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【ライブレポ】小野武正人生初の弾き語り企画!! 「ゴ会」vol.1(2023年4月8日)

2023年4月8日に、4人組ロックバンド・KEYTALK小野武正(Gt.)による弾き語りライブ「ゴ会」が開催されました。

ボーカルではない男の弾き語り

これを読まれる方には釈迦に説法というか改めて記す必要のないことかもしれませんが、KEYTALKはツインボーカルからなっています。
中性的な声の首藤義勝(Ba.)と、太くて武骨な巨匠(Gt.)の2人がボーカルをつとめ、ドラムの八木氏や武正の役割はコーラスに参加したり煽ったりというのが常です。
弾き語りといって想像するのは普通、竿隊(あるいはキーボード)かつ本職がボーカルのアーティストがやるライブだと思います。
楽器数も少なく、しんとなる場面が多いアコースティックに耐えうるだけの歌唱力があること。
これは大前提であり、お客さんを呼んで弾き語りライブを開催することは、主旋律を担当してバンドや曲の”顔”を担うメインボーカルの特権でもあるはずです。
そうだと信じて疑わなかったのですが、3月1日に開催されたKEYTALK武道館公演の余熱をまだ残す3月の中ごろ、前触れもなくやってきたお知らせは、そんな常識をいとも簡単に崩してしまうものでした。

ボーカル担当ではない武正による、初めての弾き語りライブです。

KEYTALKという名前になる前の「real」というバンド名でオリジナルメンバーの八木氏らと活動していた時代や、ベースに義勝を迎え最後の1ピースとして巨匠が入ってくる前の頃には武正がメインボーカルだったこともあるそうそうなのですが、それももう10何年以上前の話。

フライヤーには「独特な歌唱につき終演後の誹謗中傷はゴ遠慮願いますよう...」と注意書きがありました。
巨匠の過去のインタビューを引いてありていに言えば「めっちゃ下手だった」という歌唱力がいかほどのものであったのかはYouTube番組「KEYTALK TV」などで見ることができます。
ライブ前の巨匠の声出しにハモったり、果ては主旋律を乗っ取ったりして楽しげに歌っている様子がたびたび収められているのですが、聴こえてくる地声で叫ぶような声は、ネタ切れになりがちなKEYTALK TV用の誇張なのか、それともほとんど素に近いのかすらもよく分からないのですが、少なくとも、”独特”であるとは言いきって良いと思います。
そこに誇張やおふざけが混じっていたりしたとしても、聴いていてどういうわけだか笑いが漏れてしまう歌声は、聴かせて感動させるものとはまた違う種類のもののようでした。

4人とも作曲家の顔をもつKEYTALKは、曲作りのときもそれぞれが個別に作ってきた曲を持ち寄り、それぞれがプロデューサーとなって一つのアルバムを完成させていっているのですが、レコーディング風景の動画でも武正曲の音源が流れることがあり、これまた個性的。
昨年の50箇所ツアーの楽屋でも、たびたび巨匠の声出しに乱入していましたが、あるときから巨匠の邪魔をしないような歌い方に変わりました。
もはやコーラスや合いの手といったような、平素の入り方を知っていると心配になってしまうほどおとなしい割り込み方に変わっていたのですが、カメラのまわっていないところで巨匠に怒られたのでしょうか。

もっとも武正が人前で歌う機会は、この4人体制となってからも無いわけではありませんでした。
FCライブではアンコールでのパートチェンジがあり、その時はボーカルが武正にスイッチしていました。
ただ自分はFCライブに行ったことがなく、映像にも残っていないのでどうにも想像がつきません。
KEYTALK TVもアンコール直前の貴重な声出しシーンやアンコールでのMCのやり取りなどは映してくれるのですが、ライブ自体はその場にいた人だけの恩恵としてカットされています。
そのため、武正が人前で歌うというのはどこか空想的で遠い世界、都市伝説のようなもののように捉えていました。
KEYTALK TVで知りうる限りの声質で「夕映えの街、今」だったり「sympathy」などグループオリジナルの曲を、ワンフレーズはともかくまるまる歌い切っている姿がどうも信じられなかったのです。

