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【ライブレポ】透色ドロップ 『すきいろクリスマス2022』

2022年12月25日(日)、クリスマス当日に白金高輪selene b2にて7人組アイドルグループ・透色ドロップの『すきいろクリスマス2022』が開催されました。
結成時から毎年開催しているクリスマス限定の単独ライブも3年目。
seleneで行われるのは2年ぶりだそうです。
現体制でseleneに立つのは、単独では6月のツアー「目に見えない大切なもの」ファイナルの東京公演以来でした。

1時間半以上にわたるライブを過ごした後、変化だらけのライブアイドルで、変わらないことがこれほど安心するのかと感じました。
「クリスマス」とはうたいながらも、蓋を開けてみればツアーや長めのワンマンライブと同様の構成。
全14曲で3回くらいのMCを挟み、グッズ紹介をして何かしらのトークテーマで順番で喋っていくというやりかたはすっかりフォーマット化されました。
MC中に半分のメンバーが水を飲むために捌け、もう半分のメンバーが残って繋ぐというのも恒例です。

14曲の配置もしかりでした。
一発目にかかることの多い「きみは六等星」から始まった序盤は明るめな曲。
場内の雰囲気が身体に馴染んできたところで「ユラリソラ」など沈む曲がやってきて、重すぎないところで序盤よりもう一段階上がる曲で締めるという、鉄板とも言えそうな王道パターンです。

こう簡単にまとめてしまうと、代わり映えしないライブだと書きたいのかととられてしまいそうなのですが、そうではありません。
安定的な透色ドロップのライブスタイルが自分にとってはとてもありがたいのです。
ある程度通われた方であれば、こうしたセットリストの組み方やライブのつくり方は何度も目にしてきておなじみでしょう。
次に来る曲の系統も肌感覚でなんとなく察せると思うのですが、それは決してマンネリではなく、心のよりどころです。
ある程度予想できるからこそ、安心の材料になります。

予測はつくけど「知らないふり」をしながら観るから「ユラリソラ」「やさしさのバトン」で一旦沈んだところから浮き上がる感覚ですら楽しいですし、そこから最後に向けて尻上がりになっていく流れに安心して身を任せることが出来ます。
全ては、やがて来る開放への前振りです。
ある種の共演者になって一緒にクライマックスに向かっていく感覚はなかなか得られるものではありません。
しっかりとフォーマット化された構成があってこそです。

ただ、同じなのはあくまで骨格だけ。
そこに肉がどう付いて見栄えがどうなっていくのかはシーンごとに千差万別です。
語る言葉を多めにして文字の記憶を残すこともあれば、畳みかける曲と何かが立ち込めていそうなパフォーマンスで無形の記憶として刻み込むこともあったり様々。
書き出しでは変わらないことの安心感を取り上げはしましたが、飽きるという発想すらそもそも抱かないほどバリエーションに富んでいます。
この日で言えば、肉付けされたのは一年に一度のクリスマスの装飾でした。
去年のすきいろクリスマス2021で着ていた白色の限定衣装を身に着け、予告編のようにクリスマスアレンジされた2曲を披露し「少し気が早いですが...」と言いながらこの「すきいろクリスマス2022」の情報を解禁したのが11月19日。
秋ツアーファイナルのことです。

長編のツアーが万感に包まれて終わったばかりでしたし、ツアーや超重要ワンマンほどガッチガチに気合の入ったものではなくあくまでクリスマスイベントだとは思うのですが、それでも花咲りんかさんはソールドアウトしたいと口にし、他のメンバーも「来なければ損」と応じます。
自分はすきいろクリスマスに行くのが初めてでした。
このイベントがどれほどの価値や重みを持っているのかをちゃんと理解しないまま、ツアーの余熱でチケットを取ったようなものだったのですが、いかに作りこんでわれわれを待ち構えているのかをライブ前日に思い知ることになります。
12月24日、こんな動画が上がりました。

ツリーやベルやリースなどクリスマスのオーナメントで覆われた一室、そこに7人が集まってワイワイしています。
プラレールの先頭にカメラをつけ、メンバーを見上げるような図は凝ってるなと思わされたのですが、何より目を引いたのはメンバーが身に着けていた衣装でした。
明らかに今まで見たことのないものです。
若干の影が入った赤、ボルドー赤の手前くらいの色に包まれたそれは、どう見ても新衣装でした。
恐らく当日は去年と同じ白衣装ではなく、動画にある赤衣装で登場するのでしょう。
今まで見てきた中での傾向ですが、透色ドロップは大切なライブやツアー直前になると一本の動画をツイッターにアップし、そこには数日後の本番で披露するであろう曲や衣装、あるいは演出などのヒントや情報の断片を差し込んでくることが多いのですが、今回チラ見せしてきたのは「新衣装」のようです。


