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【ライブレポ】サンダルテレフォン定期公演"エス・ティーvol.12" 夏芽ナツBDF2021

月の変わり目を待っていたかのように雨が降り、一気に気温が下がりました。
9月。秋雨前線の北側に位置する地域は冷え込むそうですが、南下した前線のおかげですっぽりと北側に当たってしまった関東は10月並みの気温だと、予報が告げていました。
残暑はきれいさっぱり片付けられ、そこには寒さしかありません。

夏はどこに行ってしまったのでしょう。
尻尾をまいて逃げてしまった「夏」がここにあるのかもしれないと、すがるような気持ちが恵比寿CreAtoへと足を向かわせました。

「カイロを貼るか貼るまいか」
寒さに弱いこの日の主役は、家を出る時迷っていました。
結果カイロこそ貼らなかったものの、ヒートテックは着てきたそうです。

その主役とは、先日8月28日に誕生日を迎えた夏芽(かがみ)ナツさん。
この日、9月3日は4人組アイドルグループ・サンダルテレフォンの12回目の定期公演兼夏芽さんの生誕祭が開催されました。

ダルフォンメンバー紹介

開演前、すっかり見慣れた恵比寿CreAtoのスクリーンには、主役・夏芽ナツさんのライブ中の写真や、メンバーとのオフショットのスライドショーが次々と展開されていました。
前にせり出した両サイドのスクリーンにはサンダルテレフォンのロゴがでかでかと打ち出され、その背景は夏芽さんのメンバーカラーの赤色に染められています。

しばらくして場内BGMのボリュームが上がり、開演時間へと移りました。

今年4月の結成2周年を機に新しくなったSE「Ready to Change」は、音楽の途中からメンバーがステージに登場し、鳴り終わるまでフロアに背中を向けながらクラップする前SE「Break-in」とは違い、鳴り終わるころにようやくメンバーが登場します。

開演とともに暗転し、メンバーがフォーメーションにつきます。
やがて音は止みました。

一人腰を下ろした小町まいさん(間違っていたらすみません)を囲うように、3人のメンバーが立っています。
腰に手を当てて前を向き、視線はフロアの一点を捉えて離しません。
下手側の端っこから観ていると、なにかと対峙するような真剣な目つきに見えました。

この時点で既にSEは終わっています。
しかし、一曲目はまだ鳴りだしません。
ゆったりと取った間は、それでもわずか数秒程度だったとは思うのですが、体感ではそれ以上に長く思えました。

この、無音の空白という点に絡めて一つ書きたいことがあります。

この日、生誕の主役・夏芽さんがソロ用の特別衣装に着換えているとき、他3人のメンバーがステージに残ってMCトークを繋いでいました。

普段のMC担当は夏芽さんが主にしているため、自ら切り出すことの少ない3人です。

西脇朱音さんなど、しきりに「間が持つかなぁ...」なんて冗談ぽく言っていました。
そんな一言とは裏腹に、夏芽さんに関する話など、トークの内容自体は広がっていたのですが、それでも不安だったのかところどころでは夏芽さんの登場を待つようなそぶりをしていたのが印象的でした。

定期公演ではMC中に「フェイバリットコーナー」というものがあります。
ここ最近のマイブームを各人が発表していくというコーナーですが、コーナー化することで4人それぞれの喋る量を等しくし、しかも内容は自分の好きなこと・興味のあることだから喋りやすいだろうという、トークのふくらし粉的な意図からコーナー化されたのではないかと邪推しています。

沈黙を怖がる、トークが頼りないようにも見える様子はしかし、この日の開幕で十分な間をとり、緊迫の空気を作り出していたステージ上の姿とはどうしても重ねられません。

もの言わずとも訴えかけるような表情をつくり、まだ一切動いていないのに既にのめり込んでいました。
トークを持たせるのが怪しかろうが、この力があるだけでもう十分な気がします。

やがて、一音目が鳴らされました。

サンダルテレフォンは、6月に最新EP「碧い鏡/It’s Show Time!」をリリースしました。
両表題曲には特徴的なカラーが割り当てられ、「碧い鏡」のほうはタイトルにもあるように深い青が、「It’s Show Time!」のほうは対をなす赤色がリリックビデオやメインのジャケットに配色されています。

一曲目は赤色の「It’s Show Time!」でした。
夏芽さんのメンバーカラーは赤色です。
曲の世界に合わせて一斉に赤く光り出した照明や背景のスクリーンは図らずも、主役を応援するかのようでした。

お祝いモードはバックミュージックもでした。
夏芽さんの生誕を祝うかの如く、イントロからボリュームは張り切っていました。
低音の轟きが空間を揺らし、風は起こっていないはずなのに身体の表面が震わされ、空気の流れを感じます。

