プリクラ

言葉を作る武器の体がパチパチ音を鳴らしてる。少女になるための勇気は手を広げたらすぐわかる。ピンクとドキラキラしたデコで埋まった私の指先は体のあちこちを傷つけながら生活を続けている。スマホをいじっているとき,自撮りをしているとき,お風呂に入っているとき。私が見る世界にまた一つ新しい可愛いが生まれた。
電子音がうるさい箱の中身で私が私になる準備をする。人数は?背景の色は?加工の方法は?パチパチ。迷うことなく背景を白にして頭がくっつくほどの距離感で顎を引いてシャッターを待つミユが左側にいる。せーのの合図で世界で一番かわいい私 が出来上がるのだ。

「まって盛れてる最高。ユキこれストーリーに載せるね?加工した写真もエアドロで送る」

と隙もなく畳み掛ける会話はjk戦争を勝ち抜いていくうえで身についた戦術のように思えた。私が中学生の時に友人と共にプリクラを撮った時は,プリクラの背景はピンクにして落書きは友達と

「なに書く?」
「えーどうする,とりあえず猫耳かいとこ」

といった落書きタイムがあったはずなのに高校生になってから落書きの時間はなくなり,後で背景や落書きを追加してインスタの系統に合うように彩度やコントラストを調整していくらしいのだ。私はわかったふりをしながらプリクラのあれこれはミユにまかせる。プリクラを撮ったあとにインスタのストーリーに加工した今日の写真を載せる。インスタの新機能でストーリーにいいねすることができる機能が追加されてから,インスタの通知も比較的に多くなった。
「まって〇〇校の宮先輩がいいねしてくれた,dmしようかな?」
「やってみなよ。」
といった会話の定型文がJKの中で令和に誕生した。令和の女子高校生はいつだって気まぐれなんだ。仲いいと思ってた二人組はいつのまにかSNS上で共通の友達ではなくなっている。シャッターを押した瞬間に女の子の可愛いは生まれているのだ。きっとそうなんだ。


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