開演時間になって登場した姿を見てみれば、果たして予告で見た通りの真っ赤なサンタさん衣装でした。
よく見ると金色のラメをまぶしていて、それが光を反射してキラキラと光ります。
細かい粉は動くたびに舞って
ステージに落ちていたようです。
橘花みなみさんが途中のMCで「スカートの揺れ方が綺麗」だと言ってから意識してみると、確かに生地の重さなのかターンするときにかなり大きく膨らんでいて、しかも膨張色一色だからなのかインパクト強く頭に残りました。

上を見上げてみれば赤と緑2色の照明。
自分はこの日、見並里穂さんのメンバーカラー・緑のサイリウムを振っていた(貸していただきありがとうございました)のですが、ステージの赤をフロアの緑で補ったことではからずも典型的なクリスマスカラーが生まれました。
ただそれだけでワクワクしてくるのは、子供の頃よりさすがに薄まったとはいえ、クリスマスへの特別な感情が未だ根深く残っているということなのでしょう。

ここからはライブの具体的な内容について、クリスマスならではの演出を中心に書いていこうと思います。

まだ全員が元気なうちに迎える4曲目「りちりち」は、「きみは六等星」「恋の予感!?」「ぐるぐるカタツムリ」までの序盤3曲とはまた違う明るさに包まれました。
冒頭のダンスで瀬川奏音さんがこんなに腰を落とすんだと、珍しく下手側の正面に入った事で新たな発見があったりもしたのですが、一番目を引いたのが橘花みなみさん。
「苦手なレスを多めにしようと思います」との宣言は、こっちを見た(ような気がした)回数がいつもより多かった事からも伝わってきました。
それに加えて、どこまで意識しているのかは分かりませんが「りちりち」での冷たい表情です。
ライブがスタートして間もないころの、浮つき気味だった空間を冷静に見つめているように見えました。
疑問を投げかけているようでもあります。

そこにあって突然やってきたのが5曲目の「僕らの轍」。
ツアーファイナルで初お披露目されました。
その時も思ったのですが、この曲だけは他とはどこか異質な感じがします。
透色ドロップはぱっと見のビジュアルからはなかなか想像が出来ないような暗めの曲が多いのですが、そうした曲には影の部分がありながら同時に人肌の温もりも持ち合わせていました。
えぐられたと思ってしまうほど人間の心を子細に描けるのは、それだけ人の心に近づいて観察しているということです。
近づいた時に感じる体温が、例えば「孤独とタイヨウ」「ユラリソラ」などからは伝わってきます。
だから安心できるのです。

ところが「」にはそんな温かみがない。
どうかみ砕くかは他の曲以上に人によって意見が分かれそうですが、自分はこの曲に鋼鉄のような硬さや冷たさを連想しました。
随所で聴こえるささやき声は、これまでの曲にあった歌声の儚さとはまた別のタイプで、弱さというより明確な距離感と翻訳出来そうです。
線を引かれて、それより先にいけない。
熱源には温度があるのかもしれませんが、こちらまでの距離が長すぎるので熱さも冷たさに変わってしまいますし、もっと言えばフロアとステージの間に熱を遮断する分厚い扉がそこにあるかのようです。
鉄の無機質さはそうしたところから浮かんできました。

間奏に入ると7人はセンター付近に固まって、あるメンバーは腰を下ろし、あるメンバーは腕を上に掲げて微動だにしません。
照明は赤黒くなって衣装の色を覆い隠し、伝わってくるのは少しざらついた生地の質感のみ。
肩で息をする姿が印象的な花咲りんかさんは輪の中心にいる天川美空さんの肩に両手を置き、その天川さんは梅野心春さんの肩を持っているのですが、それぞれ向く方向はバラバラで、連帯とは言い難い状況です。
近くにまとまってはいるものの妙な距離感がありますし、つながりの薄さを感じるのですが、その一方で、全体としてみるとシルエットが非常に綺麗です。
静止画を見せるというのはラストシーンでもあるのですが、動いているときより止まっているときのほうが印象に残りました。
これまでとテイストが違うので、メンバーとは「制作側の気が変わったのかね」といった話をしていたこともありましたが、「僕らの轍」はセットリストに重みを加える傑作だと思います。