それと同時に、武正のボーカルへの渇望や欲求も伝わってきていました。
出来ることなら歌いたいから声出しに割り込んでいるのでしょうし、しかし歌声をよく知るKEYTALKチームがそうさせてくれないという欲求不満が透けて見えます。

飛び込んできた人生初の弾き語りのお知らせは、しばりつけて10年以上おとなしくさせていた猛獣の檻を開ける音でした。
楽屋や内輪ノリだけの世界だと思っていた武正のボーカルが、世の中に解き放たれる初めての機会です。

場所はKOGA MILK BAR
所属事務所のマーガレットミュージックが運営するカフェバーです。
 KEYTALK TVではたびたびメンバーが「●●をKOGA MILK BARでやりましょうよ!」などとその場で思いついた企画を傍らにいた古閑さんに言ってみる場面がありました。
よそ様のライブハウスとは違い、勝手知ったるKOGA MILK BARはスタートアップ的な場所としてはちょうど良かったのでしょう。
その提案の時に武正弾き語りが上がっていたかは覚えていませんでしたが、ノリが本当に現実になってしまいました。

行ったことがなかったのでKOGA MILK BARのキャパがどれほどのものかは分かりませんでしたが、ライブハウス用の箱ではありません。
3桁も入るような広さとはとても思えませんし、精一杯詰め込んでせいぜい20人くらいなのかなと想像していました。
スタッフ側にしてみれば、ボーカリストではないメンバーの弾き語りの需要がどこまであるのかも分からなないため、とりあえずは最小規模のKOGA MILK BARでパイロット的にやってみようというつもりだと思うのですが、解禁時のSNSの反応を見る限りでは応募殺到の様子です。
歌声に飢えていたのは武正だけではありませんでした。

こんなの当たるとは到底思えませんでしたが、出すだけはタダだと思い、ひとまず応募フォームに記入して送ってみました。
倍率が明らかに高そうなライブに抽選を出すときは、外れたときのショックを低減するために「外れてもともと」と、当たることなんて端から期待していないと自分に思い込ませて念をかける節があります。
今回も外れてもともと精神で出しましたが、そこにはいつもの倍率高めライブにかけるような「もしかしたら」という期待も色気も1mmもなく、2日後くらいには出したことすら忘れているというくらいの無欲さでした。
それくらいまっさらな気持ちだったからかえって良かったのかもしれません。
あぁそういえばと思い出し、万万が一のためにとスケジュールに「ゴ会」の文字を書き込んだのは2日後。
もちろんクエスチョンマーク入りです。
更新したメールボックスにしれっと「当選通知」の表題が現れたのは、その翌日でした。

なぜ「ゴ会」という名前になっているのかはいまいちよくわからないのですが、最近の武正はマイブームなのか語尾に「ゴ」を多用していて(なんJ発の「ンゴ」の改変なのでしょうか?)、そこにツインボーカルが弾き語りの時によくつける「●●会」にならって「会」の字をくっつけたのだと思います。

幸運にも武道館公演後のこの1カ月の間に自分は、メンバー4人中3人のソロ仕事に立ち会うことが出来ました。
ゴ会に、義勝の茶会、そして八木氏がバックバンドとして出演した、Finallyという6人組アイドルグループのライブです。
どれも小さなライブハウスで、どうしたってメンバーと目があってしまうほどの近さでした。
KEYTALKを知ったのは1回目の武道館公演の後からで、メジャーシーンにすっかり定着した頃。
ライブに行っても見るのはいつも後方だったので、かれらははるか遠くの存在という認識でしかありませんでした。
加えてライブに行く頻度も低く、1カ月に1度ペースならやや多いくらいでした。
それが、ここにきて立て続けにライブに通い、そして表情がくっきりと分かるくらい間近で目にしている。
自分は、平日休日問わずライブ三昧のライブアイドルの現場によく行きますが、この1カ月に限定すれば頻度も距離も、どのライブアイドルよりもKEYTALKのほうが近かったです。
武道館から時空間が歪み、急速にあらゆる距離が縮まったような錯覚を覚えました。

