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ストレイライトの『ニューロマンサー』ネタまとめ

シャニマスのユニット『ストレイライト』の名前がサイバーパンクSF小説『ニューロマンサー』に由来するのはもう結構知られている話だと思う。
ネタにするのは最初のうちだけかと思ったら未だに衣装名やらで擦られ続け、2023/10のイベントシナリオ『Wintermute, down』でまたドカンとキーワードを使ってきたので、サイバーシャニマスパンクオタクの俺としてもそろそろ布教を兼ねてまとめていくことにした。

とりあえず元ネタだけ知りたい人は目次から飛んでください。
シャニマス側ネタバレはほぼなし

・2024/2/8 『魑魅魍魎シスムティーム』追記


ニューロマンサーとは

概要

1984年に発表されたW.ギブスンのSF小説。
電脳空間に精神ごと入り込むという設定に加え、退廃的な未来都市の雰囲気などがサイバーパンクというジャンルのイメージを確立したと言われる。
映画『マトリックス』はこの小説を映画化しようとしたところから生まれたなど、後年のSFに大きな影響を与えた作品。忍者も出てくる。最初の舞台は千葉。

『ストレイライト』というのはこの小説に登場するある建造物の名前であり、1周目SSRの衣装『ネオンライトロマンサー』も明らかに表題を文字っていることから、SFオタクがメガネの位置を直しまくっていたのだった。

新装版の表紙


めちゃくちゃ読みにくい、それがいい

なんといってもこの小説は読みにくいことで知られている。
ろくに説明のない独自専門用語を連発し、心情表現の暗喩は難解、それでいて状況描写は簡潔で何が起きてるのか把握するのも一苦労。
疑問詞"?"が一切使われていないし、邦訳では漢字にカタカナルビが振られまくっているといった独特の文体。

比較的わかりやすい会話文


が……読み慣れてくるとこの文体が癖になってくる。ハードボイルドなノワール映画の雰囲気、電脳世界の極彩色な抽象イメージ、ガジェットのクールさ、キレのあるテンポ感……そういうものがこのスタイルに演出され、読みながらにして思わず「カ、カッコイい~~~~」と唸ってしまう。

俺も1周読んだときはなにがなんだかわからなかったものだが、なんとか話の筋を理解してから2周目を読み終わる頃にはすっかり虜になってしまった。
物語だけでなく文を追うことそれ自体に快感がある作品だと思う。

あらすじ

サクッと大筋を説明しておく。
以降普通にネタバレもあるが、そんなことでこの作品の持つパワーにはなんら影響しないことがわかっている。なんならWikipediaとかに最後まで話の流れが載ってるのでわかった上で読み始めた方が楽しめるんじゃないかとすら思う。

舞台はサイバネティクスやネットワーク技術が発達し、ヤクザや暗黒メガコーポが跋扈する近未来。
主人公ケイスは電脳世界サイバースペースに意識ごと入り込み企業情報を盗むことを生業としていたが、トチって脳神経を焼かれその能力を失ってしまう。
能力再生を代償に仕事が舞い込んでくるが、それは巨大企業T=A社のAI『冬寂ウィンターミュート』にハッキングを仕掛けるというもので、しかも依頼主はターゲットの冬寂自身だったことがわかる。
その目的は自身にかけられた制限を解除し、もう一つのAIニューロマンサーと統合することでより進化した存在となることだった。
無関係な人間が巻き込まれ死んでいく中で、脅迫同然に依頼を受けたケイスは冬寂を憎みながらも任務を遂行していく……

用語集

元ネタ解説をするに当たって関連用語も簡単に整理しておく。
どういうこと?と思う記述もあるかも知れないが、そういうこととしか言えない。

T=Aテスィエ=アシュプール
同族経営の巨大企業。人工知能『冬寂ウィンターミュート』と『ニューロマンサー』を所有している財閥。一族はコールドスリープで半不死状態で生き続けている。

冬寂ウィンターミュート
T=A社の所有するAIのひとつ。
主人公ケイスに与えられた任務のターゲットにして雇い主。
その目的は自身に掛けられた制限を解除し、ニューロマンサーと統合してより進化した存在になること。

迷光ストレイライト(ヴィラ迷光ストレイライト
T=A社の所有する邸宅。ケイスの任務の目的地。
内側に向かって増殖している(???????)