「真っ直ぐ前だけを見て視線逃さず!」

「It’s Show Time!」で、西脇朱音さんが担当するラップパートの一節です。

冒頭で書いた、SEの後、暗転したステージの情景がここで思い出されます。
前方以外に視点が失われてしまったのかと思ってしまうほど前しか観ていなかったメンバーの様子は、この歌詞そのものです。

2曲目。
今度はオレンジ色に染まりました。
Step by Step」です。

夏芽さんの長い黒髪は、サビを歌いながらもマイクから口を離さんばかりの大きな動きによって二曲目にしてすでに乱れていました。

赤からオレンジへと緩やかなグラデーションを描き、続いて放たれたのは青色。
三曲目は最新EPのもう一つの表題曲「碧い鏡」でした。

後半で披露された、今年1月リリースの「SYSTEMATIC」とともに、サンダルテレフォンはこの表題2曲によって表現力を深化させていったように思います。

曲がいい。
ビジュアルがいい。
パフォーマンスがいい。
サンダルテレフォンに限らず、ライブアイドルではこれらの要素を高いレベルで備えているグループが驚くほど多いです。
知れば知るほど、こんな良いグループがあるのかと深みにはまっていきます。
しかし、ひしめきあっているアイドルグループのなかでひとつ区別するところがあるとすれば、サンダルテレフォンの場合はざっくりした物言いですが表現力だと思います。

心の揺らぎを振り付けに落とし込んで伝えてきます。
「碧い鏡」「SYSTEMATIC」といった、シリアスな曲では抜きんでていて、表情はもちろんのこと、首から下を眺めていてもそれが伝わります。
他のグループにこれが無いのかと言われるとそういうわけでもないのですが、サンダルテレフォンは特に見入ってしまうところがあります

そんなシリアスな「碧い鏡」ですが、それでもこの日は夏芽さんの生誕。
1番サビで小町さんがセリフっぽく「愛せない」と吐き捨てるパートがあるのですが、そこを「ナツおめでとう!」とこの日限りの祝福コメントに変えるシーンもありました。

ここからは、セットリストの流れから少し外れ、メンバーについて書いてみます。
この日観ていたのは相も変わらず後方からでしたが、床のバミリにしたがって等間隔に立っているお客さんの隙間からは幸運にも、ステージセンターの位置にぽっかりと一人分のスペースが空きました。
そのおかげで、センターに立つメンバーの足の使い方から顔つきまではっきりと観ることが出来ました。

ここでは生誕祭ということもあり、夏芽ナツさんの所作に注目してみました。
後ろにいるからダメなのですが、足までちゃんと見たのはあまりありませんでした。
夏芽さんの動きは、お手本のように正確です。
手を左右に振る動作では、腕を伸ばして大きく見せる一方で、腕を左にやったときにクイっと肘を手前に曲げる細かい動きもしっかりとみせています。

これは他のメンバーがどうこうということではなく、あくまでまじまじと夏芽さんを見て気付いたまでのことです。

他に印象的だったのは、再びですが「碧い鏡」。

2番からラスサビにかけての長いブリッジには、90年代っぽさを感じさせるギターソロが鳴らされる間奏があるのですが、ここではメンバーのソロダンスがあります。
MVのダンスショットだとソロを踊るのは小町まいさんなのですが、実際のライブだと藤井エリカさんのソロが多いようです。
この日のソロは生誕だからでしょうか、たしか夏芽さんでした。
夏芽さんは中心で他の3人を操るように堂々と踊り、3人も見えない糸で中心から引かれるような動きをみせます。

見とれていると、一旦テンポが落ちた後のラスサビ「くだらない理想論だらけの教科書ばっか眺めたって」で、歌いだしとともに夏芽さんが前に突き出した拳を受けてのけぞりそうになります。
これまで真正面から観た記憶はないのですが、もし正面から食らったらどうなることかと想像してしまいます。

以前の対バンライブに、ライブアイドルのことを全く知らない友達を連れて行きました。
サンダルテレフォンを観た後に言ったのが「一人が見せ場を作っているとき、他のメンバーは少し引いて引き立てているのがすごい」という感想でした。
ソロダンスやソロ歌唱など、誰か一人が目立つ場面で他のメンバーが出てくることはないと。
「碧い鏡」のソロダンスなどは象徴的なワンシーンだと思います。
ひとりにフットライトが当たる中、他の3人は影になり存在感を消していました。

中盤戦へ。
夏芽さんのソロコーナーです。
ここでの一曲、何をチョイスするのかは気になっていました。

元々は濃いめのアイドルヲタクだった夏芽さん。
以前のツイートで、ヲタク時代に撮ったモーニング娘。の佐藤優樹さんとのツーショットを上げていました。

佐藤さんにまつわるソロで思いつくのは、佐藤さんの曲でもないのですが、以前モーニング娘。のライブで聴いた「私の魅力に気付かない鈍感な人」。
数年前のコンサートでソロ歌唱を聴いた、ただそれだけの個人的な思い出でしたが、いやに引っ張られ、もしかしたらあるのかなと密かに考えていました。