先日新宿LOFTで開催された義勝の弾き語りは20倍以上の応募だったそうで、当たったときは流石に今年一年の運を使い果たしたと思いましたし、ファン歴も中途半端だしライトな層の自分が行っていいものかと内心びくびくしながら会場に向かったのですが、「ゴ会」の倍率は下手したらそれ以上だと思います。
ゴ会の当選通知を見たとき、真っ先に出てきたのは戸惑いでした。
SNSでは「興味本位の人じゃなくて本気で行きたい人が行ってほしい...」なんていう恐らく武正推しであろう方の書き込みも見かけました。
仰る通りですし、自分はまぎれもなく「興味本位」の軽い気持ちの部類だと思います。
果たしてどうしたものかとわずかに逡巡しますが、当たってしまったのですから行く以外の選択肢はありません。

ゴ会にあたって明かされていた情報はわずか。
人数がきわめて少ない(少人数を詰め込んでいるため混雑が予想)ことと、独特な歌唱が待ち構えているということくらいでした。
インスタのストーリーには「DROP2」や「赤いサイコロのMAYAKASHI」といった武正曲の弾き語り動画が上がり、当日に向けた順調な仕上がりが伺えます。
動画を見る限り、やはり大声で切り裂くような歌唱スタイルのようでした。

ただそれ以上のことはなにも分かりません。
ゴ会の情報解禁前には、今からしてみればゴ会開催の最大の匂わせでしたが、「もし弾き語りライブ部をやるなら」と、オーラルやフォーリミの曲、あるいはKEYTALKならSUMMER VENUSなんかをやりたいなんてたしか書いていましたが、KEYTALKだけでなく仲の良い他バンドの曲もそれなりにやるのでしょうか。
KEYTALKの曲をやるにしても、レアな武正曲なのか、それともライブでよくかかって耳なじみのある曲を武正歌唱で塗り替えてしまうのか、予想も予感もなにもありませんでした。義勝なら「おジャ魔女カーニバル」やちいかわの「ひとりごつ」など定番曲があるのですが、武正の場合は自分が知らなすぎるというのもあって、どんな選曲になるのか全く分かりませんでした。

お客さんの人数が少ないと、一人一人のリアクションもライブの雰囲気に結構影響してきます。
声かけや笑い声など、一人の声でもあるとないとでわりと変わっていくものです。
100人キャパの茶会でも東京と大阪公演とでノリにかなり差があったようですが、地域の属性というよりも集まった人達の個人的な性格のほうが大きいような気がします。
どちらが良い悪いではないとは思いますが。
何にせよゴ会は歌唱力に聴き惚れて時間が過ぎていくというライブでは(失礼ながら)ないはずで、しかもより密接した距離感なので、みんなで作っていくライブになるであろうことは容易に想像できました。
ちゃんと盛り上げに参加しないとな、と思う一方で楽しめるかな?など少しばかりの不安もありつつ、当日を迎えました。


ライブ本編

前置きが長くなってしまいました。
ここからは4月8日、18時過ぎに時間を移し、見たもの感じたものを出来る限り書き残してみます。

午後にかけて降っていた雨が弱まり、かわりにぐっと気温が下がった下北沢。
去年の一時期、用事があって週一で通っていたことがあったのですが、その時は南西口から出入りするだけで、ほかに寄り道もしなかったのでKOGA MILK BARのある東口に目が向くことはなかったのですが、ホームが地下に埋め込まれてから初めて通ったそこは、かつての構造を思い出せないほどに様変わりしていました。
地下化はもう何年も前ですが、あまりの変わりように今更ながら感動してしまいました。

KOGA MILK BARのある建物は、東口からすぐのところにありました。
こちらも初めてです。
開場の18時を少し過ぎたころに向かうと、2階に通じるらせん状の外階段にはすでに列が出来ていて、何人かの方が並んでおられます。
6人くらいいらしたでしょうか。
恐らくこの列だろうと一番後ろに並んだのですが、そのなかの一人の方の背中にKEYTALKとプリントがあるのを見て、やっぱり間違いなかったと安心しました。
クローズドで少人数の場に、これから何が行われるとも知らず(弾き語りではあるのですが、普通にイメージする弾き語りとは違うはずです)単身乗り込むのはなんだか大学の新歓みたいだなと思いながら、列は進んでいきます。

