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【ライブレポ】群青の世界 全国ツアー『REBORN』ファイナル東京公演 & 4th Anniversary Live

ライブを観ているとき、ごくたまに身体が震えることがあります。
抗いがたく芯から揺れだすような感覚です。
自分に出来ることは、周りから痙攣しているように思われないように身体のどこかをきつくつかんでおくことくらい。
それがどういう理由で起こるのかはいまいち説明がつきません。
感動で立つ鳥肌とも違いますし、詞に感じいって込み上げてくる涙というわけでもなさそうです。
しかも震えは滅多に起きるわけでもありません。
過去のライブを総じても片手で収まってしまうくらい、きわめてまれな現象です。
狙って起こるものでもなく、だからこそ文字にして再現するのが難しい。
恐らくは「良い」とざっくり分類してしまう数多のライブの、その中でも自分の頭で説明や形容ができないくらい”打ちのめされた”場合に発生する、抑えきれない感情の溢流とでも言えば無理がないでしょうか。

自分が4人組アイドルグループ・群青の世界の深みにハマっていったのは、このまれな「震え」がきっかけでした。
結成3周年記念ライブと秋ツアー千穐楽公演を兼ねた「Blue Symphony」というライブでのひとコマです。

メロドラマ」「BLUE OVER」「アイ・ワナ・ビー」と息を飲むことも許されないような3曲での緊迫感を目の前に、身体が言うことをききませんでした。
震えが起こるのはきわめてまれだと書きましたが、思い返してみるとそんな感覚を意識しだしたのはこの日からで、このライブ以前に感じたことはなかったような気もしてきました。
ともかくインパクトは大です。
今追いかけている、あるいは過去観ていたどのグループにももれなく、のめりこむきっかけとなった決定的なエピソードやライブはあるものですが、脊髄反射的なこの震えが入り口となった例は他にありません。
群青の世界の場合はより強烈に、身体に刻み込まれるような形で印象づけられたのでした。


あれから一年、特別な感情とともに群青の世界を追いかけながら、身体がうち震えるような体験を、あわよくばもう一度出来ないだろうかという期待がなかったわけではありません。
ただ、重ねて書くように狙って体験できるものでも、その予感がどこからか漂ってくるものでもないですし、どう考えても一年前よりは新鮮さは薄れています。
良いものを見せてくれると信じているし知っているからこそ、こちらが想定しうる範囲を超えてくることはないだろうという思いもありました。

当時は曲をさらっと聴いていた程度で、持ち合わせていたのは最低限の情報。
冷水をかけられたような衝撃を受けたのは、まだこのグループの本領を知らなければ今ほど期待もしていなかったあの頃だったからこそなのかもしれません。
対バンライブ、定期公演、ワンマン、ツアーの地方公演に生誕祭、さらには卒業ライブ...一年とは言えど数々な状況に置かれた群青の世界をフロアから見上げてきたこの一年。
外枠がすっかり形作られた今では、冷水もただの白湯程度にしか感じなくなっているのではないだろうかという懸念は頭のどこかにありました。

ただ、その一方では、「ツアーファイナル」「周年ライブ」という去年と全く同じシチュエーションとなったこの日ならば、説明しきれない心が揺さぶられる感覚を得られるのではないか。
そんな思いも捨てきれませんでした。
しかも、8月9日以来2回目の生バンドセットワンマンとあります。

いつもの打ち込みではなく生の、その場から出される音がぶつかることで生まれる化学反応があることは既に確認済みです。
新宿BLAZEよりさらに大きい、ライブアイドルがワンマンライブを行う一つの到達点であるO-EASTという箱の中なら、より予測できないものが生まれるのではないか。

そんなことを胸にしまいながら、グループの4周年と全国ツアーファイナル公演を兼ねたライブは滞りなく進んでいきました。
実に滞りなく、です。
この日の一週間前からライブ活動を一切ストップし、ファイナルに向けての準備に徹してきたことや、2回目のバンドセットということなどからくる心のゆとりがどこかにあるような気がしました。
バンドセットのメンバーが前回から一新されても関係なさそうです。
前回目立ったのが、しきりに耳に手をやるメンバーの姿でした。
バンドの音を拾えるように耳に着けたイヤモニのサイズが合わず、たびたび押さえたり気にしたりしながらのパフォーマンスだったのですが、この日はほとんど一度も触れることがありませんでした。
まだ2回目ではありながら、バンドライブの全てが違和感なく進んでいきます。

