見出し画像

【ライブレポ】大ナナイト vol.143 KEYTALK×フレデリック(2022.4.19)

2022年4月19日、フロアを踊らせる2組のバンドが渋谷の夜に相まみえました。
MONSTER DANCE」などで名を馳せたKEYTALKに、今もTikTokで使われるほど人気の「オドループ」を生み出したフレデリック。
バンドにはアイドルと違って振り付けなど基本的にはあるはずもないのですが、この二曲に限ってはMVでダンスシーンがあったり、実際のライブでも誰に言われるでもなくお客さんが振りをつけて踊っています。
他にはあまり例をみないスタイルをきっかけに売れてきた2組が、O-EASTで開催の「大ナナイト vol.143」に出演しました。

肌寒い天気でしたが、どちらの出番でもかなり汗をかきました。
やはり踊らせられます。
ただ「踊る」と言いつつも、そのアプローチも両者まるで違いますし、踊ることだけがかれらの全てではありません。
2つのバンドが刺激してきたのは汗腺だけでなく、心にも深く感じ入るものがありました。
ライブの模様に触れながら、そのことを書き残していこうと思います。

3時間とられていたこのライブ、まず登場したのは、オープニングアクトでした。

女性4人組のヤユヨ、結成から3年程度だそうです。
場内を見上げれば、数えきれないほど配置されている照明が沈黙していました。
暗がりの中登場したボーカルのリコさんの颯爽とマイクを手に取る姿がかっこよかったです。
曲を聴いてみれば、フレッシュでありながらどことなく上の世代にも親和性の高い曲が多く、まさか女子大生バンドとは思いもしませんでした。
高校時代からの憧れの2組とステージをともに出来ることへの喜びと、この日のヤユヨは位置づけとしてはオープニングアクトだけれども気持ちは2組と肩を並べた3マンライブのつもりだと語っていました。

KEYTALK

フレデリックとKEYTALKのどちらが先に出るのかという順番は事前にわかりませんでした。
ヤユヨの出番が終わり、10人を超えるかという数のスタッフの方が慌ててバンドセットの交換をしています。
普段アイドルのライブにしか行っていないので、この転換の時間をすっかり忘れていました。

限られた転換時間で急いで準備するスタッフの方の背中には、「音踊遊話」の文字や、去年発売の砂時計柄のバックプリントが見えます。
この時点で、どちらが先に出演するかは察しがつきましたが、確信に変わったのは機材がほあるべきところにセットされ、スタッフが1人ふたりとステージから消えていき、中央やや下手よりのアンプの上にお酒の缶が何本かおかれたときでした。
ギターボーカルの巨匠が飲み干すためのお酒です。

ラッシャイラッシャイとSE「物販」で叫びながら騒がしく4人が登場しました。
フレデリックとの対バンですから、さぞ気合いが入っているのでしょう。
ここから祭りの始まり。
かと思いきや...
一曲目から意表を突かれました。
曲の頭、ドラムの八木氏が、スティックを4カウント叩いてから竿隊が加わってきます。
初っ端から飛ばしていくセットリストを覚悟していました。
しかし、イントロで鳴らされるスティックのリズムはかなり遅めでした。
遅いといっても今から振り返れば知れているのですが、なにせアッパーな曲で攻めてくるだろうというイメージが先行していただけに、それとの差で余計に緩急を感じてしまっていたのでした。
「あれ?」とつんのめりそうになりました。
急いで頭の中のイントロリストを引っ張り出そうとするころにはもう、泣き出しそうなギターの音がパーカッションの後を追っていました。
照明は赤みがかった紫色へ。
一曲目はしっとりとした「MURASAKI」でした。

上手後方から観ると義勝の表情は分かりにくく、それがミステリアスさを生んでいます。
かたや、正面上手側にいた武正の表情はよくわかります。
切なげな顔つきを幾分大げさに入れながらギターを響かせていました。

2曲目は「S.H.S.S.
お祭りソングを入り口にKEYTALKを好きになった自分が一歩踏み込んで曲を漁っていったなかでまず引き付けられたのがこの曲でした。
KEYTALKは10何年活動してきた年輪の幅を感じさせる音楽もさることながら、未だに少年っぽさや青臭さを残した音楽も生み続けられていることが武器だと思っているのですが、この曲にはそんな青臭さがあります。
凄く単純に言ってしまうと、中二病チックです。

リリースこそもう10年近く前ですが、おじさんになった今でもどういうわけか似合ってしまいます。
曲名は「Space Highway Speed Star」の頭文字であり、いかにもかっこいいものを寄せ集めてみました感が出て、さらには歌詞を見てみると、「僕はもう迷わないよ 霞んでく光を越えて」など青々しいです。
耳に叩きこんだ曲ではありますが、この日に持ってこられるとはまず予想していませんでした。
意外なあまり、この曲も反応が遅れました。
パートの切れ目で、義勝は下を向く一方で、巨匠は顔を上にあげるというという、ツインボーカルの歌い終わりのポーズが対照的だったのが印象深かったです。