KOGA MILK BARの外階段に面したところはガラス張りになっていて、そこから中が覗けるのですが、列が進んで1-2階のあたりに来たとき、ガラスの向こうに武正がいるのが見えました。
向かって右側に武正、左側にお客さんという図です。
ラップトップと名前の分からない機器がガラスの向こう側の右手に集まり、そこには名前の分からないギターが2本ほど吊るされています。
既に店内にはいっぱいに人が入っていて、武正はグラスを片手にその人たちと乾杯していました。
外階段のこちら側を覗きながら「まだまだ来るんだね」なんて話もしています。
目が合いそうになると、向こうは気にしていなくとも射すくめられたように緊張してしまいます。
右側は10cmくらい高めの段差になってはいるものの、フロアとはほぼ同じ目線。
仕切りもなく、最前の方とはゼロ距離でした。

店内に流れていたのは「Love me」。
どうやら、お客さんのリクエストに応じて曲をかけてくれているようでした。
入場時、フェスなどでおなじみの「天ぷらDJあげまさ」で迎えてくれるとは確かにメールに書かれていましたが、実際に目の当たりにするとその通りだとは思いつつもなんだか現実ではないような浮遊感に襲われます。
一人ずつ進み、天井の低い入り口をやや身をかがめて店内に一歩入ると、肌寒い外とは空気の質が違いました。
既に最後列くらいしか空いていないフロアはやはりパンパンに埋まり、熱がこもっています。
ぎゅっと集まった呼気の暖かさもありましたが、武正の垣根のなさで店内が暖まっている感じもしました。
構えたところもなくフレンドリーにお客さんと話している様子を見るだけで、会話に参加していなくとも「構えなくていいんだ」と心が荷ほどかれていくようでした。
そうして生まれた暖かさもあるように感じたのです。

35人全員が参加

ステージとフロアはテーブル席を取っ払って出来たスペースで、どかされた椅子は入り口横に積まれていました。
武正の背中側には液晶モニターがあり、真っ黒になった画面の真ん中にゴ会のポスターがA4サイズで貼られています。
最後列にあたる側は埋め込み型の木製椅子になっていて、初めから最後列にいるつもりだった自分はその角っこにいました。
「この曲あるかな」などと選曲もしつつ、後から来た後列の我々ともひとりずつ目を合わせて乾杯してくれて、よく来てくれたねというホスピタリティを存分に感じます。
ほどなくして事務所社員・メリメさんの「全員入りましたー!」の声が聞こえてきました。
チケットが当たったのは35人。
驚くことに、一人のキャンセルも出ず当選者全員が集まったとのことです。

てっきりDJは開場直後までで一旦捌けて、30分後の開演でまたやってくるのかと思っていたのですが、お客さんが入り切ってからもプレイは止めませんでした。
挙手してもらってリクエストを募り、曲を流していくというスタイルで、気が付けば開演時間になっていました。
武正とフロアでやりとりしているうちに、気が付いたら時間になっていたという感覚です。
前座と本編は地続きでした。

30分足らずの間にすっかり空気も出来上がったところで、DJは終わりお待ちかねの弾き語りライブへと移っていきます。
一曲目は「sympathy」。
驚いたことに、どうやらこの日の曲目はおろか曲数、さらにはライブ時間も何もかも決まっていないようでした。
唯一の縛りはこれだけ。

「明日ヨンフェスだから21:30の電車に乗んなきゃいけないんだよね」

KEYTALKは次の日、愛知にて久々の「ヨンフェス」に出演予定でした。
バンドとしては呼ばれなかった去年のその時はちょうど「KTEP4」のレコーディング最中でした。
「呼んでくれよぉ」と義勝が言っていましたが今年、願い叶ってヨンフェスオリメンのKEYTALKに久方ぶりにお声が掛かりました。

出演時間は確か11:00のため、前乗りは必至。
前乗りをするには、その時間が終電でした。
逆に、21:30までに終わりさえすれば気がすむまで歌っていいということです。

