見出し画像

【GW】鳩に起こされた朝。

連休二日目の朝。

まだまどろみの中にいた私は、意識のずっと遠くで奇妙な音を聞いた。

クックルー、クックルー

……何だろう?
鳥?犬の鳴き声?

クックルー、クックルー

いや、洗濯機が空回りしてる音?

クックルー、クックルー

目が覚めるにつれ、音がだんだんとハッキリしてくる。これは確実に外からだ。

……にしても、うるさいな。

クックルー、クックルー

クックルー、クックルー


「あーもうっ!寝てられないっ!」

たまらずベッドから起き上がり、ドタバタと隣りの部屋へ向かう。たぶん、音はこっちの方向から聞こえて来る。出どころを突き止めようと窓を開けた。

窓の外は民家が建ち並ぶ住宅街。マンションから眺めるいつもの風景だ。特別変わったところはない。

しかし、相変わらずけたたましい音は続いている。

どこだ?どこから聞こえて来るんだ?このクックルーは!

「鳩、だね。これは」

いつの間にか、私の後ろに立っていた夫が言った。

「……あ、おはよ。今日休みなんだ」

「うん」

「てか、これ鳩⁈なんか機械的な音にも聞こえるんだけど」

「鳩だよ。だって俺がさっきベランダの掃除してたらさ、せっかく拭いた手すりにデカい鳩がとまってさ。俺と目が合ったら、サッと飛んでいったんだよ。そいつがまた、何処か近くにとまって鳴いてんだ」

「ホント⁈」(鳩って、こんな大音量で鳴くものなの?)

「ホント、ホント。手すりに足あと残ってるから」

ベランダに出てみると、確かに三本指の鳥の足あとが手すりにクッキリと残っていた。

ベランダ掃除中に驚かされた夫と、安眠を妨害された妻。夫婦共々、まるで鳩にもてあそばれたかのような朝の出来事。

クソー、鳩のヤツめ。


          *



気を取り直して、せっかく早起きしたので久しぶりにスチームクリーナーを使って、フローリングの掃除する事にした。

これをやる時はダイニングテーブルやソファを移動させるので、①夫と私の休みが合い、②尚且つお互いに体力の余裕がある、という条件をクリアしなければならない。①は、まあいいとして、②のタイミングがなかなか難しく、実行されるのはせいぜい年に一回程度である。

大きな家具を二人がかりで、よっこらよっこら動かしたあと、私が掃除機をかけ夫がクリーナーで掃除する。

そして蒸気が乾くまで少し待つ。

乾いたあとのフローリングを素足で歩くと、足の裏のサラサラした感触がとても心地良い。

「ちょっと休憩しようか」

「うん」

「アイス食べる?」

「いいね」

暑くなってくると、私は冷凍庫に業務用サイズのアイス(2ℓ入り)を常備する。味のバリエーションは少ないが(バニラ、チョコ、抹茶など)個別包装されているものよりコスパがいいし、なによりいつも冷凍庫にアイスがあると思うと、なんとなく嬉しい。

大容量のアイスをスプーンですくってガラスの器に入れ、掃除したてのフローリングに直に座って食べる。

冷たい、甘い。
あー美味しい。

食べながら、ぐるりと部屋を見渡す。家具を移動したリビングは、なんだか広々して見える。

開け放った窓から入ってくる、5月の風。

その風は力仕事で汗ばんだ肌を素早く乾かしてくれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?