見出し画像

改・「60おっさんのタイからラオス・初めてのバックパッカー1人旅」 note版

〜ドンデッドの戯れが紡ぐ時間と空気感
No.16

さて、来た道を帰ろう。
ペダルを踏む。
しばらく行くと集会所みたいなトコロから
民族音楽が聴こえてくる。
通り過がりに見ると数人の若者が
楽しそうに演奏していた。

その音を後に、
凸凹道、
水溜りの悪戦苦闘の始まり始まり。
でも、
慣れてくると結構気持ちいい。
こう走ると上手くいくぞ。
だから、こっちをこう攻めようと・・・
先を読み乍らの
ドライビングテクニックを興じ始める。
バシャーと水を弾くのも1つの方法だと、
夢中になってくる。

時折、
やってくるソンテウの観光客とは
互いに笑顔で手を振り挨拶。
さっきまでのこと、
これから先のこと、
何もかも忘れて
ただ手を大きく振る。
それだけ。

そんなとき、フト浮かぶ。

『こんなことしてていいんだろうか・・・?』

おいおい、そんなことは考えるな!
今回は了解済みだ。
ここで思い存分楽しむんだよ、おい、君!
こんな気分が味わえるなんて最高やんか!!!

石造りの橋を渡ったとき、
前方から、
昨日、パクセーから一緒に来た
外国の男女の仲間たちと出会う。

AYさんは今までの経過を話し、
彼らは、
「これで、いいんだ」
と納得し、
僕たちが走って来た道を駆けていく。
「バーイ!」
英語、
喋られるってことは、
なんていい事だ。
100万回目の戒め。

渡り切ると、
朝、来た道と違う、
畑の中をまっすぐ伸びる凸凹道を行く。

『この道が島の反対側をぐるりと廻る道なんだ』

と日陰のまったくない道をエッチらコッチラ、
自転車のペダルを漕ぐ。
(後で判るんだが、AYさんは行き、この道を使って来たようだ)


すれ違う島の人々。
道を塞ぐ牛の群れ。
ソンテウから手を振る外国の人たち。
僕たちをパワフルに追い越していくレンタサイクル仲間の西洋人。

『いい気持ちだ』
僕はTシャツを脱ぎ、
少しでも逞しく見えるように、
貧弱な上半身を太陽に晒した。

そんな事をしている間に、
AYさんは軽快にドンドン前を進んで行く。
小気味よく。

慌ててペダルを踏むが、
『ツライ!ンッ・・・!』
体力、衰えたか・・・、
脚力がない。
重いペダルを踏む。
僕は、鈍った身体にムチを打つ。

彼女の姿は50m先。
『強いやん!負けとれんわい!』
と漕ぐが、
60歳という数字が身に沁みる。

キーコ、キーコ、キーコ・・・
行き着く先、この道は、
なんと泊まってる”Mr Tho's Bungalows"の手前、
2差路のもう一方の道だったんだ。


「あぁ、ここに来るんや!泊まってる所やん。
オーイ、ちょっと、来えへん」

宿とは反対、
フェリー船着場の方へ
ルンルンと走る彼女を呼び止めた。

部屋を見せ、
「安い所やけど、結構いい所やろ」
年甲斐もなくええ気分で案内。

関心するAYさん。
「結構、いいんじゃない」

通りに出て、
『さて、これで終わりかな。ほんじゃ・・・』
と思っていたら、

「この先は?」
と尋ねた。

僕が朝一番に走って行った、
フェリー船着場方向とは反対側の
”Mr Tho's Bungalows"の前を伸びていく道を見つめていた。

「さっきのあの橋まで行くよ」
「行こうか!」
すでにペダルを踏んでいる彼女。

『あぁ、行くんだ・・・』
と疲れ気味の僕。

今朝、走ったばかりの道を、
彼女の後を、追って行く。

珍しそうに風景を
楽しみ進んで行く彼女。

先ほどの畑の中の凸凹道じゃなくて、
こちらはメコン川に沿って島の生活者の佇まいがあるし、
観光客相手のカフェもあったりするから、
いろいろ目が奪われる。

ポッと浮かんだ、
旅での”付き合い”。

『そうだよな。一人じゃなく二人だと、
こういうこともあるんだよな』

一人、二人、旅について
アレコレ考えを張り巡らせる。
そして、
石造りの橋のたもとに到着。

あるべき所に
上手い具合にある店で水を買い、一休み。

「私、2ℓじゃ、足りないの」
とAYさん、ゴクリ。
「なんでか、その〜、僕は喉、そう乾かんのや」
とゴクリ。
その前を通り過ぎるソンテウの客が
「ハーイ!」
こっちも
「ハーイ!」
島の人たちより観光客との出会いがなんと多いことか。