自由気ままに始まった「sympathy」は、早速笑いが漏れていました。
聴こえてきたのは、インスタやYouTubeで聴いた破壊力のある歌声。
面白いことに、生で体感すると「本物だ」と少なからず感慨は生まれるもので、一人イヤホンをしながらクスクスと聴いていたあの声がたった3メートルくらい前で再現されていることにはちょっとした充足感がありました。

何年も前の動画通り、喉が心配になるほど全力で歌うスタイルですが、この日はそれだけに留まらず、メロディーを無視して朗読するかのように歌詞を読み上げることもあれば、ナチュラルなブレなのか主旋律のやや上を並走するかのような音程で歌ったりと自由そのものでした。

この日いくつもレアな体験ができましたが、一つは武正作曲の「アニマ」のオリジナルバージョンを聴けたことでした。
細胞核とか転写とか、歌詞が微妙に生命科学寄りの曲。
去年のヨンフェスの時期に励んでいたKTEP4のレコーディング風景がKEYTALK TVには収められていますが、この時のデモ音源と実際にサブスクやCDに公開されている音源はサビのフレーズが微妙に違うそうです。
オリジナルとデモver.そのどちらも聴くことができました。
ところでこの曲、仮歌を入れたのは夜中3時だそうで、防音室でなく普通の部屋にこの歌声をこのボリュームで響かせたのだと考えると、お隣さんを案じてしまいます。

本格的にお客さんを巻き込みだしたのは「ナンバーブレイン」あたりから。
それまでも曲間の「楽しい!」「かっこいい!」とかほうぼうで聴こえてくる声に「もっと言って!」「Twitterの1000倍響く」と欲しがりつつ浸っていたのですが(一番後ろで盛り上げてくださった男性の方は間違いなくMVPだと思います。おかげで楽しかったです)、ここからいよいよ全員参加型のライブになってきました。
「分かるよね?」と頭の印象的なフレーズをギターで繰り返し奏でて予感を誘い、冒頭の「wow wow…yeah!」のみならず、伴奏を口で歌うように言いだしました。
そんな空気が生まれたのはたしかこの曲くらいからでした。
無法地帯の、ごちゃごちゃとした中で少しずつ固まっていく一体感と共通言語。
武正も武正で、ステージとフロアとの隔たりがもうすっかりなくなっていることを感じたのかもしれません。
DJのときから首周りには汗をかき、ハイボールをあおって「やばいゲップ出そう」。

YURAMEKI SUMMER」では冒頭の「Ha~」というところを我々に振りました。
何フレーズか繰り返し、武正が「ya ya ya ya」と歌いだしたのを聴いて引っ込むと、「まだ『Ha~』続いてるから!止めないで」と指摘が入ります。
そこまで続いているのをそもそも知りませんでした。
難しめのフレーズに苦戦し、しまいにはフロアからクラップの援軍を頼った茶会の義勝に重なるなと思いながら、またここでも大笑いが起きます。

インスタのストーリーかなにかで「YURAMEKIのAメロ、早口で難しい」みたいなこと書いていて、どうするんだろうと聞き耳を立てていたのですが、はじめから歌詞通り歌うことを諦め、ほとんど鼻歌のような歌い方で乗り切っていました。
時折歌詞っぽいフレーズが出てくるのですが、オリジナルの影はどこにもありません。
しまいにはわれわれに歌わせることもありましたが、ガイドが無いとメロディも歌詞も案外出てこないもので、自信あるところだけ声を大きく出しましたが、スラスラと歌える人はすごいなと思います。
武正は「みんな歌上手いな!」と同窓会級のフロアの団結力に気づいてからは、我々にメインパートを歌わせて自分はハモリに徹することが多くなりました。
微妙に違う2番のメロディで1番を歌ってしまうところもありましたが、それも若干ハイになった酔い気味のこの空間ならではという感じがします。

「なんてゴ会やるのってよく聞かれたんだけど」
武正は結構インスタのDMを見ているようです。
歌いやすさも考え、「イマジン」と同じ低めの432Hzにチューニングを合わせたギターをポロポロと鳴らしながら言いました。
「特に意味は無いんだよね」

ゴ会が発足したきっかけも、なんとなく生まれたもののようで、社長古閑さん、社員メリメさんとで関係ないことでミーティングしていたときに、脈絡のない思いつきでした。
「古閑さん=KOGA MILK BAR、俺、弾き語り。古閑さん弾き語りやりませんか?」

