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【ライブレポ】KEYTALK 小野武正弾き語り企画「ゴ会」vol.2

様々ある●●力のなかで一番奥が深く難しいのは、もしかしたら「コミュ力」ではないでしょうか。
自分にコミュ力があると豪語出来る人は、たとえ端から十分有るように見える人でも世の中にそうそういないと思います。
例えば集中力とか、忍耐力なんかは他人がどうというより自分自身の心持ちなので、得意な●●力としてカードをたやすく切れる一方で、コミュ力となると相手があってのこともあります。
生身の人間相手だとどうしても想定より上手くいかなかったとか、思っていたリアクションにならなかったなど「失敗した」経験はどうしても多くなります。
その積み重ねもあって、なかなか得意だと公言はしづらい。

初対面の人とも、まるで以前からの連れのように仲良くできる壁の無さや、すかさず相手のふところに入って可愛がってもらえる人懐っこさは、持ち合わせていない自分からすると天性もののように見えます。
というか、コミュ力のある人は、天に選ばれた別種の存在なのだと思わないと折り合いがつかない。
そう感じてしまうのです。
そんな訳の分からない理屈だけ積み上げて、コミュ力を上げる努力をしないからいつまで経っても進歩しないのだと思いますが...
4人組バンドKEYTALKのギター・小野武正は、そのくくりで分ければ自分とは対極にいるかもしれません。
コミュ力が高いと自認する、恐らくは数少ない一人です。

2023年5月1日、下北沢SHELTERで、ボーカルではない武正による弾き語りライブ「ゴ会」の2回目が開催されました。
前回の内容はこちらに書きました。

機械的な「おぉ~」ではなく、心からの驚きの相槌がフロアから生まれたのは、先日出番がないにも関わらず、「早すぎる前乗り」をしたJAPAN JAMで邂逅した川谷絵音との思い出話でした。

「絵音とは昔から付き合いがあって...2014年くらいかな?一緒に組んでみない?って話があったんだよね。でも俺その時トガってたから、『俺パワーコードしか弾かないから』(絵音の志向する音楽とは違う奏法)て言ってそこから疎遠になっちゃった(笑)」

少なくとも自分の関心は、新進気鋭なバンドの、後に「天才」と称されるフロントマンからお呼びがかかるほど際立っていたギターテクニックよりも、ライバルでもあるバンドマンからお声がかかるくらい親密になっていたことに向いていました。

前乗りのJAPAN JAMでは、オーラルの集合写真でセンターを陣取り、絵音からは「コミュ力高すぎ」と楽屋に乗り込んだエピソードをやや引き気味で明かされていました。
この日「俺コミュ力高いからさ」と口にしたのは、自らを甘めに採点して笑いを取るっていうのもあったと思いますが、絵音の「コミュ力」ツイートからきているのでしょう。

「そのうち新しい音源が出るかもしれない」という話は、KEYTALKでのアコースティックライブの機会が増えてきているという別の話題から上がりました。
KEYTALKの音源ではありません。
「数年前からキャンプをよくしていて。その時は山梨で4人くらいでやってたんだけど、ギターケース持った外国人の方がいて、『アイムミュージシャン!』なんて拙い英語で話しかけたのね。で、夜一緒に飲もうよってなって飲んだらめちゃくちゃ歌が上手くて。絶対プロだろって思ったらまだ一曲も出したことがないっていうのね。そのあと何回か会ったんだけど、最近古閑さんのライブハウスで昔からの友達呼んで一緒にレコーディングして。」

言語を越えて音楽は人を結びつけるんだと捉えるだけでもいいのかもしれませんが、見知らぬ外国人と仲良くなってレコーディングにまで発展するなんて、というほうにまず驚いてしまいます。
別次元過ぎはしないでしょうか。

