彼方に響く祈りと誓い―AZKiメジャーデビューEP『3枚目の地図』感想―
Next Horizon
2023年10月4日、ホロライブが誇る歌姫、AZKiちゃんがビクターエンタテインメントから待望のメジャーデビューを果たした。これでビクターさんからのいわゆるVtuber(バーチャルアイドル/Vsinger)のデビューはときのそらちゃん、MaiRちゃんに続き3人目となる(2人のアルバム記事はこちら
とこちら)。今回はそんな彼女のメジャーデビューEPである『3枚目の地図』の感想を述べていきたい。
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1. エンドロールは終わらない
『エンドロールは終わらない』はこれまでAZKiちゃんの楽曲をいくつも作ってきた瀬名航さんとのタッグ!過去作の『いのち』や『青い夢』に見られたような彼女の世界を、今回も余すことなく表現している。過去の楽曲を彷彿とさせる表現が入っているのも嬉しい。
瀬名さんならではのポップでリズミカルなメロディーが包み込むのは内面を吐露した重い歌詞。私如きが語るも烏滸がましいが、これまでのAZKiちゃんの活動にはいくつもの分岐点があった。時に活動に悩みながらも新たな道へ進むことを選んだ1枚目の地図。所属していたイノナカミュージックが終了し再び訪れた分岐の果てに、未来へ向かうことを決めた2枚目の地図。これら大きなもの以外にもきっと多くの悩みや選択があったことだろう。しがらみのなかにいるような苦い想いがAメロからBメロにかけて歌われている。
けれど、サビ以降では新しい地図を手にしてまた旅をすることを決めた姿が描かれている。迷いがないわけではない。違う未来を想像しないわけでもない。「たられば」なんて人生の常だ。それでも…これまでの想いも、葛藤をも愛しながら、成長しながら彼女は前を向いて歩いていくことを決めた。
そうして紡がれるこの歌は未来に祈るように、自分自身に誓うように聴こえた。心をさらけ出すことに不安を抱えながらも、共に歩んだ者たちが居なくなったとしても、これからも彼女はこの残酷な世界で歌を唄い続けていくだろう。「誰かの心に残る音楽を」という原初の誓いを果たすために。
AZKiちゃんが抱えてきたこれまでの葛藤とそこからの成長、そしてこれからへの誓いを描いたこの曲は、彼女のこれまでの集大成と言える名曲だ。
2.藍深く
続く『藍深く』は悲しい恋のバラード曲。AZKiちゃんの透き通った歌声からは優しさがありながらも切なさが滲んでおり、圧倒的な表現力は健在だ。美しくも儚いピアノの旋律もその歌声を一層引き立たせている。
サビはその相乗効果が際立っており、藍色の夜道のなかにいるかのような臨場感がある。「好き」や「愛」の言葉が無くとも、歌声からは相手を想う気持ちが痛いほど伝わってくるのが彼女の凄いところ。聴けば聴くほど藍深く沈んでいく。
そして転調してからのラスサビは必聴モノ!アウトロの余韻も良い…。
3. FreeGeo
『FreeGeo』はうってかわって、跳ねるように軽快なエレクトロニックなリズムと前向きな歌詞で楽しくなれるポップな曲だ。歌詞には「旅路」「ランドマーク」「真っ白な地図」など、AZKiちゃんが好きな『GeoGuessr』の要素が散りばめられている。
この曲は『自由な大地』というタイトルや歌詞の「真っ白な地図」など、今のAZKiちゃんを表現していると感じた。さながら、新しい世界への挑戦や出会いを楽しむ彼女の姿が瞼に浮かんでくる。物語も旅路もまだまだ道の途中。けれど想い出を胸に進む未来はきっと輝いている。背中を押してくれる歌声からはそんな想いを感じた。
4. ω猫
『ω猫』は以前AZKiちゃんが出したオリジナル曲『猫ならばいける』以来の猫をモチーフにした曲だ。猫ならばいけるの言葉通り、猫になっている。『太陽系デスコ』や『エイリアンエイリアン』でお馴染みのナユタン星人さんらしいノリのよい歌詞とリズムにAZKiちゃんが魅せるキュートさが融合し、にゃんと可愛らしい曲になっている。コールしたら「にゃん にゃん」で溢れかえりそうだ。ちなみにコーラスの主は…。
ただ可愛いだけでもまったく構わないが、そこにメッセージ性のある歌詞を入れるというのもAZKiちゃんらしい。α、β、γを越えてωという部分で、なるほど『ω猫』というタイトルに合点がいった。猫の口に似ているだけじゃないのね。
で、ここで聴いて頂きたいのが初回限定盤に収録されているアレンジバージョンの『ω猫』だ。曲調も相まって、キュートな感じから高貴な雰囲気に変化しており、歌姫の真骨頂を味わうことができる。
Diva’s Great Journey
総じて今回のEP『3枚目の地図』は地図の名が示すように、AZKiちゃんの様々な表情を魅せてくれるメジャーデビューに相応しい素敵なEPであった。この時を待ち望んだ開拓者の皆さんはもちろん、まだAZKiちゃんを知らない方々にもオススメな1枚だ。初回限定盤には各曲のアレンジバージョンが収録されており、こちらは本盤とはまた違った顔を見せてくれるので是非聴いてみてほしい。
私がAZKiちゃんの楽曲を扱うのはライブやFesの記事を除くとこれが初めてになる。AZKiちゃんの歌、というか彼女の描く世界は大好きなのだが、これまで記事を書くことは避けていた。曲を聴いた後に沸き上がる感情を言語化することが難しいというのも1つの理由である。が、1番は彼女を応援する開拓者さんたちは(私の印象だと)幾つものLiveを越えた精鋭揃いの猛者ばかりで、私ではとても太刀打ちできないという理由があった。
けれど開拓者さんに遠く及ばずながらも、自分もAZKiちゃんの歌と生きざまに魅せられた1人だ。メジャーデビューを果たした今回、思い切って書いてみた。これでこのEPの良さを伝え切れたとは思わないが、読んで下さった皆々様にちびっとでも伝わったなら本望である。
私が思うAZKiちゃんの歌の魅力は、「共感できる」ことである。旅路を想うハレの歌も、儚く切ない愛の唄も、背中を押してくれる曲も、キュートな曲も…そこには誰しも想う感情が詰まっている。愛おしくもあり、楽しくもあり、時にほの暗く痛みを伴う人間の感情を鮮やかに描くからこそ、ここまで心揺さぶられ、皆を魅了するのだろう。
運命を越え、未来を越えて、新たな可能性へと足を踏み出したAZKiちゃん。果てなく続くこの未踏の大地に、彼女はどんな足跡を残していくのだろうか。開拓の旅はまだまだ続いていく。
おっと、そらともとしては10月15日のSorAZの重大告知も非常に楽しみだ!
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