KEYTALK TVなどを見ていると、親子ほど年齢が離れていながら、社長とアーティストという関係性がわからなくなるほどメンバー4人と古閑さんがフランクにおしゃべりしている場面がしばしば出てきます。
切り取られた部分だけを見ても、画面外伝も少なからず動画のような関係性なのだろうなと思ってしまうほど仲が良いのです。

KEYTALKの良さは、30を過ぎても変わらない少年感だと思っているのですが、年の差と立場の違いを思わせないこの社長だからいつまでものびのびとしたままで居られているような気がします。

ゴ会が立ち上がったのも、心に期するものがあって申し出たものと言うより、先の方程式のごとく突発的な感情と、武道館後でツアー前という、フィジカル的にはさほど忙しくない時期(それでもヨンフェスに出たりしているわけですが)で、かつコロナによる制限もかなり撤廃され始めたタイミングが上手いこと合って、という感じのニュアンスでした。
自社のバーとはいえ、実現してしまうのだからすごいものです。

とはいえ、なにもないところから思いつきで始まった企画とは言うものの、裏テーマもしっかりあるのだということも次第に明かされていきました。
「歌ってみることで、KEYTALKの曲をより知り、ボーカル2人へのリスペクトを深める」
ことだそうです。
「酒飲みながら歌える巨匠すげぇな!」
なんて言葉も出てきました。

KEYTALK以外の曲もそろそろやろうかなと譜面をめくった次の曲は、そんな巨匠がお気に入りの「butter-fly」でした。
同級生バンドらしい、原風景のつながりを思わせるような選曲です。

八木氏と武正が3回目のドッキリ潜入をした巨匠の弾き語りライブで、「弾き語り」と謳っていたにも関わらず、1曲目からいきなりSwitchのカラオケ機能で無限大のカラオケをお届けしていたのがこの曲でした。
いくつになってもデジモンを本意気で歌うところも、いかにも少年っぽいですね。
リズムギターの本職ボーカルがカラオケで、リードギターのボーカル志望が弾き語りというなんともあべこべな感じで、1曲だけとはいえカラオケを全力でやりきった巨匠の面白さが浮き彫りになっていくのですが、ともかく武正は通して弾き語りでした。
ここでもサビでファンに合唱を求め、板についてきたその姿は、ファンに歌わせる系の大御所アーティストの貫禄すら漂っていました。

武道館公演に先駆けてリリースした「君とサマー」の時、「新曲をやろうかな」と言った言葉尻に、弾き語り用にソロ曲を書き下ろしてきたようなニュアンスを感じ取ってしまい一人面白くなっていました。

この日は「あれKEYTALK TVで観た!」が何度もありました。
例えば巨匠のモノマネ。
ここ数年ビジネス不仲がささやかれる2人ですが、お笑いに対して厳しくつんけんしている巨匠に対して武正は何かにつけて巨匠の声真似をして笑わせようとしています。

山奥の獣みたいな野太い声がどうやら誇張の入ったモノマネらしいのですが、それを生で聴くことが出来ました。
「あの夏を、探しに行こうぜぇ~!」歌詞というか、掛け声風のこのパートです。
実際にはこれとは別にセリフも入れて、長尺のCメロ前でした。
生で見て改めて確信しましたが、やはりモノマネは誇張し過ぎだと笑
巨匠をとうに過ぎ去り、巨匠ではない誰かになっていたところが面白かったです。

「何年も観てくれて、学生から社会人になった子も多いと思うんだけど」
自分も出会いから今に至るまでは学生~社会人を経ています。

「社会っていうのは理不尽なことも多くてね。マーガレットミュージックっていう事務所に10年以上お世話になってるんだけど。その時は2人しかいなくて。社長の古閑さんと社員のメリメさんの2人だけ。」

「あるとき物販取りに事務所言ったら、2人の会話が聞こえてきて。
古『ア”、言ったよね?』メ『いや聞いてないです』
古『ア”、言ったよね?』メ『いや聞いてないです』
古『ア”、今言いました』」