義勝と巨匠のお母さんもこの日は来られていたようでした。
「義勝ママみて思い出したんですけど、下北のとあるライブハウスで...」
再び思い出話です。
喋った内容は残念ながら忘れてしまいましたが、前回ともにMCを聞いていると武正は結構昔の、それもインディーズ時代の駆け出しのころの話を結構してくれます。
初ワンマンの日のことをわりと克明に覚えていたり、その記憶は驚くほど明確です。
リーダーとして、ライブMCのきっかけつくりだけでなくメール予約のチケットをさばいたり、クレーム対応(義勝のことをイモムシって呼ばないでください!というメールなどの返信)をしたりと、社長の古閑さんと社員のメリメさんしかいなかったという当時のマーガレットミュージックならではの裏方仕事の多さにより、そのあたりの記憶が他のメンバーとはまた違った形で残っているのだと思うのですが、だとしても過去を大切にしているのだなということは言葉の端々から伝わってきます。

ここ下北沢SHELTERもインディーズ時代に何度も立ったこと以上に思い入れ深い場所らしく、というのも店長?オーナー?の方とはお隣さんだったことがあるそう。
この度SHELTERでゴ会を開くことになったのも、ご近所さんのよしみでという部分が大きかったようです。
どう?行けそうっすか?そんなノリです。

「初ワンマンの日は雨でね、建物の周りにお客さんがたくさん並んでて、たけちゃん私感動して泣いたの!」
義勝のお母さんとのやりとりは続きます。
こう声が飛んだ時、もちろん覚えている武正も「そうそう雨だったねぇ」なんて相槌を打ちながら懐かしげです。

さほど広くはないSHELTERには200人ほどのお客さんが集まったそうです。
当初は椅子ありで100人弱かなとみていたようですが、あまりにDMで「行きたい!」の声が多かったためオールスタンディングにして追加販売となりました。
1回目のゴ会翌日、KEYTALKが愛知に赴いてヨンフェスに出演している間に解禁された先着の追加販売ではものの1分でチケットが出払ったのですが、上限ギリギリまで開放してくれたおかげで謎の会を一目見たいという方々の多くが救われました。
フロアはパンパンに埋まりました。
頭が痛くなるほど酸素は薄くなり、上手側には入り口に通じる階段から身をよじるようにライブを眺めているお客さんがいます。
まさしく人で溢れるという状況でした。

「行きたい」DMの中には、1回目のゴ会に来た35人にその場でチケットをバラマキのごとく売ったことに触れ「そのせいでどれくらいの人が行けないかわかってるんですか!」という”お叱り”もあったそうです。
申し訳無さそうな顔をしながら武正はこう言います。
「いやーでも1回目来てくれた人たちにはまた来てほしかったんだよね...でも考えが甘かった」
謙遜や保険でもなんでもなく、この会は「自己満足」であり、規模を大きくしていこうなんて思わないけど「来る人は拒まない」というスタンスだと、この日何度も言っていました。
敷居の高い集いにしようとしないのは、第3回を兵庫で開催したり、月一くらいのペースでやりたいと宣言していることと、実際5回目くらいまではだいたい調整済みだという噂からも伺い知れます。

SHELTERは入り口の階段をくぐるとドリンクカウンターのあるフロア上手後方に直結しているのですが、入ってみるとそのあたりで武正が何人かのお客さんと喋っていました。
開演待ちのファン同士の交流のように、ごくごく自然に武正がいるのです。
ややあってフロアが埋まり始めると中央後ろのDJブースに移り、「てんぷらDJアゲまさ」として挙手制でBGMを募っていました。
定刻になり、パンパンになったフロアをDJブースからどう移動するのかなと思ったら、中央のお客さんの間を突っ切っていくというプロレススタイル。
「みんな歌える?」なんて言いながら、バンドの登場SEでよく使われる「物販」を歌わせながらの登場です。
歌わされることは第一回ゴ会からして明らかでしたが、まさかその一曲目が「物販」だとは思いませんでした。

