アイカツ!曲とR&B/Funk/ブラコンについての長文

Spotifyでアイカツ!曲とその関連楽曲のプレイリストを作りました。直接の元ネタから同ジャンルのちょっと似ている程度の曲まで様々ですが、折角なのでジャンル解説を交えながら各曲がどう関連しているのか書いてみます。

8/10 続編を書きました。よろしければ。→『アイカツ!と渋谷系/ラウンジ/世界のポップスについての長文

(※spotify使わない人用に記事中ではyoutubeのURLも貼っておきます)

(※8/3 23:58追記:楽理関係について、再確認やTwitter上で見かけたツッコミなど参考にさせて頂いて、随時訂正させて貰っています。訂正履歴が残せると良いんですがnoteにその機能はないようです。悪しからず)

1. サマー☆マジック 〜 90年代R&Bとサンプリング

【みき・みほ from AIKATSU☆STARS! - サマー☆マジック(2015年)】

「サマー☆マジック」の音楽ジャンルは?と聞かれたら筆者は確信を持って「90年代R&B」と答えます。

R&Bと言うジャンルは時代やアレンジによって様々なのですが、平たく言うと基本テンポは遅めで、なんかオシャレな雰囲気で、美声で「Woo〜〜〜」と歌い上げるみたいな感じのアレです。日本だと宇多田ヒカルや三浦大知などがR&Bです。

音楽史的な観点から言うと、19世紀からアフロ・アメリカンが歌ってきたゴスペル、ブルースのような音楽が20世紀に入り商業化され、同時期に台頭したジャズの影響も受けながら、40年代までにRhythm&Bluesと言うある種の定型を生みました。これが後のR&Bです。大きく「アフロ・アメリカンの歌もの、もしくはそれに影響を受けた音楽」と解釈され、時代によってアレンジはかなり違います。

50年代、60年代のR&Bは、わかりやすい例で言えばThe Supremes - You Can't Hurry Love(邦題:恋はあせらず)のようなモータウンサウンドが人気でした。(「恋はあせらず」の定番のリズムパターンは「アイカツステップ!」で使われてますね)

70年代のR&Bは公民権運動の時代背景を反映したSoulやFunk、Discoと言ったジャンルに分岐していき、アレンジ面ではモーグ・シンセサイザーやローズ・ピアノのような電子楽器が取り入れられ始めます。80年代になるとむしろ生音が少なくなり、シンセやドラムマシーンで作られた曲が増え、シンセ・ファンクやブラック・コンテンポラリーと呼ばれるジャンルになっていきます(ブラック・コンテンポラリーは80年代当時の現代黒人音楽と言う意味です。ブラコンと略されます)。そして90年代のR&Bは、当時黄金期を迎えていたHip-Hopの影響を受けて、サンプリングと言う手法で制作された曲に乗せて歌うのが特徴です。

「サマー☆マジック」には元ネタと言うべき曲が2曲あります。

① The Honey Drippers - Impeach The President(1973年)のイントロのドラム

② Grover Washington Jr. - Just the two of us(1980年)

上記の曲①②は下で紹介する「En Vogue - Give It Up, Turn It Loose」と「Around The Way - Really Into You」において実際にサンプリングされています。

サンプリングとは、平たく言えば既存の楽曲や音源の一部を使って曲を作ることです。「En Vogue - Give It Up, Turn It Loose」のドラムは①のイントロのドラムをそのまま使っています。「Around The Way - Really Into You」はもう聞いてそのまま②のイントロの音が流れてきます。

これがサンプリングと言う手法であり、こうして作られたトラックに乗せて歌うのが90年代R&Bの特徴です(*1)(*2)。

サマー☆マジックは①②をそのまま使っているわけではありませんが、「わかる人にはわかる」くらいの塩梅でこれらの元ネタを意識したアレンジになっていると思います。特に①The Honey Drippers - Impeach The Presidentは90年代のHip-Hop/R&Bにおいて極めて重要なサンプリングネタです。これをサンプリングした楽曲は数知れません。 Impeach The Presidentを模したドラムを使うと言うことは、サマー☆マジックをその文脈の中に位置づけると言う意味を持つのです。

では、サマー☆マジックの関連楽曲について解説していきます。

【En Vogue - Give It Up, Turn It Loose(1992年)】

En Vogue(アン・ヴォーグ)は90年にデビューした90年代R&Bを代表するグループです。前述のとおり、ドラムがサマー☆マジックと同ネタです。それ以外にもコード進行が所謂Just the two of us系(後述)なのも共通していますが、特に歌詞込みでこの曲は強く思い入れがあります。