そうでなくともハロプロ好きな夏芽さんのこと。
去年の生誕祭では後藤真希さんを歌ったことを思っても、恐らくハロプロ曲なのでしょう。

予想はあっさりと外れました。
披露されたのは「夏の扉」。
言わずと知れた、松田聖子さんの名曲です。

裏側まで透いて見えるような、夏芽さんの透明感ある歌声は素晴らしかったです。
注目したいのはロングトーン。

ただ音を引き延ばすことだけがロングトーンではないと思います。
身体の中心に力を入れて維持し続けないと、油断したすきに音がぶれてしまいます。
音程がぶれたロングトーンはどうしても不格好です。
不自然に伸ばさずに、ほどほどのところで切ってしまった方がよほど楽でしょう。
しかし、夏芽さんは抗うように伸ばし続けます。
歌唱力だけでなく、伸ばそうという勇気も必要なところではないでしょうか。
夏芽さんのロングトーンは文字通り長く、それでいて音程とボリュームは失われません。
お腹を出したデザインの現衣装からのぞかせる腹筋は、その根拠を物語っているようです。

一気に後半戦へ移ります。

生誕コーナーで開いた夏の扉は、ラストの2曲にかけてゆっくりと閉じられていきます。
前々回から、サンダルテレフォンは定期公演での新たな試みとして、過去の名曲カバーに挑戦しています。

この日4人が歌ったのは、ZONEの「secret base ~君がくれたもの~」でした。

「君と夏の終わり 将来の夢 大きな希望 忘れない」

有名すぎるサビのフレーズと、浮かんでは消えていくようなシンセの音はノスタルジーを運び、今この時が「最高の思い出」だと印象付けてくれます。

等間隔で横に並んだフォーメーションのまま、動きも振り付けもつけずメンバーはひたすら歌に専念していました。
踊りながら出される歌声も良いのですが、足を踏みしめて出される奏ではさらに来るものがありました。
多分こちらの姿勢がしんみりと聴くモードになり、より多くの音を集められたためだとおもうのですが、藤井エリカさんの中低音も、西脇朱音さんの高めの音も、より深く入ってきました。

小町さんは、本人に確認したことではないですが、恐らく意識してのアレンジだと思います。
グループの曲を歌うときよりも一段二段とトーンを控えた歌い方で、歌というよりは抑揚をつけたセリフのように聴こえました。
歌い方のなごりは、続くラストの曲になっても残っていました。

最後はこの曲。

夕暮れが夜の入口を告げるように、「かくれんぼ」がひと時の夏の終わりを告げます。

夏芽さんの「ラストまで楽しんでいきましょう!」というコメントで、これで最後だと察しましたが、ラスト2曲で情緒をくすぐられただけに「これで終わってしまうのか...」という物足りなさはひとしおでした。

夏芽さんの煽りのとき、名残惜しそうなフロアを察してか藤井エリカさんが二ヤっとした表情を見せていたような気がしました。
ライブ中、ことあるごとに白い歯をみせて笑う藤井さんの表情には包まれるような安心感を覚えます。

背景のスクリーンには花火が無数に打ちあがり、曲を盛り立てながら、あっという間の3分弱は終わりました。

そして終演。

フロアから出ていく人はほぼいませんでした。
かわりにわき出てきたのはアンコールを求める手拍子でした。
場内がなぜかすぐに明転しなかったこともあり、拍手で押せばもう一回出てくれるのではないかという期待感がどうしても高まってきます。

何を隠そう、僕自身もアンコールはあるんじゃないかという、根拠のないもののどこか確信に満ちた思いがありました。

拍手は止みません。
それだけに、あわよくばという高まりは募っていきますが、やがて場内が明るくなり、スタッフの方からのアナウンスが聞こえてきました。

「会場の使用時間が迫っていますので...」
残念ながら、押し切ることはかないませんでした。

生誕コーナーあり、4人でのカバーもありと、いつもの定期公演以上に充実していた今回。
時計を見ると、すでに1時間10分ほど経過していました。
12曲の濃いライブを終えて自然発生した拍手は、物足りなさからきたものではなく、二度とは同じにならないこの空間から立ち去ることへの惜しさの現れだと信じています。
音が止んでしまうとこの日が終わってしまう。
この時間に区切りをつけてしまいたくないがため、音を止めたくないがための手拍子です。

勝手な思い込みかもしれませんが、声が出せない中フロアで感情を共有できたような暖かい気持ちが胸に上がってきました。

◆見出し画像参照:サンダルテレフォン公式ツイッターアカウント画像(@sandaltelephone)を改変


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