「お客さんたちからです」途中ステージに持ち込まれた5本のテキーラを飲み干し、袖のスタッフからいたずら?で渡されたからあげクンチーズ味を律儀に食べたあと我に返ります「やっぱり弾き語りに唐揚げはダメだ。」
「唐揚げのカス飛んだらごめんなさいね」と前列中央のお客さんに言いながら、一度は曲に戻ろうとするも「やっぱり飛んじゃうかも」と念押しで水を飲み流し込んでいたのは武正なりの優しさだと思いました。

トークの合間を繋ぐように「フゥゥゥー!」と声が上がると「「フゥ!」ありがとうな!」と言ったり、「からあげクンお代わりしなよ」の声には「○すぞ!」とリアクション。
そんなセリフを吐いても全く凄味がないのが逆に凄いです。
飛んでくる声にリアクションをつけて返していました。

終演後の物販でも、並んだファンの方一人一人と1,2分ほどかけて丁寧に手売り対応していたそうです。
200人のうち多くの方が参加されたと思うので、そのペースだと撤収時間はかなり遅くなったはずです。
前回から規模が多少大きくなっても、武正のファンへの対応は変わりませんでした。
本当はフロアライブにしたかったんだよね
高いところから見下ろすのではなく、前回のKOGA MILK BARのようにほとんどお客さんと同じ目線で本当は演りたかったといいます。
それが叶わなかったのは、つまるところ参加を希望する方々が予想よりも多く、出来るだけ入ってほしいとキャパを限界まで解放したからでした。

こうして思い出せるエピソードを何個か書き出してみるだけで、武正のコミュ力を越えた人間力みたいなものを実感します。
ファンやスタッフやメンバーの家族、他バンドのメンバーやプライベートで知り合った友人。
サービス精神というと仕事っぽさが出てあまり適切な表現ではないかもしれませんが、そう言い表したくなってしまいます。
誰に対しても裏表なく大切に接してきたから人が集まり、ときにジョンとのレコーディングのような思いがけない偶然に出くわすのでしょう。

SHELTERに集まったわれわれファンも同じだと思います。
武正推しの方だけでなく、得体の知れない奇妙な集まり(『地獄へ迷い込んだ』と自嘲していました)に興味本位で立ち会った自分のような人もある程度はいるかと思いますし、KEYTALKのライブを一回も見たことが無い方もいらっしゃいました。
それでも、ワンオブゼムと思わせない丁寧な対応を目の当たりにすれば、もう一回行きたいと次回を心待ちにしてしまうはずです。
知名度ではなく、人柄に集まってきたのだと確信しました。

肝心の演奏はというと、前回と同様喉をつぶして顔をゆがませながら苦しそうなパフォーマンス。
金切り声や悲鳴のようにも聞こえました。
最前列の方と30cmくらいしか距離がなかった前回とは違い、狭いとはいえど一定以上の距離感があるライブハウスということで多少緩んだのか、表情は前回にも増して険しくなっています。
白目を剥き、目の下のくぼみが余計深くなっています。
義勝がKEYTALK TVで言った「目の下ダルンダルン」という武正評を失礼ながら思い出していました。

「今日は新曲やろうと思うんだよね」
もちろん自らのオリジナルソングではありません。
前回こう言って出されたのは3月リリースのバンドとしての新曲「君とサマー」でした。
ただ、ゴ会が走り出したばかりの今はふざけて”新曲”なんて言っていますが、いつか本当に曲が出来る日がくるかもしれません。

今回の”新曲”は「Shall we dance?」。
2回目の武道館へ向けて4人で合作した、現時点でのKEYTALKの集大成とも言うべき曲で、歌詞にはこれまでリリースした曲の歌詞やタイトルがこれでもかというほど詰め込まれています。