少し飛んで「やさしさのバトン」は穏やかな笑顔が目立ち、気楽になったような気がしました。
いつも以上にこの曲から受け取るものが多かったように思います。
佐倉なぎさんは目線の動かし方が巧みで、何もないはずの斜め上を意味ありげに見つめる時間がありました。
目の前でそんなシーンを見てしまうと、たった一瞬の事でも、目線の先に何かあるのかと気になってしまいます。

そして「ユラリソラ」。
この日は特別に、いつもとは違う「シャンシャン言ってる」(天川さん談)クリスマスアレンジバージョンでした。
透色ドロップは持ち曲のなん曲かをクリスマス仕様にアレンジしてこの期間限定で披露しており、恐らく今年も新たに手を加えられる曲が生まれるのだろうという雰囲気はありましたが、自分としてはまさかそれが「ユラリソラ」だとは思いもしませんでした。
クリスマスアレンジが演出するのはイルミネーションがキラキラするような華やかさであり、それとは雰囲気を異にするこの曲はそぐわないと思っていたのです。
ただ、それはものの一面にすぎませんでした。

空や風を連想させるワードを散りばめた「ユラリソラ」、「風にせかされ君は大人に変わっていく」で状態を倒すとき、急に雨雲が頭上にやってきたような感覚を覚えるのですが、アレンジが加わったメロディーは雪雲に変わりました。
雨より重さを感じる、灰色の雲が広がります。
seleneならではの背景の3面ビジョンには、寒さに耐えかねて落ちてきた雪の映像が映っていました。
このパート、歌うのは天川美空さんと梅野心春さんの年少コンビです。
以前も全く同じ箇所を取り上げたような気がするのですが、2人の歌声が非常にいい。
コーラスの音が裏で流れるメロディーに触れては離れてを繰り返し、ゆっくりと耳に入ってきます。
単一の音というより、近しい音がいくつも混ざったような、そういう感じに聴こえました。
例えば鍵盤で再現できるかというと、かなり難しいでしょう。
プロのミュージシャンは時に、存在しないコードをあえて押さえて聴く者に違和感を生むという手法を取ることがあるそうなのですが、感覚としてはそれに近いかもしれません。

取り上げたつながりで梅野さんについて書いてみると、梅野さんの表情は結構印象的です。
口を結び真っ直ぐ前を見て、顔つきはやや厳しめ。
系統としては花咲さんのそれに似ているのかもしれませんが、花咲さんはもっと無に寄っています。
加入間もないころは緊張から来ているのかと思ったのですが、次第にこの表情が梅野さんのスタイルなのだと気付きました。
花咲さんしかり、MCなど気を抜いたときに顔を出すたどたどしさとのギャップがあり、目が離せないと思ってしまうメンバーの一人です。

その後の長めのMCでは「サンタさんはいつまで信じてる?」という、純粋な良い子が見ていたとしたら大変な事になっていたであろうトークテーマで爆笑が何回も起こりました。
他の話題も面白いのですが、とりわけ小さい時のエピソードトークからは7人のキャラクターを作った原型のようなお話が毎回色々出てきて面白いです。
小さいころについて話したツアー新潟公演でも一番の笑いが起きていました。

ややあって、そろそろ曲聴きたいよねとメンバーが曲振りのマイクを取った瞬間に、それが花咲さんだっただけに「桃郷事変」だと分かりました。
曲振りのメンバーと言い回しも、毎回のライブで安定して変わらないポイントです。
SNSで顕在化した人間の業を、ファンキーな音で包んで曲にしたこの「桃郷事変」。
痛快で、人間の醜さが続く限りは不滅でいてほしい曲なのですが、自分が好きなのはラストの音。
スパッと切る潔い終わり方で、ただ耳には残響があるというこのラストが凄く良いなと思っています。
潔いだけに、数ある中で「もう終わっちゃったの?」という名残惜しさが一番あります。
ひどく個人的な昔話だと、昔聴いていたラジオの音楽番組でこんな風の終わり方をする曲をよく耳にしていて懐かしさを感じてしまうのですが、こんな風をどう表現したらいいのかわからないのでこの程度で止めます。

