民法と知的財産法の交錯ーコピライトを読む①


コピライト(No. 576 2009.4)「著作権ライセンス取引(利用許諾)をめぐる法的諸問題」よりメモ。

1. ライセンス契約における法律関係の二重性

ライセンス契約の当事者間で紛争が生じた場合、ライセンス契約の債務不履行責任と知的財産権に基づく侵害責任とは、どのような関係に立つだろうか。 本稿では、このように、適用ある法律が二重になることを「法律関係の二重性の問題」として、論稿の総論的テーマに設定されている。

「法律関係の二重性の問題」とは、具体的には、ライセンス契約の2つの側面、すなわち、①知的財産法上の利用権(著作権法63条)に関する法律関係が問題になる場面と、②当事者間に、著作権法上の利用権以外の債権債務関係を生ぜしめるライセンス「契約」上の法律関係が問題になる場面、という知財法と民法の交錯領域から生じる種々の問題点のことを指している。本稿では、これを次のように説明している。

まず一つ目は、知的財産法としての著作権法63条が定める利用許諾に基づいた利用権という、知的財産法上の権利を創設する部分です。もちろん、この部分は、著作権法と関係がある部分です。

それから、ライセンス契約に基づいて、著作権法に規定がある利用権以外にも、いろいろと債権債務関係が作られるわけですが、…契約関係の部分、例えば、対価としてのロイヤルティの支払に関する規定の部分ですとか、利用権に独占の特約を付ける部分が典型的には考えられます。さらに、ソフトウェアのライセンス契約であれば、複製を許諾したソフトウェアについて、メンテナンスの義務をライセンサーに課すという場合もあると思います。このように、付随的な債権債務関係を作り出す部分がライセンス契約にはございます。

では、ライセンス契約の持つ、この2つの側面は、実務上及び学説上、どのように区別されているだろうか。

2. 実務における区別

本来、ライセンス契約当事者間において紛争が生じた場合、契約違反による債務不履行責任を追及すれば足りるはずである。にも関わらず、契約当事者間において、知的財産権に基づく侵害責任を追及しなければならない理由は、その紛争についての定めがライセンス契約中に設けられていないために、契約責任を追及できないことによる。つまり、将来起こりうる紛争に備えて、ライセンス契約の内容を詰めることができなかった場合であることが多い。

この点については、こちらのブログにおいて、平成24(ワ)7616号(東京地裁平成25年7月10日判決)を題材に検討が加えられている。 右エントリでは、債務不履行責任と知的財産権に基づく侵害責任との区別について、次のように述べられている。

結構,この契約当事者間での話に関わらず,債務不履行で行こうか,知的財産権法で行こうか,迷う事案は多いです。で,その場合の切り分けとしては,相手のやっていること(ダマの特許出願,外部への試作,自分だけ先行販売,浮気)が外から捕捉可能ならば,知的財産権法を考えてもよいと思います。…(中略)

他方,被告のやっていることが外からわからない場合は,債務不履行で行った方がいいんじゃないかなあ,と思います。知的財産権法は,基本的には不法行為の特別法なので,見ず知らずの第三者との間の紛争前提のため,契約関係にあった当事者間では,契約書の条項で追及した方が普通は早いからです(契約書には,開示義務だとか,あるはずですから,通常相手の手の内はわかるはずです。)。

契約当事者間における債務不履行責任と(一般的な)不法行為責任との関係については、理論的にその優劣が決められているわけではない*1。 ただ、契約当事者間においては、通常、債務不履行責任を追及することが立証の点から容易であるために、あえて不法行為責任を持ち出す必要性がないということだと思われる。

3. 学説における区別

これに対して、学説上は、知的財産権に基づく侵害責任の効果の厚さ*2から、単なるライセンス契約違反を、知的財産権侵害にも該当すると解釈することには制限的であるべき、という問題意識がある。

これを著作権法の文言に照らして説明すれば、「許諾に係る利用方法及び条件の範囲内」(著63条2項)の違反とは、単なるライセンス契約違反を含まないと解釈すべきことになる。 その具体的な判断基準については、論者によって種々提唱されている。例えば、標準著作権法(高林龍著 2010 197頁-198頁)は、商標権侵害に関するフレッドペリー事件(最一小判平15.2.27)との比較において、債務不履行と著作権侵害との関係を、次のように説明している。

商標の場合製造地を限定し、又は下請業者を限定して使用権を許諾したのに、これに反して製造され、商標を付されて販売された商品は、商標権を侵害するものであり、真正商品とはいえないとされる(最一小判平15.2.27民集57.2.125<フレッドペリー事件>)。
これは、これらの義務が、商標の品質保証機能を保持するために契約上課された義務であって、単なる付随義務ではないことを理由としている。

著作権の場合にも、例えば発売する本や販売する人形に一定の品質を維持したいと考えるのは、許諾を与える権利者(ライセンサー)にとって、当然のことではあるが、このような品質保証機能は、複製権の本質的機能とはいえない。 これを維持するために、複製権を許諾するに際して、製造地限定や下請製造禁止がされたとしても、このような義務は付随的義務にすぎない…(中略)
一方で、 複製権許諾に際しての、発行部数の限定や、 演奏権や上演権の許諾に際して 演奏・上演回数や、 演奏・上演場所の限定に対する違反行為は、 単なる債務不履行に留まらず、 複製権、演奏権や上演権を侵害するものというべきである。

この見解によると、債務不履行が同時に知的財産権侵害にも該当する場合とは、その債務が知的財産権の本質的内容と関わる場合といえるだろう。

しかし、そうであるとすると、右引用中、①「複製権許諾に際しての発行部数の限定」と、②「演奏権や上演権の許諾に際しての演奏・上演回数」については、その違反が著作権の本質的内容と関わる場合といえると思われるが、 ③「演奏権や上演権の許諾に際しての演奏・上演場所の限定に対する違反行為」については、それが著作権の本質的内容と関わる場合といえるか、疑問が生じる。

 なぜなら、①②については、その違反の有無により、ライセンシーが得られる当該創作物の利用の対価が異なると思われるが、③については、場所の違反によっては、ライセンシーが得られる当該創作物の利用の対価は異ならないのではないか(異なるとしても、著作権侵害という保護をライセンサーに与えるほどに多額にはならないのではないか)と思われるからである。

右フレッドペリー事件と比較しても、品質保証に対する信頼という、商標に化体した「イメージ」が保護対象である商標法においては、商標権侵害とすべき範囲を広く解すべき方向性になると思われるが、こうした(ある意味で無限に広がり得る)「イメージ」を保護対象とするわけではない著作権法においては、「著作権者が許諾した利用の範囲を逸脱することが創作のインセンティブを害するか否か」が著作権侵害の基準となるべきではないかと思われる。 そして、創作のインセンティブが、主に著作物の利用に対する経済的対価により維持されることからすれば、 その違反により経済的な対価が異ならないと思われる単純な利用場所の違反について、これが著作権侵害にも該当するというのは、少なくとも著作権法の建前からは説明が難しいのではないか、と思われる。

もっとも、利用許諾に係る地域的制限については、著作権侵害を構成する、というのが一般的な見解である旨が本稿でも述べられており、それは、まさしく「許諾に係る利用方法及び条件の範囲」が問題になっているものと説明されている*3。


*1:請求権競合

*2:知的財産法は(基本的には不法行為責任の特別法であるが)民法上の不法行為責任と異なり、特に損害賠償額の推定規定などにおいて、一般不法行為以上に厚い保護が定められている(特許法102条、実案法29条、意匠法39条、商標法38条、著作権法114条)

*3:本稿10頁参照

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