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出戻りぱんだのおはなし・ろく

  飼育員さん、やほー!こんにちはー!\(*ˊᗜˋ*)/♡ヤホー
去年、紺色のチェックのマフラーを買って1か月も経たないうちに無くしたぱんだです(p´͈ Д `͈q)
今年は赤いスヌードをげとーーー!手袋もお帽子もダウンもおろしたし、これでいつ初雪が降ってもへっちゃらよー!!\(*ˊᗜˋ*)/♡ヤホー

  前話ではあまりパパのおはなし書けなかったから、今回はやっとの思いでぱんだがパパに会えた日までは書けたらいいなぁ«٩(*´ ꒳ `*)۶»ワクワク

それじゃあいってみよー⊂('ω'⊂ )))Σ≡GO!!



  パパのリハビリも怖いくらい順調に進み、ママだけではありますが2メートルくらいの距離を取り、パパと面会出来るようになったのは11月の末くらいからだったと思います。

  お箸を使ったり、指先を使った細かな作業は出来ないだろうと言われていたパパも、この時期くらいには自分で食事できるまでに回復していました。
といっても、もう外れていますが人工呼吸器を取り付けるための穴が喉に空いていますし、誤嚥性肺炎を避けるために出される食事は全粥やゼリー状の流動食。お箸よりもスプーンで食事を摂る事の方が多かったのではないかと思います。

  起立時や歩行時にはふらつき、バランスが上手くとれず転倒してしまうなどの症状もみられたそうですが、器具や手摺り、他者の介助があれば日常生活を送れる程度までは回復の見込みがあるだろうと言われていました。

  生存確率二割程度と言われたのが嘘のような回復ぶりに、担当してくださったお医者様も看護師さんや作業療法士さんも驚いていました。ママも妹ちゃんも、ぱんだもビックリです。
当の本人は何が起きているのか、自分が何故入院しているのか、ピンと来ていない様子であったらしいですが。

  この調子でリハビリが進み、脳や心肺の状態が安定しているようなら12月の末までにはリハビリ科のある病院へと転院する事になりそうです。
そんなある日、パパとの面会を終えて帰ってきたママの表情がニコニコ笑顔じゃありません。

  「おかえりなさーい、なにかあった?」

  「・・・・・・お父さん、あんたの事覚えていないかも」

  荷物をおろしたママは、泣きそうな声でそう伝えてくれました。
何を言われたのか、理解するまでの間はどれくらいだったかあまり覚えてません。
夕飯の支度をしていた手も自然と止まります。

  「あはっ、仕方がないよー!この家出てから十四年でたった二回しか帰省しなかったんだよ?忘れても文句言えないよねぇ」

  努めて明るく、明るく、明るく。

  「今生きてることが奇跡だし、場所が場所だったから消えたのがぱんだだけならなんの支障もないでしょ?」

  ぱんだは忘れないから。

  「退院してうちに帰ってきた時に、パンダがいたらびっくりするだろうけど」

  くしゃっと歪むママのお顔を見ていられなくて、気付かないフリをして手を動かす。

  「パパが忘れたって、ぱんだはパパとママの子どもだよ」

  「・・・・・・あんたはそれでいいの?耐えれるの?」

  ママの望むいい子で賢いお姉ちゃんは、なんて答えるのが正解かな。

  「耐えるもなにも、受け入れてあげなきゃ。忘れてる事実を知った時に一番辛いのはパパだよ」

  何を作ろうと思っていたんだっけ・・・・・・
あぁ、寒いからお鍋にしようと思ったんだ。

  「それよりさ、お夕飯お鍋にしようと思うんだけど、豆乳仕立てとお味噌仕立てどっちの気分?」


   それからまた月日は流れ、12月16日。
急ではありましたが、二日後の12月18日にパパの転院が決まりました。
新しくお世話になる病院で必要なものを買い揃えるべく、ママと二人でお買い物。