続く「君色クラゲ」のサビでゆらゆらと手を揺らす振り付けの時、どこからか「せーの!」と声が聞こえてきた気がしました。
簡単な振り出し楽しいからみんなやってねの「せーの!」だと思うのですが、伴奏などの音で現地ではしっかりと聞き取れません。
いつもメンバーはそこで煽ることなどしないはずです。
というか、透色ドロップはどの曲であってもフロアを煽って焚きつけてくるようなグループではありません。
気のせいかと思っていましたが、あとでアーカイブを見直して気のせいではないと分かりました。
やはりちゃんと「せーの!」と言っています。
多分ですが叫んでいたのは瀬川さん。
自分が行った中ではこのあおりは恐らく初めてだったかと思います。

その瀬川さん、「だけど夏なんて嫌いで」で自分のいる下手側に来ることが多かったため結構見ていたのですが、ところどころ感傷的になっているように見えました。
ただアーカイブで振り返ってみるとそうでもなさそうです。
こちらは気のせいだったのでしょうか。
グッときたとしても瀬川さんがパフォーマンス中に表に出すなんてことはないとは思うのですが...

13曲目の「夜明けカンパネラ」、こちらもアレンジバージョンでした。
シャンシャン言う音もついてきます。
クリスマスアレンジが披露されたのは初めてで、予告もされていないのにも関わらず、まるで来るのが分かっていたかのような盛り上がりです。
聴きなれない音が急に聴こえてきた戸惑いがひとつもありませんでした。

特典会で見並さんに「カンパネラまた聴いてみて!」と言われたので注意深くアーカイブを見てみると、現場の一回きりで「ベースの音が強めだな」くらいにしか感じなかったメロディーに、ゼンマイ仕掛けの音や一つずつ上がっていく音階など微に入ったアレンジに気づきました。
他の曲もしかりですが、クリスマスアレンジは既存の曲にクリスマスの装いをただ着せ替えるというものではなく、原曲を損なわないギリギリを狙って別の一曲を新たに作り上げているかのようです。
現場にいて特に心に残ってるのが、サビラスト「特別な未来が」のフレーズ。
クリスマスバージョンでは、それまで騒がしかった音がここでほとんど止みます。
やがてギターの音から伴奏が復活してメンバーが後列から前に飛び出してくるのですが、ブレイクで一歩引くことでタメが生まれ、間奏で音が戻ったときの勢いが一層でした。

クリスマスバージョンの「ネバーランドじゃない」までで全14曲を終え、一人ずつ手を振って下手から捌けていき、最後橘花さんが深々とお辞儀をして誰も居なくなりました。
それから間もなく、無人のステージ上に「これから始まる映像を お手持ちのスマホで 動画撮影をお願いします」の3行が現れました。
撮った動画は是非拡散してほしいとのことです。
まさかメンバーが誰も居ないタイミングでの告知とは思いませんでした。
慌ててスマホを取り出します。

何もかもが”制限”された世界で生きてきた そんな制限された世界から 透色ドロップの新しい挑戦が始まる。
に続いたその挑戦とは、「2023年3月18日 新宿BLAZEにて100%キャパでのワンマンライブ開催
冒頭にも書いたように、透色ドロップは短い告知映像の中に”伏線”ともいうべき情報を入れてくるのですが、今回の映像からはどうも読み取れませんでした。

例えば新曲を示唆するメロディーが流れてきたわけでもないですし、それらしい情報もありません。
単独公演のタイトルも決まっていないようでした。
告知文の後に出てきたのは画面右半分を占めるピンクの目覚まし時計。
時間は11時を少し過ぎたところを指しています。
鳥がさえずり、それを合図にアラームが鳴り出しました。
11時に起きるというのは、”一般的”なものさしで見れば遅いほうでしょう。
アラームは一周くらいした後雑に止められました。
と同時にグループのロゴが出現。
こういう具合です。
何の意味を持つのかもわかりませんが、書き出せるのはこれくらいでした。

1月、あるいは2月頭にでもならないと詳細な情報は解禁されないでしょうし、日程が迫ってきたら期待通り次を暗示するような断片が放り込まれているかもしれません。
クリスマスが終わったメンバーの目線は、既に3月のBLAZEに向いているということだけは分かりました。
積み上げるもので過程を追いかける楽しさもあるツアーとは違い、一発勝負の単独ライブです。
ともかく今はわずかなこれらの情報のみを頼りに、今後の展開を待ちたいと思います。


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