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The Best(&Worst) Alubums of 2016

お前らボーナスばおいてけ。お前らがクリスマスば家族や友達らと満喫しよる間に俺は男3人(全員ぼっち)で夜勤の真っ最中やったとぞ。そん中の一人がクリスマスやけんちゅうて気ば利かせてブラックサンダーば買うてきた。涙で前の見えんごつなったやんか。うまかったけれども。

お前らもろうたボーナスばおいてけ。夜勤の終わってからコンビニで飯ば買いよったら知らんジジイが俺の傘ば持っていきよった。疲れとって追いかける気力も大声出す気ものうなっとったけんが見逃したけども、雨に濡れて家に帰らんといかんくなった。あんジジイは孤独死して腐ってから家の価値ば下げるとよか。

ボーナスば、賞与ばおいてけ。そんかこつのあった後に会議の予定のあったけんが夜勤終えて家で2時間弱仮眠ばとって職場に戻ったら先方が会議んこつば忘れとった&やむにやまれぬ事情のあってからに会議ばやめやんごつなった。お前らなしけん事前に連絡できんとや?俺が寝る時間と交通費ば返さんか。


いよいよ今日は大晦日なので、妖怪ボーナスおいてけ仕様で挨拶をしてみた。そんなこんなで近年稀に見る惨めな年の瀬を迎えていた。そしてこの大晦日から1月5日まで出勤である。シフト勤になってから季節感を本当に感じなくなって久しい。いい加減現状を抜け出す為にもあれこれと研鑽を図らねばならないのは分かっているが、それもなかなかに気力を消費するのでまあ、ぼちぼちやっていくしかない。

そんなことはさて置き、年末恒例の2016年に聴いたアルバムのベストと、あとワーストを挙げていこうと思う。ちなみに本エントリのヘッダ画像は申年とゴジラ復活にちなんでキングコング対ゴジラの画像にした。それ以上の特に深い意味はない。とんでもなく長いので、是非とも正月休みの暇潰しにでも読んで貰えれば幸いである。まあせいぜい私にはない正月休みを満喫するがいい。


30.Korn/The Serenity of Suffering

カリフォルニア州出身、誰もが認めるこのシーンの立役者の一つであり、顔役でもあるKornの3年ぶりの新作。8年に渡ってバンドを離脱していたギターのブライアン・ウェルチの復帰作となる本作は、近作でどうにも停滞ムードのあった彼らのサウンドが完全に息を吹き返したことを確信させる、うるさくて、ヘヴィで、グネグネした、まごう事無きKorn印のアルバムだった。ちょうかっこいい。

29.Haken/Affinity

日本人ならバンド名で一度は必ず笑うイギリスのプログレッシブメタルバンドの4作目。元から十把一絡げのプログレメタル勢からはアタマ一つ抜きん出てた彼らだが、これまでの作品以上にゲーム音楽好きには刺さるアルバムになったように思う。どうでもいいけどHaken(派遣)のAffinity(親和性)って解釈するとよくある日本のブラック企業みたいだよな。

28.Dälek/Asfalt for Eden

ニュージャージー出身のヒップホップユニットの6年ぶりの新作。私が彼らの存在を知ったのは2005年のアルバムAbsenceからなのだけども、ゴリゴリのインダストリアルやシューゲイザー要素を取り込んだバックトラックとラップの融合がメタル耳にも気持ちの良いアルバムだったのだが、今年の新作がメタル専門のProfound Loreからのリリースだと知って、驚いたがまあ納得感もあり。本作はタイトル通りに、都会の灰色の地面から鉛色の空を見上げるような雰囲気の滲むクールな作品だ。

27.ColdWorld/Autumn

ドイツ産アンビエントブラックメタルの8年ぶりとなる2ndフルアルバム。前作はその「Cold Dimensions」っていうレーベル名からジャケから中身まで、そんなに全球凍結がお望みかね?というくらいにはブラックメタルの寒々しい荒涼感に重きを置いた傑作だった。本作では「秋」というタイトル通りに寒々しさは減退しているものの、その根っこにある絶望感や寂寥感は変わることなく、そのアプローチを変えてきた印象。ちなみに本作最大の欠点は、リリースが秋ではなく7月のリリースだったということだろう。