(石造りの橋のたもと、ここで一息)

ひと息ついた60のオッさん、
僕は、やっと口を開く。

「体力あって、強いんやな」
「そう、けっこう歩いたりもするし、それに好きだし。
こう見えてもパワーあるんだ」

僕はパクセーでのことを思い出す。

「そうやな、大したもんや。
アンタみたいにドンドン歩く女の子、初めてちゃうかな。
今までは・・・そやな、苦手な人ばっかりみたいやった気がするなぁ」

「女の子がよく話す普通の会話、ドラマがどうのこうの。
美味しいお店があるのよ。流行りのファッションは?
昨日、アレ、面白かったね・・・などなど。
そういうの、私、興味ないっていうか、嫌いなの。
仕方ないけど、皆んな、そんな日常の繰り返しじゃない。
私、何も持ってないけど、そんなの嫌だから、
こんな風に長期の旅に出て、新しいことを体験したいんだ」

「そうなんや。それで、仕事は・・・?」

AYさんは、照れながら、
「流行りっちゃ流行りだけど、
デザインなど・・・書いたり作ったりするのが好きなので・・」

ネイリストで頑張っている彼女だが、悩みもある。
お客さんとの話題作りは少々苦手。
仕事中は黙っててはイケない、
飽きさせない話術もサービスの一つ。

また、ある時、
見本の写真と全く同じ様に施してくれとのオーダー。
しかし、お客様から違うって言われ、
どうしようもなく、先輩から謝ってもらい、
ネイル落として、
帰ってもらったという。

「これって手作業だし、どこかは違うよね。
まったく一緒だなんて・・・無理だわ」
と振り返る。
そんなこともあって、今のこの仕事のことも少し戸惑っている。

仕事に対して自分を肯定させる意味がないと苦しい。
ただ、お金のため、生活のためだけに、
唯一の楽しみである休みの日の、自由になる時間のためだけに、
好きでもない仕事をするのは辛くて、
何か目的を見出さないとしんどい、贅沢を言っている様だけど・・・。

話を聞きながら、僕も自問しながらそんなことを思い浮かべ、反芻した。

「英語がペラペラで、こんな旅の体験をたくさん積んでるし。
今も、私とここに居るっていうことは、え〜、例えば、どうかな、
国境なき医師団や人道支援のスタッフとかさ、そんな目的意識ある、
しかも、日本じゃなくて外国で働ける仕事なんかイイんと違うかな」

「うん、いいなぁ。でも・・・」

いろんな悩みを抱え、旅して、何かを掴み取ろうとしている。
でも、若いから、まだまだ、これからじゃない。
いいな〜。
60のオッさんには、羨ましく見える。
すみません。

この変哲のないこの場所で、
このタイミングで深い話に入りこんで、
陽が傾きかけた頃、
彼女から、
「今晩、最後の夜だから。わたし、ご馳走してあげる」
「えっ!?(嬉しいなぁ)・・・そう、いいの?」
「いいの。明日、出るんでしょ。私は、もう1日。
泳ごかなぁと思って・・・」
「そうか・・・」

ウボンまでのバスのチケット買った、昨日の時点で、
いつの間にか”ルアンパパンへ行く”は蚊帳の外になってしまっていた。

再び、
先ほど走った凸凹の畑道をエッチラコッチラ漕ぎ、
シャワーを浴びに宿へ帰る。

そして、彼女も・・・・・。

サポートしていただけましたら、より一層、充実した日々が送れると共に、明日へのパワーが漲ります!よろしくお願いします。