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【ライブレポ】SANDAL TELEPHONE 1st Tour 2022 東京公演

アイドルのライブは特殊だとつくづく感じます。
何がというと、フロアに積極的なレスポンスを求められるということです。
一つにステージ上のメンバーのダンスと同じ動作をする「フリコピ」があります。

フリコピの文化

ステージで手を挙げたら同じように右手を掲げ、手をワイパーのように揺らせば鏡のように左右に振るといった基本的な動作に始まり、単純なものであれば一連の動きまでも真似をする。
メンバーの動きに合わせたフリコピが、アイドルのライブのフロアではあちこちで起こっています。
コレオグラファーの方が曲に振り付けを落とし込むときもフリコピを意識するようで、特にサビでは他のパートより若干難易度を落としたり手数を減らして若干簡単そうに見えることが多いです。

初めてみる新曲でも簡単そうな振り付けであればフリコピをしだし、多くの人の目に触れて育っていくとともに定着していきます。

バンドであれば右手を上げて拍子に合わせてさえいれば盛り上がりに加われるものですが、アイドルだと拳をあげてリズムをとる文化はあまりなく、代わりにフリコピを求められるわけです。
ステージをただ観ているだけでは物足りないとされてしまいます。
一度見れば十分追えてしまえるような、大して難しくもない振り付けなのだから真似しないほうがおかしい。
そんなことを言われたわけでなくとも、あまり気分が乗らず手を挙げるだけの動作もめんどくさがって真似しなかったときに感じるフロアからの疎外感みたいなものは結構居心地悪いです。
徐々に復活している感はありますが、コロナによりコールが禁じられて本来の楽しみ方を失われてしまったこともフリコピへの傾倒をより進めた感があります。
フリコピがアイドルという世界を特殊でクローズドなものにしている理由の一つであることには間違いないはずです。

一体感を生む一方で、悪く言えば同調圧力にもなるフリコピ文化は、「地蔵」というアイドル界に特有な言葉にも象徴的に現れています。
特段動き反応もせず石のようにじっとステージを見つめている様子をさすのですが、クラシックコンサートなら何の問題もないはずなのにアイドルのライブとなるといい意味ではまず使われません。
フロアの盛り上がりに貢献していないという点で揶揄の対象です。
ただ観ているだけなのに、ライブアイドルでは悪だとされることさえあるわけです。
正直、ライブではそう思われたくないからなんとなくノッている風にすることも多分にあります。

しかし、時々思うことがあります。
地蔵なんて言うのは極端な例ですが、フリコピせず動いていなくたって、何が悪いのでしょうか。
音楽とは本来もっと自由で、ルールを守り迷惑をかけさえしなければなにをしていたっていいはずです。
何をしたって..というとルールの隙間を潜り抜けるチキンレースのようなニュアンスになってしまいますが、ようはフロアで動こうが動くまいが個人の勝手だということです。
無理してフリコピをしたってしなくたって、リズムに乗って身体を揺らす、これだけで十分ではないでしょうか。

そもそも、ライブに行くのはアイドルを観るためだからであって、フリコピはサブ的なもののはずです。
ステージを観つつ動きを合わせながら「次の振り何だっけ」と頭を巡らすなんてことはどう考えても注意が散漫になりますし、ライブを観るという本来の目的から考えると、動かず穴の空くほどじっといるのがベストなはずです。

フリコピを悪だというわけではなく、ステージと動きをシンクロさせて高まった発散できるというのはアイドルのライブでしか得られない魅力だと思います。
これまで何度フリコピで散々ストレスや嫌なことをライブハウスに捨てていったかわかりません。
でも、時々「やらされている感」を感じてしまうとき、ふとそこから解放されたくなります。
それぞれの楽しみ方でいいのではないかという考えがもたげてくるわけです。

前置きが長くなってしまいました。
本題に入りたいと思います。

4月30日(土)、3人組グループ・SANDAL TELEPHONEが1stツアー「ReviewPreview」のファイナル公演と結成3周年の記念公演を開催しました。
会場は渋谷WWWX、去年の2周年ライブで立ったWWWのお隣です。
 