26.Thy Catafalque/Meta

ハンガリー出身の一人アヴァンギャルドメタルの7作目。昨年リリースの前作Sgùrrも恐ろしく内容の詰まったアルバムであったが、それから僅か一年足らずでリリースされた本作も、電子音を多用するアレンジと、ブラックメタルの切れ味といかがわしさが高い次元で融合したこれまた素晴らしい作品となっている。Ihsahnのソロがつまらんバンドと絡んだせいで手放してしまった実験性を、国は違えど非常に正しい形で継承してるのがこのThy Catafalqueなんじゃなかろうか。

25.The Body/No One Deserves Happiness

オレゴン在住のポストスラッジデュオの5thフル。空間を埋め尽くす不協和音と轟音、また、今回フィーチャーされた女性ボーカルとの相乗効果により、悪意が形になったかのような世界観を見事に作り出しており、色んなレビューサイトやブログで年間ベストに挙げられてるのも納得の出来栄え。前衛性を全面に出しつつも、土台を支えてるのは血の通った人間の肉であり骨である、というのが、彼らのサウンドの一番大きな魅力だろう。

24.Frost*/Falling Satellites

イギリス産プログレッシブロックバンドの前作から実に8年ぶりとなる3作目。本作は、彼らの1作目 Milliontownで私達を虜にした爽快感溢れる豊かなメロディと、2作目Experiments in Mass Appealで見せたややダークなUKロック的な色合いの両方の側面を兼ね備えつつも、それぞれの楽曲が非常にタイトにまとめられており、聞きやすさという点ではこれまでで一番かもしれない。ダークにも振り切れないし、かと言って底抜けに明るい方面にもいかない、という点において「どことなく90年代SFっぽい」と知人が表していたのは、実に的確だと思う。

23.Wormrot/Voices

シンガポール出身のグラインドコアトリオの5年ぶり3作目のフルアルバム。前作の2ndアルバムは、ガムを道端に吐き捨てただけで罰金を取られる国、シンガポールのイメージを確実に悪化させること請け合いの、息してるだけで逮捕されそうな攻撃性を放ちまくっていた激烈なアルバムだったが、一旦の活動休止期間を経ての本作は、東南アジア圏のメタル特有の人命が軽そうな攻撃性を担保しつつ、楽曲の豊かさが加わり、凡百のグラインドコアを引き離す魅力が更に増した快作となっている。まあアルバムの後半になると似た曲ばかりになっていくが、つべこべ考えるより先にアルバムが終わるので無問題だ。

22.Vektor/Terminal Redux

アメリカ産金太郎飴スラッシュの3作目。先に挙げたWormrotの新作が20曲26分で終わるのに対し、こちらのVektorの新作は10曲で73分もある。長過ぎる。女性コーラス導入したりちょいちょい新しいことをやってるようだが、ぶっちゃけ前二作とほとんど変わらないので別に書くこともない。…が、何年か前に局所的に盛り上がったスラッシュメタルリバイバルの中で、懐古趣味の先に進んだのはVektorくらいだし、2010年代以降にこのジャンルでリフが鳴れば一発でこいつらの音だって分かる個性を確立出来ている、という事自体がそもそも奇跡だと思う。というわけで今作も素晴らしかった。追記:そんなことを書いてた矢先、ギター以外のメンバーが全部脱退という憂き目に見舞われたらしい。一体どうなることやら…。

21.Katatonia/The Fall of Hearts

スウェーデンのシケメタルの大御所の3年ぶりの新作。ここ数作に渡って若干ぼやけ気味だった軸が、再び彼らの本来の持ち味である仄暗い叙情性、孤独感、そしてシケシケした非モテ感に焦点が定まった印象。特に目新しさはないものの、良い意味で肩の力の抜けた作品になっていると思う。いい加減来日しねえのかなあ。

20.Mare Cognitum/Luminiferous Aether

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19.Gevurah/Hallelujah!