最近のKEYTALKはFCツアーのセットリスト決めのためにファンから集めた投票を対バンにも反映しているのか、インディーズ初期の曲をやることが多いようです。
その後も意外性のある曲で進み、キャッチーでポップというメジャーシーンのKEYTALKらしさが戻ってきたのは「Love me」でした。
この日は披露されなかった「FLAVOR FLAVOR」とともに、イントロの段階でフロアが極端に縦揺れし始める代表的な曲です。
イントロでの揺れを体感したいがためにライブでこの曲を待っているようなところがあります。
昨2021年夏リリースの「大脱走」「宴はヨイヨイ恋しぐれ」でのフロアの揺れ方からは、コロナ禍でもこれらの曲が間違いなく育っていることを感じました。

他のバンドとくらべ、KETALKはステージの上でコミュニケーションを取ることが少ないのだと、YouTube番組「KEYTALK TV」を観て知りました。
ドラムの八木氏はともかく、竿隊の3人はフォーメーションを固定したままでそこから動くことがないのだということです。
最近スタッフに言われてから意識しているらしく、この日は上手の武正が中央にいる巨匠の方に寄りがちでした。
ただ、以前のライブでも感覚としてはそこまで動きがないようには感じなかったのですが、それは盛り上がり曲でお立ち台にあがったり跳ねたりと、フォーメーションを動かないまでもその場での動きが多かったからなのかもしれません。
ステージでの横の連携より、フロアとの縦のやりとりを重んじているのがKEYTALKなのでしょう。

この週の関東は、春と冬を激しく行ったり来たりしている天気の底にあり、外の空気は冷たかったのですが、場内は熱くて仕方ありませんでした。
ヒートテックの上に裏起毛パーカーという恰好で来たことを後悔していました。

KEYTALKはこの夏、全国50会場にてライブツアーを予定しています。
その先にあるのは2023年3月1日の日本武道館公演
しかし、気にかかることがあります。
今までもその傾向はありましたが、ツアー最終盤に巡る主要3都市(Zepp)は別として、それ以外の地方会場はどこも小さめだということです。
おかげでチケットを取るのもなかなか難儀しています。
平日とはいえKEYTALKクラスであればその地で一番の箱を抑えて巡るというのもできそうなものですが、どうして小さなところを回るのでしょうか。

油断したら脱水になってしまうのではないかというほど熱かったこの日の体験から、その理由が分かった気がしました。
ステージとフロアとのコミュニケーションは、会場の大きさで大分変わってきます。
当然ながら箱が狭いほど密になります。
広い会場だとやまびこのような若干のラグや跳ね返りの弱さがあるのに対し、狭いところだと卓球のラリーのような、当てたら即同じ力で跳ね返ってくるような距離感の違いがあります。
普段行くライブの規模感からすればO-EASTだって決して小さいとはいえない会場なのですが、少なくともZeppやホールクラスよりは短い距離でのやりとりができます。
気のせいも多分にあるでしょうが、狭いだけにステージのメンバーと目が合う機会も多く、当事者感はかなりのものです。

目を見て短いストロークでそれこそ「会話」ができる。
ツアーで回るフルキャパ150人の会場には絶好の場です。
もしかしたらこうして書いてきたのは実際には見当違いで、もっと他に理由があるのかもしれませんが、こう考えると少しは小さいライブハウスで開催することの納得はひとまず得られます。

ライブハウスとよばれる会場でKEYTALKを観るのはコロナ禍となってからは初めてでした。
あとは声さえ出せれば言うことはありません。
久々の感覚は、なかなか忘れがたいものでした。

あと2曲です楽しめますか!
武正がラストスパートを促し、どんどんフロアをたきつけていきます。

ここまではKEYTALK好きが満足するようなセットリストでした。
でももうあと2曲となったところで、通好みの曲をやるわけがありません。
となると言わずと知れたあの曲か、はたまたあの曲か...
おのずと数は絞られています。
メジャーデビュー以降、KEYTALKを全国区に押し上げ、バンドのイメージを形作ってきた数曲のどれかとなるのでしょう。

その一曲目は。
とここで、ハプニングがありました。
八木氏が振り下ろすドラムとギターベースがタイミングを合わせて一緒に入るはずが、空振りに終わりました。
ギターの音が足りません。
武正がひとりタイミングを間違い、入れなかったのでした。
すぐに中断。
珍しいハプニングにひと笑いが起き、笑いながらも巨匠などが場を持ち直したものの、もう何をやるかはバレバレでした。
それくらい、この曲の一音目は特徴的です。

