いながらそう答えた。
見た目にはまだどれも綺麗な魔道具たち。しかし店主のいうようにそれらからはもうほとんど魔力を感じることができなくなっていた。


「そうだ、今日は君がやってみるかい?」
「え、ボクがですか?」
「そろそろ任せてみてもいいと判断したのだが……どうだろうか?」
「や、やりたいです!」


スフェンは右手を挙げて大きく応えた。
すると店主は自分の左耳に着けていたペンデュラムの耳飾りを外し、それをスフェンの耳へと着けた。光を受けキラキラと輝くペンデュラムが小さく弧を描きながら揺れる。


「それはね、通訳のための耳飾りだよ」
「通訳?」
「この魔道具たちの断片的な思い出をすくい上げ、ノートに彼らの最期の言葉を代筆する。そうすることで、また彼らは新しい持ち主の元へ旅立てるようになるのさ。彼らの言葉を私たちの言語に通訳するためのツールが、その耳飾りだ」


店主は自分の耳をとんとんと指さしスフェンを促すが、スフェンはまだ頭に疑問符を浮かべていた。


「まぁ習うより慣れろだ。さ、ここからひとつ魔道具を選びなさい」


彼女がそう言って指し示したのは、先程スフェンが運んできたダンボール箱だった。中には今日客から引き取ったばかりの魔道具がいくつか入れられている。
スフェンは店主の顔をうかがってから、おずおずとひとつの魔道具に手を伸ばした。


「ではこれを」
「ほお、なかなか見る目があるな」


スフェンが手に取ったのはレターセットだった。
色とりどりの羊皮紙に金の箔押しがされた便箋。封筒にはお揃いの箔押しと花の模様が描かれているものだった。


「それは花芽吹きの手紙だ」
「花芽吹きの手紙……?」


店主はスフェンから一枚便箋を受け取ると、そのあたりに置かれていた液体の入った小瓶をひょいと手に取り、便箋のうえに滴を落とした。
すると便箋はまたたく間に淡く輝きだし、次の瞬間、便箋に細かな根を走らせ、そこから伸びた茎の先に一輪の花を咲かせた。窓辺からさしこむ月の光を浴びて青白く輝くその花は、この地域ではあまり見かけない花だった。


「わぁ……!」


まるで魔法のような、実際に魔法なのだが、その光景にスフェンは目をまるくして感嘆の声を上げる。


「とまぁこういうものさ。たいした魔道具ではないし残り枚数も少ないけれど、一時期ブームになった品でね」


店主は手に持っていた小瓶をまたその辺にほっぽり出すと、店のカウンターの奥に置かれた椅子によいしょっと腰掛け、そこから凛とした響きでスフェンへと話しかけた。


「では早速やってごらん。大丈夫、いつも私がやっているみたいにすればいいよ。目を閉じて。道飾りの揺れに集中して」
「……やってみます」


店主に言われた通り、スフェンは目を閉じて耳飾りの揺れに意識を集中させる。かすかな声を集めて、ちょうど夜空に目を慣らすように、それらを頭の中で反響させる。
そして次第に大きくなったそれは、人の声のように聞こえ、映画のように鮮明にまぶたの奥に映し出されていった。





その人は孤独だった。
共に生きた伴侶に先立たれ、老い先短い人生をただ孤独に生きていた。
そんな彼は毎日手紙を書いた。
それは日記のように。来る日も来る日も書き続けた。
そして誰に読まれることもないその手紙を綴っては、涙を一滴こぼすのである。
すると手紙は輝きながら花を咲かせる。
彼はその手紙の花を庭へとうめた。
彼が亡くなる時、家の周りには広大な花畑が広がっていた。
彼は毎日大切な気持ちを手紙に綴り続けたのだった。
誰かに想いを伝えるための手紙は、よき主人の最期を花となり見守ったのである。





「…………っは!」


世界が反転する。
目を開けるとそこはいつもの店の中だった。


「おや、ずいぶん早かったね。やっぱりまだひとつの記憶しか思い出せなさそうだね」
「うっ……精進します」
「まぁ、初めてにしては上出来さ」


そう言って店主はひとつあくびをかましてのっそりと立ち上がった。


「じゃあ今見たもの、聞いたものをこのノートに記してくれ。そして最後に、君がこの手紙にしたい質問をするんだ」
「ボクがですか?」
「あぁ。なんでも聞きたいことを聞けばいい。もちろんその答えも一緒に記しておくれよ」


店主はスフェンに一冊の分厚い本を手渡した。
そこにはこれまで店主が記してきた魔道具たちの記憶がびっしりと書き連ねられていた。

スフェンはその続きに言われた通り今見たものを、自分の言葉でノートに記していく。
あれはこの手紙の記憶そのものだった。魔道具の一生は人のそれよりも長い。自分が見た記憶はその長い彼の記憶のごく一部に過ぎないだろう。
しかし、その魔道具が最期に見せた記憶にはきっとなにか意味があるのだ。
だからスフェンや店主はこうして彼らの声を聞き、最期の言葉を後世に残すのだった。

スフェンはガラスペンを丁寧にノートに滑らせ記憶を綴ったあと、そっとペンを机に置いた。
そして静かに問いかける。


「……キミが好きになったものは?」


その言葉に呼応するように、耳飾りがちりんとなった様な気がした。


「答えはなんだった?」


店主に問われ、スフェンは小さく答えた。


「……人の綴る言葉と感情」
「それは"らしい"答えだ」

 
スフェンの問いを最期に、レターセットから魔力がすうっと失われていく。魔力の残滓が星屑のようにきらきらと空へとのぼっていくのをスフェンと店主は優しく見送った。


「……このレターセットは、次は誰のところにいくのでしょうか」
「きっとやさしい人のもとへ」


店主はそう言って、レターセットを静かにダンボール箱の中へと戻した。



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【セットアップ】
道具の形→伝えるもの
魔法の効果→豊穣
魔法の程度→3、ちょっとした効用
『水をたらすと花が芽吹くレターセット』

【リーディング】
思い出の数:1、赤4
赤:持ち主やその隣人、あるいはあなたにとって好ましいこと。
4:一番長く使っていた人間のこと。大事に使われていたのか? それともたまたま置かれていたのか?


【エンディング】
最後の質問
あなたが好きになったものは?

素敵なシナリオをありがとうございました。
また骨董探しの旅に出たいと思います。

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