風向きが変わったのは、新曲2曲を立て続けに披露し、普段多くを語らない工藤みかさんが喋り始めたとき。
いつもはおしゃべりではないオリジナルメンバーが積極的に場を回すというのも、今ツアー「REBORN」で掲げた挑戦の一環です。
(メンバーが喋った内容はあくまでニュアンスとお受け取りください。正確な表現ではありません。)

「私は昔からアイドルに憧れていて、自己満足で歌って踊るだけでなくお客さんを喜ばして褒められたかった。なかなか決心がつかなかったけれど、高校で(一宮)ゆいと出会って(一宮さんと工藤さんは高校の同級生でした)勢いでオーディションに申し込み、運よく2人とも同じグループになれてトントン拍子で進んで..」
「でもやっぱり挫折や壁はいくつもあったし、初めのころはお客さんが3,4人とか。」

活動4年間の出来事を頭の中で転がしながら振り返っているようでした。
人見知りな性格で、慣れないMCだとは思えないほど滑らかな話しぶりです。
最初期の苦労は、一宮さんや前メンバーの横田ふみかさんなどからはインタビューかなにかで聞いたことがありましたが、思えば工藤さんの口から耳にしたのは初めてだった気がします。

ふみかが卒業して(今年5月に横田さんが卒業)、この先不安になったし、新メンバーオーディションするっていってみんなもどうなるんだろうって思ったと思うんですけど...」工藤さんはここで一息つきます。
ツアータイトル『REBORN』にもあるように、今は、生まれ変わった4人でこれからも高みを目指していこうと思っています!

横田さんが抜けた後に新メンバーオーディションを夏前に開催すると聞いたとき、そこには様々な声がありました。
グループ存続のためには致し方ないことなのかと思いつつ、新メンバーが加入するとしてどこで発表されるかは気になっていました。
本ツアーのポスター画像には、こちらに背を向けて身をひるがえす女性の姿がありました。


加入するにしても1人だろうという認識はなんとなくあったので、顔を見せぬこの子が新メンバーなのか?という噂も立っていましたし、だとするとツアーファイナルで発表されるのではないかとも言われていました。
自分も「該当者なし」でなければツアーファイナルで発表する以外にないだろうと思っていました。

もっともツアーが深まるにつれてそんな関心は(少なくとも自分は)どこかに行き、(今の4人というライブの形が一時的にでも崩れてしまう可能性から目を背けたかったというのもあるかと思いますが)、新メンバーのことは半分忘れかけているくらいでした。
工藤さんが話題に出して「そういえば」と思ったくらいなのですが、工藤さんの宣言はこちらが願っていたものに他なりません。

今回は新メンバーを迎えず現体制のままで走っていくという内容をあえてこの場で伝える必要は、厳密にいえばなかったかもしれません。
何も言わないままライブが終われば、そういうことなのだろうと理解は出来ます。
話題性を目論み、意外なタイミングでサプライズを用意するグループではないというのも、この1年間でよくわかりました。
しかし、気をもんでいるであろうこちらの心境を察してか、ライブ中に言葉で示した。
工藤さんの一言は、フロアの中にフワフワとうかんでいた不安みたいなものを見事に消してくれました。

コメントはまだ続きます。
次に披露する曲紹介へと、自然な流れで入っていきました。

「これから披露するのは、メンバーのことを思いながら私が書いた曲です」

そうしてライブが再開しようとしたのですが、実は工藤さんのMCの途中から、少しばかりのざわつきがありました。
新曲披露で一旦ひっこんだバンドメンバーがMCの途中に頃合いを見て持ち場に戻ってきていたのですが、4人のはずが一人女性が増えています。
見た目や服装はおよそバンドに携わる人のそれではありません。