武正が最初に触れた理不尽のお話は、たびたび笑い話としてこれまた大幅な誇張つきであちこちで聞きますが、鉄板ネタとなったそのくだりもしっかりと生で聞けました。
当のメリメさんは武正の横顔を撮るようにスマホをずっと構えて、古閑さんは奥のバーカウンターのほうにいました。
お二人を見るのももちろん初めて。
テレビの中の有名人に初めて会ったような感動を覚えたのは自分だけではなかったはずです。

「昔realってバンドでボーカルやってた時に、ライブ後声ガサガサのまま巨匠の家に行ったら、巨匠がグリーンカレー出してくれて。めっちゃ辛くて声が本当に出なくなった」

10年(!?)くらいまえのKEYTALK TVに載っているエピソードです。
八木氏「てめぇうちのボーカルになにしてくれてんだ!」
繰り返し聞いたお話ですが、生で聴くと感慨が違います。
おそらくほうぼうで口にしているのでしょう。
高座で芝浜や寿限無を聞いたときに似た感慨が生まれた気がします。

BEAM」は、今度は義勝ドッキリの時に話題に上がっていました。
曲振りで義勝がセトリを間違い、「UNITY」と言うべきところを「BEAM!!」と叫び、当然ながらイントロがならないことに気付き、後ろを振り返りながら「UNITY!!」と叫び直したというこぼれ話つきの「OVERTONE」収録の一曲です。

MCの「Everybody say, ぺーい!」のやりとりはいつものKEYTALKのライブ通り。
本職のギタープレイはやはり名人芸で、どよめきもたびたび起こります。
「あちー」汗だくでプレイを続ける武正が、「こんなに熱くなってきてる」と入ってきたところのガラスを指さしました。
模様が書かれたガラスが白く曇っています。

とくに曲目は決めていなかったようだとは先に書きましたが、「大脱走」のあと、最後の「行くぜトラベラー」というフレーズから「トラベリング」にシームレスに移っていくという展開は少なくとも決めていたのでしょう。

バイバイアイミスユー」は「そういう曲じゃないから!」と義勝に怒られそうな歌い方で、しかも「だけど(×だけど○でも)心地よくて」と歌詞も動画通りに間違えるという再現性の高さでした。
ここまでくると素で間違えているのかわざとやっているのかも分からなくなってきます。
ふざけて武道館の時みたくスマホライトをやろうかなと思いましたが、止めました。

「チョヌンオノタケマサイムニダ」など、ここ最近仕事がらみで行く機会の多い韓国にちなんで唐突なハングル講座がはじまり、それは曲中でも続きました。

武正曲多めのセットリストですが、何曲かはインスタなどでほのめかしをしてくれていて、「赤いサイコロのMAYAKASHI」はその一つでした。
後半にかけて、序盤の衝撃波でガラスも割れそうな音量はさすがに弱めにはなってきましたが、持ち曲のなかで唯一のコード進行だという「UNITY」あたりで不思議な感覚に包まれました。
初めのころにあった、笑いの漏れる雰囲気がどこかに行き、耳が歌声を受け入れている感じがしたのです。
決して「UNITY」はしんみりとした曲ではなくむしろ真逆のテイストなのですが、フロアの空気も聴き入るというモードに入っているような雰囲気でした。

オーラルの「5150」の前後くらいに、あるいは全く別のタイミングかもしれませんが告知がなされました。
ライブ当日、21:00にお知らせアリとツイートしていたのです。
時間的にはゴ会終わり。
ゴ会の場では知らされず、帰り道に告知ツイートを見るのかなと思っていたのですが、なんとTwitterでの告知前に我々だけ聞くことができました。
「まぁ薄々お気づきの方もいるかと思うんですけど...」
「ゴ会第二弾決定しましたー!」

たまらず声が上がります。
しかも場所は下北沢SHELTER。
予想外の反響だったことを受けてか、会場の規模が大きくなりました。
インディーズアイドルがオリコンでトップを勝ち取ったその日にインストアイベントで喜びを分かち合った時のような、夢の会場でのライブが決まったお知らせをその場で共有した時のような、登りつめた感覚がやってきます。