このグループはフリコピのしやすさで名を上げ、フロアを踊らせることでライブの満足感を高めてきたというイメージが根強いです。
おしゃれだけれども身近に感じる音楽に、何度かライブを観れば部分的には真似できそうだけど、簡単とは決して言えない絶妙なレベルの振り付けが特徴です。

自分がサンダルテレフォンのことを知った2020年の終わりごろ、3回目の定期公演のライブレポにはこう書きました。
「ファンのフリコピがすごい」
ただすごいと圧倒されただけではありません。
フロアの動きをみて、これくらいならついていけそうだと思ったのでした。
今は知りませんが、ハロプロのライブでは振り付けを完璧にマスターしているファンの方を結構見かけます。
彼らのフリコピはそこくらい妥協してもいいのではないかというくらい細かいところまでステージの動きを再現していたりするのですが、サンダルテレフォンのライブでのフロアは、そんな高すぎるレベルというほどでもありません。
自分もここには混ざれそうだし、混ざってみたいとその当時は思ったのでした。

あれから1年半。
月一回ペースでちょこちょこと観てきたこの期間で、ではそのフリコピを極めることができたかというと全くそんなことはないのですが、しかし不思議なものです。
メンバーの誰もわれわれにむかって「フリコピしてほしい」なんて言っていなかったはずです。

アイドルのライブに足しげく通っているなかで、「フリコピはしなくてはいけない」という考えに支配されてしまっていました。
そして、先に書いたような「地蔵で何が悪いんだろう」みたいなことを思っては複雑な思いを勝手に抱えていたのでした。
この日のライブでは、そんな凝り固まった頭をほぐすように「音楽の楽しみ方は人それぞれでいい」のだと、メンバーから教えてもらった気がしました。

最たるものが、アンコールで披露された2曲でした。
Shape the Future」「Step by Step」という、これまでを振り返りつつ明るい未来を展望するような、締めにピッタリの曲です。
普段であればそれこそ手を振ったり左右の手を交互に挙げたりとフリコピしやすい振り付けがあるのですが、この日のメンバーは振りもそこそこに、思い思いのリズムに乗っていました。
決められた振り付けをしていた時間は全体の半分くらいだったのではないでしょうか。
フォーメーションの動きも自由そうに見え、例えば下手側にいる藤井エリカさんに対して小町まいさんと夏芽ナツさんが上手側によりそって固まり、センターが不自然に開いてしまうシーンがあるなど、本編で見せていたピシッと整った動きとは明らかに違うものになっていました。

卒業や解散ライブなど感動的なライブだと、感極まったメンバー同士が抱き着いたりして立ち位置がグチャグチャになることはあったりはしますが、この日は別にお別れの日でもないですしメンバーの表情を見ても込み上げたものがある風ではなさそうです。

なんだかリハーサルの時からアドリブっぽい動きにしようと決めていたかのように見えます。
ステージが振りをしていないとなると、それを観たフロアの動きも自然とバラバラになっていきます。
ステージでしていなかろうが身体で覚えた振り付けをひたすらにしている方もいたでしょうし、逆に見よう見まねでフリコピしていた方は腕を挙げたりクラップなどしていたかもしれません。
上からフロアを見下ろしたわけではないのでどうかはわかりませんが、この時のフロアにはきっと統一された動きではなく不規則な揺れが波打っていたのだろうなと思います。
でもこれこそが、理想的な状態なのかもしれません。

どういうライブのことをあるべき姿とするのかには正解がないのかもしれませんが、少なくとも自分にとっては腹落ちしました。
これが本当に音楽を楽しんでいる状態なのだと思ったのでした。

そして、SANDAL TELEPHONEというグループの方向性も、ここ数カ月にかけて今までとはちがう路線に向かっているように感じます。
フリコピとの決別というほどではありませんが、簡単な振りでフリコピを促すものとは別物になりつつあります。