MONSTAR DANCE」です。

KEYTALK TVにも実際の映像が残っています(7:51~)。

「踊りたくない奴はいるか~?」
FCツアーで誕生したという、巨匠が憑依した「パンクん」がデスボイスで顔を現しました。

「SUMMER VENUS」でお立ち台に上った巨匠が、この日何本目かのビールを飲み干しました。
缶をさかさまにして最後の一滴がステージに落ち、KEYTALKの出番が終わりました。

フレデリック

ボーカル・三原健司の歌声には凄くクセがあります。
語尾を絡みつかせるようなねっとりとした歌い方です。
始めのうちは耳慣れないのですが、二回三回と聴いていくうちに慣れていき、言葉遊びと軽いタッチのメロディーが融合した独特な曲の世界にはまって病みつきになっていきます。
オドループなどがでた2016年は、個人的にはKEYTALKを知った時期でもあります。
互いに遠からずなバンドの動画は自然と関連動画で目にするもので、KEYTALKの動画を漁っていくうちにメジャーデビューしたばかりのこのバンドに行きつくのは必然でした。

オドループ」「オンリーワンダー」にはダンスショットがあります。
MVを観たとき、彼らにもKEYTALKと同じ匂いを感じとったものの、フレデリックのほうは三原兄の一癖ある歌声もあってより「遊び」の要素が濃いような気がしていました。
KEYTALKがストレートなダンスナンバーであるとするならば、フレデリックはこねくり回してもてあそぶような、そんな音楽観が現れているように感じたのです。

「オドループ」などが収録されているアルバムは「フレデリズム」です。
ただ、個人的には何があったわけでもないのですが、それ以降フレデリックとはほとんどご無沙汰になってしまいました。
ちょっと興味がある程度だとありがちなことです。

時代は下り、久々に曲に触れたのは2020年開催の「VIVA LA ROCK」でした。
コロナ禍となってからは初めて、2年ぶりのビバラです。
披露したなかで印象に残っているのが、一曲目の「名悪役」でした。
確かリリースしたての新曲という扱いで、ステージにはMVかリリックビデオかの映像が流れていたかと思います。
具体的にどんな映像だったのかはもう忘れてしまいましたが、歌詞メインで映し出されていたことは覚えています。
基本的にフェスでのスクリーンは黙り込んだままかアーティストを大写しにするかくらいの使い道しかないとおもうのですが、名悪役の時は珍しい演出がなされていました。
上手のスタンド席に腰かけ、ぼーっと眺めていたのですが、今までとは何かが違うような気がしていました。
思い出にされるくらいなら二度とあなたに歌わないよ
ツアータイトルにもそのまま使われている歌詞は、冒頭いきなりやってきます。
歌詞が表示されていることもあり、一発で頭に入ってきました。

ちょこまか動くメロディーには自分が知っているころのフレデリックらしさがありましたが、こうフレーズでハッとさせられたのは新しい感覚でした。
それを経ての、この日のライブです。

入場したら出来れば前へ前へと行ってステージの近くに陣取りたいものです。
だからこそ整理番号を気にしてしまうものですが、視界さえ確保できれば後ろからライブを観ることも案外悪くありません。
むしろ、後ろからだと鳥の目で会場の様子を観ることが出来るので、ステージだけでなくフロアの熱までも興奮に変えられてしまうのが結構良いものだと思っています。
とあえて書いたのは、整理番号が悪くて後ろのPA隣くらいで観ざるを得なかったことへの正当化、強がりでもあるのですが、それはともかく引きで見る揺れはさざめく波のようで綺麗でした。
それもひとつの方向ではなく、バラバラです。
バラバラではありますが、波の中で立ち止まっている人は誰もいません。

フロアの熱し方は、KEYTALKが動であるならばフレデリックは静と言えるかもしれません。
お客さんと同じ温度で会話しながらお立ち台を昇り降りするKEYTALKに対し、フレデリックは冷静にフロアを見つめ、じわじわと火をつけていくような感じがしました。

三原兄の絡みつく歌い方には、妖艶さをまとった色気があることを知りました。
照らしたスポットライトからはスモークが下から上に立ち込めていて、その姿が絵になります。
それに加え、印象深かったのがシンセの音でした。
人工物の極みみたいなこの音が、生身の人間から出てくる音とここまで愛称よく化学反応をするものなのかと驚きました。
象徴的だったのが、「TOMOSHI BEAT」という曲でした。
「フレデリック、はじめます」とともに流れてきた登場SEは、この「TOMOSHI BEAT」のインストアレンジバージョンでした。
ツアーの東京公演の映像があるのですが、実際には繋がっていないのに編集の妙でSEからイントロまでがひと繋ぎの曲のように魅せる工夫が施されています。
ライブ前に聴いてかなりの名曲だと確信していただけに、生で聴けたときの感激が大きかったです。
ライブ映像も綺麗な音源も自由に手に入る現在、良いものは出されたそばから消費され、目に触れるころには「確認作業」になってしまうこともしばしばあります。
しかし「TOMOSHI BEAT」での感激は、便利な時代の中で久々に得たような感覚でした。

