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「24時間本屋さん」の思い出 その3

その1の記事はこちら
https://note.mu/curryyylife/n/n24d2938bc662

“5月のはじめの穏やかなころある日の夕暮れ近く、一人の青年が、「24時間本屋さん」をやっているS横町のある建物の門をふらりと出て、思いまようらしく、のろのろと、K橋のほうへ歩き出した。”

宗教ほど、語りにくいものは無いと思う。性や政治について語ることが、オープンになってきたようにも見える現代日本でも宗教について口にするのは勇気がいる。

ぼくは、友達と一緒に宗教読書会をやっていた。宗教美学や宗教の歴史、宗教と社会との関係などの本を読んだ。なんでも話せる関係の友人だけでクローズドにやっていた。
宗教読書会の目的はキリスト教や仏教、イスラム教といった特定の宗教についての知識を得ることではない。「何かを信じている自分自身」とは、いったい何者なのかを知るためにやっていた。
それに加えて、文学を読んだ時に「キリスト教/仏教の世界観が分からないから、このシーンの意味を十分に理解できないな」というノンキなセリフを言わないようにするためだ。批評や分析には宗教の文化的教養や知識が必要かもかもしれないが、それが十分に無くても、宗教への関心さえあれば、自分の心に浮かんだ感想を手放さないことぐらいできるのではないか。

そんな小さな読書会で生まれた好奇心から、「学校イベント」の3時間目特別授業『宗教的経験の諸相』読書会を企画した。相手との距離感に注意をはらいながら、感想をしゃべるみんなの様子が印象的だった。


4時間目「学校イベント」最後の授業は、芸術だった。
香道で使われる香木を実際に焚いて、香りを記憶するゲームをやった。これが、なかなか難しい。
ぼくは紅茶が好きで、ときどき、ちょっと高い茶葉を買っている。高級な茶葉というのは、生産された農園や時期がちゃんと書いてあって、それぞれの違いを楽しむことができる。お気に入りの農園を見つけると記録しておくのだが、好きになったはずなのに、どんな香りだったか忘れてしまう。
もちろん、ダージリンとかアッサムとか、大きく違う地域の香りの差異くらいは覚えているが、A農園のダージリンとB農園のダージリンの違いとなってくると上手く言えない。とにかく、香りというのは記憶するのが難しい。

今回の授業でも、たくさんの要素が混ざり合った香りを覚えようと、何度も嗅いだりしたのだけれど、回数を多くすればするほど脳内で単純化されてしまうのか、うまくつかみきれない。
1呼吸目には「リンゴのような、シナモンのような、土のような、酸いような、茶葉のような匂いに感じるなあ」とか複雑性を感じるのだけれど、2呼吸、3呼吸と進めていくうちに頭の中で抽象化がおこなわれ、嗅覚が平坦になっていく。結局、メモに「KALDIの匂い」と書いてしまった。
誰か、上手に香りを覚える方法を知っている人がいたら、教えてください。

そんなことをしているうちに、いつしか時計の針は午後7時を指している。イベントの残り時間は15時間。
24時間本屋さんは、まだまだ続く。

その4はこちら
https://note.mu/curryyylife/n/nf64c1c93f21c

※この記事は2019年5月2日~3日に、双子のライオン堂書店で行われたイベント「24時間本屋さん」の感想文です。感想ですので、事実と異なるフィクションが含まれています。
https://peatix.com/event/635701/view


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