この曲はskit(会話劇)で始まります。コーラスに集中できないメンバーの1人を問いただす場面、意中の相手とのトラブルで傷心しているらしい彼女に “You see, I’ve been through this myself. And, let’s talk.”(ねぇ、こう言うこと私も経験あるわ。話しましょう)と語りかけて曲が始まり、サビではこう歌い上げます。

I’ve seen it time and time again.
何度も何度も見てきたわ
It’s not worth it, no.
それは意味がないの、ダメよ
Don’t be down and miserable.
落ち込んで、ミジメにならないで
You and only you can bring yourself around.
あなたが、あなただけが自分を正気に戻せるのよ
Give It Up, Turn It Loose
あきらめて、好きにさせておけば良いじゃない

傷心した彼女を友人らが励ます歌詞が女性だけのホモソーシャルな関係を感じさせます。サマー☆マジックも「昔馴染みの仲間たちと乾杯すると思い出いだされる、まだあどけない子供だった頃の夏の記憶」を歌っており、女性同士のクローズドの関係を示唆する視点があって個人的にこの2曲はセットで思い入れがあります。

【Around The Way - Really Into You(1993年)】

Around The WayはこのReally Into Youと言う曲が有名なグループです。ジャンルとしてはR&B〜Ground Beat、New Jack Swingでしょうか。彼らは完全に一発屋で、この曲が収録されている93年のアルバム『Smooth in the way』をリリースしたこと以外はまるで情報のない謎なグループです。

なのでむしろ、この曲でサンプリングされているGrover Washington Jr. - Just the two of usの話をしたいのですが、Just the two of us(邦題:クリスタルの恋人たち)はサックス奏者のGrover Washington Jr.と歌手のBill Withersによる1980年のFusion/R&Bの名曲です。先に70年代から80年代にかけてR&Bに電子楽器が取り入れられ始めたと言う話をしましたが、それはJazzにおいても同様で、浮遊感のある切ない音色のフェンダー・ローズ・ピアノがこの曲の肝の1つであり、よくサンプリングされる部分です(ベースも良いんですがね)。

他にもスティールパンを初めて使った曲だとか、いろいろな切り口で話せるのですが、特に重要なのはこの切ないコード進行【IVM7/III7/VIm7/Vm7/I7 】です(*3)。 これを使えば一発でオシャレな曲になる魔法の進行として、後世のアーティストに死ぬほどパクられ、今でもこの進行をちょっといじったみたいな曲が毎週リリースされてるくらいクソクソクソクソド定番のコード進行です。

音楽理論的なことわかんないよって人でも、Trap of loveとサマー☆マジックとオトナモードってなんか似てるな〜って感じられるのは似たコード進行を使ってるからなんですね。

*1 もちろん演奏で作られた曲やサンプリングと演奏を同時に行ってる曲も沢山ありますけどね。 *2 著作権とか大丈夫なの?と言う話はここには書かないので興味があれば調べて下さい。 *3 実はこのコード進行もJust the two of usの発明かと言うと疑問でGeorge Bensonと交友のあったブラジルのIvan Linsが74年のEssa Mareや77年のDinorah, Dinorahで同じような進行をやっていて、70年代末のアメリカ進出の際にFusion界隈に持ち込んだんじゃないのかと言うのが自分の見立てなんですが、まぁもっとよく調べてみたいとこです。

2. オトナモード 〜 クリスタルのLovers Rock

【りすこ・もな from STAR☆ANIS - オトナモード(2014)】

「オトナモード」はLovers Rockと言うReggaeのサブジャンルを意識したアレンジとなっています。Lovers Rockとは要はラブソングを歌うReggaeのことで、ロンドンで生まれました。元々Reggaeはラスタファリズムと言う宗教運動と密接な関係にあります。Reggaeの発祥の地であり、ラスタファリズムの総本山であるジャマイカでは、宗教的なメッセージや政治思想を歌った楽曲が多く、ラブソングが歌われることは殆どなかったのです。しかし、ジャマイカからの移民が多いロンドンではReggaeでラブソングが歌われ、独自に発展していきました。これがLovers Rockです。

名曲揃いのアイカツ!曲の中でも、筆者は「オトナモード」をポップス史上に残るエポックメイキングだと思っています。

定番のJust the two of us系の進行(*4)を用いて、トラックはLovers Rock、しかし歌唱はレゲエ調ではなくR&Bっぽいと言うバランスの楽曲を筆者は今まで聴いたことがなく、しかもその取り合わせがこの上なく成功しているからです。