開演前、横に広いO-EASTのステージ半分から奥側には、上手から下手まで所狭しと楽器やエフェクター、あるいはアンプの類が並べられていました。
恐らくこの位置に竿隊がきて、キーボードはあの辺か..など想像していたのですが、不思議なことに真ん中だけぽっかりとスペースが空いていました。
まるでそこだけ近寄れない結界が張られているかのように他のバンド楽器とは距離を保ち、譜面台だけが1台こちらに背を向けて立っています。
ステージのど真ん中を独占しているということで、まるでコンダクターみたいだなとも思いましたし、群青の世界メンバーがソロ歌唱するにもちょうどいいくらいのスペースだなと思っていたのですが、そのスペースはライブが始まっても何に活用されるわけでもなく空きっぱなしでした。
新たに加わったもう一人は、本編あと4曲というところで悠然と空きっぱなしのセンターのほうに歩いていきます。
うやうやしく楽器を取り出しました。
喋っているメンバー越しに観たときに指揮棒だと思ったものは、弦を抑える弓でした。
それを察したとき、同時に全てが分かりました。
今まで遊ばせたままだったセンターの空間は、ストリングスのために空けていたのだということです。
ここからはバイオリニストとして、emyu:さんが加わりました。

流れてきたイントロは、指をそっと置くような鍵盤の音から。
Puzzle」です。

待望だった8月9日のバンドセットライブでは、バンド編成で聴きたかった曲の多くが披露されて大満足だったのですが、個人的には一点だけ物足りないことがありました。
それが、「Puzzle」が披露されなかったことでした。
この曲はドラムの音が非常にたくましいど真ん中のバンドサウンドで、人の手で再現された音を聴いてみたかったのです。
セットリストも無限ではありませんし、曲数の制限から惜しくも漏れてしまったと捉えることも出来るのですが、こと「Puzzle」については意図して外されたという見方もあるようです。
5人時代にほとんど全ての持ち曲を5人ver.で再録して収めた同名の配信アルバムの最後にクレジットされているのが「Puzzle」という曲。
歌割りの展開や歌詞は3人のオリジナルメンバーに少し遅れて水野まゆさんと村崎ゆうなさんが加わっていくという群青の世界のストーリーを下敷きとしていて、グループがこの5人で構成されているから成り立っているという部分が大いにありました。
メンバーとしても、この曲は5人でなければという思いは強くあったようです。
最初のバンドセットワンマンの段階では横田さんの卒業から3カ月も経っていませんでした。
卒業後の活動もあわただしかったことから、未だ残る5人時代の「念」みたいなものをバンドセットの段階では消化しきれていなかったのかもしれません。
だから外した。
果たして、4人での「Puzzle」初披露はさらに2カ月近く先になりました。
しかもその場が「生まれ変わる」と掲げたツアー初日の名古屋公演とは、暗示的なものを感じてしまいます。
5人時代を思い出として封をしてしまおうという決心をここでつけたのでしょう。

ストリングスが加わった伴奏は、先ほどまでよりも目に見えて活性を帯びてきました。
思ったより来ないと思っていた歌声にも張りが出てきています。
メンバーの姿を映していたステージ背面のスクリーンは白一色に変わり、その上に黒い字で縦書きの歌詞が3行ずつ現れました。
詩の連作のように現れては消え、また次の3行が現れては背景の白に埋もれて...という具合です。
そして、ステージ上のどこに目をやろうが視界に入ってくるストリングス。
途中参加にも関わらず、ライブが始まるずっと前からそこにいたかのように堂々と真ん中に根を下ろしています。
堂々たる振る舞いの弦楽器は、決して悲しい曲ではないのにも関わらず引き裂くようなその音でほの暗さや残酷さみたいなものをこちらに突きつけてきます。
勘違いかもしれませんがemyu:さんは曲の世界に浸っているように見え、歌詞をかすかに口ずさみながら時折目を閉じていました。

