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短編シナリオ『#14 懐かしい』

早紀「あ」
萌子「何?」
早紀「タピオカあるよ」
萌子「えー?」

早紀・萌子、メニューを眺める。

早紀「頼む?」
萌子「私パス。ほうじ茶ラテで」
早紀「タピオカ黒糖ミルクで」
店員「かしこまりました、番号札お持ちください」

早紀・萌子、空いている席に座る。


映画を観た後立ち寄ったカフェ。いかにも映えを狙ったメニューが並んでいる。少し空いた行列も、制服を着た女子か奇抜な髪色をした女子大生だけ。

萌子「タピオカって懐かしいなー」
早紀「懐かしいって、ほんとちょっと前の話じゃないの?」
萌子「そうだっけ」

萌子、スマホを操作する。

萌子「2018年だって」
早紀「ほら最近じゃん」
萌子「最近じゃないよ。6年も前だよ?私が大学卒業して、早紀が昇格したくらいの年じゃない?」
早紀「タピオカが流行ってた時には、もう成人済だったんだ」
萌子「そうだよ。制服着てタピオカ持ってなかったよ」
早紀「時の流れは早いな……」
店員「お待たせしました、ほうじ茶ラテとタピオカ黒糖ミルクです」
早紀・萌子「ありがとうございます」
店員「ごゆっくりどうぞ」

店員、去って行く。

萌子「ごゆっくりどうぞって本当に思ってるのかな」
早紀「思ってないでしょ。長居する客に有難いなんて思ったことないけど」
萌子「それは早紀が今店長だからでしょ?バイトにしてみたらたくさん提供するより一組がゆっくりお喋りしてくれる方が楽だよ。給料変わんないんだから」
早紀「確かに。居酒屋のバイトの時、一生客来るなって思ってたもん」

早紀、タピオカ黒糖ミルクを飲む。

萌子「どうよ、懐かしの味は」
早紀「……こんな大きかったかな」
萌子「え、そこ?」
早紀「味は……甘い」
萌子「まあそうだね、甘いよね。いただきます」

萌子、ほうじ茶ラテを飲む。

早紀「タピオカを流行らせたのって誰なんだろう」
萌子「そりゃああの女子高生とか、あの女子大生みたいな、拡散能力がある人なんじゃないの」
早紀「流行って、誰か一人が決めたから出来る訳じゃないよね」
萌子「そうねー」
早紀「流行したものってさ、いつかは懐かしいになるよね」


萌子「まあね、一旦記憶から消えるから」


早紀「え?」
萌子「え?」
早紀「今なんて?」
萌子「……一旦自分の記憶から抜けて、ふいに見つけた時にパッと思い出す。その時に、懐かしいなって思うんじゃないの?」
早紀「記憶から抜ける……」
萌子「タピオカも、メニューにあったから頼んだけど、無かったら別に頼まないし覚えてないじゃん。片付けしてたら箪笥の奥にしまってた手紙見つけた感覚。小学生の時、手紙交換とかしなかった?」
早紀「した。この前出てきた」
萌子「人が懐かしいって感じるのは、当時の自分にはかなり衝撃的だった出来事だったり、印象的だったりしたから心の奥にしまっていて、急に思い出す時のこと」
早紀「なるほど」

萌子「だから、いつの日か懐かしいって思えるよ」
早紀「……」
萌子「今は嫌な思い出かもしれない。辛いかもしれない。昨日電話してきた時泣いてたでしょ」
早紀「バレてたの」
萌子「バレてるよ、どれだけ一緒にいると思ってんの。だから忘れろなんて言わないから。私とたくさん遊んで、たくさん飲んで、あんなクズと一緒にいた時より楽しませてあげる」
早紀「……ありがとう」

萌子、微笑んでほうじ茶ラテを飲む。

萌子「プリキュア、覚えてる?」
早紀「もちろん」
萌子「この前姪っ子とテレビでプリキュア観たんだけど、もう何がなんだか分かんない訳。何を持って誰と勝負してくるかとか、プリキュアになる子達の人生観たりとか。今のプリキュア、何で戦うか知ってる?」
早紀「私達が観てたふたりはプリキュアは、パンチとかキックとかしてた。でも武器使うようになったんだよね?」
萌子「そうだったんだけど、今のプリキュアは、ハグ」
早紀「……ん?」
萌子「ハグよ。モンスターを抱き締めて普通の生物に戻すの」
早紀「……ハートフルだね」
萌子「そうなの。あの蹴りとか一撃パンチが良かったけどね」
早紀「ああ……懐かしいね」
萌子「作りに行こうか」
早紀「何を?」
萌子「流行」
早紀「流行?」
萌子「その前に予習。もう一本映画観よう」
早紀「え、さっきも観たし」
萌子「今度は全然違うやつ。キュアホワイトもキュアブラックも出てるから」
早紀「え、何の話?」
萌子「早紀が失恋した時、プリキュアの映画観に行ったよね。それから同じポーズしてプリクラ撮ったの懐かしいねって、言うため」

萌子、立ち上がる。

萌子「懐かしい、作りに行こう」

早紀、笑う。


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