オトナモードのアイデアは本当に素晴らしく、むしろ今までに存在していなかったことが不思議なくらいです。本当にオトナモードに先行する楽曲は無いのでしょうか?筆者はこれまで5年くらいオトナモードと同じアプローチの楽曲をReggae、Lovers Rock、R&Bの各方面から探してきましたが、現在まで見つけられていません(*5)。

しかしながら、Just the two of usそのもののLovers Rockカヴァーが3曲存在しています。それについてご紹介します。

【Gappy Ranks - Just the two of us(2011年)】

Gappy Ranksは2002年からUKで活動しているDancehall Reggaeのアーティストですが、正直この人は特別有名と言う訳ではありません。プレイリストに入れたのも、Just the two of usカヴァーの3曲のうちSpotifyにあるのがこの曲だけだったからです。

しかしこの曲を一聴すれば分かるように、楽曲の雰囲気はオトナモードに近いものがあります。

この他にもReggae/Lovers Rockの名歌手John Holtによるカヴァーがあり、これも同じバイブスを放っています。

John Holt - Just the two of us(1982年)

ですが、個人的に最もオトナモードに近いと思うのは、久保田利伸によるこのJust the two of usカヴァーです。 

久保田利伸 - Just the 2 of Us (DUET WITH CARON WHEELER)(1991年) ※この音源はライブ版

このカヴァーは91年の久保田利伸の全編Reggaeのアルバム『Kubojah』に収録されています。久保田利伸のJust the two of usと言ったら95年の『Sunshine,Moonlight』収録ver.が有名ですが、それよりも先に、しかもLovers Rockカヴァーで歌われているのが意外です。

このカヴァーでは、Lovers Rockアレンジながら歌唱はR&B調と言うオトナモードと同じ取り合わせが成立していますね。

とまぁ、苦し紛れなオトナモードの元ネタ論を繰り広げましたが、これで「元ネタ!」と言ってしまうのはなんだか面白みが無い気がします。(そう言う問題なのか?)

つきましては「こんな曲あるぞ!」と言う、皆様からのオトナモード元ネタ情報を随時お待ちしております!!!!

<2020/4/4追記>
Just the two of usのボーカルであるビル・ウィザースの訃報を受けて、Just the two of us巡りをしていたらこんなものを発見してしまいました…。

【Carroll Thompson with Maxi Priest - Just The Two Of Us(1995年)】

「5年くらいReggae、Lovers Rockを探してた」とか先記してたのにCarroll ThompsonとMaxi Priestのデュエットを見逃してるとか「こいつ何してたんだ?」感がすごいですね。

この曲はCarroll Thompsonの95年のアルバム「Full Circle」に収録されています。シングルは切られていないのですが、非正規のアナログ盤も出回っていて、ラヴァーズ・ロックの現場では人気曲のようです。(でしょうねえ!)

このカヴァー、かなりオトナモード感ないですか?この文脈で紹介しない訳にはいかない超重要音源だと思ったので、追記しておきます。

*4 オトナモードの基本的なコード進行はKeyBbの【IVM7/IIIm7/VIm/IIIm/ bIII#dim/IIm/V】です(8/3 23:56 訂正) *5 この話すると高確率で邦Reggae/R&B歌手のMINMI - 四季ノ唄が上がるんですが、実際聴き比べると分かるようにあの曲はLovers RockやDancehall Reggaeとも違うんですよね。

3. Trap of Love 〜 まさかのブラック・コンテンポラリー

【すなお・わか・ふうり from STAR ANIS - Trap of Love(2012年)】

Trap of Loveはジャンル的には、ブラック・コンテンポラリー(ブラコン)と呼ばれるジャンルになります。ブラコンについて少し話すと、80年代のR&Bの通称で、当時の最先端の音楽機材であったシンセサイザーやドラムマシンを使った音作りが特徴です。

Trap of Loveは典型的なJust the two of us進行で、パッド系シンセやベル系の音を多用している辺りがブラコン的と言えます。筆者は6年くらいTrap of Loveの元ネタ探しと言う楽しい遊びをやっていますが、もしかするとコード進行とジャンルありきで作られていて、直接の元ネタは無いのかも知れません。

ただし、似ている曲を挙げることはできます。コテコテのブラコンと言う意味では、Keith Washington When You love Somebodyが該当します。