嬉しいお知らせはそれだけではありませんでした。
SHELTERとはいえ、応募はその何倍もあるでしょうから次回は流石に運も持たないかな..と思っていたのですが、なんとこの会場限定で手売りチケットを販売してくれるというのです。
枚数はきっかり35枚。
ライブのある5/1はGWの谷間のド平日ですが、ともかく買うしかないでしょう。

「じつはグッズも用意していて...」
畳みかけるように、もう一つお知らせが。
終演後、グッズとしてゴ会Tシャツを販売するそうです。
広げた真っ白なXLサイズのTシャツのデザインは、前も後も真っ白。
いよいよ何でもない水を売るようなことを始めたのかと思いきや、「ここに僕が大きく『ゴ』って書きます!
この上ない、最高のサービスでした。

一応35枚+αは持ってきたものの、欲しいのはせいぜい10人くらいだろうと割と本気で思っていたようなのですが、当然のことながら「欲しい欲しい!」と全員から手が上がります。
そこにいる全員分サインして、となると時間がかかりますしなにせ終電があるので、そろそろ締めようかなと「あと一曲...」というとすかさず「え〜」と声が上がり、「じゃああと2曲」という流れに。
インスタに予告が合った「DROP2」、そして大団円の「アワーワールド」でライブは終わりました。

急遽始まった特典会、この展開を予想していた人は少なかったと思います。
「一回出てお金おろしてきていいですか?」「いいよ!覚えたから顔パスね!」などと応じ、グッズチケット販売とサイン会が始まったのですが、目をみはるのは対応の丁寧さです。
特に最初の数人に対しては、ケツが決まっているのにも関わらず自分から会話を終わらせるようなことをせず、ファンの方がダッと話す内容に相槌をうち、名前や顔に見覚えが少しでもある方に対してはできる限り詳細を思い出そうとしていました。

20時過ぎから始まったと思うのですが、流石に1時間半後に迫った終電もあるので、このペースではとても時間内に終われそうにもなく(「始発でもいっか」などと言ってもいましたが)、何人か後からは配分を考えた流れ方になっていきましたが、一人あたりの時間を
制限するでもなく、それぞれの会話のペースやボリュームに合わせてくれていたので、満足度は遥かに高いです。

BGMには、これまた貴重な武正曲のデモ音源が流れていました。
仮歌入りです。

キュビズム」のテンションのかなり低いオク下の歌声や、やけにはっきりとした発音の「シュールレアリズム」はこれこそシュールだと思って面白かったのですが、レコーディングの時、これを受け取ったボーカル2人はどう思ったのでしょうか。
列に並びながら、そんなことを想像していました。

やがて自分の番に回ってきました。
いちばん近くで見る武正は羨ましいほどのぱっちりとした二重と目の大きさで、普段行くアイドルの特典会より断然緊張しました。
じつは実家が近いかも、みたいな話でなんターンかさせてもらいましたが、やはりノリが良くて優しかったです。
最後に握手した手は想像以上にゴツゴツとしていて、ギターを長年触った厚みを思わせました。

ゴ会は、弾き語りをしたいという武正の欲求を叶えることのみに開催されたのかなと、初めは思っていました。
しかし2時間弱KOGA MILK BARに滞在して、それだけじゃないと気づきました。

はじめは確かに直感の思い付きだったかもしれません。
でも、どこかでずっと、ファンと近くで触れあえる機会を伺っていたのではないでしょうか。
去年は50箇所ツアーを小さめのライブハウスで開催し、終演後にはKTEP4購入者がメンバーから手渡しでCDを受け取れるという特典がありました。
小規模ライブハウスツアーは、今年も行われます。

2回目の武道館を経てより遠くの存在になってしまったと思いそうなのですが、コロナが落ち着いてきてからのかれらはむしろ前よりも距離を詰めてくれているのです。
「自分が普通の人間だって気づいた」という武道館での巨匠のコメントを思い出します。
上から見下ろして音だけを一方的に提供するのではなく、目線を下げこちらのリアクションを伺いながら一対一で会話しているかのような空間を生み出してくれていて、その一端をこの日垣間見た思いでした。

次回も楽しみです。

あの場にいらしたファンの方のセトリツイートを勝手に参照させていただきました...

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