カナダ出身のブラックメタルデュオの1stフル。ゼロ年代のDeathspell Omegaの密教的な冒涜感を、Behemoth的な筋肉で理解したら物凄く物理的に強そうなサタンが出来上がった感じというか。まあとりあえず、隅から隅まで地獄みたいなアルバムである。暴力と筋肉は全てを解決する。

18.分島花音/luminescence Q.E.D.

日本どころか恐らく世界唯一のチェリストアニソンシンガー、分島花音の前作から約1年半という短いスパンでリリースされたワーナー移籍後のアルバム第二弾。アルバムを通して聴くと、個々の楽曲の輝きは前作に一歩及ばないような気はするが、前作以上にチャンポンな音楽性は広がりを見せているように感じた。今年のライブではビッグバンド編成でライブを行ったらしく、そんなものは最高に決まっているので、とてもとても生で見たかった。

17.Testament/Brotherhood Of The Snake

ベイエリアスラッシュのラスボス、Testamentのもう何枚目か分からないが3年ぶりの新作。今年前半にはMegadeathが、そして後半にはMetallicaも新譜を出したわけだが、正直どっちのアルバムも別にそこまで悪くはないがまあ普通に退屈なシロモノだったのに比べて、Testamentの新譜はエネルギッシュで脂ぎってて奴らのアルバムの5倍くらいカッコ良かったぞ。大御所とはかくあるべし。

16.Howls of Ebb/Cursus Impasse: The Pendlomic Vows

サンフランシスコ出身、聴くタイプの悪夢型デス/ブラックメタルの2ndフルアルバム。昨年リリースしたEPを聞いた時には、1作目の尖りっぷりが少し薄れており、路線変更をしていくのかと思いきや、本作では相も変わらず人を嫌な気持ちにさせる音楽が展開されていたので一安心。一体どんな暮らしをしてたらここまで音楽に邪念を注ぎ込めるのだろうな。

15.Motorpsycho/Here Be Monsters

結成から約30年を迎える、ノルウェーのロックバンドの新作。ジャズ・サイケ・プログレ等々、様々な要素を雑多に、しかし明確な意図をもって並べて作り上げられた本作は、どこに辿り着くか分からないスリリングさと楽しさ満点の非常に気持ちの良いアルバムだった。

14.田所あずさ/It's my CUE.

ころあず、こと声優田所あずさの2ndフルアルバム。前作もデビュー作としては申し分のない出来だったが、本作はランティスレーベルの濃ゆい所を濃縮還元したようなアップテンポのナンバー満載で、どこか新谷良子のアルバムにも通じるようなキュートなガールズロック感に満ち満ちた作品。いかんせん曲数が多くて後半ダレてくるという、ランティス系声優アルバムの特徴もきっちり出てしまってはいるものの、いずれ新谷良子のMarching Monsterに匹敵するような傑作を生みだしてくれるのではないか、という期待も込めつつオススメしておく。

13.Deathspell Omega/The Synarchy of Molten Bones

フランスの暗黒の一等星、Deathspell Omegaの新作フルアルバム(尺的にはEPでも通用すると思うんだが、この辺は謎)。ライブも行わず、メディアへの露出もほとんどないにも関らず、2004年のアルバムSi Monvmentvm Reqvires, Circvmspice以降ブラックメタルのシーンを一変させ、本当に数限りないDsOタイプのブラックメタルを生んだ張本人のアルバムは、カオティックな展開と獰猛な攻撃性を全面に打ち出しつつも、根底にある得体の知れない黒い何かは相変わらず。コンパクトなアルバムではあるものの、フォロワーの追随を全く許さない、シーンの先駆者の激烈さを強くアピールする作品に仕上がっている。にしても、このアルバムの日本語でのレビュー記事が随分と少なくて地味に衝撃を受けた。時代の流れなのかねえ…。