【Keith Washington - When You love Somebody(1991年)】

この曲はKeith Washingtonの91年にアルバム『Make Time For Love』に収録されています。知名度は低いかも知れませんが名曲です。作曲はChante Moore、Charlie Wilsonを手掛けたLaney Stewart。この人、Tricky Stewartの兄です。

ただTrap of Loveと比較すると、もう少し歌唱に現代っぽさが欲しいところです。その視点で行くと90年代R&BクイーンMary J. BligeのLove No Limitが近い印象を受けます。トラックにまだ80年代ブラコンっぽさを残しつつ、90年代R&B的なタイトさがあります。

Mary J. Blige - Love No Limit(1992年)

日本のアーティストから近い雰囲気の曲をあげると角松敏生プロデュースの吉沢梨絵 - Give it upが思い出されます。ベースが印象的です。

吉沢梨絵 - Give it up(1997年)

それにしても、女児向けアニメの曲でブラコンをやるというのは思い切った発想だなぁと未だに思ってしまいます。アイカツ!曲が幅広いジャンルを扱っているのは今となっては当たり前の認識ですが、最初に耳にした時は驚きました。2012年だと80年代リバイバルもまだまだアングラな潮流だったので、そこにいきなり女児アニメからこれをぶっ込まれたときの衝撃は今でも忘れません。児童向け言うだけでなく、親世代にもアプローチすると言うアイカツ!の戦略あってのことだと思います。もしかするとセーラームーンには90年代初頭当時の音楽事情を反映してブラコンちっくな楽曲があるので、それを意識しているのかも?

4. 約束カラット 〜 80年代シンセ・ポップ

【みほ・ななせ from AIKATSU STARS!  - 約束カラット(2015年)】

「約束カラット」は一聴するとTrap of Loveと似たブラコンのような雰囲気がありますが、サビで聞こえてくる単音を繰り返すストリングスのような高音のシンセや、3:00以降のフレーズがリフレインするブリッジの展開は80年代シンセ・ポップによくあるパターンです。

約束カラットに近い楽曲として挙げたい楽曲は、Jane Childの名曲Don’t Wanna Fall In Loveです。

【Jane Child - Don’t Wanna Fall In Love(1989年)】

Jane Childは1989年にアルバム『Don’t Wanna Fall In Love』をリリースした女性シンガーソングライターです。彼女自身の見た目はパンク風ですが、音楽ジャンルはシンセ・ポップで、RockとFunkが同居したPrinceに近い雰囲気の曲を作ります。このDon’t Wanna Fall In Loveは、PrinceのI Wanna be Your Loverのように単音を繰り返すシンセのバッキングが非常に美しいです(*5)。(コード進行もjust the two of us進行の変形の【IV/bVIdim7/ VIsus4/VI7】です。)

シンセ・ポップから他の例を上げるとすると、Kylie Minogue - Nothing to Loseが近いでしょうか?

Kylie Minogue - Nothing to Lose(1989年)

*5 蛇足ですがDon’t Wanna Fall In Love にはTeddy RileyのRemixもあったりします。

5. MY SHOW TIME! 〜 黒沢凛、D Train、Michael Jackson

【ななせ from AIKATSU☆STARS! - MY SHOW TIME!(2015年)】

「MY SHOW TIME!」はジャンル的には80年代のシンセ・ファンクです。

今ではもう信じられないかも知れませんが、10年ほど前まで80年代の音楽はダサいイメージで、ほとんど顧みられて来ませんでした。シンセやドラムマシンの音を薄っぺらく感じていたんですね。それを完全にひっくり返したのが2009年リリースのアルバムDam Funk『Toeachizown』でした。これ以降80年代再評価の機運が高まり、好事家達はこぞってシンセサイザーを多用した80年代のFunkやDisco、すなわちシンセ・ファンク(*6)を聴き漁り始めました。そうしたブームも円熟期に入った2015年に世に出たのが「MY SHOW TIME!」です。

一聴して感じられるのはシンセ・ファンクの中でも、D TrainやSharon ReddのようなPrelude Recordsっぽさであり、実際、編曲のIntegral Clover氏自身がD-Train - You’re The One For Me、Michael Jackson - Smooth Criminalを参考にしたと語っています。

【D Train - You’re the One for Me(1982年)】

D Trainは80年代のシンセ・ファンクを代表するアーティストの1人で、You’re the One for Meは82年のヒット曲です。引き合いに出してわかりやすいのか微妙ですが、Choo Choo TRAINのイントロで”Sky is the limit and you know that you keep on just keep on pressin’ on”と謎の声がしますが、あれはD Train - Keep onからのサンプリングです(ZOO版、EXILE版どちらも)。