心を踊らせる

2021年末から年明けにかけ、サンダルテレフォンは大きな転換を迎えました。
西脇朱音さんの卒業と、グループ表記変更です。
夏芽ナツさん、小町まいさん、藤井エリカさん、西脇朱音さんの4人組で立ち上がったこのグループは2019年4月の結成時から2021年12月まで「サンダルテレフォン」名義で活動してきましたが、2021年末のライブをもって西脇朱音さんが卒業、その後グループ名は読みがそのままに表記を「SANDAL TELEPHONE」へと改めました。
ここまで書いた中でグループ名にカタカナ表記とアルファベット表記が混ざっているのは、その前後を区別したかったためです。

変わったのは人数と表記だけではありませんでした。

コンセプトは表記改名前から変わらず「音楽で世界を笑わせたい!泣かせたい!踊らせたい!」というコピーで統一されているのですが、公式HPにはそんな文言はなく代わりにこんな言葉が書かれています。
“フューチャー×ノスタルジック”の世界観とダンサブルなポップスを取り入れた楽曲

と言われてもなんのことかあまりピンとはこないのですが、年明けから新体制お披露目までにグループが歩んできた道のりを書き出してみると少し見えてくることがあります。

SANDAL TELEPHONEの2022年は、表向きはスロースタートに見えました。
年明けのすぐの@JAM主催大型イベント「NPP2022」への出演のみで、以降1カ月程度ライブ・イベントに一切出演しなかったのでした。
平日でも構わずライブ出演するライブアイドルにとって1カ月のブランクはかなりのものです。
この間、メンバーがなにをしていたのか。
もちろん2月5日開催の新体制お披露目ライブに向けたレッスンを重ねていたのですが、ここには想像だにできないほどの努力があったようでした。

上に貼ったインタビュー記事は、このツアーファイナルの一週間前にリリースされました。SANDAL TELEPHONEの振り付けを担当する「いどみん」さんを交え、3人体制となってから数カ月の活動を振り返っています。
5月10日にリリースを控えていた3rd EP「Lightsurfer / レビュープレビュー」に関しての内容がメインでしたが、目を引いたのはこれまで表立って明かされることのなかった年明けから1カ月間の準備期間のことでした。
なんとSANDAL TELEPHONEメンバー、新曲の振り入れや既存曲の見直しをやりつつ、一般のダンス教室に通っていたというのです。
しかも計90時間、4カ月にも及んだそうです。
具体的な期間は分かりませんが、4カ月ということはライブを止めていた1カ月どころか普通にイベントやライブに出演していながらも教室に通いつめていた期間が3カ月もあったということになります。
ライブアイドルでここまで突き詰めるグループがどれほどあるのでしょうか。
驚きです。
そしてダンス教室は数々のステージ経験のあるメンバーをしてもかなりハードだったようで、自らの出来なさに相当落ち込んだと言います。
いやむしろ、経験を重ねて自信をつけていただけにここまで出来ないのかとひどく打ちのめされたのでしょう。

お客さんも一緒に踊れるような振り付けにしていたんですけど、今回の新曲でやってるムーブは“感情を踊らせる”ことだと考えていて。メンバーが踊っているのを見て、感情を踊らせてほしい(ナタリーインタビューより)。

身体ではなく感情を動かす。
この日のライブ本編などとくに、それが体現されたようなステージでした。
序盤に連続したリミックスバージョンなど、去年のステージとは全く違うものを観ているような気がしました。
去年何度も観ているはずなのに、見覚えのある箇所があまりないように感じたのです。
フリコピできるほど頭に入っているわけでもないので、個人的には新体制お披露目以来行けていなく2カ月以上も空いてしまったから忘れてしまった部分もあったのかもしれません。
西脇さんの卒業前後にかけて振り付けを一から確認し直したといいます。