さらにはドラムです。
「Puzzle」に登場するドラムは音量や勢いがすさまじく、大上段に振り上げられたスティックが真下に下ろされる様子がありありと浮かぶ程なのですが、目の前の光景は長いこと膨らませていたイメージ通りのものでした。
音は空気を割り、波は振動をこちら側にまで伝えてきます。
この日はキーボードの前に行こうかと思っていたものの、思っていたよりセンターにより過ぎていたことから気が引け、心ならずも位置を変えてドラムの前に立つことにしたのですが、「Puzzle」でそれが奏功しました。
叩いているMIZUKIさんの表情もよく見えます。
顔つきは爽快そのもの。
このやり切ったという顔も、音だけを聴きながら頭に浮かべていた表情でした。
自分がもし譜面通りに叩けるようになったらあのような顔ができるのでしょうか。

一連の光景に出くわしたとき、やがて細かな震えが自分を包み込んでいるのを自覚しました。
バンドセットに加えて群青の世界サウンドの必須項目だったストリングスがここにきて加わったこと、封印されていたバンド編成にぴったりの曲が解禁されたこと、そして思い描いていた演奏風景を眼前にできたこと。
パズルのピースが埋まったなんていう、使い回しつくされた慣用表現はあまりにこの状況と符合しすぎていてむしろ使いたくないのですが、そういわざるを得ないほど「Puzzle」では求めていたあらゆる要素がステージの上に集まっていました。

感動や感傷は後からやってきます。
未来シルエット」で胸がいっぱいになった後の「メロドラマ」、この歌詞が引っかかりました。「はじめよう 終わらないエンドロールを」
一見矛盾を含んだ、落ちサビ前のワンフレーズです。
これまで歌詞のことを深く考えることなどほとんどなかったのに、なぜかここにきてこのフレーズが急にずしんとのしかかってきました。
互いに逆の意味を含んだ詞の本意が啓示的にひらめいたわけでもなく、ただその言葉が目の前に下りてきたという状態です。

ここでも、「Puzzle」で感じた震えがまたやってきました。
と同時に、涙が流れてきました。
右上に視線をやって工藤さんを観たときになぜかこぼれたのです。
理由あっての涙ではありません。
感覚としては、歌詞のあるフレーズが鮮明に頭に入ってきた。そして涙がこぼれた。
それだけでした。
その間に脈絡は一切なく、そう感じてそういう反応をしたという事実が残ったのみです。

自分は離別のライブだけでなく、それ以外のワンマンライブなどでもたまに泣いてしまうことがあるのですが、泣いたからといって単純に良いものだ、感動したと言ってしまうのはどうも違う気がします。
「泣けるライブ」と括ってしまうと、よくある消耗品の一つみたいなカテゴリーに入ってしまい、一気に輝きが褪せてしまう気がするのです。
こうして書いたのも、何も泣けるほど良いと安直に言いたかったわけではありません。
数100人が詰め込まれたO-EASTの中には、この場面でこんな情動反応をした一人の客がフロアの隅っこにいたのだということを表現したかっただけです。

畳みかけるようにしてスタートした「RIBBON」で本編は幕を閉じたわけですが、このライブに関して最も書きたかったのは本編ラスト4曲にかけてでした。
もっと限定すれば、工藤さんの「これからも4人で」宣言から「Puzzle」で起きた震えまでです。
正直ここまで書ききって満足した部分もあるのですが、もちろん他の場面も味わうべき箇所はたくさんありました。
ラスト4曲のくだりだけ突出して長く、さらには時系列を無視してしまいました。
ここが個人的なハイライトではありますが、ここからは開演前から順を追って振り返ってみようと思います。


◆開演前

真っ暗なステージ上には、既に役割もよく分からないような機材の数々が置かれています。
入場が進み、場内に人が増えだしてきても当然ながら何の反応も示さない無人のステージは、フロアとは全く別の世界かのようでした。
ステージの背面も同じく真っ暗です。
数少ないO-EASTの記憶をたどると、ここまで背面が真っ黒なことはなかったような気がしていたのですが、この日はぼうっとしていたら吸い込まれてしまいそうな黒がやけに目立ちました。
幅もあって威圧感がある。
ただ、高さよりも黒さからか奥行きのほうが強くありました。