MY SHOW TIME!とD Train - You’re the One for Meを実際聴き比べてみると雰囲気はそっくりなんですが、出てくるフレーズそのものは結構違っていて(当たり前ですが)、MY SHOW TIME!を聞いていると「このフレーズ絶ッッ対どっかで聞いたことあるのに直接の引用元は見つからね〜!」と言う歯がゆいような感覚に陥ります。それだけMY SHOW TIME!が80年代当時にあったとしてもおかしくないようなサウンドを再現してしまっていると言うことです。

もう1つの名前が挙げられているのがMichael Jackson - Smooth Criminalです。

【Michael Jackson - Smooth Criminal(1987年)】

この曲で参考にしたと言う部分はおそらく歌のリズムとキメですね。

Smooth CriminalのAメロは1小節8拍を4拍・2拍・2拍と分けて、最初の3拍に歌を詰めて4拍目のスネアを強調し、5拍目に歌→6拍目のスネア、7拍目に歌→8拍目のスネアを強調しています。こうやって裏拍のスネアをバチッとキメることで気持ちのいいグルーヴを生んでいます。

As he came into the window(ダン)
Was a sound of(ダン)a crescendo(ダン)

と言う感じ。MY SHOW TIME!ではこの要領で8拍中最後の8拍目を強調しています。

ドキドキが止まらないよ(ダン)
深呼吸息を整えて(ダン)

D Trainっぽいシンセ・ファンクと言うだけでも曲のアイデアとしては十分なところ、Michael Jacksonネタまで仕込んでいるのは、言うまでもなく黒沢凛がダンスキャラと言うのを踏まえてのことでしょう。このトゥーマッチ感もMY SHOW TIME!の魅力です。

*6 便宜上シンセファンクとしましたが、モダン・ファンク、ブギー・ファンクと言う場合のほうが多いです。

6. オリジナルスター☆彡 〜 EW&F、ダンス☆マン、ハロプロ

オリジナルスター☆彡はアイカツ!楽曲の中でも最も70年代Funkに接近した楽曲です。そもそもFunkとは1960年代末から70年代にJames Brownが定着させた音楽様式です。James BrownのFunkは、16ビートのドラムの上で短いフレーズでリフレインするカッティングギターが鳴り、要所要所でブラス隊がまるでドラムのフィルインのようにフレーズをキメ、James Brownのシンコペーションとタメの効いたボーカルが乗るのが定型になります。これが同時代や後世のアーティスト達に影響を与え、様々に解釈された音楽ジャンルがFunkです。

70年代は無数のファンクバンドが存在しましたが、やはり音楽史上最も成功したファンクバンドとなればEarth, Wind & Fireをおいて他にありません。

オリジナルスター☆彡も「パラリラ〜」と言うEarth, Wind & Fireの印象的なスキャットを拝借しています。

【Earth, Wind & Fire - Getaway(1976年)】

Earth, Wind & Fireのスキャットと言うと、名曲Septemberのサビ後に出てくるスキャットを思い出す方も多いでしょう。Brazilian Rhymeと言うスキャットだけで歌われた果てしなく気持ちの良い曲もあります。

Earth, Wind & Fire - Brazilian Rhyme(1977)

しかし、オリジナルスター☆彡はEarth, Wind & Fireを思わせるモチーフを使いながらも、それ以上に、モーニング娘。など数多くのハロプロ楽曲を手掛けたダンス☆マンの影響を伺わせます。ダンス☆マン自身がアーティストとして発表した、接吻のテーマのような替え歌楽曲群のアイデアがオリジナルスター☆彡にも生きていると言えますし、イカついFunkと目まぐるしく展開する構成はモーニング娘。- そうだ!We're ALIVEを思わせます。

モーニング娘。- そうだ!We're ALIVE(2002年)

そもそも日本のアイドル業界においてファンクチューンを歌わせると言うこと自体、モーニング娘。を想起せざるを得ませんね。

この関係をわかりやすく図にしました。(何故?)