12.Trap Them/Crown Feral

シアトル産4人組ハードコアバンドの5作目。大凡昨今のエクストリームメタル界隈のトレンドの中でも、特に尖った部分ばかりを掻き集めて、時にスラッシーに、時にドゥーミィに、そして全編に渡って暴力的にドライブしていく様はひたすら圧巻の一言。アルバム毎の違いがそんなに明確なタイプのバンドではないけど、恐らく彼らのカタログの中でも最高傑作なんじゃなかろうか。素晴らしい。

11.Ulcerate/Shrines of Paralysis

ニュージーランド出身のテクニカルデスメタルバンドの3年ぶりとなる5作目。ギターも、ベースも、ドラムも、吠え猛けるヴォーカルも、皆超絶なテクニックを持ち合わせていながら、それらが全部マス的な破壊をいかに扇情的に表現するかにベクトルが向いてるとんでもねえ怪作。元々スケール感の大きなデスメタルを得意としてた彼らだが、ここに来てその極致に至ったと言っても過言じゃないだろう。とにかく苛烈極まりない音を叩きつけながらも、どこか無機質でニヒルな感触がアルバム全編を支配しており、なんかもうぶっちゃけおっかないんですがコレ。テクニカルデスメタルというジャンルに留まらず、エクストリームメタルの新たな極北を示した作品だろう。ひれ伏すがいい。

10.DGM/The Passage

イタリア産プログレッシブパワーメタルバンドの9作目。どうも未だに彼らが「愛をとりもどせ!」のカバーをやってたメロパワバンドという認識で留まっている不勉強な輩が多いらしく、本当に嘆かわしい。オリジナルメンバーが誰もいなくなったにも関らず、アルバムを出す度に自身の最高傑作を毎回更新し続けている非常にに稀有なバンドだというのに、本当に勿体ない。Twilight Forceなんかオモチャにしてる場合じゃねえぞお前ら。さて置き、前作Momentumは目の覚めるようなメロディと、スリリングな展開と構築の美しさが光る素晴らしいアルバムで、流石にこれを超えるものは、と思っていたが、今作はそんな前作の延長線上にありつつも、更にもう一段階ギアが上がって研ぎ澄まされた印象で、またしても彼らの最高傑作を更新している。どこまで強くなるんだお前達は?尚、先日の来日公演の際にはアンコールで案の定「愛をとりもどせ!」のカバーを披露していたらしい。YouはShock!

9.BUCK TICK/アトム 未来派 No.9

とりあえず下の記事を参照されたし。

8.Oathbreaker/Rheia

女性ボーカルを擁するベルギー出身のポストハードコアバンドの3年ぶり3作目。クラストコアにブラックメタルのエッセンスをぶちまけた所謂ブラッケンドクラストの中でもかなりの有力株ではあったのだけど、ここに来て大きく路線を変更している。これまでの要素を軸として残しつつも、Neurosis辺りを彷彿とさせるような情感溢れるスローパートの比重が一気に増え、そこに女性ボーカルならではの情念・激情が化学反応を生み、非常に豊かなサウンドへと変貌している。歌詞を読むとかなりセカイ系っぽいのがまた良い。新海誠は別に好きじゃないが、「君の名は。」が大ヒットしたことでも分かるだろう。何度でも言うぞ、セカイ系は生きている。

7.Cobalt/Slow Forever

コロラド州グリーリーを拠点に活動するブラックメタルの4作目。前作Ginでアメリカブラックメタルの様式としての傑作を作り上げた彼らだが、バンドの中心人物であり、またアメリカ陸軍にも従事していたフィル・マクソーリーが、SNS上でレイシズムやミソジニー絡みの発言を投げてでいざこざがあったらしく離脱、マルチプレイヤーであるエリック・ウンターがバンドを引き継ぐ編成となって7年ぶりにリリースされたのが本作だ(フィルの発言の裏には、どうもイラクで負ったPTSDなどがあったようだが…)。上記のようなメンバーの交代劇が影響したのかどうかは定かではないが、本作ではブラックメタルの様式的な部分は捨て去り、EyehategodやToday is the Day辺りにも通じるような剥き出しの憎悪と、アメリカ産ブラックメタル特有の殺伐とした自然観とが見事に調和している。前後編に分かれた大作だが、リスナーの心をその世界に引きずり込んで離さない構成の妙が光っている。間違いなく、2016年のアメリカのアンダーグラウンドを代表するアルバムであろう。