下手前方に立っていると、斜め右、つまり上手側にギターアンプがあります。
孤独を感じる真っ暗ななか、アンプのブランドロゴ「MATCHLESS」だけがほのかにオレンジ色の光を放っていたのが印象的でした。
ステージ奥の真っ暗闇が際立っていた理由は、「群青の世界」とだけかかれた青色の映像が
明滅したことで知りました。
その真っ暗闇はスクリーンだったのでした。
いつもであれば隠されているはずで、これまでのライブではひだ付きのカーテンで仕切られていたのでしょう。

開演まで20分を切ったころでしょうか。
気がつけば、黒のみだった世界に青が加わりました。
演者を背中から支えるようにライトがついています。
ここでもMATCHLESSはオレンジ色。
互いに邪魔しそうな2色ですが、お互いに譲り合って調和を保っていました。

やがて下手端からスモークが焚かれだし、5分もすれば拡散して視界は灰色気味に変わります。
そのころには既に開演5~10分前。
ほどなくしてバンドメンバーだけが登場し、待ちわびたフロアからは大きな拍手が鳴らされました。
さすがO-EASTだけあります。拍手の鳴りがまるで違います。
大雨のように、音が上から降り注ぎました。
確かこのころ、下手袖のステージから円陣を組んだであろう4人の掛け声が聞こえてきました。
定刻、2時間半近くに渡るライブがここから始まります。

◆開幕

登場は、SEに乗りつつ背面スクリーンを活用した出方でした。
ソロでのPV風映像が流れている間にそのメンバーが登場し、位置についたところで次のメンバーの映像へ。
4人が揃って出来上がった互い違いのフォーメーションは、これまでのライブの開幕でも何度も見かけた構図でした。
アンノウンプラネット」です。
僕等のスーパーノヴァ」「Starry Dance」など、最近増えつつある天体シリーズの曲を目にしながら、群青の世界は世界どころか宇宙すらも股にかけようとしているのかなとうっすら思ったのですが、未知の天体を冠したこの曲もその一部でした。

衣装のことにも触れなければなりません。
この日を境に、前回バンドセットワンマンより身に着けてきた衣装を一新しました。
ビジュアルはライブに先だって公開されています。

新衣装の青は、これぞ清流といったもの。
これまで様々な青系統の衣装を身に着け、時に紫やあるいは青が濃すぎて黒っぽい見た目の色のこともあったとは思うのですが、やはり真っ直ぐな青は響いてきます。
白のスカート部分もアクア色に染まっていますが、よく見ると4人の背後の壁にも同じような色が付いているので、カメラの向こうから色を投影しているのでしょうか。
これもこれで、透明感の演出としては瞠目ものです。

光の加減で見え方が変わりそうな色調ですが、恐らくライブで観てもそう大差はないでしょう。
そう思っていたのですが、ステージを見上げると想定とは全く違う色合いでした。
青というより、ほとんど緑に近い。
例えるならエメラルドがしっくりくる感じで、深緑のようにも見えます。
川だったら浅瀬の清流というより、幅広な流れの奥まったところにある、底が見えず深さも分からない淵のような感じです。
水遊びをするようなお気楽さはなく、入ったが最後帰ってこれないのではないかと思ってしまう、近寄りがたい青。
危険な匂いすらします。
初めはイメージとのギャップから少々違和感を覚えていましたが、起伏があって暗闇に真っ逆さまに落ちるようなライブを展開する群青の世界を思えば、なるほどこの色合いはその再現なのだと納得しました。
青を煮詰めると、透き通るのではなく濁っていくようです。

突き放すような2曲目「BLUE OVER」は、そんな衣装の色合いとピッタリな曲でした。
前回ほど注目は出来ていないのですが、バンドメンバーを見ると淡々と自分の仕事に徹しているように見えました。
ベースの岩切信一郎さんは厳つい見た目ですが、サーキュレーターの風に当たって長めの髪が終始揺れていたのがちょっと面白いといってはなんですがシュールでした。