【わか・ふうり・すなお・れみ・もえ・えり・ゆな・りすこ from STAR☆ANIS  - オリジナルスター☆彡(2013年)】

 モーニング娘。 ヽ 丶  \ ヽ      /  \
          \ ヽ  ヽ        ̄|   | ̄
 /  | ヽ \      \  ヽ  ゝ     ) )
ノ 丿  |   \  省   \   ヾ    ( (
   /       \     \    /|     ) )
 ノ   |   |   \  略     |   ( (
     /\      \      |     ) )  
   /   \     /      |   ( (
  /      \    ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄      ) )
/         \           ( (
 ̄ ̄ | あ ダ つ| ̄ ̄   ノ⌒ ̄⌒γ⌒ ̄⌒ゝ     David Foster
   | り ン ん|    ノ  田中秀和氏  ゝ      / /
   | が ス く|   丿           ゞ   _/ ∠
   | と ☆ さ|   丿/|/|/|/|\|\|\|\|\ゝ  .\  /
   | う マ ん|            │              V
―― | と ン  | ―――――――― ┼ ――――――――――――――――
  /  い 師  ヽ   巛巛巛巛巛巛巛人巛巛巛巛巛  遠隔調への転調
     う 匠       | ̄ ̄ ̄ ̄) | ̄|   | ̄|   | ̄|  | ̄ ̄ ̄ ̄)
     気         | | ̄ ̄ ̄  | |  |  |  | |   | | ̄ ̄ ̄
     持         |  ̄ ̄ ̄)  | |    |   | | |    |  ̄ ̄ ̄)
     ち         | | ̄ ̄ ̄   | |  |    |   ||   |    | | ̄ ̄ ̄
            |  ̄ ̄ ̄)  |  | |  |      | |
               ̄ ̄ ̄ ̄    ̄ ̄    ̄ ̄      ̄

7. lucky train! 〜 サルソウルのディスコ・クイーン

【Loleatta Holloway - Love Sensation(1980年)】

Discoとはどんなジャンルかと言うと、要は踊ることを目的としたR&Bです。もっと踊りたいと言うリスナーのため、キャッチーでアップテンポに、身体を揺らせるようキックとスネアをドンッ/チャッ/ドンッ/チャッとリズミカルに叩いて、ハイハットやシェイカーもジャカジャカ鳴らして盛り上げる。こうしたサウンドがフィラデルフィアのフィリー・ソウルを中心として好まれ、70年頃までにDiscoの定型が生まれていきました。

Loleatta Holloway(ロリータ・ハラウェイ)はDisco音楽発祥の地、フィラデルフィアを代表する女性歌手です。更に言えば、70年代Discoを代表する歌姫、ディスコ・クイーンの1人です。このLove Sensationは彼女の最後のアルバムの表題曲。80年の曲ですが70年代っぽさを色濃く残しています。

Loleatta Hollowayはサルソウル・レコーズというレーベルに所属してました。サルソウルの特徴は豪勢なストリングスとサルサ由来のパーカッション、後のHouseにも影響を与える裏拍で刻まれるオープンハイハット、そして高らかに歌い上げるボーカルです。 

サルソウルの音源は後世のDJ達から多大なリスペクトを受けています。特にLoleatta Holloway - Love Sensationでのソウルフルなボーカルは、90年代以降のHouseやGarage、その他のダンストラックで無数にサンプリングされ、Remixされてきました。

【lucky train!(2015年)】

「lucky train!」のストリングスやハイハットの鳴らし方はサルソウルを意識している様に思えます。勿論そうしたアレンジは今ではDisco音楽の中核として当たり前のものになっていますが、それを差し引いてもサルソウル感に溢れています。サルソウルからlucky train!に一番近い曲を選ぶとしたらLoleatta Holloway - Love Sensationではないかなと思います。

また、編曲のIntegral Clover氏によると「lucky train!」のベースには参考曲があるらしく、それがスラップベースの生みの親、Larry Graham率いるGraham Central StationのPowだそうです。

Graham Central Station - Pow(1978年)

確かに。

(9月18日17:40追記)

【ブラックビスケッツ - Timing(1998年)】

情報提供で知ったのですが、この超有名J-Popもサビ以外のヴァースがlucky train!ライクなサルソウルサウンドでした。lucky train!の制作段階でこの曲の名前が挙がっていてもおかしくありませんね。

8. フレンド 〜 なんとなく雰囲気がAcid Jazz

時は80年代、イギリスのクラブシーンで新しいムーブメントが起こりました。当時のDJ達が、もう誰も聞かないような、忘れ去られた60,70年代のレコードの中から踊れるJazzやエバーグリーンなSoulを再発見してクラブやラジオでプレイしたのです。所謂Rare Grooveムーブメントです。JazzやFunk、Soulで踊ると言うクラブ文化が生まれると、レコードをかけるだけでは飽き足らず、そう言った音楽を演奏するバンドがウケる様になります。こうして90年頃までにAcid Jazz(*5)と呼ばれるジャンルが形成されていきました。