衛星放送妄想ゲーム 駆け巡ってゆらゆら揺れて」のあたりから、それに絡めた”脱線”が始まりました。
「blue moon light 照らしてgood night」はインディーズ時代の「ブルムン」こと「blue moon light」からモロにきています。
「blue moon light…?」
そこの歌詞を歌ってピタッと武正が止まります。
上を見上げ、思い出したように始まったのは「ブルムン」のイントロ。
歓声が起こりました。
続いて本線に戻り「酔い酔い酔いも酸いも甘いも」。
これは「宴はヨイヨイ恋しぐれ」が元ネタです。
すると「ヨイヨイ」のイントロを弾き始めます。
「祭りの胸騒ぎ」では「MATSURI BAYASHI」、「踊れ踊りまくれ」は「MONSTER DANCE」。ワンフレーズごとに脱線し、終わりが見えかけているのに進む気配がありません。
そして「もういっちょ熱くなれ」では「もういっちょ」。
一曲から枝分かれして様々な曲のイントロやリフを聞けるという、豪華なリレーでした。
即興だったようで、本人の記憶にも一番残っていないのではないかと思います。
今後も見られるかどうかわかりません。

まさか「zero」をゴ会で聴けるとは思いませんでした。
てにをはの歌詞間違えくらいは、本職がボーカルではないのでご愛敬です。
「前回やりたかったんだよね」と言っていた理由は、サビ終わりのフレーズで分かりました。
勇敢な表情をしていた」という歌詞があるのですが、ここで武正は眉間にしわを寄せ、いつもよりややキリっとした顔つきに変わりました。
ギターは引かず、右手で拳を固めています。
いわくこれが「勇敢な表情」の具現。
これをやりたかっただけなのでしょう。
面白かったです。

YURAMEKI SUMMER」のイントロの「HA~」の合唱は、皆さんKEYTALK TVで履修済みのためか、言われずとも揃っていました。
KEYTALK TVでは義勝に「(譜面の)iPadは何のためにあるの?」という指摘が入っていたので前回よりは手元を見ているようでしたが、「年取ると文字が見えなくて...」とポツリ。

2回もやると意外と流れや形式が鉄板のものとして固まってくるようです。
仕事で韓国に関わるというくだりから「おやすみは『チャルジャ』っていうらしい」と、「君の声聞いたらおやすみ」という歌詞がある「バイバイアイミスユー」を弾き始める流れは前回と同じでした。

sympathy」始まりと「アワーワールド」締めも前回と同じで、もしかしたら義勝の「おジャ魔女」やバンドの「MONSTER DANCE」同様定番になっていく予感がします。
sympathy」の小馬鹿にしたような巨匠モノマネはさらに度を超しています。
90分以上に渡って喋り倒し歌い倒した武正は、ラストの「アワーワールド」でギターを傍らに起き、フロアの一員かのように「ラララー」と歌っていました。
もはや弾き語りでもなんでもありません。

次回は6月17日に兵庫のライブハウスにて行われます。
キャパはシェルターよりも狭い100人だそうです。
その前日、6月16日にKEYTALKのライブハウスツアーが岡山であるから翌日にお隣兵庫で、となったのだと思いますが、阪神尼からすぐの尼崎Scopeを選んだのは、店長さんが武正のご友人だという縁がありました。

「なかなかバンドとしてだとフットワーク軽くいけないんだけど、ゴ会はバンドとは反対に自由で遊ぶような会にしたいんだよね」

関わった人を大切にするという姿勢は、ここでも貫き通されていました。
ゴ会という形で実現することを想定していたかは分かりませんが、いつか友達のライブハウスで演奏したいとはずっと思っていたのでしょう。
「それもこれも、KEYTALKでライブし続けたからこの波に乗れている

ギターだけの間奏はやはり寂しく、そういう時にドラムやベースなど他の楽器隊の偉大さを思い知ります。
ギターのチューニングは432Hz。
「イマジン」と同じ周波数だそうで、ピースフルなチューニングです。
一人のギタリストのソロリサイタルのようでいて、その裏に無数の人の網を見たような一日でした。


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