6.Hail Spirit Noir/Mayhem in Blue

ギリシャのサイケ/プログレ/ブラックメタルバンドの3作目。2014年にリリースされた前作は70年代サイケ・プログレとブラックメタルを悪魔合体させて合体事故が連続して続くような奇作で、流石に一発ネタとしてそれ以降は続かないだろうと思っていた所に、案外短いスパンでリリースされたこの3rdアルバム、これが完全に予想外の出来だった。70年代ロックへの憧憬や思い入れをそのまま垂れ流すのではなく、それらをパーツとして捉え、現代のエクストリームメタルの感性で冷静に解釈し、再構成を行い、完全に個性として昇華している。要はタランティーノ映画的なアプローチをメタルでやってのけてるってことだ。Opethの連中とは志の高さがまるで違う。その試みによって生み出される音はいかがわしくもスリリングで、懐かしくも新しい、そして何よりメタルのダイナミズムに満ち溢れている。むちゃくちゃカッコいい。

5.Novembre/URSA

イタリア産プログレ/ゴシックメタルバンドの前作から実に9年ぶりとなる新作。前作は耽美さと哀愁の中に沈み込んでいく酩酊感を巧みに具現化し、一部の(私含む)メタルリスナーを虜にした大傑作であった。あれから約9年、待ちに待った本作の乾いた大地に少しずつ水がしみ込んでいくようなオープナーのAustralisを聴いて確信する。間違いなく前作Blueを超えるアルバムであると。水はやがて鮮やかなで哀愁に満ちたメロディラインと、躍動感溢れるリズム隊に導かれて大きなうねりとなり、聴き手の心を飲み込んでいく。プロデュースを行った我らがダン・スワノによる豊かなサウンドプロダクションも、本作のクオリティを更に押し上げている要因だろう。疑いようもない大傑作だ。

4.Eight Bells/Landless

オレゴン州はポートランド在住の女性3人によるドゥーム/サイケメタルユニットの2作目。このバンドのフロントであるメリンダ・ジャクソンという人物、元々はSubArachnoid Spaceという、95年からサンフランシスコを中心に活動を行っていたサイケロックバンドでボーカルとギターを担当しており、2010年に同バンドが解散した後に、SubArachnoid Spaceの残党を率いてこのEight Bellsを結成したのだとか。ちなみにEight Bellsというバンド名も、SubArachnoid Spaceの最後のアルバム名から取られたものだったりする。本作は、ジャケットの荒廃して大地が海底に没した未来の地球の情景を、シンプルながらも力強く、とにかく耳に残るフレーズで描いている。荒廃した未来の地球って百合なんだよなー。あと百合ではないが、テーマ的に上田早夕里の華竜の宮を思い出したりも。重さや音の厚みに焦点を置かず、独特の浮遊感や空間的な広がりを重視したサウンドは、ハマる人の心には必ずハマる筈。とりあえず日本での知名度は皆無に等しいので、もう少し色んな人に聞かれて欲しい。

3.Blood Incantation/Starspawn

コロラド州はデンバー出身のデスメタルバンドの1stフルレンスアルバム。謎めいた宇宙の闇に対する根源的な恐怖と畏敬の念、古今東西メタルのテーマとして散々扱われてきたそれらを、この上なくオールドスクールなやり方で具現化し、受肉させたのが本作だ。唸りを上げるギターに轟くドラム、地の底から湧いてくるようなグロウルと、最早形の分からないベースは互いに絡み合い溶け合って真っ黒な何かへと変わっている。また、録音はライブ形式に拘ってスタジオで一発録りで行ったとのことで、それがこのサウンドを有機的で魅力的なものにしている要因だろう。盆と正月が一緒に来た、という表現を使うが、映画イベントホライズンの例のシーンと、漫画ベルセルクの蝕のシーンが一緒にやって来たような本作は、めでたい正月に聞くのにもぴったりだろう。是非お試し頂きたい。