なので、Acid Jazzってどんな音楽?と言われると、70年代のJazz,Funk,Soulとアレンジ上はあまり区別がなく、言葉で説明するのは難しいです。大抵の場合はAcid Jazzの代表的なアーティストであるJamiroquai、Incognito、The Brand New Heaviesの楽曲に似た雰囲気の曲をAcid Jazzっぽいと言ったりします。

何が言いたいかと言うと「フレンド」はAcid JazzっぽいからAcid Jazzだと言うことです。

【わか・ふうり from STAR☆ANIS - フレンド(2014年)】

と言うことで、数あるAcid Jazzの中から Incognito - PositivityとThe Brand New Heavies - You Are The Universeを選んでみました。

【Incognito - Positivity(1993年)】

Incognitoの結成は1979年と意外と古く、1981年に1stアルバムを出しています。その後10年近くリリースはありませんが、前述のRare Grooveムーブメントの中でAcid Jazzの第一人者として頭角を現し、90年頃にDJのGilles Petersonらと共にTalkin’ Loudレーベルを立ち上げました。

Positivityは1993年の4thアルバムの表題曲で、このアルバムは少なくとも日本においてはAcid Jazzを代表する1枚として、知られています。

一聴するとフレンドとは違う雰囲気の曲ですが、実は一部使っているコード進行が似ていています。

・Positivity(KeyB)のイントロのコード進行

【G#m7/D#aug7#9th/F#onG#/G#】(VIm7/IIIaug7#9th/VonVI/VI)

・フレンド(KeyC)のイントロとサビでキーボードが弾いているコード進行

【Am7/Em7/G/Am】(VIm7/IIIm7/V/VIm)(※8/3 23:16訂正、フレンドはKey Gかと思っていましたが確認するとKeyCで、ディグリーでもPositivityと同じになるようです)

Positivityの進行を半音上げると【Am7/Eaug7#9th/GonA/A】となり、フレンドのコード進行によく似ています。フレンドはメジャースケールのダイアトニックなのに対して、PositivityはIIIaugを使ったりVIを使ったりしているため、より切ない印象になっていると思われます。

ちなみに、このPositivityをネタにしているアニソン、しかもアイドルアニメ曲が過去にもあります。『チャンス〜トライアングルセッション〜』と言う2001年の深夜帯に放映していたアイドルアニメの挿入歌「Objection」です。イントロを聞いて貰えば即「これPositivityじゃん」となること必死です。

山本麻里安 - Objection(2001年)

『チャンス〜トライアングルセッション〜』のヴォーカルアルバムはブラックミュージックを元ネタとした挿入歌が多数収録されていて、アイカツ!楽曲にかなり近い感覚を持っています。なんなら最初に話したサマー☆マジックと同じようなことをしている曲があったり、Aaliyahを元ネタにしたTimbalandマナーのR&Bがあったり、Janet Jackson - Rhythm Nationそのものみたいな曲があったり、挙句の果てにはAl Kooper - Jolieネタの曲まであります。この記事で書いてるような話が好きな方には絶対におすすめです。このアルバムの話はまた別の機会にしたいくらいです。

閑話休題

【The Brand New Heavies - You Are The Universe(1997年)】

The Brand New HeaviesはRare Grooveムーブメントを受けて1985年に結成されたバンドです。You Are the Universeは1997年のアルバム『Shelter』からのシングルカットです。

フレンドと直接関係があると言うよりは、似た曲調の楽曲と言うことで選びました。それにしてもめっちゃいい曲ですね。イントロの伴奏はスウェイビートと呼ばれるDiscoのお決まりのパターンの1つで、おそらくEmotions - Best Of My Love(1977年)を意識していると思われます。

*5 Acid Jazzの名前の由来はAcid Houseに対抗して定着した名称らしいです。

9. カレンダーガール 〜 00年代の先にある地平

【わか・ふうり・すなお from STAR ANIS - カレンダーガール(2012年)】

実はカレンダーガールの関連曲として挙げたい曲がspotifyやYoutubeに無かったのでここに書きます。

カレンダーガールは70年代のFunkに直接の原点があると言うよりも、00年代のネオ渋谷系やその周辺のアーティスト達がFunkやAcid Jazzを元ネタにして作った楽曲の更なる進化系のような印象を受けます。それ故にRound Table featuring Nino - Groovin' Magic(2006年)と似ていると言われたりもしますが、コード進行の面では同じアルバムのRound Table featuring Nino - Message(2006年)の影響があるのではないかと睨んでいます。また、一十三十一 - Mangosteeeen!(2007年)も軽快なファンクチューンなのですが、イントロからAメロの流れがカレンダーガールを思わせます。