個人よりも全員のまとまり

少しだけメンバーそれぞれに触れてみます。
藤井エリカさんは動作がカッコよくなりました。
「It’s Show Time!」の西脇さんから引き継いだラップパートも、なんとなくやりました感がなく、ラップにしてはちょっとした時間であるものの結構頭に残ります。
小町まいさんは表情が柔らかくなりました。
これまで愛嬌では西脇さんが抜けていたのですが、3人となった今小町さんが入り口となっていくのかもしれません。
夏芽ナツさんは歌声のスタミナが凄く出てきたなと感じました。

何よりも、3人のステージが見事に揃っていました。
一つの塊から6本の手足が伸びているようなイメージです。
今までのライブレポでは、誰か一人のメンバーを取り上げて「ここの動きが良かった」とか「あそこが目立っていた」とかを書くことができていました。
一人一人の個性がわりと分かりやすく出ていたのですが、この日観たらそうした個人個人の見どころみたいなものよりも先に、全体としてのまとまりに心を打たれました。

インタビューなどを見ると、新体制にあたって腐心したのが過去最高難度のダンスである「Lightsurfer」の振りをマスターすることだけでなく、3人の動作を揃えるという点にもあったとあります。
ライブアイドルのステージはえてして「調和の中に個性」といった傾向があります。
ハロプロなどである、ミリ単位で大人数がかっちりと決まったフォーメーションダンスを繰り出すステージというよりも、ある程度のまとまりはキープしつつも例えばフロアへのレスやわざと大きくつけてみた動きなど、その場の空気や流れに応じた瞬発的な反応のほうがウケが良いです。
プロでなければわからないような動きの微細さまでは、フロアと生の会話をするライブアイドルでは求められていないのだというわけです。

でも、いずれ一回りもふた回りも大きいステージに立った時は、ステージが米粒くらいにしか見えないくらい遠くの距離に居る観客の心にも届くためにやはり動きは揃っていないといけない。
いどみんさんはそれを「メジャー感」だと称し、SANDAL TELEPHONEメンバーに求めました。
その一環がダンス教室だったのでしょう。
年明けから半年弱経ちました。
ステージを観るにSANDAL TELEPHONEは、確実にメジャー感を身に着けていっているようです。

命のセンタク

アンコールが開ける直前、スクリーンには3年前の結成からこれまでの集合写真の数々が映し出されていました。
もちろん西脇さんの姿もしっかり残っていますし、あるときを境に3人に減っていることも変にごまかさずに残されています。
オフショットというより、当時の公式ツイッターにアップされていたものを拾ってきているのでしょう。
結構見覚えがあります。
あぁ自分はこの時期に知ったんだよなと思いながら、それこそ走馬灯のように画像が駆け巡っていました。
懐かしいなと思っているうちに、ライブ前日に撮ったであろう3人のメッセージビデオが流れだしました。

やがて別の映像へ。
これからのSANDAL TELEPHONEは、次章に入っていくそうです。
PV風の映像には「第伍話 命のセンタクを」とありました。

この意味はいまだによく分からないのですが、一つだけ引っかかったことがありました。
それが、予告編の直前の3人のメッセージ動画です。
SANDAL TELEPHONEメンバーは、本人たちの性格もありいかにもアイドルといったセリフをなかなか口にしません。
しかし映像でやけに目についたのが、そんなイメージとは少し違う姿でした。
3人が3人とも(特に意外だったのは小町さんです)「ダルファン(SANDAL TELEPHONEファン)大好きだよー!」を繰り返しながら、何度も何度も手をハートの形にしていたのでした。
さてここで注目したいのがハートにした手です。
もしかしてこれは、「愛」的な意味よりも、次章にある「命」のほうが正しいのではないかという気がしています。

尻切れトンボではありますが、ここでライブレポを終えたいと思います。
SANDAL TELEPHONEはライブアイドルにとどまらずもっと多くの人の心を踊らせるグループなはずです。
変わりつつあるグループのこれからが非常に楽しみになった一日でした。


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