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華やかよりも、健やかに

7ヶ月振りのロンドン出張が終わり、東京に戻ってきた。前回訪れた際には1人も知り合いがいなかった地に、今は日夜やり取りを重ねる仲間たちがいる。その環境の変化が、なによりうれしかった。

友人との夕食を終え、夜の9時を過ぎても太陽が照りつけるご機嫌な夜空の下、ひとりぶらりと歩く。地下鉄に潜ったところで電波は途絶え、様々な人種の入り混じった車両に身を任せていると、たくさんの考えが浮かんでは消えを繰り返していく。

ふと、自分は一体なにを探しているのだろうと思う。

もちろん、仕事があって、目的があって、この地に来ている。ただ、その機能的な理由以上に、様々な人々や場所に出会って対話を重ねた先に、一体自分はなにを見ようとしているのだろうか。そんなことを思うのだ。

マンチェスターに移動して、共にプロジェクトを進めている青年、トミーとの対話する中で、その答えに近い言葉を見つけた気がした。

彼は、「まだまだ小さなプロジェクトなのに、なんでこんなに色々と良くしてくれるんだ?」と自分が尋ねると、間髪入れず「そりゃ、僕たちはロングタームでの取り組みって考えてるからね」と即答した。

ロングターム。長期的な取り組み。そうだよな、それだよ、今の自分たちにいちばん足りない「実践」って。

心の中で深く納得すると共に、その言葉が弟と同じくらい歳の離れた23歳の若者から当たり前のように出てくるのに驚いた。また、彼の働きぶりを見ていると、ほんとうにそう思って、実践してくれているのが分かる。

馴染みのない言葉ではない。むしろ、みんな、「長期的に」と口々に言う。あらゆる場面で、びっくりするくらい軽く、簡単に言う。でも、実際にその「長期的に」を実践できているチームは、プロダクトは、クリエイションは、一体どれくらいあるだろうか。

とかく移り変わりの早い TOKYO のエンターテイメントの住人である我々は、特にその実践が欠けてしまいがちだ。今日はコレが流行ってる、明日はアレが流行ってる、明後日は・・・。

そんなことばかりを繰り返すうちに、流行りそのものの奴隷になっていないか。自分たちの仕事ってのは、なにかを「つくる」ことであって、そのつくったもので、人々に喜んでもらうことではなかったか。


どうして「長期的につくり続ける」が、選択肢から失われてしまいがちなのか。それはもう、その選択が「難しいから」に他ならないだろう。

大切なものを大切に続けていくことは、同時に発展し続けなければならないことを意味する。この発展の過程で発生する苦労と向き合うよりも、今の流行りにレバレッジをかけて、頃合いを見てイグジットして、回収して、また次の流行りに投資していった方が合理的だ。そう、「合理的」なのだ。

一方、つくるを続けていくことって、ちっとも合理的じゃない。時間もかかるし、お金もかかる。最初は見向きもされないことばかりだし、いつ報われるかだって分からない。

だから、それをやり続ける理由は、合理的になんて決して説明できない。好きだから、とか、これしかできないから、とか、もっとうまくなりたいから、とか、聞けば聞くほど、少年少女のような答えしかないのだと思う。

でも、でも、その少年少女のような想いで生み出された何かが、たったひとりの僕や私だったはずの何かが、気づけば大勢の僕や私と接続してしまう奇跡が起きるのが、「つくる」に身を捧げる人生の、最高におもしろいところだ。その瞬間に、世界はひっくり返る。


ロンドンの好きなところは、「つくる」に身を捧げる人生を、応援する仕組みと、人々の眼があるところだ。

シンプルに「いいもの」をみんなで応援する文化と、それが生まれる環境をサポートする仕組みがある。つくる人、支える人、喜んでくれる人。それぞれが循環し、健やかに発展していく土壌がある。

その循環は、分かりやすく目立つような、華やかなものではないかもしれない。ただ、今日も地下水脈のように脈々と地中をめぐり、人々の日常を潤し続けている。

この街に、一体なにを探しに来たのか。それは世界市民として、同じような想いで「つくる」をめぐる物事に心身を働かせている人々や景色に出会うため。

そして、そこで生まれている物事や人々の姿勢に感動し、驚かされ、勇気を持ち帰りたかったのだと思う。その点、今回もたっぷり勇気をもらったから、もうばっちりだ。


SOHO エリアに「Phonica」という、ロンドンでいちばん好きなレコードショップがある。今回も何枚かレコードを買ったのだが、カウンターに立っていた店員は、去年自分がはじめてこのお店でレコードを買ったときと同じ、ニックという人物だった。

去年もここであなたからレコードを買ったんですと伝えると、彼は喜びながら、「日本人だよね? 僕は自分のレーベルも運営しているんだけど、そこで日本人アーティストをリリースしたんだよ」と言って、とあるビートメーカーについて教えてくれた。

どうやって彼のことを知ったんですかと尋ねると、ニックはニヤリとして、ある日突然彼がお店に来て、CDを聴いてくれと頼んできたことを、懐かしむように話してくれた。

「お店じゃ聴けなかったから、持ち帰って家で聴いたんだけど、すごく良くて。それで僕からあらためて声をかけたんだ」と、ニックは続けた。「めちゃくちゃラブリーな話ですね、それ!」と、自分が笑うと、「そうなんだよ」と、彼も笑った。

その縁で日本の音楽シーンに関心を持ったニックは、今年の10月にはじめて東京に来る予定らしい。挑発をなびかせながら「待ちきれないよ」と笑うニックの笑顔は、とびきり素敵だった。


なにかが生まれる一歩、健やかに続けていくための一歩は、案外そんなものなのかもしれない。

大好きなレコードショップに足を運んで、ドアをノックする。「実は僕もつくってて・・・」なんて、ちょっとした勇気を振り絞ってみる。その歩を進めた一歩の先に、きっと未来があるのだと思う。


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渡邊貴志(わたなべたかし)

Project Design / STITCH INC. / 音楽家たちや山形県のじゅうたんブランド「山形緞通」などと、プロジェクトに取り組んでいます。鎌倉が好きで、住んでます。https://stitch-inc.jp/
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