4人の音は見事に平行線をたどり、それぞれの楽器の音が独立して耳に入ってきます。
シンセの音も合わせると人数以上の音の数にはなるはずなのですが、音同士がぶつからずに楽譜の上を走っている様子が目に浮かぶようでした。

三原弟の声には兄ほど癖はありません。
曲によってはメインボーカルの兄が歌うのをやめ、ハモリの弟の声がむき出しになることが何度かありましたが、これもこれで良さがあります。

ラベンダ」に入る前だったでしょうか。
三原兄がこう言いました。
「面白い曲ができました」
まるで漫画に出てくる科学者みたいです。
脂汗をかいてひねり出したというより、好奇心に任せ、実験的に遊びのつもりでやってみたらなにか生まれたからみんな聴いてほしい、というニュアンスに聞こえました。
長年音楽をやってきてなおこういう言葉が出るところに、さまざまなものを教えられる気がします。

あるところの地位を築いても、好奇心の赴くままに曲作りを楽しめるというのは、ゼロから何かを作り出す人の理想的な姿かもしれません。
いやむしろ、そういうマインドでずっといたからここまでの地位を築けたというのが正しいのでしょう。

三原兄は、MCでいくつもの言葉を残しました。
オープニングアクトで場を暖めてくれたヤユヨのことにも触れ、「若くて素晴らしい音楽で、本人たちも言っていたが3マンのつもりでこちらも臨んでいる」と言ったり、この大ナナイトを主催した大さんについても敬意の念を示していました。
ライブ終わりの深々としたお辞儀しかり、一つのイベントに関わった各方面に対してきちんと言葉で感謝や尊敬を示すというのがこのバンドが愛される一つの理由なのかなと感じています。

その中で、KEYTALKについてのコメントが心に響いたので、ここに紹介したいと思います。

何事も、続けることは大変だと一般的には言われます。
積み上げてきた日数は多ければ多いほどゆるぎない根拠になっていくというわけです。
ここに、三原兄は言葉を加えました。
ただ続けるっていうのは意外と出来ると思うんだよね
何が難しいのかというと、自分たちの思う姿で居続けることが難しいと言います。

「コロナ禍で音楽活動を続けていくことは大変だし、弱みをさらけ出すバンドもあった。
そういうのを目にするたび『そうやんなあ...』とは思う。
KEYTALKだって苦しかったはず。
けれど彼らはそんなことを思わせずに、表に出さずに音楽を楽しんでいる。」

KEYTALKファンとして、思っていることを全て言ってもらった気がしました。

KEYTALKについて振り返ってみると、2020年は特に色々なことがありました。
コロナ直前に告知された幕張2daysは二度の延期の末に中止、その間オンラインライブや配信シングルのリリース、あるいは個人YouTubeチャンネル設立など、オンラインでの仕掛けがいくつか展開されました。

2021年明けに代々木第一体育館で開催予定だった二度の延期を経たライブが結局中止になってしまったとき、4人からのコメントがリリースされました。
義勝のコメントにはこうあります。

「普段は和気あいあいとしている僕らですが今回の中止が決まったミーティングではしばらく誰も言葉を発せませんでした。」

今思えばこの時期は閉塞感に包まれていた時期といえるのかもしれません。
でもその当時は、そんなものなんてないように感じました。
内側では絶望感を感じつつも、4人がそう感じさせなかったのでしょう。

オンラインライブを見れば、今までと変わらず4人はくだらないことでふざけていましたし、そのたびに安心していました。

今夏の全国ツアーや来春の武道館公演は、そんな曲折の末に得られたものでした。
先日、「KTEP4」が配信リリースされるとともに、一般に流通しないCD盤は物販で販売することが発表されました。
しかもツアー会場の購入であればメンバーから手渡しでグッズをもらえるそうです。
これだけ距離を縮められたのは、少しずつ日常が戻りつつあることの証拠に他なりません。
フレデリックの話をしていたはずなのに、最後にはKEYTALKの話題になってしまいましたが、フレデリックも重要なライブを近々控えています。
6月29日開催のワンマンライブです。
会場は、KEYTALKが延期公演で立つはずだった代々木第一体育館。
浅からぬつながりを感じながら、この日のライブ終わりにはもうチケットを押さえていました。


この記事が参加している募集

イベントレポ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?