PAの加減でややボーカルの音が足りないかなと思っていた序盤で印象深いメンバーが、一宮ゆいさん。

曲名を告げられた時のバラバラな拍手だったり、自分含めフロアがどことなく浮つき気味だった雰囲気にあっても、地に足をつけています。
特徴の一つである細い歌声は儚さを演出しているように思うのですが、この日聴いてみると何も太くなったわけではないのですが、芯が入った印象を受けました。

3曲目の、ツアー静岡からお披露目になった「Starry Dance」。
これもまた、先に書いた天体シリーズの一曲です。
見上げたときに視界に映るメンバーの目線の高さから、O-EASTの広さを思い知りました。
招待・関係者席としてなのか、2階席も開放されています。
恐らく「Starry Dance」が終わったところでバンド紹介がメンバーよりあったでしょうか。

バンドメンバーが一人ずつ担当楽器をソロで鳴らし、キーボードの柴﨑洋輔さんが織り交ぜたメロディーで次の曲を予感します。
記憶が正しければ、その音は前回のバンドセットと同じく「シンデレラエモーション」への導入でした。
あの時と違うのは、フルコーラスではなく1番まででブツッと切られたこと。
ここからメドレーコーナーが始まりました。

6曲披露された中でとりわけ記憶に残っているのは「コイントス」。
波のような音に引き寄せられ、空の青と芝の緑が思い起こされる夏曲で、それこそ夏以来久々に聞いた気がしました。
TIFのスマイルガーデンも思い出します。
懐かしさも覚えつつ、目を引いたのは水野まゆさんでした。

最近髪を切って「ボブ野」さんになったばかりです。
自分は髪切ってからは初めてでしたが、その姿を観たとき、これまでなんとなく漂っていた「ヒロインみたい」という水野さんに対してのイメージが急速に固まっていく気がしました。
ロングを切った事でより繊細さが生まれています。
そんなことを考えながら、「コイントス」にはこんな歌詞があります。
髪切った?なんて言わないでお願い」(歌詞あってますか?)
歌詞と今の状況が見事にあっていて、水野さんの独擅場でした。
センターやや億で少し恥ずかしそうに、肩まで切った髪を触ってアピールしていました。

メドレー終わりのフルコーラス「青空モーメント」「However long」は青春シリーズとでも言いましょうか。
今更ながら上手いなと思ったのが、「青空モーメント」でのあるフレーズの時の表情。
桜が散ってしまった春にリリースされた初期体制ラストの曲で、親しい人との別れを歌った卒業ソング風の青春賛歌です。
時間(モーメント)を切り取って閉じ込めてくれるカメラに思いを託す名曲なのですが、「精一杯またねって笑ってみた」に注目しました。
切なさもありますが基本的には明るい曲です。
このフレーズの時、確か工藤みかさんだと思うのですが、笑顔を作ったかと思ったら瞬時にひっこめるメンバーの姿がありました。
気丈に笑顔を”作っている”けれどもその陰では...という表情です。
決して珍しい曲ではなく、何べんも見ているのに見逃してしまうのはどうなのかという話ではありますが、この表情の切り替えはパッと見て気付けるものでもなく、細部に凝らした趣向を垣間見ることとなりました。
自分が知らないだけで、こうした曲に合わせた微妙な変化というのはたくさんあるのでしょう。

冒頭でちらっと触れた、ステージ背面をいっぱいに使ったスクリーンは終始大活躍でした。流石にわずかなラグはあるものの、かなりの解像度でメンバーのアップや斜め上から撮った引きの画などを映していました。

バンドの存在感を以前ほど感じなかったのは、既に一回ライブを体験したことでこちらが多少なり慣れてしまったからなのか、意識にも登らないほど波長があっていたのか。
あるいはアレンジが前より抑えめ(な気がしました)だったから自然に耳に入ってきたのかもしれません。
どうしてなのかははっきりしませんが、滞りなく進んでいったライブは、「However long」が終わったときに一旦区切られました。
ひとまず全員捌け、メンバー4人が再度登場して新曲を披露します。
ごめん、好きになって」と「ステラ」です。
ここにもまた天体が出てきました。
一回聴いただけですし、結果としてこの日は新曲が3曲も披露されたので正直まともな記憶は一つも残っていません。
あるとすれば、一宮さんがこちら側に指を指す振りの時に、その勢いに押されてのけぞりそうになったことくらいです。
ただこれも、そこでの記憶なのか既存曲での出来事なのかはっきりしません。