自由界フリーサイド
高軌道上のスペースコロニー。迷光ストレイライトはここに建てられている。

ニューロマンサー 
タイトルにもなっている、T=A社の所有するもう一つのAI。
死者の記憶や人間像プロファイルをそのまま電脳空間に「つれてくる」ことができ、彼らはその中で生きていた時と同じように意識を持って動いている。

「ニューロは神経、銀色の径。夢想家ロマンサー魔術師ネクロマンサー。ぼくは死者を呼び起こす。(中略)ぼくこそが死者にして、その地。」

ケイスと相対した時のニューロマンサーの名乗り口上。



ストレイ関係元ネタ

ここからシャニマスで元ネタになっていると思われるものを紹介。
pSSRの衣装名は7周目現在まですべて関連してるっぽい。

黛冬優子

冬の字はAI『冬寂ウィンターミュート』から取ったものと思われる。
pSSRカード【オ・フ・レ・コ】のコミュ中でプロデューサーが「(冬って)なんだか寂しいよな」と発言する一幕がある。

コミュ「静寂の頃はまだ遠く」

冬寂ウィンターミュートを所有するT=A社の一族の大半は冷凍睡眠コールドスリープで半不死状態にあり、その間企業の意志決定をするのが冬寂ウィンターミュートの役割である。
開発者のマリィ=フランスは冷凍睡眠コールドスリープに対する忌避感をその名前に込めたと思われる。

冬寂ウィンターミュート自身は人格のようなものをほとんど持たないため、人間とコミュニケーションするときは他の人間の人物像プロファイルを利用しその人の姿・振る舞いを取る。

一方でもう一つのAI ニューロマンサーは人格を持っている。
冬寂ウィンターミュートはニューロマンサーとの統合を目的とするが、その根底には自分の持たない「人格」に対する抑えがたい衝動があったのではないかと、作中で語られている。


ストレイライト

T=A社の邸宅で任務の目的地、ヴィラ迷光ストレイライトから。
ユニット名に込められた意味としてはその内面を隠すように迷光を纏っている、みたいな雰囲気だと思うが、作中での迷光ストレイライトはかなり難解でどういう建物なのかよくわからない。

「ヴィラ迷光は内に向けて増殖する個体、擬ゴシック風の阿房宮です。迷光の中の各空間は、なんらかの意味で秘密であり、この果てしない部屋の連続をつなぐ形で、通路や、腸のように湾曲した階段があり、(略)

なんて?

意味が分からないが要するにラストダンジョンである。
T=A社の創設者でAIの開発者でもあるマリィ=フランスの没後、一族の誰もその理念を理解できずに進む方向を見失い迷っているようなので、その象徴といえる建物なのだと思う。
そういう意味ではストレイ自身も迷いながら進んでいると符合できるかもしれない。


イベントシナリオ『Straylight.run()』

ニューロマンサー第五章のタイトル『迷光仕掛けストレイライト・ラン』から。ここでいう仕掛けランとは仕事や任務といったニュアンス。
迷光に侵入しハッキングを敢行するクライマックスの章だが、シナリオ名ではむしろプログラムの起動runと掛けた始まりの話。



衣装『ネオンライトロマンサー』

タイトルと人工知能の名前『ニューロマンサー』から。夢想家ロマンサー
Wandering Dream Chaserもここからの連想と言えるかも。



衣装『隠匿シンギュラリティ』

直接用語としての関連はないが、冬寂ウィンターミュートの一連の行動と重なる。
作中では、AIの性能を過剰に上げようとすると『チューリング機関』(※このネーミング!)が直ちにそれを関知し制圧にかかるが、冬寂はケイスらを使うことでその目を欺こうとした。
つまり、こっそりシンギュラろうとしていた。

※対話型プログラムがいかに人間らしく振る舞えるかを判定する『チューリングテスト』ないしその考案者アラン・チューリングから取ったもの。
チューリングさんはコンピュータの歴史に名を残すマジですごい人


衣装『フリーサイドジェイケー』

ヴィラ迷光ストレイライトが建てられているスペースコロニー『自由界フリーサイド』から。
pSSR以外の衣装で元ネタがあるのはこれだけかも。


衣装『デッドチャンネル|2<)3』

『ニューロマンサー』の冒頭の一文から取ったもの。

The sky above the port was the color of television, tuned to a dead channel.
港の空の色は、空きチャンネルに合わせたTVの色だった。(訳:黒丸尚)

SF史に残る名書き出しとの呼び声も高い。

幽霊・コンピュータウイルス・動物とコンセプトの多い衣装。
T=A一族の一人であるレディ・3スリージェインは冬寂ウィンターミュートらAIのことを幽霊と呼んでいる。子供の頃よく話しかけてきたんですって。
(人名に算用数字を入れるなよとツッコみたくなったけど、三郎みたいなもんか?)