2.Thrice/To Be Everywhere Is to Be Nowhere

カリフォルニア出身のオルタナロックバンドの7年ぶりの8作目。2001年に1stアルバムが出た当時はそれこそ山のようにいた、パッとしないメロコアバンドの一つでしかなかった彼らが、15年以上も生き残り、メンバーチェンジも行うことなくここまで音楽性を変貌させることを誰が予想しただろうか? 2005年のVheissu以降、完全にそれまでの路線と決別した彼らは、完全にポストハードコア化したコンセプトアルバムを出したり、その次の作品ではRadioheadを意識したような作風になったり、それを深化と言うか迷走と言うか無節操と言うかは何とも言えない所だが、まあ多分、行き詰まったんだろうな。2009年のBeggars以降、7年間近く沈黙することになる。そして2016年、政治的・社会的に大きな転換点を迎えたアメリカの"今"をテーマに反映し、これまでに無くキャッチ―で、そして彼らのキャリアを統括するダイナミックなサウンドを引っ提げて彼らは帰ってきた。ルーツロック的なアプローチが印象的な本作は、単体でも非常に魅力的な作品だが、Thriceというバンドの歩みを知っていれば、より輝きを増して聴こえることだろう。

1.Ştiu Nu Ştiu/Fake End

スウェーデン、ストックホルムを拠点とするサイケ/ゴシックメタルバンドの2作目。エモーショナルに世界の終わりを描き出す音楽、というジャンルが(私個人の中にだけ)ある。個人的な頂点がThe Angelic ProcessのWeighing Souls with Sandであり、次点がNadjaのRadiance of Shadowsだったりする。そして今年、スウェーデンから現れたほぼ無名のこのバンドの2ndアルバムが上記と並ぶ新たなマスターピースとして私の中に君臨した。スウェーデンらしい退廃的でありながらも美しく歪んだメロディのうねりの中を、幽鬼のような妖艶な女性ボーカルが躍り、歌う。アルバム中のほぼ全ての楽曲が叙情詩じみた壮大なスケール感を有しており、それらは大きな一枚のタペストリーとなり、終末の情景を鮮やかに描き出す。個人的に今年最高のアルバムであり、こういった音楽をあれこれ聴いてきた中でも10本の指に入る傑作だ。こういった音楽と出逢えるから新たなバンドを探す行為は止められないんだよ。


さて、ベストと来たらお次はワーストである。以下順不同。

・Opeth/Sorceress

この前友人と話していたんだが、2008年にWatershedが出て以降、新作が出る度に私達はもう8年以上も「今回もダメだったね」と確認する作業を続けていることになるんだよな。今に残る70年代ロックの魅力って、その時代がパッケージングされたものだから、という側面は多分にあると思う。それを後発のバンドがいかに模倣しようが、憧憬や懐古趣味だけでやってる限りはただの自慰行為以上にはならんと思うんだよ。で、それをいつまでこの連中は続ければ気が済むのだろうか?とっとと解散して欲しい。

・In Flames/Battles

人の時間は有限だ。30歳を過ぎてから特にそのことを感じるようになったし、休日のありがたみを強く感じるようになった。だから、こんな10年以上前にやってたデジタルロックのなり損ないみたいな1時間近くあるアルバムを聞くくらいなら、同じ時間でカードキャプターさくらの漫画を読んでた方が10倍くらい有益だと思う。これはダメだろ。

・Astronoid/Air

Deafheaven+Alcest+その他大勢のシューゲイザーブラック=Astronoidなんだそうだ。ちなみに彼らは自らの音楽をDream Thrashと称しているんだとか。綿菓子みたいな音楽性と同じく頭の方も随分ハッピーなようだな。国内海外問わずだが、レビューサイトはいつまでこんなもの褒めそやしてれば満足するんだろうな。


そんなこんなで2016年の締め括りとする。2017年も良い音楽と巡り合えることを祈りつつ。

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