どの曲も今現在YoutubeやSpotifyで聞けないのですが、カレンダーガール2兆回聴いたぜ!!と言う人は一聴して貰えば何が言いたいかわかると思うので、聴いてみて下さい。

10. セカイは廻る 〜 Jam&Lewisのベースライン

最後に、Spotifyではまだ配信されてないアイカツフレンズ!の楽曲、「セカイは廻る」について書きたいと思います。

【セカイは廻る - みお from BEST FRIENDS!(2019年)】

「セカイは廻る」はジャンルとしては「MY SHOW TIME!」のような80年代シンセファンクに類するのですが、中でもピンポイントでJam&Lewisと言うプロデューサーによる楽曲群を想起させるアレンジとなっています。

Jam&LewisはJimmy JamとTerry Lewisの2名からなる80年代〜90年代初頭に活躍したプロデュースチームです。彼らはミネソタ州のミネアポリス出身で、同郷で先にデビューしていたPrinceにフックアップされ、PrinceプロデュースのバンドThe Timeとして活動した後、色々あってバンドを離れました。その後は、1982年のS.O.S. Bandのプロデュースを皮切りに、ヒット作を連発させ、86年にはJanet Jacksonのアルバム『Control』で大成功を収めました。

80年代のJam&Lewisは、きらびやかなシンセを全面に押し出し、TR-808やLinn Drumと言ったドラムマシンの名機をいち早く取り入れたサウンドで人気を博します。個性的な音色を持つドラムマシンのパーカッションがメロディを為すかのようにポコポコと鳴り、印象的なシンセベースやスラップベースが絡む、と言うのが80年代のJam&Lewisサウンドです。

「セカイは廻る」はTR-808のようなドラムマシンは使ってはいないものの、シンセベースのフレーズはJam&Lewisの影響を強く感じさせます。

ベースラインが印象的なJam&Lewisの楽曲を挙げるなら、Alexander O’Neal - What’s missingです。

Alexander O’Neal - What’s missing(1985年)

Alexander O’Nealはブラック・コンテンポラリーを代表する歌手の1人で、Jam&Lewisとはミネアポリスで高校時代に同じバンドを組んでいた仲です。彼の曲はほとんどJam&Lewisが手掛けています。

その他に「セカイは廻る」に影響を与えていそうな楽曲を上げるなら、Change - You Are My Melodyでしょうか。

Change - You Are My Melody(1984年)

Changeはイタリアで結成されグループで、1980年にアメリカでデビューしました。イタリアはイタロ・ディスコと言う、これまたちょっと独特なシンセサウンドのDiscoがあるくらいDisco音楽が盛んでした。Jam&Lewisは1984年にこのYou Are My Melodyを収録した『Change of Heart』と言うアルバムをプロデュースし、ヒットさせています。

そして、もう1曲挙げたいのがLoose Ends - Hangin' On A String (Contemplating)です。

Loose Ends - Hangin' On A String (Contemplating)(1985年)

Loose EndsはイギリスのJam&Lewisと言われたりするグループです。「セカイは廻る」を初めて聞いた時は、ベースの音色がこの曲と瓜二つで驚きました。

勢い余って書きましたが、「セカイは廻る」は久しぶりに往年のブラックミュージックを元ネタにしたアイカツ曲で居ても立ってもいられなくなって書いてしまいました。

まとめ

だいぶ長くなりましたが、ここまで来るとアイカツ曲を通してブラックミュージック史を語れるような気すらしてきましたね。Message of a Rainbowは言ったらゴスペルだし、Du-Du-Wa DO IT!!がDoo Wopだし、Happy☆Punchがバブルガムソウルだし、ミツバチのキスは「Epo - う、ふ、ふ、ふ、」っぽいからシティポップも行ける的な?

最後なのでシメますが、私がアイカツ!曲を好きなのは、様々なジャンルの元ネタ探しが楽しいからと言うだけではなく、こう言った多くの文脈を含んだ豊かな楽曲を児童向けに本気で提示していると言うことに感動するからなんですよね。

今後もアイカツが音楽史を感じさせてくれる示唆に富んだ素晴らしい楽曲を生んでくれると信じて。

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