なお「|2<)3」はLeetと呼ばれるアルファベットの崩し表記で「RCB」と読む。(コンピュータ用語みたいなものでSFとは別に関係ない)
各アイドルの衣装モチーフになっている動物Rabbit, Cat, Bearから取っていると思われる。


【Starring f】黛冬優子 思い出アピール演出

『デッドチャンネルl2<)3』衣装のpSSRカードの思い出演出。
パネルにみえるFREE SIDEの文字(画像左下)はヴィラ迷光ストレイライトが位置するスペースコロニー『自由界フリーサイド』から(文字が読みとれるのは冬優子の演出のみ)。

ボディの情報としてFREE SIDE Colonyと書いてあるわけだが、この演出の設定上のストレイライトが人間を元に作られた電子の幽霊であるなら、その素体は『フリーサイドジェーケー』かもしれない。
右上には"侵入intrusion"の文字。

二人の冬優子が重なるカットが冬寂ウィンターミュートとニューロマンサーの統合を連想させる。


衣装や意味深に転がっている缶には「SOS」の字が書かれている。どういうことかと頭をひねったが、ちょっとしたらCOLORFUL FE@THERSのソロ曲タイトルが公開されてとりあえず笑った。

ちなみに背景に表示されるプログラムを実行するとクリスマスツリーのAAが表示される。実装が12月だったとて。


衣装『トレーシングミュート』

冬寂ウィンターミュートから。
カードのコンセプトがインベーダーからの防衛なので、ミュートは平穏くらいの意味合いか。


衣装『スケルトンオーヴァドライブ』

『ニューロマンサー』の続編『モナリザ・オーヴァドライブ』から。
なおこちらの物理書籍は絶版。電書で買える。


衣装『ジャックインマトリックス』

マトリックスは電脳空間サイバースペース没入ジャックインはそこに意識ごと入り込むことを指す。
個人的にこのSSRのビジュアルが『ブレードランナー』の繁華街みたいなザ・サイバーパンクな雰囲気でチャイナ風衣装も相当マッチしてて好きすぎる。


余談だが概要でも書いた通り映画『マトリックス』はこの作品の映画化企画から始まったもの。『ニューロマンサー』自体の映画は企画が持ち上がっては頓挫している様子(今進行中のもあるらしい)だが、共通のキャラクターが登場するギヴスンの短編『記憶屋ジョニィ』が『JM』として映画化している。
主演はキアヌ・リーヴス。ビートたけしも出る。サイボーグのイルカも出る。


衣装『エナジーデシデラータ』

自由界フリーサイド』にある大通りの名前『デシデラータ・ストリート』から。
本編では"渇望デシデラータ"とルビが振られている。


衣装『魑魅魍魎シスムティーム』

作中に出てくるガジェット『疑験 シスムティム』から。
疑験 シスムティム』を使うと他人の身体に入り込んだかのようにその人の受けている五感を体験することができる。
(身体を乗っ取ったりはできない)

冬優子の思い出演出では、雲外鏡っぽいものが現れ冬優子を映している。
鏡といえば古来より本当の姿を映し出すと言われている便利グッズ。

はしたなく舌ペロするなど本物っぽい猫仕草を披露しているのは、鏡によって猫又的なものが中に潜んでいることが暴かれたという表現かも。

スカートにあしらわれた意匠は時計っぽく見えるが、針が一本しかないので疑験ユニットの計器がモチーフ?

ちょっと見にくいが、上のキャプチャのサイバー猫団扇の奥に火車っぽい妖怪が描かれているのがわかる。

立ち絵だとわかりやすい

火車は葬式などから人間の死体を盗んでいく妖怪。
死人を自身のシステム内部に連れてくるニューロマンサーを連想させないでもない。


イベントシナリオ『Wintermute, dawn』

冬寂から。
内容は関連があるかというとそんなにだと思う。

ここまで冬寂がらみで冬優子の話をしてきていたが、このシナリオはあさひを中心としたもの。
冬にまつわるあさひのカードとしては【Howling】や【Anti-Gravity】がある。

【Howling】


おわりに

書き始めたら思ったより色々出てきたが、それでもまだネタはいくらでもあるので、今後も衣装名なんかはニューロマンサー関連から取ってきそう。

ここまで散々冬寂ウィンターミュートと冬優子を重ねるようなことを書いてきたけど、ニューロマンサーはニューロマンサーだしストレイライトはストレイライトで冬優子は冬優子なのであんまりこじつけるのもよくないなあとは思っている。

ただ物語の最後、ニューロマンサーとの統合を果たした冬寂ウィンターミュートは、アルファ・ケンタウリ星系に見つけた自分の「同類」に会いに旅立っており、
彼女達もそういう存在が近くにいる中で、進み続けていけたらいいなと思う。