  「明後日、病院のエントランスからタクシーに乗り込むまでの間はお姉ちゃんも会えるって」

  「ほんと!?ぱんだもパパに会っていいの!!」

  ママの運転する車の中で大はしゃぎ。
後日ママから聞いた話では、病院側は新型ウイルスの感染予防のため、ママと妹ちゃん以外の面会を最後まで渋っていたようですが、一時だけでもと譲らないママに根負けしたようです。

  「毎日ママとご飯食べられるし、明日には妹ちゃんも姪っ子ちゃんも来るし、明後日にはパパに会えるし、帰ってきてよかったな」


  迎えた12月18日、強風に雪の舞う中、予定の時間より早めにおうちを出ます。

  「おとん、ほんっと雨男だよねー」

  笑いながら妹ちゃんが言います。

  「沖縄行った時も、層雲峡に行った時も、お姉ちゃんが箱根に連れていってくれた時も雨か吹雪だったもんね」

  ママも笑いながら言います。

  「箱根行ったねぇ・・・・・・覚えててくれたんだ」

  お天気はあいにくですが、車の中はほんわり和やかな雰囲気。
パパに会える日を、言葉を交わせる日を待ち望んでいたのはみんな一緒のようです。

  「さ、着いたよー。妹ちゃんはお父さんに付き添ってタクシー乗ってね。みんなで見送ったらお母さんは退院の手続きしてくるから、お姉ちゃんと姪っ子ちゃんは先に車で待ってて」

  姪っ子ちゃんの手を取り、四人で病院のエントランスへと向かえば、ガラス越しでもすぐにわかる姿が見えました。
検温、手指の消毒を済ませ、うるさい心臓を落ち着かせながらゆっくりと自動ドアをくぐればもうすぐそこにパパがいます。

  「おとんー!良かったねぇ、ほんとに!次女だよ!わかる?」

  一人駆け寄った妹ちゃんが、目に涙を浮かべながら捲し立てます。
姪っ子ちゃんは久し振りのじいじにちょっと人見知り。ぱんだの後ろでモジモジしてます。
ママはパパの身体を気遣いながら、そっと肩に触れています。

  ぱんだはどう声をかけるのが正解なんだろう。

  「ほら、おとん!おねえも帰ってきてるんだよ!わかる?長女、おねえ!」

  「・・・・・・長女?妹ちゃんと、他にいたか」

  ポツリとこぼすパパの言葉に、ママも妹ちゃんも切ないお顔。
家族の顔を見て、パパの困り眉がさらに不安そうに下がります。

  「おはよ、ぱぱ。いいんだよ、思い出さなくて」

  一歩、また一歩、ぱんだはパパに近付きます。

  「はじめまして、ぱぱ。ぱんだと言います。ぱぱとままが付けてくれた自慢の名前です。これからまた覚えてくれたら嬉しいな」

  車椅子に座るパパの前にしゃがみこみ、そっと手を握りながらにっこり笑顔。
自慢の娘にはなれないけど、パパとママは間違いなくぱんだの自慢です。
だからもう、そんな哀しいお顔をしないで。

  「ぱんだ?」

  「そう、ぱんだ」

  握り返してくれた手が暖かいから、それだけで充分。



  ほどなくしてお迎えのタクシーも到着し、パパと妹ちゃんは一足先に転院先の病院へ。
ママは必要な手続きのために窓口へ。
姪っ子ちゃんとぱんだは車内へと戻りました。


  再会した瞬間の記憶は鮮明で、今でも簡単に思い出せますが、その後はあやふや。
きっと一人じゃ受け入れることも、笑うことも出来なかったんじゃないかなと思います。

  ぱんだが一人で強がれば、隣でなんでもない事のように笑い飛ばしてくれるひと。
塞ぎ込んでても、虚勢を張っても、空元気でも、いつも変わらず名前を呼んでくれるひと。
いとしいひと。

  そんな大切なお友達が一番近くで寄り添って、手を引いて、道を照らしてくれたから、ぱんだは家族に再会できたんじゃないかなと思ってます。

何かのきっかけのひとつにでもなれたなら嬉しいです\(*ˊᗜˋ*)/♡ヤホー