2曲立て続けに新曲を披露したことで、メンバーにはほんの少しの解放感が漂い、フロアまさかの連続新曲という事態に呆気に取られている状態。
このタイミングで、冒頭に書いた工藤さんの語りとストリングスが加わっての「Puzzle」からの一連が始まったのでした。

あの場で起こったこと、自分が感じたものは先に書いたとおりですが、自分目線という枠を外すと、いくつか書き洩らしたこともありました。

工藤さんが「これは私が群青の世界のことを考えて作詞して...」と「Puzzle」の曲振りをしてさぁ曲へ....というとき、これからの4曲連続に備えて水を飲みに行く他のメンバーと、決心したかのようにフォーメーションに立ち続けていた工藤さんとのコントラストが印象的でした。
いつもなら曲振りをしたあとセンター後ろのペットボトルに4人が集まって給水タイムがあるのですが、この場面だけは珍しくバラバラな動きだったのがやけに頭に残っています。

あれは「Puzzle」2番だったと思います。
メンバーにとっては5人時代の思い入れ深い曲。
「ああ、君がいない日々は空っぽのページだった」
村崎ゆうなさんが歌いだしたとき、声と同時に涙を流しているのが見えました。
自分が見ているかぎり、ライブで真っ先に感情を現わすのが村崎さんでした。
(下に張ったツイートの感想文も素敵なので読んでみてください。)

恐らく5人時代のことが思い出されたのでしょう。
生のストリングスの音でより感動が増した、とも感想のツイートにはありました。
この曲で情緒がおかしくなった人はステージの上にもいたのです。
センターの村崎さんに他のメンバーが寄り添うのがここでの振り付け?なのですが、泣き出した村崎さんをなだめているような構図に見えました。

あとは、ここから水野さんパートを挟み「わかってる(村崎)」「君じゃなきゃ(一宮)」と村崎さんと一宮さんの掛け合いを経て「埋まらないこの心の隙間」で二人の歌声が重なって手を合わせる時。
君じゃなきゃ」で2人向き合ったとき、少し笑いながらも村崎さんは抑えられていませんでした。
一宮さんは「大丈夫」と言わんばかりにうなづきます。
ステージの様子を映すのをやめて、工藤さん作詞の歌詞を縦書きで表示していたスクリーン上ですが、ラストの5文字「これからも」を映すときだけは横書きの、それも上下が不揃いの状態でした。
文字数も大きく、意味深な感じがします。
その直前の歌詞は「隣には君、散らばったピースを繋ごう 君と
考えるに、直前のMCで工藤さんが宣言した「これからも4人で」に絡めたのではないでしょうか。
意味深に強調された5文字は、不思議な存在感を放って白地の中に消えていきました。

◆アンコール

「Puzzle」からの4曲を終えた後はアンコールです。
またもや新曲。「ノエルに君は」という題で、12月のこの時期にうってつけのウインターソングです。
グループとして初めてのバラードは「挑戦」なのだと誰かが言いました。
動きや身体表現で魅せるのが群青の世界というグループです。
振り付けもフォーメーションチェンジも一切ないこの曲は、確かに単なるしっとり曲と片づけられるものではなく、武器としてきたその動きを一旦捨てた挑戦的な曲と言えそうです。
それに加えて思ったのが、「生まれ変わる」とか「再生」などとうたって走ってきた「REBORN」ツアー各地での挑戦がツアーファイナルに詰め込まれているということでした。
序盤の1番まででブツリと切って次の曲に入るという、繋がりの分かりにくく難しいメドレーコーナーは名古屋公演で披露されましたし、大阪ではフルコーラスをノンストップで13曲やり切ってしまっていました。

