販売代理店契約とライセンス契約の関係ー消尽の整理

1. 原則ーライセンス契約を前提とする販売代理店契約

販売代理店契約とは、製品製造者が、その製品の販売を第三者に委託する契約である。 販売委託の対象が特許製品である場合、販売は特許の実施にあたるため、販売代理店契約とともに、ライセンス契約を締結する必要がある。 その実施権(ライセンス)がないときは、販売代理店契約の目的を達成することはできない。 よって、仮に、明示のライセンス契約の締結がない場合であっても、販売代理店契約を締結した当事者の合理的意思解釈として、通常ライセンス契約締結の合意もあったものと認定される。

2. 例外ーライセンス契約を前提としない販売代理店契約

しかし、「ライセンス」(渡邊肇著 2009)には、特許製品についての販売代理店契約の際に、ライセンス契約の締結が必要か争いがある場合として、次のようなケースが挙げられている。

特許製品を*1 特許権者が、いったん第三者(例えば、子会社である販売会社等)に販売し、 当該第三者(子会社)が、代理店と代理店契約を締結するような場合、 当該代理店契約中に、特許品の販売に関するライセンスが必要か否かという問題がある。

つまり、右の例では、いったん親会社たる特許権者が子会社に特許製品を販売したことにより、当該特許製品に対する特許権の効力は消尽する。 よって、特許権者から、特許製品の譲渡を受けた者は、当該特許製品の譲渡を自己が自由に行うことができ、 また、その譲渡を第三者に委託することも自由にできる。 つまり、子会社と代理店との間の販売代理店契約において、特許権者である親会社に対するライセンス料を考慮する必要はない。 
この点について、本書24頁は、次のように記載している。

子会社たる第三者と代理店の間の代理店契約に、特許製品の実施に関するライセンスを含ませる必要はないことになり、 その結果、代理店の特許製品購入価格を決定する際、実施料を勘案する必要はない。

子会社は親会社から特許製品の譲渡を受けたのみで、ライセンスを得ているわけではない。 従って、右の例における子会社と販売代理店との間の契約は、あくまで特許製品の譲渡(転売)契約、ということになる。つまり、ライセンス契約を前提としない販売代理店契約とは、特許製品の転売契約と言い換えられる。このようなケースの場合に、ライセンス契約という名前につられて不要なライセンス料を支払わないように気を付けたい。

3. 代理店に販売委託をする「販売会社」の意義とは?

なお、右の例では「販売会社」たる子会社が、更に第三者に当該製品の販売代理店契約を締結する、という例が前提となっている。 実務上、販売会社自体が、更に第三者に販売を委託するということは、よく行われるのだろうか。(1,405文字)



*1:特許権自体の譲渡ではなく、特許権の実施品の譲渡であることに留意

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