「死」などない/スピリットサークル/水上悟志

宇宙はパソコンと同じだと思った。

地球はフォルダだ。

人間はファイルだ。


水上悟志の「スピリットサークル」は、「魂の輪廻転生」がテーマの漫画なのだが、読んでいて「生きていることの定義」「死んでいることの定義」を改めて考えさせられる内容だった。

「肉体の機能停止」と「魂の消滅」は別のものではないのだろうかと、思わされたのだ。

つまり、皆が感じている「人の死」は、「肉体の機能停止」であって、「魂の消滅」ではないから、魂とは何かを考えると、その結論に拠っては「人の死」は存在しないものではないかという疑問が生じた。


ピーター・ティールが、最終的に人間は「脳」だけの存在になって、バーチャル空間で好きな身体と精神でストレスなく永遠に生き続ける、それが人間の最終進化形だと語っていたのだが、まさにこの内容が「スピリットサークル」にも登場する。

水上悟志はこの話を知っていたのかは分からないが(私はあまりに話が似通っているので事前に知っていたのではないかと疑っているが)、「脳だけの存在」は「人の死ではない」としていて、それは最後の生の繋ぎ止めだった。

ここで魂の話だ。

魂は輪廻し転生する。それを前提にすると、人間が死なない限り、魂は解放されず、永遠に魂が輪廻転生しない。そう水上悟志は結論づけた。

これが凄く私には違和感のある話だった。

魂は死んでいない。魂を宿していた人間の肉体が、器として消滅して、宿り先がなくなった魂が、自由になったに過ぎないからだ。

つまり、人間は魂がありきで、依代は何でもいいのではないか。

死の定義は、魂の消滅であって、器の消滅ではない。


感情や思考などは只の微弱電気の流れによる現象でしかない

君らが作ッた電化製品と何ら変わらない
違いはより複雑かどうかだけだ

(GANTZ/第36巻)


敢えて奥浩哉の「GANTZ」から引用したいのだが、ここで私は断言しておく、いわゆるスピリチュアル的な「魂」の存在を全く信じていない。

私は「スワンプマン」を、同一の存在、そのコピー元の人間そのものだと捉えている。

この引用の通り、人間の精神は「複雑な電気信号」でしかなく、全て「デジタルに再現可能」だと考えている。これは科学が発展しシンギュラリティを迎えれば、遅くない時代に実現すると疑っていない。


テセウスの船」を改めて考えてみた。先に言うが、寺沢武一の「コブラ」に登場するアーマロイド・レディは、元のレディとは全くの別人なのか?

その想いは、全くのデタラメな、嘘なのか?

その愛は、作られたものに変換されてしまい、心を喪ったのか?

私はそうは思わない。生身のレディも、完全に機械化したアーマロイド・レディも、全く同一のレディだと私は確信している。


例えば、友人や知人、親や子供が、事故で手足を失い、機械の手足を装着したとしよう。これは同一の人間だろうか。私は同一の人間だと勿論思うし、多くの人が、そう思うだろう。

では、首から下、全てを事故で失い、頭部以外が全て機械に置き換わった場合、これは同一の人間だろうか。私は、同一の人間だと思っている。まだ、多くの人が、この状態なら同一の人間だと思うのではないだろうか。

では逆に、頭部を失い、脳を含めた頭部だけを機械化し、今までの記憶や知識、経験を詰め込んだ学習能力もこれまでと同程度に準ずる人工頭部に、本人の首以下生身がくっついていたら、それは同一の人間なのだろうか。私は、同一の人間だと思っている。ここはとても意見が分かれると思う。

最愛の人が、自分の娘、息子が、このような頭部を失う事故に遭い、最新鋭の技術で機械化してアーマロイドとして生還したとき、同じ口調で同じ感情で同じ表情で自分に語りかけてきたら、それを「人ではない」と言って、拒否できるのだろうか。私には、きっと、できない。


この、できる、できない、は、実は、同じことだ。

つまり、「魂」はどこに宿っているのか、は、「脳」に、と全ての人が薄々感じているのだ。

「脳が魂である」ということは、その精神は複雑な電気信号の結果でしかないのだから、結局、魂は、デジタルに再現可能な複雑なデータ群でしかないのだと、私は思っている。

「魂が輪廻転生する」とは、なんて面白い表現なのかと私は思う。

複雑なその電気信号を寸分違わず再現できたら、それはすなわち、「魂が輪廻転生」したことと、同義なのだろう。

スワンプマン」は確率上、決して0%ではない。そして、そこから少し情報が欠落し、極めて初期の状態に等しいような状態が、「赤子としての生まれ変わり」に他ならない。

パソコン上のフォルダ内のファイルをコピーするように、全く同一の人間は再現可能で、再生時の修正も思いのままだということだ。


君達は風により飛ばされるチリと本質的に変わらない

只の物質でしかない

(GANTZ/第36巻)


「魂の輪廻転生」の概念を肯定すると、私には「肉体の消滅」が「人の死」だとは思えない。肉体は、そう、「只の物質でしかない」のだ。

そして、魂は脳で構築された情報でしかなく、複雑なだけでデジタル信号は再現可能なのだから、人は、永遠に、死なない。


※この作品は2018年3月3日に「今日のおすすめ漫画」で紹介している


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