恐らくその経験があったから、バンドセットでの6曲メドレーも、ほとんどMCなしの準メドレーみたいなライブも完成したのでしょう。
あるいは5人でこそのものと思われていた「Puzzle」を4人で解禁したこと。
そしてこの「ノエルに君は」という曲をリリースした裏には、YouTube企画に端を発した埼玉公演での「歌ってみた」があったはずです。

人気曲のカバーを、歌一本で表現しきるというだけでも大層なものですが、それを客前で披露する「一発撮り」なくして「ノエルに君は」は生まれなかったのではないでしょうか。
そのことに気付いたとき、点と点が結ばれて線になっていく様子が浮かびました。
自分が立ち会っていたのは、線を描く上で重要なスポットだったのです。

ライブへ戻ります。
バンドセットでライブをするとなったとき、セットリストから外せない筆頭に挙がっていたのは「僕等のスーパーノヴァ」だったはずです。
単に一瞬で場が盛り上がる曲ということもさることながら、正統派のバンドサウンドなので非常にバンドとの相性がいい。
8/9のバンドワンマンでも、ノヴァでの温度は最高点だったと言っていいくらいでした。
フロアからの期待は高まっていたかと思います。
開演前には最前列の人達が「ノヴァでどうのこうの...」という話をしていました。
マサイのタイミングだとかの相談でしょう。

期待通り披露されたのはアンコール3曲め、オーラスでした。
村崎さんが煽りに煽ってバンドの音がうねりを上げて襲い掛かってきます。
それまで演奏に徹していたベースの岩切さんもAメロでは弾く手を止め、フロアに8ビートのクラップを促していました。
蓄光仕様だったのか、ドラムのMIZUKIさんが持つスティックばかりか髪色までも蛍光を発しているように見えます。
実際のところはどうだったのでしょうか。
ボーカルはいつもよりコーラス多めに感じ、メンバーを見れば歯を見せて心底楽しくてしょうがないという顔をしていました。

僕はここにいる
もとは横田さん、今は水野さんのパートです。
水野さんはここのパートに全体重を預けるような歌い方をしていて、その聴こえ方も毎回異なるのですが、この日は「僕は」の後に一呼吸あったような気がしました。
ラストのパートでは画面が縦に4分割されて4人それぞれのアップが収められ、さながらライブMVのようでした。

記念撮影のあとバンドメンバーは捌け、4人が感想を口にしていきました。
4人が4人とも楽しかったと言っていたのが印象的で、村崎さんは「ハードルがだんだん上がっている実感はあるけど、今日のライブもいつかは超えていかないといけない」といえば、独特の感性の一宮さんは「ファンのみんながアイドル」だといいます。
ラストの一宮さんのコメントあたりから耐えきれなくなっていたのでしょうか、4人が言い終わって退場していくとき、「さっき泣いたからもう泣かないからね!」と言っていたはずの村崎さんが涙を隠すようにこそこそと捌けていきました。

以上が、自分が覚えているライブの全容です。
圧倒的なものを目の当たりにしたときの呆然や震えは、「Blue Symphony」以来記憶となって群青の世界のコンテンツに触れるたびに思い返していましたが、一年たった今、あのときと同じような体験をすることができました。
ただ、その呼び水が「Puzzle」だとは。

2022年の内に新曲が8曲と、一つのアルバムが作れてしまうほど曲が増えました。
セットリストは変わり、ライブの質も去年とは別のものになっていくでしょう。
それでも、呆然とするしかないようなライブは変わらず見せてくれると思うので、来年以降も見続けられたらなと思うばかりです。

◆セットリスト
M1. アンノウンプラネット 
M2. BLUE OVER
M3. Starry Dance 
M4. カルミア
M5. メドレーコーナー(シンデレラエモーション~コイントス~夢を語って生きていくの~最後まで推し切れ~Quest~ロールプレイ)
M6. 青空モーメント
M7. However long
M8. ステラ(新曲) 
M9. ごめん、好きになって(新曲)
M10. Puzzle
M11. 未来シルエット
M12. メロドラマ
M13. RIBBON
En1. ノエルに君は
En2. 最終章のないストーリー
En3. 僕等のスーパーノヴァ


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